〈エッセイ〉義理の姉

前提としてうちの兄弟は仲が悪い。
仲が悪いというか、会話が無い。


俗に言う「年が近いから」とか「比べられるから」とかそういった理由かもしれない。とにかく昔から話をしなかった。したくなかったし、する必要も感じなかったし、されることもなかった。
趣味が全く違ったのかもしれない。兄はエヴァンゲリオン。僕はファッションとアイドル。弟はエロ本。
それともそもそも他人に興味がない独特な三人が、たまたまこの家に降り立っただけかもしれない。それもまた運命か。


いずれにせよ厳格な父、男三人兄弟、迷い込んできた犬でさえ雄。女は母だけ。

そんな男の園へ、ある日義理の姉がやってきた。

***

僕が三十も超えて緑髪にしたとき「似合うね!それどうやってやるの?私にはできないけど(笑)」と真正面から質問してくれた。それはただのお世辞やイケズだったのかもしれないけど、当時の僕はやっと僕のやることなすことに興味を持ってくれる人、褒めてくれる人がこの家に現われた!と心の中で歓喜したのを覚えている。



個人情報になるが彼女はお父さんを早くに亡くし、一人娘としてお母さんの女手一つで育った。家にはいつも女二人だったそうだ。

そんな人がこんな男の園に来てしまって…
後に「初めて家族で集まった時、兄弟がずっと黙ってて、お父さんだけしゃべってるから、この家ヤバいなと思ったよ(笑)」と暴露してくれた。やはりバレていた。



それでも彼女は逃げなかった。避けようともしなかった。
それはもしかしてお父さんという存在、弟という存在、オスの犬さえも全てが、彼女にとって初めてでうれしかったのかもしれない。これはいち義理の弟の、身勝手な憶測でしかないが。




ある日、僕が着ていたジャケットに「変わったデザインね。それは何の柄?」とも聞いてくれた。

僕は「妖怪」と答えた。

「ほら、ここに妖怪がたくさんいるように見えるから『妖怪のはっぴ』って呼んでる。新潟の十日町で買った。あそこはもともと着物の街だから和のパタンで作ってある。でもこれは悪さしない妖怪。水木しげる先生の世界にもいい妖怪と悪い妖怪がいるけど、これはポニョみたいに、海にいる、きほん悪さしない妖怪。」


すると姉は「へぇ~、どれどれ、ああ、これが目玉ね」とちゃんと妖怪を見つけてくれた。

僕がずっと幼稚園児のようだとしても、僕がもし幼稚園児なら、こんな先生に出逢いたかった。


***


僕にとって生家は金庫のように「こうあるべき」という概念で作られた場所。

しかし義理の姉が来てくれたことで、一輪挿しや観葉植物がおもむろに置かれたようになった。家の中に風や水を感じられるようになった。

苗字を変えてまで、向こうの苗字が終わってしまってまで、うちに来てくれて本当にありがとう。


少なくとも僕は救われています。


呼吸がラクになりました。

クスっと笑えたら100円!(笑)そんなおみくじみたいな言霊を発信していけたらと思っています。サポートいつでもお待ちしております。