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キレイにしていると 良いことあるよ

秋の夜風に吹かれていると、過ぎ去った日々を思い出し、懐かしい音楽が聴きたくなるのは、年齢のせいでしょうか。
ジャズ、フュージョンのギタリスト、アール・クルーのCDが聴きたくなりました。

バブルの頃、バイトしていたリゾートホテルのバーでよく流れていたアール・クルー。バブルに浮かれる金持ちカップルに、舌打ち&嫉妬しながら聴いていた思い出の音楽です。

切ないバラードから、クールで都会的な曲まで、どんな音楽にもしっくりくる、やさしくて繊細な音。世界で一番心地良いギターの音色、と言っても過言ではありません。

1曲目が始まりました。アダルトな南国の夜を思わせる、クールで情熱的なギターの音色。月光映る夜の海、パームツリー、トロピカルドリンク……。
妄想と若い頃の思い出に浸りながら、CDジャケットを見つめていると、アルバム名が目に入りました。
「Midnight in San Juan……こんなアルバム名だったかなぁ……SanJuan?……San Juan!」
San Juan=サン・フアンとは、20数年前に国際結婚してハワイの人となった、T先輩の苗字ではありませんか!

今も時々メールのやりとりをしている1年上のT先輩。
高校時代、部活動と寮生活で寝食を共にし、卒業後は初めてのバー、ライブハウス、ディスコへ誘ってくれた、大人の世界の師匠でもあります。
自分の大好きなアルバム名に、お世話になった先輩の名前が入っている。こんな嬉しいことに、なぜ今まで気づかなかった? とにかく先輩にお知らせだ!

興奮してメールを送った後、そもそも「San Juan」ってどういう意味だろう? と調べてみることに。

CDのライナーノーツを30年ぶりに読んでみました。
ふむふむ、このアルバムは「ラテン・アメリカ」がコンセプト。
「Midnight in San Juan」は、カリブ海に浮かぶ島、プエルトリコの首都「San Juan」の夜をイメージした曲と判明。

Wikipediaで調べてみると「San Juan」という都市名は、アメリカや、フィリピン、アルゼンチン、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴにもありました。大航海時代、スペイン王国は海を越えて、アメリカ大陸の国々やフィリピンを征服。入植した土地に、キリスト教の聖人の名や、自らの故郷の名を付けたとか。苦手な世界史も、身近な人と関連すると興味が湧いてきます。

また「San Juan」は、スペイン語で「聖ヨハネ」の意でもあります。
「聖ヨハネ」は複数いて、イエス・キリストに洗礼を授けた「洗礼者ヨハネ」と、弟子第一号の「使徒ヨハネ」が有名どころ。神のご加護がありそうな、ありがたい名前ではありませんか。

メールの返信が来ました。
『San Juanを名乗ると「おープエルトリコ!」って言われて、youはどこの人? って聞かれるよ。フィリピンの人はクリスチャンが多いから、この苗字で親しくしてもらっています。旦那の父方のおじいさんが、スペイン&フィリピンよ』

なるほど、フィリピンにはSan Juanという都市が7か所あります。ご主人のご先祖様の故郷に、縁がある苗字なのかも。
ハワイには日系人とほぼ同じ割合の、フィリピン系の人々が暮らしています。日系人と同様、サトウキビ農園に出稼ぎに来た人々の子孫が多いよう。

出稼ぎ時代から時を経た現代、常夏の楽園ハワイは、世界中の憧れの島。
特に日本女性の人気は高く「ハワイで婚活」をする人も。
楽園での永住と、レディファーストでやさしい「ハワイ男性との結婚」を夢見る日本女性のための結婚相談所がいくつもあります。
とある相談所の人気No.1「ラグジュアリーコース」は3000ドル(約45万円)で、年収1000万円以上の男性を無制限でご紹介。ご紹介男性のレベルも金次第とは、何とも世知辛いものです。

20代でハワイに渡った先輩は、職場で出会った、ごく普通の恋愛結婚。
ふと、結婚当初、里帰りした先輩から聞いたおのろけ話を思い出しました。

当時、ご主人と2人でレストランを営んでいた先輩。休み無しで働く毎日でも、月に数回エステに行っている、というではありませんか。
「毎日頑張っている君には、リラグゼーションが必要だ。そして、いつもキレイでいて欲しいんだ」という、ご主人のリクエストで。

日本男性も、妻にキレイでいて欲しい、という気持ちは多少あるものの「釣った魚にエサは無用」と、妻に無関心な夫が殆どです。
私がおでこに「肉」と書いて、キン肉マンの真似をしても、パソコンやスマホ、テレビに夢中の夫は、多分気付かないでしょう。

日本女性憧れの、ハワイアンの妻となった先輩。
同じ釜の飯を食べ、一緒に遊んだ先輩と私の違いは何だったのでしょう? その疑問を解くネット記事がありました。

それは「日本男性とハワイ男性が、結婚相手に求める条件の違い」という記事。
日本男性は若い女性を好むが、ハワイ男性は年齢にこだわりはなし。
その代わり「女性であることをいつまでも忘れない人」という要望が多いとか。「いつもキレイでいて欲しい」という、ご主人の言葉と重なります。

そして、この要望を見て、私と先輩の違いに、はたと気づきました。
思い起こせば先輩は「いつもキレイでいたい」という、美意識の高い女子高生だったのです。

私たちの高校生活は、学校と部活動に寮生活と、ハードな毎日でした。
朝は起きるだけで精いっぱい。寝る頃は力尽き、死ぬように眠りにつく。
顔も身体も洗いっぱなしのノーケア、ぼさぼさヘアの女子高生だった私。

しかし先輩は、毎朝早起きしてくるくるドライヤーでヘアセット、美肌のためにヨーグルトを毎日のように食し、大好きなおしゃべりも我慢して顔面パック。毛抜きピンセットは必須アイテムで、眉毛やむだ毛の手入れも怠りません。

男子受けする、聖子ちゃんのようなぶりっ子タイプではありませんでしたが、まつげが密集した大きな瞳がチャームポイントの、お尻の小さいスリムな女子高生だった先輩。

ちょっと人使いは荒かったけれど、いつも笑顔で後輩たちに「今日、元気ないけれど、どうしたの?」と母のようなやさしさも。
風疹に罹り、寮に隔離され、ひとりぼっちで熱にうなされていた私に、こっそりコーヒーゼリーを買ってきてくれました。
熱を冷ましてくれるような、冷たいコーヒーゼリーの味と、先輩のやさしさは、40年経った今も忘れられない思い出です。

5年前、久しぶりに帰国した先輩に会いました。
小さなお尻はちょっと大きくなっていましたが、高校生の頃と変わらない大きな瞳に密集したまつ毛には、日本一美意識の高いIKKOさんと同じくらいたっぷりのマスカラが。先輩の美意識は衰えることなく、ますますレベルアップしているようです。

「ちょっとキレイにしてみようかな?」と、10数年ぶりにピアスを付けてみました。
クリスタルのキラキラのせいでしょうか?加齢でどんよりしている瞳が、キラキラ耀いて見えるような。何だか良い気分です。
「そうだよー。キレイにしていると良いことあるよー」という先輩の声が聞こえてきそう。

キレイでいるための努力を怠らず、やさしい心を持つ人は、国籍・性別・年齢問わず、周りの人も自分もハッピーに。
高校生の頃、そのことに気づいていたら、先輩みたいに国際結婚もありえたでしょうか?

いやいや、国際結婚はありえない決定的な理由がありました。
悲しいことに、私は英語が話せないのでした。




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