安原健太

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怒れるときだけ

【1:言葉をもたないなら】

 前に一度、演劇のオーディションを受けたことがある。エチュード、という演劇用語があって、それは即興芝居のことだったのだけど、それをやった。
 学校の授業でそれをやれば、みんな照れたりあざ笑ったりして真面目にやるやつほど浮いてしまうかもしれない。でもそこにいたのは全員役者、もしくは役者志望で、誰一人恥ずかしがることなくやった。それは僕には初めてのことだった。
 エチュー

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カレンダーをめくるタイミングに関してのあれこれ

月が終わる前にカレンダーをめくる行為は、その月の残り時間をなきものとする行為である。それすなわち、人数が足りていないのに出発してしまう遠足のバスのごとし。
 これは地球人が最初に覚えることわざだ。

「うちは今日から座りションにします」
 そういうお達しが出たのが小4のとき。以来、1日の間で最も目につくカレンダーがトイレのになった。
 そのカレンダーを父親は月が終わる前に平気でめくった。21時だろ

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物語の外から

少し前に、銀行の口座をつくる機会があった。
 口座開設は何度か経験があったので、いつもどおりの手続きを進めていたときだった。2枚目の用紙を渡された途端、手が止まり、汗がふきだす。
 そこには「職業を選択してください」という欄と、「現在の職場の住所」という欄があった。この頃ちょうどアルバイトも何もしていなかった。
 ここに「無職」「住所なし」と記入すれば口座が開設できないかもしれない。でも「ここに『

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オムニバス塾

個別指導塾で講師の仕事をしていた。ある日の授業中、別のブースから小3くらいの男の子が音読をする元気な声がした。
「うしろに『はっちゃん』と!」
 すかさず先生の声が追いかけていく。
「違うでしょ! 後ろには、ちゃんと! でしょ!」
 吹き出すかと思った。
 ということで今回は塾でのお話。オムニバスだよ。

 ときどき他の先生の授業を代講することがあった。
 授業の最初、その日担当する中1の女の子に

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(医者の)言葉

「ねえなんでさ、緑嫌いなのに緑色の水着着てたの?」
 中3の春ごろ、衣替えをする母親の背中に向かって言った。昔のビデオで何度か見たことのある水着が積み重なった衣類の中に置いてあった。
 母親はカエルの色だからと言って緑色を嫌っていたはずだった。特に理由もなくそれまで口にしなかった疑問を、そのときはたまたま目についたからしただけだった。
 もしかしたらお調子者の母親がどうせまた笑い話を始めるんだろう

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匂いフェチなの

副都心線とつながる前の東横線渋谷駅は、車庫っぽいというか、トーマスっぽいというか、顔を向けた待機電車がズラッと並ぶ、始発駅特有の景色がある駅だった。
 その駅を使って、隣の代官山駅まで行く用事があった。改札をくぐるとやっぱりいくつかの電車が待っていて、その中から次発の電車を電光掲示板でしらべて、見つけたその電車のいちばん手前のドアから乗車した。
 いちばん手前だからかそのドア付近はやたらと混んでい

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