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書籍年間ベストセラーランキングを読み解く 10年分を一挙振り返り 2014年~2023年

「書籍年間ベストセラーランキングを読み解く 総合 2023年」「書籍年間ベストセラーランキングを読み解く ジャンル別 2021年~2023年」と見て来ましたが、より大きな背景を理解するために、過去10年分の総合ランキングを振り返っておきたいと思います。
ランキング表を眺めるだけでも、あれやこれやと、懐かしい思いが浮かぶ人もあるのではないでしょうか。
(記事は個人の見解であり勤務先の意見を代表しません)

2014年~2016年 

「テレビで話題」から本が売れる時代

2013年以前がそうであったか否かはひとまず脇に置き、2014年1位の『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』(槙孝子/アスコム)は明らかにそうでした。発売は2013年7月。同年12月の記事が、その人気沸騰ぶりを伝えています。
「11月29日、TBS系バラエティ番組「金スマ」で同書が紹介され、12月2日現在、社内の電話はパンク状態。同社では緊急重版10万部(24刷)を決め、12月10日に出庫する。累計46万部。書店では品切れ店が続出し、取次会社からの注文も殺到。12月12日にもTBS系「はなまるマーケット」で紹介されることから、再度、重版を検討する見通し」

健康、ダイエット、料理はテレビ番組にすると効果が分かりやすく、テレビで話題になる→視聴率が取れる→普段は書店に行かない層が本を買う→ベストセラー化という方程式が如実に見られた時期です。特に、女性視聴者に響くTBSの「中居正広の金曜日のスマイルたちへ(金スマ)」(金曜夜)と、ファミリー層に届きやすい日本テレビの「世界一受けたい授業」(土曜夜)の効果は桁違いで、多くの出版社が書籍のテレビ露出効果を意識し、プロモーション活動に力を入れるようになりました。
(他にもTBS「王様のブランチ」、NHK「あさイチ」「ラジオ深夜便」など本が動く番組は色々ありますが、キリがないので主にこの2番組を中心に記します)

2015年4位の『聞くだけで自律神経が整うCDブック』(小林弘幸/アスコム)も、「「金スマ」「世界一受けたい授業」など、多くのメディアで紹介された大ベストセラー」と謳っています。

なかでも、2016年総合6位となった『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(Eiko /サンマーク出版)は効果が一目瞭然。ランキング発表後になりますが、2016年12月16日には「金スマ」で森三中、室井佑月、松本伊代の3人が著者の指導のもと1カ月間のチャレンジした成果を放送。「世界一受けたい授業」も2017年7月22日に紹介しています。
2017年総合9位の『モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット』(佐久間健一/サンマーク出版)もランキング発表後の12月15日に「金スマ」の2時間スペシャルで比企理恵、クリス・ハートらが体験して大きな話題に。翌年の総合ランキングで4位に浮上しました。

2018年総合8位の『ゼロトレ』(石村友見 /サンマーク出版)も、2018年8月3日の「金スマ」で紹介されて話題になって10位位内に食い込みました。

テレビ局にとっても、すでに練り上げられたコンテンツ、部数で人気の程が予測出来たり、放送前にある程度の認知が行き届いている内容、といった意味で、書籍とのコラボは魅力があるのだと思います。

テレビといえば、2013年にTBS「日曜劇場」で放送された「半沢直樹」が懐かしいですね。何かといえば「倍返しだ」「土下座しろ」と、小学生まで真似るようなブームが起きました。
2013年には原作の文庫『オレたちバブル入行組 』『オレたち花のバブル組』(池井戸潤/文春文庫)が文庫部門第2位となりましたが、その勢いをかって2014年には単行本『銀翼のイカロス』(池井戸潤/ダイヤモンド社)が総合3位に。
そういえば、ロケ地になった学士会館は再開発にともない、2024年12月でいったん業務が終了するそうです。

又吉直樹『火花』の衝撃

又吉直樹さんの『火花』が芥川賞を受賞したのは2015年7月17日でした。

緊張の表情が生々しいですね。

吉本芸人×芥川賞、お笑い×純文学の権威という意外な組み合わせは、大きな反響を呼びました。
Yahoo! トピックスでも、受賞前から数多くの記事がピックアップされましたが、受賞直後からその数は異例の様相となりました。
書店では品切れが続き、増刷が決まる度にまた話題を呼びました。
ネットで話題になって本が売れていく、象徴的な出来事のひとつだったと思います。

こうした話題の膨らみは、すでにその時点で、又吉直樹さんが部類の本好きであることが多くの人に知られており、又吉さんが本の帯に推薦コメントを載せればそれだけでも部数が動いてくような、表層的でない信頼感、安心感があったこともヒットの大きな理由ではなかったでしょうか。

この10年間でも、話題的にも部数的にも大きな出来事でした。芥川賞にとっては1956年(昭和31年)に受賞した『太陽の季節』(石原慎太郎)以来の出来事だったと思います。

2017年~2019年

ダイエット本ブームの変調

2018年頃からテレビはダイエットをテーマにした書籍を取り上げにくくなりました。それに変わるのが、健康をテーマにした本であり、西洋医学の医師が監修したエビデンスのしっかりした本。
2018年総合5位の『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』(牧田善二/ダイヤモンド社)は「金スマ」に5月18日、6月22日、11月2日と立て続けに登場。翌年も7月26日、9月13日と出演が相次いでおり、反響の大きさが伺えます。
2019年総合4位『医者が考案した「長生きみそ汁」』(小林弘幸/アスコム)は「世界一受けたい授業」が2018年9月22日、2019年5月4日、9月7日、2020年4月25日、2021年11月6日と繰り返し紹介。「金スマ」も2019年2月15日の放送で紹介しています。

シニアアイドルへの憧れ

2017年元旦の新聞広告、小学館が各紙に1ページ(全15段)を使って打ち出したのは、前年8月刊行の『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子)でした。

新聞広告とシニアの親和性が高いことは知られていますが、これは効きました。ぐんぐん部数が伸び始め、2017年の総合1位となりました。

また、2018年9月に樹木希林さんが亡くなると、同年12月に『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)が、2019年1月に『樹木希林120の遺言 死ぬ時ぐらい好きにさせてよ』(宝島社)が発売になりました。
『一切なりゆき』は2018年の年末に1年を振り返るテレビの追悼ニュースで繰り返し紹介されてベストセラーに。その後も増刷を続けて、2019年の総合1位となりました。『樹木希林120の遺言』も総合3位に。著者が既に亡くなっていてテレビ出演等もないなかで、1位と3位を占めるというのは異例のことです。阿らない故人の生き方が多くの共感を呼んだのでしょう。
私は、昭和のままならない時代から自分のスタイル貫いてある年齢に達した人達が、女性の生き方の先達として憧れの存在になり得ることがあるのではないかと思っています。いわば、シニアのアイドルです。
『九十歳。何がめでたい』『一切なりゆき』はまさにその代表ですが、2015年総合5位の『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』(篠田桃紅/幻冬舎)、6位の『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺 和子/幻冬舎)もまた、そうではないかと思います。書籍のベストセラー上位にお名前はありませんが、草間彌生さんの人気にもそうした側面はあるように思います。
そう考えると、まだこれから注目と共感を集めて良いシニアアイドル予備軍がどこかにいらっしゃるような気がするのですが、どうでしょうか。

2020年~2022年

コロナ禍の変調

2020年2月1日、横浜港を出港したクルーズ船の乗客が新型コロナに感染したことが確認されました。
この日から、世の中の状況は一変していきます。目に見えない得体の知れないものの恐怖、そんな雰囲気のなかで『鬼滅の刃』が大ヒットします。外出を自粛するムードのなかでもコミックの新刊を求めてあちこちの書店を探し回る人達もいました。総合ランキングには巻数の多いコミックは含まれないのですが、それでもノベライズの単行本が総合1位『鬼滅の刃 しあわせの花』(吾峠呼世晴/集英社)、2位『鬼滅の刃 片羽の蝶』、4位『鬼滅の刃 風の道しるべ』と上位を席巻します。
また、小学校も休校になるなど巣ごもりが続く中でゲーム「あつまれ どうぶつの森」が大ヒット。あわせて攻略本も人気が集まり『あつまれ どうぶつの森 完全攻略本+超カタログ』(ニンテンドードリーム編集部/アンビット)が総合3位、『あつまれ どうぶつの森 ザ・コンプリートガイド』(電撃ゲーム書籍編集部/KADOKAWA)が総合5位となりました。
普段は料理をしない人も巣ごもりの日々だと台所に立たざるを得ず、レシピ本にも注目が集まりました。そのなかでも、『世界一美味しい手抜きごはん 最速 やる気のいらない100レシピ』(はらぺこグリズリー/KADOKAWA)が総合9位に。

2021年には、巣ごもりの日々でリモート勤務、オンラインの打合せが増えて来たこともあって、『人は話し方が9割』(永松茂久/すばる舎)が総合1位。『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(大野萌子/サンマーク出版)が9位に。
不安の時代を反映してか、 珍しく占い本が上位に。『星ひとみの天星術』(星ひとみ/幻冬舎)が総合4位。翌年10位の『私が見た未来 完全版』(たつき諒/飛鳥新社)にも同じ流れを感じます。
先行きの生活への不安からか、お金に関する書籍も人気を集めます。
『本当の自由を手に入れる お金の大学』(両@リベ大学長/朝日新聞出版)が総合5位。翌2022年には同書が総合9位とTOP10に残ったほか、『ジェイソン流お金の増やし方』(厚切りジェイソン/ぴあ)が総合3位となりました。
11位以下の流れをみると、コロナ禍で会社に行けばOJTで何らかの学びがある環境が消滅したことの不安が生まれたのか、2021年から英語学習関連の書籍が人気を集めているのが目に付きます。

テレビが効かなくなった?

厳密にいえば、効かない訳ではありませんでした。しかし、2020年は、「この番組で取り上げられたら、これくらいの反響はあるだろう」という期待値と現実が、かなり食い違った年でした。
よく考えて見れば、テレビを見て発作的に「買いたい」という気持ちになる人は、普段は書店から足が遠のいている人、というだけでなく、「買いたい」という動機そのものが浅めだと思います。
その場ですぐにネット書店で購入ボタンを押すところまで行ってくれればいいのですが、必ずしもネット書店が好きな人ばかりとは限らない。特に、シニア向けの書籍や、クレジットカードを持てない10代向けの書籍だとそうでしょう。実際に手に取って、現物を確かめてから買いたいという人もいるでしょう。
今までなら、会社の行き帰りの時間に、スーパーでの買物のついでに、学校の登下校のついでに、書店に立ち寄って買うことが出来たのに、外出そのものが出来なくなってしまう。あるいは、書店そのものがシャッターを下ろしていたりする。
となると、そうこうしているうちに熱が冷めてしまって、結局買わないで終わってしまう、ということが起きていたのではないかと思います。
では、コロナ禍を過ぎて回復するのかといえば、書店そのものがずいぶん減ってしまいました。東京近郊でも、電車に乗らなければ最寄りの本屋に行けない、という街は珍しく無くなりました。
名コラムニストとして知られた故・山本夏彦氏は、かつて東京の街々には寄席があった。しかし、関東大震災で焼けてしまって、そのあとに建ったのは映画館だった、と語っていました。幸いにもコロナは震災のように火災や倒壊を起こすわけではないので、そうならないことを願いたいと思います。

2023年

2023年ランキングの意味するものとは

以上のように10年間の流れを振り返ったうえで2023年のランキングをみると、また違った感慨があるかも知れませんね。
皆さんは、どうお感じになりますか?

以上、ベストセラーランキングを振り返ってみました。
こんなところからでも、何かしらの本に興味を持っていただけるキッカケになれば幸いです。

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