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マイルスと血と精液と

たとえば現在が過去の残り香とするならば、
偏にその存在は虚無。あゝ
然るに顕微鏡はうぬの掌にあって、
穢い汁を流し続ける。一体、それに何の意味があるというのか。
マイルスは慟哭す。俺の血と精液をお前たちに捧げると。
果たして俺の掌にはいずれが残るのか。
否、いずれも一向残らぬだらう。

而して産声を以ていのちの静寂とす。
頸をククルノダ。牛頭馬頭が叫ぶ。
汝、朽ち果てしのちは我が下僕として抱えてやらん。
繰り返す。汝、朽ち果てしのちは我が下僕として抱えてやらん。
果たして鮮血が未知の領域へと迸る。
かぐわしき香り。血飛沫の舞い。

畢竟、己が白濁した液体はやがて胤となり、をみなの股へと導かれん。
賢明であるならばそれを善しとせよ。
凡愚であるならば、悪世に惑わされた迷いと一切をかなぐり捨てよ。
透明だった液体は、やがて濁り、爛れ、嬌声をあげて。

インヤンのせめぎ合い。
我々はそれを検分するのだ。
おのれも確と心得よ。切に切に。
死して逝く道は奈落の業火に苛まれん。
死して迷う道も奈落の業火に苛まれん。

分断された楽園。
耐えがたき苦痛にのみ凡夫たちは蟻の如く使役される。
救うのだ。巣食うのだ。
百八階層の抗争。飛び降りれば崩れ、崩れては腐臭が漂う。
わたくしを捨てよ。おおやけを捨てよ。
ただ赤子の泣き叫ぶその声をマイルスの標とせん。

いのちの燈火はもう消えた。
静かなる祭壇が汝を待つ。
雨ばかりが降りしきる土壌。
穢れた血肉が夜を食む。毒じゃ気の毒じゃ。
数多の作物の芯を、根を、漆黒に染め、
毒気はラッパ吹きと共にこの世の善悪を見境なく始末する。
無常。あゝ


夜は明けず、朝は来ない。

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