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Japan Color その1 制定までの背景

プロローグ

今回から数回に渡り、グラフィックアーツに関わる方でしたら聞いたことがあるであろう Japan Color についてご説明します。

 デザイン・企画など印刷物制作上流工程の方々だと、CMYKプロファイルの1種であり、日本のオフセット印刷の色域を網羅したもであるという理解だと思います。

 その理解で間違いはありませんが、どのような背景で制定され、どんなポイントで印刷現場では管理されているのかを、わかりやすく解説で来たらと思いすのでお付き合い下さい。

印刷業の色再現における課題点

Japan colorの本質を探っていくにあたり、印刷工程、とりわけ色再現についていくつか押さえておくべきポイントがあります。

まずは、印刷物は工業製品であるということ。工業製品とは原材料を消費して製造される物品であるが、ポイントは材料や作業手順が決められており、それらに従うことにより毎回同じ製品が出来上がるということにあります。芸術作品は1点ずつ作成され再生不可能であるということが価値であるのに対して、工業製品は同じ品質のモノを大量に作成してコストを下げることが出来ることに価値があります。

ただ、印刷物は一般的な工業製品があらかじめ設計されたものを大量生産していくのに対して、すべての製品がオーダーメードであるという特徴を持ちます。製品ごとに版面を作成していくわけですから、納品時にならないと製品の最終的な仕上がりを確認出来きないことになります。

続いて印刷の特性として同じ版を使えば、いつでも同じ色が再現されるわけではないということ。印刷機は複雑な部品で構成された高度な機械であり、数えきれぬほど多くの設定があり、それらがすべて色に影響を与えます。またインキを供給するツボの開閉でインキ供給量をコントロールするなど、印刷開始前には様々な調整を行う必要があり、同じ版でも様々な色調の印刷物が刷り上がってしまいます。

また別の側面として、色という現象についても押さえておくポイントがあります。色はただ単純に眼に入ってる光の波長だけでは定義出来ません。というのは、眼に入ってきた光が電気信号として脳に取り込まれ様々な処理を経た後、はじめて人間は色を認識します。

つまり色という物理現象は、長さや面積等のように目の前の物理世界での現象ではなく、我々の脳の中で起こるものであると言えます。その脳内の処理が単純なものであるならともかく、とても複雑であるために、現代の科学ではまだその動き方を完全に把握できていません。

そのために印刷物の色表現は、他の工業製品のように製品の仕様を長さや速さや面積などのカタログスペックで性能を表すことが出来ませんでした。

少し回りくどくなってしまいましたが、ここまでのポイントをまとめると下記のようになります。

  • 印刷は工業製品であり、工程が標準化され、安定した品質を保つことを期待されている。

  • 印刷はすべての製品がオーダーメードであり製造条件が毎度変化するため、工程の標準化が難しい。

  • 同じ版でも設定次第で、色調の仕上がりは異なってくる。

  • 色彩は、数値定量化が難しく管理が困難であった。

このような背景から、カラーマネジメント/Japan Colorが普及する以前には、印刷会社にとって顧客と色のコンセンサスを取り、色を管理して工程標準化を行い生産性を上げることはとても難しいことでした。またクライアント側の視点でも、品質のコンセンサスが曖昧な状態での発注は、不本意なものでした。

これらの問題を解決するため、本生産前に工程のシュミレーションを大雑把に行って作成された色校正で、クライアントと品質合意を行っていました。具体的には平台校正機という、本生産と同じ版と用紙を使用して低コストで10枚程度から印刷できる専用の機械を使って色校正を作成します。その色校正でクライアントのOKをもらい、本生産時にはそれを色見本として色合わせを行うのが一般的な方法でした。

この平台校正は本生産と同じ紙に印刷された立派な印刷物で一見問題ないように見えますが、大きな問題を抱えていました。

低コストで1枚単位で印刷物を作成することが優先されているため、本生産で使用する印刷機と機械構造が全く異なり、本生産の色をシュミレーション出来ているとは言いがたいことです。

また色校正作成のプロセスは標準化されておらず、仕上がりが毎度異なり品質が安定していませんでした。本生産でも印刷の色再現は標準化されておらず、印刷工の知識やカンや経験などの個人的スキルにより色合わせが行われていました。

カラーマネジメントを活用した課題解決を目指して

時代的にはここまでが1990年代でした。このころにInternational Color Consortium(ICC)というコンピュータやプリンター、モニター、デジタルカメラ、スキャナなどの電気機器上で統一して色の管理を行うための国際標準化団体が設立され、カラーマネジメントシステムの開発が始まりました。

カラーマネジメントの仕組みはこの連載でご説明しているように、色の入力から出力まで色の見た目を伝達する仕組みです。しかしそれを実現するためには、ただ単にICCプロファイルを活用すれば良いだけではなく、取り扱うハードウェアの色再現を標準化させる必要があります。ある一定の標準化された設定で出力された色を記録し、その設定の元での色再現を標準化するのです。

印刷業界の課題に話を戻すと、まさにカラーマネジメントがこれらの課題解決の有効な手段となりそうでした。

しかしカラーマネジメントを活用しようとすると、印刷工程の標準化は不可欠でが、前途の通り当時の印刷工程は標準化とはほど遠い状態でした。

 そこで、印刷産業全体の価値・品質と生産性向上をめざし、日本の印刷の標準化へ向けた活動が開始されます。これがJapan Color 制定への第一歩となりました。


今回はJapan Color制定までの経緯をご説明しましたが、なかなか長文になってしまいました。

どれだけ業界にとって大切な話題であるかを思い知ります。

 今回は脱線もなくシンプルに、本日もお粗末様でした。

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