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ジョージ・オーウェル『動物農場』を読んで

『動物農場』ジョージ・オーウェル 2013.9.10 発行  ちくま文庫

内容
 飲んだくれの農場主を追い出して理想の共和国を築いた動物たちだが、豚の独裁者に篭絡され、やがては恐怖政治に取り込まれていく。自らもスペイン内戦に参加し、ファシズムと共産主義にヨーロッパが席巻されるさまを身近に見聞した経験をもとに、全体主義を生み出す人間の病理を鋭く描き出した寓話小説の傑作。巻末に開高健の論考「談話・一九八四年・オーウェル」「オセアニア周遊紀行」「権力と作家」を併録する。

裏表紙より

 寓話で、政治的独裁を描いた作品。短い話ではありますが、非常に内容が濃い小説でした。印象的なシーンが多く、面白かったです。

 物語は、荘園農場に住む動物たちが、人間を追い出し自分たちの楽園をつくろうとするところから始まります。

 しかし、やがてナポレオンという豚が独裁的な態度を示し始め、スノーボウルの案で、風車建設に着工するかどうかの投票が始まろうとしたあたりから、雲行きが怪しくなります。

 そして、ナポレオンと対立していたスノーボウルを追い払います。動物たちによる動物のための農場は、次第に新たな独裁者(ナポレオン)に食い尽くされ、動物による他の動物に対する搾取を生んでいくようになります。

 よって、人間に従うことはなくなったものの、結局は権力がナポレオンに集中し、独裁が繰り返されてしまっている状況です。

 動物たちは、最初は「おかしいな」と思い、疑問を抱きながらも、その思考は一瞬でなくなり、すぐ忘れてその状況に慣れてしまう。ほとんどの動物は文字が読めないため、最初に七つの掟も、いつのまにか改ざんされていることに気づきません。

 動物たちを主人公に、人間社会における権力闘争や搾取、政治的独裁、革命を描いているため、よりわかりやすく、より奥深い印象を与える作品でした。

 「簡単に忘れたり、出鱈目なことも信じたりするのか」と思いましたが、主体性がなくなるとこうなってしまうのでしょう。
 権力者によって、すべてが決まり、支配され、自由が奪われる。読んでいて、恐ろしく感じ、また、ヒトラー、スターリン、毛沢東など、独裁政権や革命を起こした人物が思い出されます。

 意のままに操るには思考を奪うという恐ろしさがあり、いろいろと考えさせられます。流されることもあると思いますが、あくまで「自分で考える」ことは忘れずにしていきたいです。

 『動物農場』の後は、開高健の論考「談話・一九八四年・オーウェル」「オセアニア周遊紀行」「権力と作家」が収録されています。『一九八四』の考察もあり、興味深いものがありました。

印象に残った文章

「同士、君がご執心のそのリボンとは、隷属のしるしなのだよ。自由はリボンよりもすばらしいものだということが、君にはわからないのかね」

『動物農場』ジョージ・オーウェル 25頁

「リボンは衣服とみなすべきで、これは人間に属する印である。動物たるものは裸で暮らすべきである」

『動物農場』ジョージ・オーウェル 27頁

老ベンジャミンだけが、長い人生のこまごました点を回想し、世の中なんて大して良くも悪くもならない、飢えと苦しみと絶望だけが人生ってものさというのだった。

『動物農場』ジョージ・オーウェル 126頁

 ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。

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