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言葉の宝箱 0134【おれもとうとう一人になった】

藤沢周平『密謀』(毎日新聞社1997/3/25)

帯には”上杉謙信以来の強兵を擁する上杉景勝と直江兼続の物語”とあるが、草の技を陰の仕事として支える人々に心魅かれた。

・草にもとめられるのは、忍び技もさることながら、
第一に頭領に対する絶対の服従であり、第二に仲間との鉄の連帯である。
ぎりぎりまで助け合い、
もし仲間が傷ついて助からないと判断したときは頸の血脈を切ってやる。
そこまで信頼し合うのが草の仲間である。
掟にそむく者は、集団の名で罰せられた(略)
村では、子供たちがある年齢に達すると、
ひとところにあつめて最初の草の訓練をほどこす。
男も女も区別しなかった。
その訓練の中で、子どもたちは選別され、
病弱だったり魯鈍に過ぎたりして、草の仕事に適さないとみられた子は、
はずされて農耕の手伝いに回された(略)
そうして一人前の草になる過程で、
若い草たちは大気を呼吸するような自然さで
草の掟を身につけていくのである。
草の仕事の中では、
掟にそむいて勝手に行動することが死につながることも、
自然にさとる 【愛蔵版】P61

最終章で草の元頭領喜六のつぶやきに身につまされる思い、老いを感じた。

・分別ありげな口をききながら、あのていたらくだ。
あのざまでは、いまにうねの尻に敷かれるだろうて、と
喜六は胸の中で罵った。
だがその憤慨がおさまると、
不意に寂寥の思いに身をつかまれるのを感じた。
おれもとうとう一人になった、と思った(略)
だが、心のどこかに、
うねを静四郎に手わたしてほっとした気分もないわけではなかった。
大きな変り目が来ていた。草の行末もわからなかった。
それにわしも、やがて死ぬるとも思った 【愛蔵版】P524

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