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市内RPG ⑩勇者のレベル

コンビニの広い駐車場で、グリーンスライムを見つけた。白線の汚れをかじっているようだ。

戦士ヤスと魔法使いヒラがゆっくり近づく。

よく見ると、2匹。
「大丈夫かな」ぼくは言った。
「勇者のくせにチキンだな」ヤスが言った。

「アツッ」ヒラが突然、火の呪文を唱えた。
「オリャー」あわててぼくも飛び出した。スライムAをヒノキボーでぶっ叩く。
「オリャー」ヤスも攻撃する。スライムの核をバトルステッキで突き刺す。

スライムAの動きがみるみる鈍くなり、動かなくなった。

動かなくなったスライムAの後ろから、スライムBが攻撃してきた。体当たりをヤスが受けた。倒れない。 

「さすが、剣道部」ぼくは思った。

「アツッ」ヒラの火の玉がまた飛んでいく。

続けてぼくの攻撃。さらにヒラの攻撃。スライムBをバトルステッキで薙ぎ払った。

スライムBも動かなくなった。

「もう力が入らないよ」ヒラはもうヘトヘトのようだ。
「いてててて」ヤスが腰をおさえながら言った。

「大丈夫?」
「うん、まあ。HPを10くらい削られたかな」

スライム2匹を写メして送信する。返信はすぐ来た。

「グリーンスライム2匹経験値10、400円。レベルアップまであと10」

「うおー、レベル2になった」突然ヤスが叫んだ。

「ぼくもー」ヒラも叫んだ。

ヤスとヒラはレベル2になったらしい。

勇者の成長は遅い、ということか。

「・・・なんか変わらないな」
「そうだね。でも、疲れがなくなった気がする。レベルアップしたからかも」
「いいなー。レベル2かー。うらやましい」
「あといくつ?」
「10かな」
「じゃ、スライム2匹だな」

「ケータイで魔物情報が見れるよ」
ヒラがケータイを差し出した。

「本当だ」アプリを開くと、地図上に魔物のアイコンが表示される。

「うわっ、やばい。近くにオオトカゲが3匹。反対に動けば、オオナメクジがいる」

「オオナメクジかー。1匹なら、やれそうじゃね」ヤスが言った。

オオトカゲにビビりながらぼくらは移動した。

線路沿いの空き地にオオナメクジはいた。

ヌメヌメした身体をくねらせて、草を食べてる。大型バイクくらいの大きさだ。

近くを通った自転車のおばさんがまゆをひそめながら「いやねー」とつぶやいて去って行った。

「経験値10あるかな」ヤスに聞いてみた。
「なかなかデカイな。10はいくよ」
「さて、行こうか。レベル2の戦士と魔法使い、そしてレベル1の勇者の戦いを見せてやろうよ」ヒラが言った。

レベル1は余計だろ、と言う前に、火の呪文をヒラは唱えていた。「アツッ」火の玉がオオナメクジの背中にヒットした。

ぼくも慌ててヒノキボーで背中らしき場所を叩く。

ヤスはバトルステッキで突き刺す。
「硬いぞ、コイツ」ヤスが叫んだ。

オオナメクジはヤスにぶつかってきた。ヤスがぶっ飛んだ。スライムのようにはいかない。

「アツッ」ヒラの2度目の呪文。頭にヒット。オオナメクジが身悶える。

ぼくはヒノキボーで頭を叩いた。オオナメクジの動きが鈍くなった。そこにヤスの一撃。
「突いてだめなら、叩く」ヤスの一撃も頭にヒットした。

オオナメクジはゆっくり倒れていった。

「あー、疲れた。もう呪文使えない」
「いててて。また、腰が、、、。」
「大丈夫?」

二人が少し落ち着いたところで、写メして送信。返信

「オオナメクジ1匹経験値12、600円。レベルアップ。ナムーを覚えた。レベルアップまであと30」

「やったー、レベルアップーーー」
「やったな」
「やったね」

「ナムーという呪文を覚えたらしいよ」ぼくは言った。
「それ、回復系だよ。」ヒラが言った。

「かけてくれーー」ヤスが言った。
ケータイでナムーを見ると、登録済と表示されている。

「治れ、治れ、治れ」と念じてヤスの腰に手をかざす。
そして、呪文。
「ナムー」

緑の光が生まれてヤスの腰に吸い込まれた。

「痛みが消えた。うん、うん、平気」

「これで、攻撃呪文と回復呪文を、我々は手に入れたわけだ」ヒラが胸を張って言った。

「でも、ナムーを使うと、すごく疲れる」
「魔法だからね」さすが魔法使い、言葉の重みが違う。

「さて、そろそろ帰ろうか」ヤスが言った。
あたりはいつの間にか暗くなっていた。
「そうだね。疲れたよ」
「また明日ね」

ぼくらは別れた。
暮れていく家路を急ぐ。

「今日の夕飯は何だろう。早く風呂に入りたいな」


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