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バターとナイフ

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日々の他愛ない甘い暮らしのことを
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青い川辺

よりよく生きたい。
この頃はテレビを観る時間がぐんと減った。
遠い場所で起こった交通事故のニュースでも、ぐっ、と胸が詰まる。こどもや、若いひとのことや、どうして、としか言えなくなるような事件や事故ならなおさらだ。
テレビ画面から毎日やすやすとジャブをくらって、くたくたになるわけにはいかない、と、無意識に、防衛反応として、この手はリモコンに触らなくなったのかもしれない。

知らないのは罪だと、思春期

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特製のなにかをきみに

20180516

遊び疲れて眠るこどもを後ろに乗せて、家に向かって車を運転していると、空き地や田畑にかこまれてズドンと建つ大きなカフェレストラン、その駐車場に建つこれまた大きな看板が見えてきた。ここは昔はとてもおいしくて安い和食のお店で、大学生のときはよく友達とランチに来たものだ。そこがつぶれて、安っぽくてそのとおりに安いチェーンのカフェになってしまい、それからは行っていない。
看板には880円

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なんでもない日万歳記念樹

20180324

土曜日なのに彼が(夫のことを、夫、主人、ダンナ、旦那さん、彼、と書き物においてどう表すかいつまでも定まらない。でも彼と言うと単なるHeでもありDarlingでもあり、ぼんやりしていていいなあと今日は思っている)出勤してしまったので、9時から両親にきてもらう。
ヨウ(彼女についても書き物中の呼び方がしっくりこないのだが、とりあえずプライバシー云々を考えてカタカナの名前にしておく)

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自前の保険

20180316

おまけって、あると嬉しいものだけど、どうしておまけというのだろう? まけ、を丁寧に言ったみたいで、ふしぎなことばだ。そういえば店の人が値引きしてくれることを、まけとくよ、なんて言ったりもする。
まけは負けのことだろうか? 負けるのも悪くない。

子供の頃から勝ち負けのあるものがあまり好きではない。何人かでやるゲームは楽しいけれど、オセロとか一対一だとどうしても勝ちと負けのはっ

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麦畑予告編

20180222

何かについていたハートマークを、「こえにゃんにゃ?(これなんなん?)」とヨウに訊かれて、ハート、と答えたら、「ないなあ?」と首をかしげて窓を指す。わたしが、鳩、と答えたと思ったのだ。鳩じゃなくて、ハート。ないなあ。えーと、は、と、じゃなくて、こっちは、は、あ、と…。ないなあ。今は来てへんで、また来てたら見ようね。うん。

家の南側に川を挟んで畑があり、春からは麦、その収穫が終わ

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呪いの花束

20180221

久しぶりに、ああ、消えてしまいたい、と思った。もう少し若い頃に考えるそれは、死んでしまいたい、とほぼ同義だったけれど、今回のは、死にたいとはこれっぽちも思っていなくて、正確に、ただただ、消えてしまいたい。
けれど、わたしはもう娘抜きにしてはものごとを考えられないような頭になっているらしかった。わたしが消えてしまったら、ヨウはどうする? ヨウとこれからもっと過ごしたい、育つ姿を間

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青いからだの獅子舞

20180220

ジョウビタキとモズのそれぞれ雄が毎日のように庭に来る。実家にいたときはどちらも珍しく感じて、見つけると鼻息荒く双眼鏡をもって走ったものだが、今の家に住んでからヒヨドリと同じくらいの感覚になった。ああ、また来てるな、と思うくらいだ。興味がないのではない。鳥が好きだから、ヒヨドリであろうとハトであろうとスズメであろうと、いつまででも見ている。今日もモズの尾が上下にひょこひょこするの

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ホームでの待ち合わせも

20180217

美容院へ行く。すぐにのびて視界が悪くなるのがいやだから、前髪を短めにしてくださいといつも伝えるのだけど、今回はちょっくら短すぎた。前髪が短いと、顔面のインパクトが強まる気がする。まあ、すぐにのびる。

病院やスーパーに行くのには車がないとちょっと、という地域に住んでいる。だから車をもっているわけなのだが、それはわたしが高三のとき、大学への通学に必須のため親が買ってくれた軽自動車

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芯から甘やかな者になる

20180216

金曜日だから、えいっと気合いを入れて児童館に行く。ヨウは雪かきスコップが触りたいと玄関で泣き出すが、今からベビーカーにのってこどもセンターに遊びに行くんだよと話すと、ぴたりと泣き止んでうなずく。ことばが通じる、とはなんとすごいことか。ひとが、生まれて一年半でこれほどことばを解するものとは知らなかった。

児童館のベテランらしき先生に、いま悩んでいることを話す。ヨウのことではない

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まつげの橋にかかるまつげ

久しぶりのぽかぽかとした冬の日差しがうれしくて、掃除機や夕ご飯の支度(豚汁)をしてから、ようしと外へ出る。いつもより一段階薄いコートを自分も娘もまとって。娘は庭の砂や草を触るのがうれしそうで一時間も庭にいた。
途中でメール便が届き、なにも注文した覚えはないなあと思って見てみると、使っている浄水器のアンケートハガキに希望した抽選プレゼントが当たっていた。コウケンテツさんのこどもをテーマにした本だ。嬉

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茶団子の真贋

20180213

宇治の近くで生まれて三歳くらいまでその辺りで育てられたせいで、茶団子といいむしがとても好きだ。
いいむし、で通じるだろうか? 山椒がぴりっときいた、うなぎ入りの中華ちまきみたいな食べ物。(美味しいけれども、うなぎだし、お値段はホイホイ買えるほどかわいくないので、しまいに母は家でいいむしもどきを作っていたと聞く。)
滋賀に暮らす今は、いいむしなどは滅多に売っていないのではなから諦

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お豆腐一丁

20180212

お豆腐の一丁という大きさが三十路手前の大人になった今でもよくわからない。わたしが物心ついたときには、お豆腐とはスーパーでパック詰めになっているものであって、プーピーとラッパを鳴らしてお豆腐を売り歩く商売があることは知っていても、それは自分の現実の暮らしからかけ離れた存在だった。
だからお豆腐一丁という単位は、さつまいも一本のように、ばらつきのあるものという感覚がある。メーカーや

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