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秋川

きみが幸せになったらいいな
もっと もっと

その手の中にある
小さなきらめき
息吹を大切にして

新緑の季節
瞬く間に過ぎていく
ソファに腰掛けて
部屋の窓から眺めるときのように

だだちゃ豆を食べながら
机の下で足を絡ませて微笑みあった
あの夜更けをふと思い出す

わたしも幸せになったらいいな
もっと もっと

この手の中にある粒
すぐに飛んでいってしまう

手ですくった砂つぶ
指の間をあっという間にすり抜けていく

透明な川辺に腰掛けながら
水をかけあって大笑いしたこと
あの夕暮れをふと思い出す

きみは幸せになるよ
もっと もっと

今日
会うのが最後かもしれない
きみの横顔がいつもとどこか違うな

初夏を感じてドライブをしながら
思い立って遊園地へ
走り回ったことをふと思い出す

わたしは幸せになるよ
もっと もっと

昨日
会ったのが最後になったね
きみの横顔が鼻の頭に焼き付いている

手の平に擦り傷があるよ
ヒリヒリしている

川の水面
反対岸にいくほど
底が見えなくなっていく
足元は底の石までひとつひとつ透き通って見えていた

石の上に立って
ぬめりと真夏の太陽の暑さ
気持ちいいねと笑顔で言っていたね

この手の中にいるあなた
いなくなったらさみしいな

色濃かったはずの思い出
少しずつ反対岸に流れていく

積み重なる日々
今と今のあいだ
無数のすき間

川底に足の裏をつける
あの日のあなたの笑い声を思い出す

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「秋川」は、詩集「生きたまま捨てられる花々」からの抜粋です。

また、「生きたまま捨てられる花々」に掲載されている「夜風」は、作品から得た着想をもとにオーダーメイドドレスブランドVivat Veritas(ビバ ベリタス)さんがラップドレスを創り出してくださいました。



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