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ケーキ2つ【フォトギャラリー短編】

昨日の夜、母から電話があった。
「あんた、今度、いつ来るの?
 長崎の親戚に送ってほしいものがあるのに・・・」

受話器の向こうから父の声も聞こえる
「それなら、おれがするって、・・・」
母の不機嫌そうな声がそれを遮っている。
「お父さんじゃあてにならんから、あんた、来てよ」

「いや、ちょっと今週は忙しいから、、、来週かな」
「相手が待ってるんだから、早くしてもらわないと、、、」
母はぶつぶつつぶやきながら、電話を切った。

父とけんかしてるな。嫌なことがあったのだろうか。
二人とも高齢だし、母は自分では動けないし。
イライラがたまっているのだろう。けんかしないといいけどなあ。

翌日、契約先へのおみやげを買いに、ケーキ屋さんに行った。
おいしそうなイチゴのショートケーキが並んでいる。

誕生日。

母の誕生日。

昨日は、母の誕生日だった。

「イチゴのショートケーキを2つください」

今なら、少し顔を出せるだろう。車を走らせた。

リビングのドアを開けると、父も母も目を丸くして、わたしを見た。

「お誕生日おめでとう。」

「長崎にはどれを送るの?」
母は、震える手で、わたしのケーキを受け取った。
「これは何ね。、、、、、、ありがとう。おいしそう。」

父は、その様子を見ながらこう言った。
「長崎には、もう送ったよ。」

母は、ケーキの箱を持たまま、目を細めていた。

これで、しばらくは、けんかしないですむかもしれない。


(お礼)kensaitama2020さん、素敵な写真をありがとうございました。
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