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『櫻の園』桜の季節の女子高演劇部を瑞々しくきりとる…(1990/日本)

 紹介させていただく映画『櫻の園』は1990年に公開されたもの。同じ中原俊監督で同タイトル(櫻の園 -さくらのその-2008年)のものもありますが、古いほうの1990年版の映画について書かせてもらいます。

 設定はシンプルで、桜の咲く季節のとある伝統を重んじる女子高の創立記念日。毎年、記念式典として演劇部がチェーホフ作の「櫻の園」を上演するのが伝統。「櫻の園」上演前の2時間が映画として切り取られる。     同じ演劇部員に好意を寄せる部長(中島ひろ子)、前日に他校の友人と喫煙で補導された部員(つみきみほ)、部長が好意を寄せる生徒から人気の部員、この3人が軸となってたんたんとストーリーは進む。

 当日、部員の喫煙は校内でも問題となり職員会議も開かれ、部員のあいだでは上演中止になるのではと憶測が飛び交う。そんな不安を抱えながらも、部員たちは本番に向けて準備を進めていく。そして朝から部室にも姿が見えなかった補導された部員が姿を現あらわす。

 前述の3人が緩やかに物語の中心にいるものの、全体としては演劇部員たちの群像劇で、卒業してしまう上級生たちや来年は自分たちが中心となるはずの下級生らの姿が描かれてゆく。時間の流れがときにはやく、そしてときにゆったりと独特の流れかたをした青春の、二度と戻ることのない一瞬一瞬が瑞々しく語られていく。何がおこるというわけでもないシーンのつみかさねに、いつしか引き込まれてあっという間に過ぎてしまう2時間は、そのまま意識することなく過ぎ去っていった、かけがえのない大事な自分の時間と重なるようです。

 補導された部員役のつみきみほがとても印象的です。ひときわナチュラルに感じられる彼女の演技はどことなくまわりと溶け合っていないようにも思え、それはそのまま他校の生徒とつるんで少し浮いた存在の役柄に、そのままかさなり、そこには心地よい違和感があるような気がします。

 レズビアンの要素もありますが、むかし観た時にはさほど強く同性愛要素を感じることなく、青春群像劇としてごく自然にひきこまれてみていたように思います。

 女性も男性も文化部も運動部も帰宅部も、それぞれの大事な時間と、そのときに薫った独特な匂いを思い出させる、、、穏やかな時の流れの中にひそむ鋭利さとあたたかさ、そんな言葉にならない大切なものを感じられる素晴らしい映画です。

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