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家事が得意な男性は変?「男の本能」だからしょうがない?日常に感じる違和感。「フェミニズムは女性だけ問題ではない」

/違和感ポイント/
日常生活での友達の何気ない一言や、当たり前のように存在する風潮に感じる違和感。「フェミニズムはバイアスというフィルターを外すこと」と考える大学生・Onさんに、フェミニズムとの出会いとこれからの向き合い方を聞く。

※以下には性暴力に関する記述があります。

Onさん

フェミニズムは「女性」だけの問題なのか?

日本にも性差別は存在し、男女間における格差は社会課題の一つだ。例えば、賃金における男女比の格差がある。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(性別にみた賃金)によると、男性のピーク時(55歳〜59歳)の賃金が420,100円である一方、女性のピーク時(50〜54歳)の賃金は 274,700円である。男性と女性ではピーク時の賃金の間に約1.5倍の差があることが分かる。
また世界経済フォーラムが2021年に公表した「The Global Gender Gap Report 2021」では、各国の男女格差を表すジェンダーギャップ指数が公開されている。経済・政治・教育・健康の4分野から成るジェンダーギャップ指数は、0=完全不平等、1=完全平等としている。2021年の日本の総合スコアは0.656、順位は156カ国中120位だった。

女性の問題として捉えられがちな「フェミニズム」をテーマに大学三年生のOnさんにインタビューを行った。男友達の会話で耳にする発言や、日常に漂う「風潮」に違和感を覚えるOnさんは、なぜ「フェミニズムは女性だけの問題ではない」と言うのか。Onさんの「フェミニズム」との出会いと、これからの向き合い方とは?

写真=本人提供

フェミニストは人種の一つではない。

ーー「フェミニズム」という言葉はどうやって知りましたか?

高校生の時に社会問題に向き合いたいと考え、途上国で学校に通えない子どもを支援するNGOのイベントに参加したのが「フェミニズム」を知るきっかけでした。イベントへの参加からその団体の活動に積極的に携わるようになり、活動を通してマララ・ユサフザイさん(2012年、マララさんは母国パキスタンテロ組織・タリバンによる女性教育弾圧に反対し、女児の教育を求める闘いの国際的なシンボルとなった)の活動を知る機会や、「女性にとって安全な街づくり」を考える機会がありました。

最初はこのような活動が「フェミニズム」の概念であることは知らなかったですし、「フェミニズムの活動」をしている自覚もありませんでした。その後、フェミニズムという言葉がメディアで取り上げられるのを見るようになり、自分の活動とフェミニズムが同じ概念に基づいていることに気づいて、自分はフェミニストだと思うようになりました。

ーーOnさんが考える「フェミニズム」と「フェミニスト」とは何でしょうか?

まず、私は未だ多くの人が性別やジェンダーに対してバイアス(偏見)を持っていると思っています。バイアスとは「こうあるべきだ」と認識しているものから、無意識に「これはこうだよね」という認識しているものもあります。フェミニズムとは、自分の中にあるバイアスを解いていく、言わばフィルターを外して行く過程だと考えています。自分の中にあるバイアスのフィルターを外す過程で、自分らしさが発揮できるとも思います。

フェミニズムという言葉は「女性支援」や「女性の社会進出」という側面で語られることが多い気がしていますが、フェミニズムの考え方は女性だけにとって良いことではないはずです。それこそ裏返しで「女性がこうあるべき」を定めてしまうということは、「男性はこうあるべき」をも定めていることと同じだと思います。フェミニズムの性別にある「こうあるべき像」自体をなくして行こうという取り組みは、女性だけではなく男性も自由にするのではないでしょうか。

また、「フェミニスト」という言葉を聞くと「特別なグループに属している人たち」「過激な人たち」などのイメージを持っている人もいると思います。例えるならば、フェミニストを一種の思想による “人種” だと思っているかもしれません。確かにフェミニストという言葉には「ニスト」が付いているので、強い印象を受けるかもしれないです。でも、僕がフェミニストと名乗ったからと言って、何かに属する訳ではないです。フェミニストと名乗る前と後の自分とで、何かが変わるわけでもないです。「フェミニストとはこういうものだ!」というフェミニスト像が社会の一部で、できてしまっている気がします。

写真=本人提供

「男は〇〇」「女は〇〇」は誰得?

ーーフェミニズムを「自分の中にあるバイアスというフィルターを外して行く過程だと思う」とおっしゃっていましたが、自分が生活している中でバイアスを感じたことはありますか?

わたしが生活する周りの人の発言に、まだまだバイアスはあると思うことがあります。例えば、会話の中で将来のキャリア、家事、子育ての話になった時に違和感を感じたことがあります。自分で言うのもなんですが(笑)、わたしは料理が得意だし、家事が好きです。ただそのような話をした際に男友達から「それは女子受けを狙っているの?(笑)」と言われることもありました。また、家事に関しては、「男性が手伝う」と言われることもあると思いますが、その「手伝う」という表現自体がおかしいじゃないですか。サポートすることが優しさだと思っている人による発言だとも思います。家事は女性の仕事と思っているからこそ、男性が家事をすることに特別な意味を探したり、「手伝う」と言う表現になるのだと思います。

他にも違和感を感じることとしては、性犯罪が起きた時に「性欲は男の本能だからしょうがないね」とされる「性欲原因論」の風潮についてです。この風潮により、男性の性欲を理性でコントロールすることができないと思われがちです。しかし、コントロールできていないのは、性欲ではなく性を利用した支配欲求と指摘されていたりもします。「男=性欲を抑えられない or 理性を保てない」ではなく、ジェンダーバイアスから来る「有害な男性性」という支配欲求、征服欲に着目しなければいけないと思っています。このような風潮は性暴力の免罪符として扱われているだけではないのでしょうか。

このような風潮が許容されている背景には、性被害を生まないための性的同意(すべての性的な行為に対して、お互いがその行為を積極的にしたいと望んでいるかを確認すること)に対する認知が広まっていないこともあると思います。学校で教えてくれる機会がどれだけあるのか疑問です。一方で、正しい性的同意を教えていたとしても、それが正しい理解に繋がっているのかという不安も残ります。本来であれば当たり前に取らなければいけないのが性的同意です。現在の教育制度では性的同意について十分に教えておらず、それは女性にも男性にもマイナスに働いているのではないでしょうか。被害者と加害者を生まないためにも包括的性教育は必要だと思います。

写真=本人提供

「それは違うから、自分は乗らない」

これまでジェンダー平等に関わる活動に携わってきましたが、日々思うのは自分自身がジェンダーのステレオタイプに加担したり、自分の属性でポジションや機会を与えられたりしている可能性があるということです。だからこそ、僕自身がステレオタイプを広めたり、性差別に加担したりしていないかを常に振り返る、つまり、自身の加害者性についても意識を持つ必要があると思います。また、ジェンダーバイアスやステレオタイプによって与えられるポジションや特権に対して、「それは違うから、自分は乗らない」とちゃんと言えるように常に心がけていきたいと思います。

Onさん

執筆者:平松倫太郎/Rintaro Hiramatsu、原野百々恵/Momoe Harano
編集者:清水和華子/Wakako Shimizu、田中真央/Mao Tanaka

インタビューに協力してくれた人:Onさん。現在大学3年生。高校時にジェンダー課題や教育格差の課題に関心を持ち、NGOの若者のグループに参加し大学2年まで活動。現在は、性別や価値観の違いを超え、自分らしい表現やアウトプットができる場所、コミュニティ作りについて学びを深めるべく、研究とフィールドワークを行う。趣味は写真撮影。
IG: @_on30


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