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一万円選書のカルテから③

①、②の続きです(今日でおしまい)。

北海道にあるいわた書店さんに一万円選書をしてもらえることになり、選書の際に必要となる「カルテ」を記入、提出したのが昨年のこと。久しぶりに思い出したので、当時のカルテの設問と私が書いた回答を紹介していきたい。

いちばんしたい事は何ですか?あなたにとって幸福とは何ですか?

選書カルテより

(質問から少しずれたことから書きますが)今年いっぱいで今の会社を辞めることにしました。仕事自体は好きですが、会社から求められる働き方をしていると、どうしても物理的に私が今後大切にしていきたいものが疎かになると思ったからです。私が一番に大切にしていきたいものは家族です。高校から寄宿舎に入り卒業とともに上京、その後ずっと東京で働いていたので家族とは年に1~2度しか会えない時期が長くありました。さらにコロナ禍で会えない日々が続き、ある日ふと(今後あと何回ゆっくり会うことができるのだろう)と不安に思いました。また、結婚して3年になる夫がおり、ともに子どもがほしいと思っているのですが、タイミングが合わないのか自然妊娠はなさそうです。本格的な不妊治療には踏み込んでいませんが、そうしたことも真剣に考える上で、金銭的・時間的にももう少しゆとりある生活を作りたく、そうしたもろもろを鑑みた結果、今の会社を辞めるという選択をしました。結婚を機に引っ越しをしたのですが、たまたま自宅から職場まで満員電車に揺られながら片道1時間半という状況になってしまい、適応障害になってしまったことも一つの理由です。人が多い場所にさらされることが私にとってはストレスだったようです。
10年間、雑誌の編集記者として働いてきました。この仕事をしていなければ出会えなかったであろうたくさんの人たちの生き方、暮らし、視点などについて聞かせてもらったり、ありがたい経験を数多くさせてもらいました。10年も育ててもらったのに途中で抜けてしまう申し訳なさはありますが、一方で後悔はありません。今の会社でしかできない経験があるのと同じように、今の会社を出てしかできない経験もたくさんあると思うからです。新たな経験から学び、次の自分の仕事、そして生活を作っていきたいです。現時点で私にとっての幸福は、家族との時間、そして文章を通して自分を表現することです。

その他何でも結構ですので、教えてください。ゆっくり考えていただいて書いてみてください。スペースが足りなかったら他の紙にでも構いません…どうかよろしくお願いします。

選書カルテより

はじめに、冒頭で書いた読書歴について少しだけ補足いたします。上から8冊目の『プチ哲学』までが、小学5年生~中学生の間に読んだ本です。記憶している限り時系列で並べてみました。『気になる部分』は大学時代に読んだような気がしています。高校~大学時代は、勉強や部活にそれなりに真面目に取り組んでおり、趣味の読書はあまりできていなかったように思います。
『バスを待って』以降は社会人になってからの読書歴です。これも記憶している限り時系列です。ただ社会人になってからもブランクがままあり、『フィフティ・ピープル』は2019年か2020年、それ以降はすべて2021年以降に読んだものとなっています。書きたい本は他にもたくさんありますが(佐藤雅彦さんのエッセイも好きですし、津村記久子さんの本はすべて読んでいます)、思い出深いもの、節目節目で支えてくれたもの、今の私を作ってくれているもの、何かを考える上できっかけになったもの、純粋に読んでいて心地がいいもの、好きなもの―といった基準で選んでみました。

人の話を聞くのが好きです。人見知りで、どちらかというと器用なコミュニケーションはできない方だと自分では思っていますが、それでも今まで記者という仕事を続けてきたのは、いろいろな人の話を聞くのが本当に楽しかったからだと考えています。聞いた話を文章に起こす作業も好きでした。

大人になってから軽微の小麦アレルギーになってしまいました。母親の影響で小さい頃からパンが大好きで、1日一つは絶対にパンを食べるような生活をしていましたが、2019年頃から肌荒れが目立つようになり、その原因がパン食=小麦にあると気づきました。激しい副反応が出るわけではなく、ぽつぽつとにきびができる程度の軽微なものですが、それでも蓄積されるとやはり目立ちます。巷にはおいしいパン屋さんが溢れていますし、それ以前に小麦の入っていない食事は結構少ないことが分かります。小腹が空いた時、気軽にカフェに寄ってサンドイッチやケーキで腹ごしらえ…ということもできなくなり、少し残念に思う機会が増えました。しかし仕方のないことなので、現在はグルテンフリーのパンを扱っているお店をちまちまと探し、定期的に買って食べています。値段は張りますが、それなりに満足しています。たまにどうしても小麦のパンが食べたくなるので、試しに解禁してみることもあります(にきびができてしまうこともあれば、運よくあまり反応しない時もあります)。

地元・北海道が好きです。できることなら北海道に移住したい気持ちもあります。生まれ育った地域は海と緑がきれいで、すぐ近くに馬がおり、5月には並木道の桜が満開になります。

2019年1月、台湾へ旅行に行きました(新型コロナウイルス感染症の拡大直前で、計画がもう少し遅れていたら中止になっているところでした)。初めての台湾、なぜかとても心地よく、雰囲気が気に入りました。冬に行ったので気温もちょうどよかったのかもしれません。ゆったりした時間が流れているなと感じた一方で、若い人たちの独創性が光る国だなと感じました。古い建物をリノベーションしたカフェやアート施設、名もなき作家たちが作る味わい深い雑貨の数々、活発な朝と夜の風景、規格外に大きな建造物、街を飾る色彩など、様々な部分に心惹かれました。日本へ帰ってきて、もっと台湾のことを考えてみたく、オードリー・タンさんの著書を買ったり、台湾のガイドブックを改めてまとめ買いしたり、吉田修一さんの『路』など台湾が出てくる小説を読んだり、しばらく自分の中で台湾ブームが続きました。その後、prime videoで台湾ドラマ「悪との距離」という作品があるのを目にして(無差別殺人事件を扱ったもの)、そうだよな、こういった作品が作られる背景も恐らくあるんだよな、明るい面だけを楽しんでいたなと思い至りました。まだまだ入口にいるので、もっといろいろな作品に触れて、また落ち着いたら現地を訪ねたいです。

「変わった人」という印象を持たれることが多いんだろうな、というのは大学時代になんとなく気づきました。「トリッキーだね」「天然」「不思議ちゃん」など直接言われたこともありましたし、「最初は友達になれないと思った」と(これも直接的な表現ではありますが)、実際は仲良くなったあとに言われたり。狭いコミュニティだったので、大学時代はもうそのようなキャラが定着してしまっていたように思いますが、かといって人格が貶められたという経験はないので、さほど不満ではありませんでした。
ただ、恋愛至上主義的な雰囲気がある中で、私のようなキャラづけがされてしまうと一定の領域からは最初からはじかれてしまうというか、参加できない空気のようなものを感じることがあって、そうした時は居心地が悪かったように思います。かといってものすごく恋愛がしたいかというと別にそうでもない。全体的に楽しく濃密な大学時代でしたが、ときどき狭間に置かれるときがあったのは事実です。
夫とは仕事を通して出会ったのですが、私の「人と違って面白いところ」が気になったと言ってくれ、純粋にありがたいなあと思いました。同時に、小さなコミュニティの中にいると、やっぱりある程度はその大部分の人が共有している価値観に左右されてしまうのだ、ということに遅れて気がつきました。今は私のままで何も飾らず、いつものびのびと過ごせています。

弟とは小さい頃よくケンカをしましたが、今は友人のような関係です。SNSで見つけた小さくて面白いネタをLINEで送りあったり、たまに電話をして、この間に観た映画、読んだ本や漫画、最近よく聴く音楽、近況などについてお互いに喋り合います。自分の知らないことを教えてくれるので楽しい時間です。

母の話を、私はあまり聞いてこなかったのかなと結婚して少しずつ思うようになりました。東京から北海道の田舎町へ身ひとつで嫁ぎ、自営業の飲食店で今日まで働き続けてきた母。過剰な愛情表現はしないけれど、さりげない言動で本当に大切に想ってもらっているんだなということを実感します。父の武勇伝や思い出話、苦労話はよく聞きます(聞かずとも喋ってくれるので)。しかし母は、恐らくこれまでものすごくたくさんの言葉を胸にしまってきたはずなのですが(端的に言うと我慢ばかりしてきた)、たまに愚痴は言うものの、本物の塊を吐き出したことはないように思います。別に家族だからといって何もかも吐露する必要はないし、本人が言わなくてもいいと思っているならそれでもいいのですが、環境がそれを抑え込んでいるという側面もあるのではないかと思います(今さら言ってもしょうがないし、という諦めもあるかもしれません)。こうして書くと、母がものすごく不幸な人のようにも読めますが、DVを受けているとか、ものすごく貧しいとか、そういうことではありません。おいしいものも食べて、休業日にはお出かけもして、夜は晩酌して、たまに旧友と電話して、遠くにいながら楽しそうな様子も伝わってきます。が、それでもやはりわが家の中で母の言葉が語られる場面というのは圧倒的に少なかったし、そのことで母が孤独を感じる場面もたくさんあったのではないかと思うのです。

***

かなり長くなってしまった。

年末年始、ちょっとした時間の合間に、もし気が向いたらカルテの設問に自分なりの回答を考えてみても面白いかもしれません。

今年noteでつながってくださった方、読んでくださった方、改めてありがとうございました! 来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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