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ごく個人的体験としての絵本紹介1  ひとりでいる幸福のさきに: 『ねえさんといもうと』


ねえさんはとても優しいお姉さん。
いもうとのことをいつも気にかけて、こうすればいいよ、といつも教えてくれます。
でも、いもうとはある日、そのことにふとあきあきしてしまいました。

『ねえさんといもうと』


https://www.ehonnavi.net/sp/sp_ehon00.asp?no=123871

ISBN:9784751529515
文:シャーロット・ゾロトウ 絵・訳:酒井 駒子


子育てをしていて時折り強く思う気持ちは、「ひとりになりたい」だ。
子どもが好きだとか嫌いだとか、いい子だとか手がかかるとか、そういうこととは(あまり)関係ない。
喋らない年ごろの子どもといると、子どもの情報は自分からとりにいかなければならない。子どもが空腹ではないか、眠たくはないか、寒かったり暑かったりはしないか、危険なことはしていないか、オムツは替えなくていいか...。常に、子どものほうにセンサーを向けて、子どもの体感をトレースしようとしている。子どもが喋るようになると、5分に10回「おかあさーん!」と呼ばれるようになる。それでいて大事なことは教えてくれなかったりするし、危険なことほどこっそりやるので、やっぱり子どもの方に意識を向け続けている。
そうすると、「自分」の半分以上がいつもばらばらの、あっちこっちの、散らかりっぱなしになってしまって、自分の輪郭がよく分からなくなる。ひとりになりたい。ひとりになって、できるなら陽の当たるあたたかで静かな場所で、ばらばらに散らばった自分を少しずつ集めなおして、ひとつのかたちを取り戻したい。そしたら、それから...。


『ねえさんといもうと』は、いつも正しくあれこれと指示をする姉さんに、妹がすこしあきあきして、ひとりきりの小さな冒険をして、それから姉さんだって泣きだすときがあるんだと気づく話だ。
子どもにいつもあれこれ言うのは自分。だから、自分を重ね合わせるなら、最後に泣いてしまう姉さんの方がぴったりくるかもしれない。子どもにはなんでも分かってるふりをして、でも本当は分からないことだらけでしょっちゅう泣きたい自分のことを最初に思うべきかもしれない。
でも妹が、姉さんの目を盗んで一人で歩き出したとき、心配と一緒に思うのは「いいぞ、そのまま行って」の気持ちだ。
野原に寝ころんだ妹をつつむ、「ひとり」の圧倒的な幸福が酒井駒子さんの美しい絵で描かれるとき、確かによろこびに満たされるのはわたしの心だ。
姉さんがわたしを探している、そのことさえひとりの幸福の前には気にならない、うっとりするような静けさ...。
そうして完全な「ひとり」が妹を満たしたとき、妹はもう一度、姉さんのことを思う。
そのあとにようやく妹は、「ほんとうの姉さん」に出会うのだ。自分の知っている完璧な姉さんではない、野原の草の間にしゃがんで泣いている姉さんに。
自分の中の誰かでない、ほんとうのその人に会うためには、人はまず「ひとり」になることが必要なのだと思う。

4歳のぱんださんは一読でいたくこの話を気に入って、しばらく何度も読み聞かせをねだられた。
本の題名なんかは適当なので、ぱんださんは「あの、ないてるほんをよんで」という。
「おねえさんといもうとが、いっしょにないてるほんがいいの」
一緒に? そんなふうにぱんださんには読めたんだね。
ねえ、ぱんちゃんも時々、「あきあき」することある? おとーさんにもおかーさんにもあれこれ言われてさ。
「あるよー、いっつもだよ!」
いっつもかー。

ぱんださんには一歳の妹のよんださんがいる。でも2人とも小さすぎるからか、ぱんださんもやっぱり妹側の気持ちでこの本を読んでいるみたいだ。
いつか姉さんの気持ちになって読むこともあるだろうか。

よんださんにはもう少ししたら、『わたしとあそんで』(ISBN:9784834001532 文・絵:マリー・ホール・エッツ訳:与田 凖一)を読んであげようと思う。こちらの方が易しい単純なストーリーだけれど、同じく、まず十分にひとりになって世界を受け入れる準備ができたら、他者はその人の前に姿をあらわすという優しい絵本だ。



https://www.ehonnavi.net/sp/sp_ehon00.asp?no=62

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