「正直」こそが最強の戦略である
「正直」を心がけて、生きてきた。
社長になってからも、あらゆることを正直に言った。
採用の面談では候補者に「うちの会社の悪いところはここです」と明かす。クライアントからの依頼が「雑だな」と感じたら「そういう発注の仕方は、誰もハッピーにならないです。やめたほうがいいですよ」と正直に伝える。
「そんな正直に言ったら、候補者やクライアントが離れて会社がうまくいかないのでは?」と思う人もいるかもしれない。
だけど結果的に、僕らの会社は創業から1年で売上が約1億円までいった。案件も採用もすべて紹介で成り立っていて、チームの雰囲気もすごくいい。
「正直が大切」という話自体は、みんな賛成すると思う。だけどその理由は「正直のほうがなんかよさそうだから」みたいな、案外ふんわりしたものだったりする。
今日、僕が伝えたいのは「人として正直でありましょう」という倫理の話じゃない。「一見すると自分が損しそうなことまで正直に言っても、なぜ仕事がうまくいくのか」という実利の話だ。
採用では「会社の悪いところ」も伝える
僕は10人くらいのエンジニアがいる「THEHUB(ザ・ハブ)」という会社の社長。
採用で大切にしていることは「すべて正直にやる」ということだ。
世の中には、エンジニアを言いくるめて買い叩こうとする経営者もいる。あとは大きなビジョンを掲げたり、ストックオプションを渡したりすることで「給料は少ないけど一緒にがんばろう」という会社もあったりする。
実際、僕のまわりには「買い叩かれてる」と感じているエンジニアも多い。
うちでは絶対にそういうことをしない。ちゃんと真っ当な報酬を払う。
採用の面談では「いま会社にはこういうネガティブな側面があるんだけど、直近は問題ないから安心してほしい。とはいえこのまま1年くらい続くと、マズイかもしれない」というところまで伝える。
不安になる候補者もいるかもしれないけど、やっぱり正直に言ったほうがいいと思う。こちらが隠しても、優秀な人ほど多分ほんとうのことを見抜く。
うちのメンバーは、ほとんどが副業だ。
会社のネガティブなことを話したのに、普段はサイバーエージェントやDeNAで働いているような優秀なエンジニアたちが、うちで働いてくれている。
そして彼らが、知り合いの優秀なエンジニアを僕らに紹介してくれる。
「目先の利益」より「正直に伝えること」を優先する
クライアントと接するときも「とにかく正直に伝える」に尽きると思う。
うちにとって都合が悪そうな情報も正直に伝えることで、結果的にメリットを受けられる。
たとえばクライアントが「予算は1億円あります」と言って、うちも含めて2社から相見積もりをとっていたとする。話を聞いてみると「もう1つのA社さんからは、予算8,000万円の提案をいただいています」と言っていて。
だけどもう少し詳しく話を聞くと、僕が「A社の提案は機能がてんこ盛りだけど、本当に作るべきは一部だな。であれば1,000万円くらいあればできそうだ」と気づくことがある。
A社みたいに「8,000万くらいかかります」と提案するのもアリだと思う。クライアントが「予算は1億円あります」と言っているし、大きな予算で受注したほうが利益も大きくなる。
だけど僕は迷わず「御社のやりたいことは1億円もいらなくて、1,000万円くらいあればできますよ」と正直に言う。
するとそのまま「では御社に1,000万円で発注します」となることが多い。
クライアントは無駄な予算を使わなくて済むうえ、本当に必要なプロダクトを作れるからすごく喜んでくれる。僕らも正直に伝えることで、結果的に仕事を受注することができる。
そしてそのクライアントが知り合いの人などに「このまえ仕事したTHEHUBって会社、いい感じだよ」と紹介してくれたりする。
「正直」は社内のコミュニケーションでも効果的
これまでは採用や商談といった、チームの「外側」とのコミュニケーションにおける正直のメリットを話してきた。
だけど正直であることは、チームの「内側」のコミュニケーションでも、めちゃめちゃ効果的だ。
特に直接的に顔の見えない「リモートワーク」が一般的になったいまの時代は「相手は正直に言ってくれている」という信頼関係が、ますます大切になっていると思う。
何かをごまかしたり隠したりしているときに、文章だけだとわからないことも多いから。
たとえばあるエンジニアが「この機能を開発するには、どれくらいの期間が必要ですか?」と依頼をうけて、工数を見積もった結果「1週間あればできそうだな」と思っていたとする。
もし正直に言うカルチャーができていない場合、そのエンジニアは多分「3週間かかります」と言ってしまう。背景にあるのは「本音は1週間だけど、結果的に2週間かかったら、怒られそうでイヤだな」という気持ち。
この「不必要な余裕」はチーム全体のスピード感や生産性を下げるから、すごくイヤだ。
実際、これは「パーキンソンの法則」というものにも当てはまる。人は時間に余裕があるほど、その時間ギリギリまでタスクの完了を先延ばしにする法則があるらしい。
だから「1週間で開発できそうだな」と思ったら「期日は1週間でお願いします。もし期日が延びてしまいそうな場合は、早めにご相談します」と、とにかく事実をありのままに伝えるのがいい。
Slackで「反省」と検索すると、めっちゃヒットする
うちの会社では仕事で失敗しても、みんなが積極的に自分から話す。
仕事で失敗をしたら、恥ずかしかったり評価が下がるのがイヤだったりして、ふつうは隠しておきたくなると思う。
でも僕らはSlackで「反省」と検索すると、いろんな人がいろんなところで、勝手に反省をしている。
Slack上だけじゃなく「反省会をしたい」と直接、僕に言ってくるメンバーもいる。そしたら僕も「よし、飲みに行こうか」と言ったりして。
反省するってことは、少なくとも何か悪いことがあったということ。だけど別に失敗したからといって、報酬や評価が下がるわけじゃない。
個人の失敗はすぐに共有する。そのうえで「あのときはこうするべきだったよね」とみんなで考えて、チームの知見にしていくことが大切だ。
正直なカルチャーになる環境をつくる
「失敗しても正直に言うカルチャー」は、勝手にできるものじゃない。
カルチャーは、意図的につくりあげていく努力が必要だ。
たとえばあるメンバーがSlackで自主的に反省しているのを僕が見つけたら、コメントすることもある。別に過剰に持ち上げる必要はない。
「ナイス反省だと思います!」と一言だけ言うくらい。
ちなみに社内のSlackは、ぜんぶのチャンネルがパブリック。社内のコミュニケーションは、誰でもぜんぶ見ることができる。(個人の報酬に関する話だけ、プライベートのチャンネルでやっている。)
とにかく会社として「正直でオープンにやっていこう」というスタンスを、社内に示しつづけている。
だからもちろん、ミスをして怒ることもない。
こういった正直なカルチャーを作っていくと、失敗したことを積極的に社内でシェアして、知見をためていくことができる。そうすると結果的に、チーム全体の生産性が上がる。
報酬を「毎月」変えられる
僕らの会社ではメンバーが会社に対して「毎月、報酬の交渉をする」ことができる。
この仕組みが成り立つ背景にあるのも「会社とメンバーのお互いが、適切だと思う金額を正直に言うはず」という信頼関係だ。
たとえばエンジニアから「時給6,000円ください」と言われたら、僕も「君が6,000円って言うんだったら、6,000円なんだろうな」と報酬を決めていく。いちいち項目を数値化して、評価するみたいなことはしない。
もちろんときには、僕から「このプロジェクトでこういう働き方だと、会社として出せる報酬はこれが限界です」と言うこともある。
でもメンバーも僕のことを信頼してくれているからこそ「社長がその金額で限界だと言うんだったら、そうなんだろうな」と思ってくれていると思う。
報酬を決めることに、お互いの時間や精神的なコストをほぼ使わない。だからこの制度を続けられる。
報酬を毎月変えられるメリット
ほかの会社だと給料が変わるのは半年に1回とか、多くても3ヶ月に1回とかくらいだと思う。
その結果、何が起こるのかというと「メンバーのスタートの給料が低くなりすぎる」という問題だ。
会社には「メンバーが活躍しなかった場合、価値に見合わない給料を半年も払い続けるリスク」がある。だから「まずは安い給料だけど、価値を出したら上げるね」とメンバーを試す形になってしまう。
うちなら万が一パフォーマンスが見合わなかった場合、翌月から報酬を下げることもできる。
だからメンバーのスキルを信用して、スタートの瞬間から真っ当な報酬を支払うことができる。
実際のところ、うちで働いてくれているのは優秀なエンジニアばかり。どんどん成長するから、報酬は下がるどころかむしろ上がっていく。
これもほかの会社だと「すごく成長しているけど、給料が上がるのは1年後」とかになる。そうするとメンバーも「だったら転職しようかな」みたいになってしまう。
報酬を毎月変えられる仕組みにすることで、エンジニアはつねに「実力に見合った報酬」を受け取ることができる。そして僕は、信頼する仲間たちと一緒に働き続けられるメリットがある。
「売上」と「人件費」もオープンにした
最近、会社の「売上」と「人件費」を社内でオープンにしはじめた。
つまりクライアントからの売上のうち、どれくらいの割合をエンジニアに報酬として払っているのかを公開するということ。
こんな情報まで正直に公開したら、さすがにメンバーから「もっと報酬がほしいです」みたいな不満が生まれるかもしれない。でも何か納得できないポイントがあるときは、みんなで話し合えば問題ない。
僕は経営者として、その話し合いから逃げてはいけなと思っている。
いまのところ売上や人件費を公開してもトラブルはない。みんな「まあそんなもんか」くらいの反応。
とはいえ実際、全員が100%納得するのはめちゃめちゃ難しい。すごくいい取り組みだけど多くの会社がしてないってことは、たぶん難しいってことなんだと思う。
このチャレンジングな取り組みが、うまくいけば最高だ。
僕らの会社の課題を正直に伝えます
ここまで「正直でいること」のメリットを話してきた。
最後に「THEHUBが抱えている課題」も正直に話そうと思う。
いまの僕らの課題は「課題がないこと」だ。
……どうか嫌味や冗談にとらえないでほしい。
自分で言うのもなんだけど、THEHUBはいい会社だ。優秀なメンバーが集まってチームの雰囲気は最高なうえ、創業して1年で約1億円の売上がでた。
逆に言うと、いまのTHEHUBは平和すぎる。そこが課題だ。
現状がそこそこうまくいっているから、新しい技術への挑戦や大きなチャレンジができていない。
この1年で会社が「飛躍的な成長ができているか?」と聞かれると、していない。これは組織の3年後や5年後を考えたときにすごく危ない状態だ。
だから僕はTHEHUBに新しい風を吹き込んでくれるメンバーを探している。
「社長、もっとチャレンジしていきましょうよ!」とお尻を叩いてほしい。
会社がそこそこうまくいっているし、生活面で金銭的にも困らなくなったことで僕自身のハングリーさも薄れてしまっている。
だけど僕はまだ27歳だ。僕も会社も、もっともっと挑戦していきたい。
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