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宇多田ヒカルの言葉から考える「表現を売るために必要なこと」

このエピソードを知ったとき、意外だと思ったし、私はまだまだ宇多田ヒカルという人物を知らないのだと思った。

圧倒的な才能と実力を持っているからこそ、彼女の思うがままに曲を作っているとばかり思っていたからだ。

冒頭のツイートは私の中でとても印象に残っていて、「売れる表現とそうでない表現の違いって何だろう?」と考えるきっかけになった。

プロの表現者にとって、「売れるもの」と「自分の表現したいもの」は切っても切れない関係。売れるかどうかを気にしないのであれば、どんな作品も自己満足で終わって問題ないのだ。

「売れる表現」をつくるときに無視できないもの

「売れる表現」って何だろう?

「自分の表現したいもの」の対照的な意味であるならば、「自分の表現したいものとは別のもの」だろうか。

売れるという言葉をデジタル大辞泉で調べると、以下のように書かれている。

う・れる【売れる】
1 商品などが買われる。
2 世間に知られる。有名になる。
3 人気があって、もてはやされる。

「世間」「有名」「人気」などのワードが出てくるが、つまりは軸が自分ではなく"他人にある"ということ。

売れる表現

有名になって世間のスポットライトを強く浴びるほど、本来やりたい表現ができなくなるアーティストも多いだろう。

逆に広告は商業美術と呼ばれるくらいで、自分たちの表現よりも社会の評価が優先だ。広告は、商品やサービスの売り上げ向上のためにクライアントから仕事をもらうので当然なのだが。

まとめると、「売れる」の軸が他人にある以上、今の社会や文化を無視することはできない。

しかし、アートや広告などのジャンルを問わず、社会の評価だけを気にしていれば、良い作品は作られるのだろうか?

売れるきっかけは、社会との「共通言語」を探すことから

今年になってBillboard JAPANが宇多田ヒカルにインタビューした記事に、その答えを見つけたような気がする。

「宇多田さんの音楽はトレンドのリズムやビートと離れてはいないけど、トレンドど真ん中でもない、絶妙なバランスがある。時代の音でありながら、固定観念から離れている」というインタビュアーのコメントに対して、彼女はこのように答えている。

音楽とは言語のようなものだと思っているので、一人の世界ではなく色んな人の共通認識の上に成り立っているものだから、まずそこは無視できないんですね。今こうやって会話をしてて、例えば「あそこにいる人マブいね」って言うと「は?」ってなるし、そこは「イケてるね」とか今もっと普通に使う言葉じゃないといけない。今使うとかっこいい、効果的だ、という言葉はあって、「あ、そういう言い方するんだかっこいい」という今の流れは意識していますね。今っぽさみたいな、みんなが高めあって更新されていくものじゃないですか、それって。

時代、そして自分自身と向き合いながら。
ポップミュージックの最前線を更新し続ける、2020年代の宇多田ヒカル

ここに出てくる”共通認識”という考え方は、ビジネスおいて欠かせない視点だと思う。

宇多田ヒカルは「共通認識」と表現しているが、私はこれを「共通言語」と言い換えたい。

「共通言語」という言葉は、私が新人の頃に有名なアートディレクターが使っているのを聞いて意識するようになった。認識ではなく言語のほうがしっくりくるのは、音楽にしろ広告にしろ、「売る」という行為には社会とのコミュニケーションが不可欠だから。

共通言語を意識することは、「時代との共通点」や「社会との接点」を見つけることだ。

売れる表現 (1)

それはトレンドをそのまま取り入れるのとは違って、自分の表現と社会の間で噛み合うポイントを探すという感じ。

宇多田ヒカルに限らず、売れているアーティストは「自分の表現したいもの」が「時代や社会」の間でハマるような見せ方を、意識的でも無意識でもわかっているように感じる(表現したいもの=売れるものという人もいるが)。

これが冒頭のツイートの「プロなら両方できる」に対する私なりの解釈だ。

広告でも同じことが言える。クライアントの伝えたいことをそのまま言うだけでは、消費者にちゃんと届かないことも多いので、コピーライターは「商品やサービス」と「消費者」の共通言語を探しながら表現を考えている。

売れる表現 (2)

共通言語は、消費者の生活の中で起きる行動や心理に隠されている。

また、共通言語は時代の流れで変わるもので、意識しないままでいると自分の感覚とずれてしまうことがある。広告の場合は、このズレが大きいと炎上を招いてしまうこともある。だからこそ、進んで共通言語をインプットする必要があるし、自分の価値観をアップデートしていく作業が必要だ。

宇多田ヒカルはそれを続けているから、今もアーティストの最前線にいるのだと思う。


文:ハギ
@よりみちコピーライター

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