「不思議な話」子供の頃、山で迷ってしまい・・・

子供心に不思議だなと思った体験を書いてみたいと思います。
別に不思議でも何でもないのかもしれませんが、
今、思い出しても何となく釈然としないような気もしてきます。

10歳ぐらいのある日、友達と3人連れでカブトムシを採りに行った時のお話です。



ある真夏の日、友達3人でカブトムシを採りに行こうということになりました。
クラスに一人や二人は名人がいるものですが、私たち3人はずぶの素人です。
とりあえず、虫かごと虫取り網を持って山に入りました。

その頃は京都の御陵(みささぎ)というところに住んでおりまして、近くに琵琶湖疎水が流れておりました。

琵琶湖疎水というのは、明治時代に滋賀県の琵琶湖から京都市内に引かれた水路です。
その水路には柵もなかったので、親からは絶対に近づくなと厳命されていました。水路の底の形がU字形になっているので、落ちると這い上がることができないからです(本当かどうかは不明ですけど)。

間違って落ちてしまい、這い上がろうと手を伸ばしてもすべって上がれない。そして力尽きて水底に沈んでいく・・・
そんなことを想像するだけでぞっとしたものです。

私たちも死にたくないので、めったに水路沿いを歩くことはありませんでした。
その疎水に架かる橋を渡るとすぐに山です。
その日も深緑の水面を横目に山に入って行きました。

山道を伝って進んで行き、何となくカブトムシのいそうな木を見つけると、藪に入って行きました。

そうやって夢中になって探したものの、カブトムシもクワガタムシも全然見つかりません。
何とか一匹ぐらいは捕まえたくて、どんどん山の中を進んで行ったのです。

迷ったらいけないので、山道が見えなくなるほどには外れないようにしていたのですが、とうとう迷ってしまいました。

木と木の間が割とスカスカで、見通しが良いように見えたのが災いしたのかもしれません。
藪の中から元来た山道に戻れなくなったのです。

山道からはそんなに離れていないはずなので、最初は軽く考えていました。
3人とも不安な気持ちを隠すように、困った困ったと言いながら少し笑っていました。

どうするか3人で相談し、むやみに歩き回るのは危険だということになりました。
とりあえず、その場から3人が見える範囲で別方向に探索に行き、そうやって、少しづつ移動して行ったのです。

しかし、山道に戻ることはできませんでした。
とうとう私たちはどうしようもなくなって、その場から動けなくなってしまいました。
このまま暗くなって、オオカミとかクマに襲われるのだろうか?と思うと怖くなりました。
さっきまで楽しかったのに、山の中が不気味なように感じられました。

そうこうしていると、少し先にある木の向こう側から、年上のお兄さんがひょっこり現れました。
そして私たちに何やら話しかけてきます。

私たちは子供ですから、おそらく中学生ぐらいであろうそのお兄さんのことが、怖い大人のように見えました。

「さらわれたらどうしよう?」などとコソコソ話しているうちに、そのお兄さんは目の前まで来てしまいました。

問われるままに、カブトムシを採りに来たこと、道に迷ったことを説明しました。
すると、たくさん採れる木を知ってるからついて来いと言うのです。

いよいよさらわれると怖れながらもついて行きました。
お兄さんは道のない山の中をどんどん進んで行きます。

取り返しのつかないことをしているような気がして、内心「こわいよー」「どーしよー?」と思っていたのですが、自分たちだけで帰れる気がしないので仕方なくついて行きました。

しばらく進むとお兄さんは、ある一本の木を指さしました。
そして近づいて見ると本当にカブトムシやクワガタムシがいたのです。

自由に採ってよいというので、私たちは夢中になって採りました。
私たちは楽しくなってワイワイ大騒ぎしていました。
私は、昔のことなので間違えているかもしれませんが、メンタと呼ばれるメス?のクワガタを捕まえました。

みんなで見せ合っているうちに、私がしくじってしまい、クワガタの顎に手のひらを挟まれてしまいました。
痛くてギャーギャー叫びながら、引っ張ったり振り回したりするのですが、全然離れてくれません。

すると、お兄さんが近づいてきて手のひらを私の方に差し出してきます。
そして、その手のひらに私の手を乗せろというのです。

言われたとおりお兄さんの手のひらに自分の手を乗せると、クワガタムシはすぐに顎を開いて離れたのでした。

不思議な一瞬でした。

その後のことはあまり憶えていません。
お兄さんが山道まで案内してくれたこと。
そのまま進んだら帰れると言った後、軽く手を振って、また山の中に去って行ったこと。
断片的な記憶が絵のように残っているだけです。

私たちは、きっと山の精やな、とか、人さらいじゃなくてよかったな、とか言いながらながら帰ったのでした。

もう昔のことで、誰と行ったのかも憶えていませんが、
その一瞬のことは今でもはっきり思い出せます。


ところで、
クワガタに手を挟まれたら、そんな方法で離してくれるものなんですかね?
詳しい人ならそんなの常識だとおっしゃるかもしれません。
それは数十年経った今でも分かりませんし、分からないままの方が面白いので調べたことはありません。

それにしてもよく帰ってこられたものですね。こわいこわい。










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