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短篇小説

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オリジナルの短篇小説です。
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記事一覧

小説「あの日に帰りたい。          ~機動戦士ガンダムも若かった~ 」

 千葉県安房(あわ)郡安房町。  ここは房総半島の南の方に位置する棚田の広がる山間の町だ…

近藤 良英
2年前
16

のぶくんの猫

 のぶくんが幼稚園児のころ、家にメスの三毛猫がいました。  ミケと呼ばれていました。ミケ…

近藤 良英
2年前
4

有給休暇の過ごし方

 有給休暇を使って引っ越しをした。  年を取ると若い時のようにいかず、土日は荷造りになる…

近藤 良英
1年前
9

賭け

「わかった。賭けよう」  わたしは、妻の後姿に向かって言った。妻はキッチンでネギをきざん…

近藤 良英
1年前
3

おやすみ、パオ

 ひとり娘が嫁いだ。  家には妻と私と、そしてぬいぐるみが十体、残された。  結婚して四十…

近藤 良英
1年前
2

ぼくのおじいさん

 ぼくのおじいさんは、密林の王者「ターザン」のことを「ターサン」と呼んでいた。  ぼくは…

近藤 良英
1年前
2

わたしはテディ

 わたしはテディ。  二十五年前に、この家にやってきた。引っ越しをするたびに家が小さくなっていくが、その分、家族の距離が近づいてきた。今の家は三DKで狭いけど十階なので見晴らしがよく、空気が澄んだ冬場には富士山がよく見える。  実はわたし、熊のぬいぐるみ。体長二十センチほどで小柄。この家のママが二十五年前に、新宿の三平ストアで見つけて買ってきた。ビニールに入って店先に吊るされていた。ラベルにイギリスのドラマ「ミスタービーンの熊」と書いてあったそうだが、何となく体形が違う。  

おの湯の仙太郎

『おの湯』はまもなく廃業となる。  戦後まもなく仙台市原町に先代が開業してから七十年。オ…

近藤 良英
2年前
9

阿蘭陀通詞になったボク

「おい、誠、寝てんのか」  ここは長崎市内の高等学校。二年生B組の教室。本木先生の投げた…

近藤 良英
2年前
3

コナとリムとヨギ

 コナはどこまでも落ち続けた。  くぐもった声をあげてうなされていた。  目が覚めるとそこ…

近藤 良英
2年前
2

おやすみ、パオ

 ひとり娘が嫁いだ。  家には妻と私と、そしてぬいぐるみが十体、残された。  結婚して四十…

近藤 良英
2年前
3

ベスは今。

 実家のベスがいなくなった。母親が面倒を見ていた犬だ。  いなくなってから二日が経つ。ビ…

近藤 良英
2年前
2

ポロロッカ哀愁

「来た来た来た、ついにやって来ました!」 「成田から二日近くもかかっちゃって。大会前にす…

近藤 良英
2年前

住むということ、生きるということ。

 浜中雄一、七十二歳。妻のるり子、七十四歳。  ふたりは、池袋から東武東上線で三つ目、大山駅近くのURの団地に住んでいる。  駅の南側に通称ハッピーロードと呼ばれる全長五百六十メートルのアーケード商店街が続く。そこを抜けて川越街道を渡った少し先に五階建てが二棟建っている。エレベーターはない。四階の五十六平米の3DKにもうかれこれ三十年も住んでいる。  狭くはあるが、ひとり息子のあきらが十年前に独立してからはそれほど不自由を感じたことはない。息子の部屋はそのままにしてあって、息