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『天才たちの日課 クリエイティブな人々のかなずしもクリエイティブではない日々』を読んで、クリエイティブとかいう呪いについて思う。

ちょっとした読み物を読みたくて、読んでいた本です。
有名な作家や作曲家、画家、学者とかの職業についている人たちがどんなルーチンで生活しているのかということを、証言や記録から引っ張り出して、淡々と書いています。
重たい内容のものは読みたくないけど、読書の体験だけはしたい時に読むのにはぴったりな内容かと思って読んでました。

で、これを読んでわかったのは、どんな天才的な仕事を成し遂げた人も、日々のルーチンを守ることにかなり苦心していたのだ、ということです。
もちろん、ものすごく機械的にルーチンを守ることを成し遂げる人もいますし、薬やアルコールに頼ってなんとかルーチンを守ることができる人もいる。
どんな方法やどんなルーチンであろうと、ほとんどの人はルーチンを守っていた。それが逆立ちするとか、街のゴミの写真を取るとかのよくわからないものだとしても。
彼らはルーチンを守るべきだと理解していたんだと思います。
創造的な仕事の土台には必ずルーチンが必要だと知っていたからだと思います。

なぜルーチンが大事なのか。
それは創造的な仕事には多くの困難があるからだと思います。
何も思いつかない時は苦しいし、自分が進んでいる道が正しいかすらもわからない。そして、場合によっては自分が何を作っているのかすらも理解していない場合もある。
一通り完成させてみてこれはなんだったのか、とようやく理解することもたまにある。
そして、それが人に認められるかどうかなど、さらに作り手にはわからないことだったりする。

どんなに創造的な人でも毎回その作品を称賛されるわけではない。ときには失敗することもあるし、こちらとしては失敗していないのに、世間が失敗だと決めつける場合もある。
そんなのはもはや、作り手の預かりの知らない部分なんじゃないか、と時折思ったりもします。端くれとしてそう思います。
まず完成するかもわからない。さらにそれが受け入れられるかもわからない。そして自分が何をやっているかもわからない場合もある。
創造的な仕事というのはものすごく孤独で、疲れるし、恐ろしい仕事なんです。なんでこんな仕事をしているのか、たまによくわからなくなることはある。
個人的には自分が前世で人さらいとかだったから、呪いをかけられたのかもしれないと思っているくらい。

そんなバカバカしい割の合わない仕事に取り掛かるためには、ある程度ルーチン化した生活様式を持ち込まないといけない。
少なくとも自分の身の回りの世界が平和で、満ち足りているという状態に持っていかないと作業に取りかかれない
この本じたいは淡々と、彼らのルーチンを書き記しているが、その言葉の外にはおそらく、自分たちの世界を守るための苦闘が見え隠れしていた。
単純に頭痛いとかだけで、その日は生産性が下がったりするので、大変だし、さらに外的な要因だってたくさんある。
自分の世界を守るための戦いがたくさんある。それすらもプレッシャーや恐怖になったりするので、やはり創造的な仕事に従事するのは、ただの呪いのようにしか見えない。
もっとひどいのは、それらの苦闘や努力や恐怖心を誰一人として理解してくれないのである。まぢで孤独なのである。
ひどい場合は完成させたものが罵倒されて、人間性まで否定されるのである。いや、これほんとなんの呪い? と思わなくもない。

そこまで知っているからこそ、私はこの本がそこそこ楽しめた。薬やアルコールに走ったり、逆立ちしたり、全裸になったりしている天才たちがとても人間臭く感じた。
結局のところ、創造的な仕事というのは人の勇気が試される営為なのではないか、と思う。なぜならこの本に出てくる天才たちは、奇妙の生活習慣を守りながら、創造という恐ろしい戦いに赴くのである。それは勇気ある戦いのように思える。全裸になっていたり、タバコを一日中吸っていたとしても。

人間讃歌は勇気の讃歌!! とも言うし、彼らの仕事は人間讃歌間違いなしだし、そこで産み出された作品はすべからく人間讃歌に違いないと思う。
最近、人間讃歌といえば何でも成立するな、と思いつつ。

最後にヴェルレーヌの言葉を書いてみる(元は太宰治の小説とかだったはず。前田日明も使っていた)。

”選ばれてあるものの恍惚と不安、ふたつ我にあり”

呪いだけども多少の歓びはあるんですよ。少なくとも完璧なルーチンで進んだ一日はけっこう至福だったりします。
そして油断して酒のんで二日酔いになるのである。

本文はここまでです。下は投げ銭用です。あと、やっぱりスキがもらえるのも至福かも。モチベアップします。

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