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舞台 「禁猟区」 観劇レビュー 2022/12/28


【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1593763487423119361/photo/1


公演タイトル:「禁猟区」
劇場:本多劇場
劇団・企画:柿喰う客
作・演出:中屋敷法仁
出演:永島敬三、大村わたる、牧田哲也、加藤ひろたか、田中穂先、守谷勇人、とよだ恭兵、村松洸希、中嶋海央、佐々木穂高、田中廉、山中啓伍、原田理央、長尾友里花、福井夏、淺場万矢、今井由希、北村まりこ、齋藤明里、永田紗茅、沖育美
公演期間:12/22〜12/30(東京)
上演時間:約75分
作品キーワード:サスペンス、ラブストーリー、親子
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


中屋敷法仁さんが主宰する日本を代表する劇団の一つである柿喰う客の本公演を本多劇場で観劇。
柿喰う客の本公演は、2020年に上演された『夜盲症』、そして今年2022年に上演された『空鉄砲』に続き3度目の観劇となる。
2021年に本多劇場で上演された『滅多滅多』は観劇していないため、男性と女性どちらの劇団員も出演する本公演の観劇は初めてとなる。
2021年に柿喰う客に入団した劇団員たちの演技を観ることも初めてとなる。

今作の物語は、とある田舎町に存在する「ちぎり通り商店街」という商店街が舞台となっている。この商店街にはそれぞれ個人事業主たちが、寿司屋、時計店、カクテルバー、古書店、古式マッサージ店など店を開いている。
そして商店街の一番奥には「ちぎり神社」という一見ハリボテの神社がある。
この商店街に、檻多清香(永田紗茅)という若い女性が店舗を開きたいとやってくる。
現在この商店街に店舗の空きはなかったが、この街の誰かと婚姻することで商店街の住人になれることを知り、住人に近づき始める。清香はなぜこの商店街に店舗を構えようとしているのか、それは以前起きた通り魔事件によって、写真家がバラバラにされて殺害されたことと関係しているようだという話。

普段の柿喰う客の公演と同様で、ステージには舞台装置が一切なく、カットイン多めで派手な照明演出と音響演出によって、とてつもないスピード感のある台詞量で圧倒する舞台作品に仕上がっていた。
柿喰う客特有の台詞回しと言葉遊びの数々に、柿喰う客ならではの熱量を存分に浴びることが出来て満足だった。

今回驚いたのは、昨年(2021年)に入団した新劇団員たちが、先輩劇団員たちと引けを取らないくらいの熱量で演技をされていたこと。
特に四川料理店の緩瀬流音役を演じた沖育美さんと、熊本ラーメン屋の坊田風利役を演じた中嶋海央さんの熱量が素晴らしかった。
沖さんは、チャイナドレスが似合っていたのもあるが、声が甲高くて非常に聞き取りやすくて迫力を感じた。
中嶋さんはあの力強い演技に魅力を感じた。

そして今作は特に照明演出が過去観劇した柿喰う客舞台と比較して非常に格好良かった。
凄く不気味な感じを醸し出す照明の色使いが非常に好みで、今までの柿喰う客らしさを残しつつ、よりエンタメ性を増したあたりが功を奏していた。

ストーリーを理解するというよりは、肌で感じて体感するエンターテイメントとして楽しんだ方が良い舞台作品。
とにかく元気をもらいたい人たちには配信もあるので、柿喰う客の熱量を存分に浴びてほしい。

【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1607556876295708677/photo/1


【鑑賞動機】

私はストーリー度外視で肌で感じろタイプの柿喰う客の芝居はそこまで好きではなかった。しかし、2022年1月に観劇した柿喰う客の本公演である『空鉄砲』を観劇して、その物語に凄く心に残るものがあって好きだったので、次回公演はまた観劇しようと思っていた。特に、男性劇団員と女性劇団員がどちらも出演している柿喰う客公演は観たことがなかったので、今回満を持して観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇と配信視聴して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

とある田舎町に存在する「ちぎり通り商店街」、商店街にはそれぞれ個人事業主がちぎり通り沿いに店を構えていた。このちぎり通りで男性がバラバラにされて殺害されている事件が起きる。きっと通り魔殺人だろうと個人事業主たちは思う。
この「ちぎり通り商店街」に、清香(永田紗茅)と名乗る若い女性がやってくる。清香は、この「ちぎり通り商店街」に店舗を構えたいのだと言う。しかし、あいにく店舗に空きはなかった。カクテルバー「marking tongue」を営む銅底智羅永(牧田哲也)や、時計店「アクロス」を営む詣閏(大村わたる)、古書店「をばながうれ」を営む其討巾次郎(田中穂先)を訪れる。しかし清香は、今はスマートフォンで時刻を確認すると言ってしまったり、紙の書籍ではなく電子書籍で本を読むと言ってしまい、彼らを怒らせてしまう。
古式マッサージ「fuku」を営む破刃禍乱(福井夏)の元も訪れ、オイルマッサージをしてもらう清香。しかし清香は、この商店街に店舗を出店出来ずにいた。なぜ清香は、この「ちぎり通り商店街」に店舗を出店したいのかと尋ねると、彼女の父親がこの「ちぎり通り商店街」で以前殺害されており、その情報を知るべくやってきていたのだった。
フラワーショップ「my youth」を営む死薔薇蓮花(今井由希)は、店内の花がバラバラにされていたり、時計店「アクロス」の時計が時刻が全て統一されていたりと不可思議な現象がこの商店街に起こり始める。きっと清香がやってきたからであると住民たちは口にする。
清香の元へ、美容院「HERO」を営む今郷放哉(加藤ひろたか)がやってきて彼女をナンパしてくる。今郷は、清香の父親がこの商店街で殺害された時のことを知っていると言うので、清香は今郷と付き合うことにした。
しかし1ヶ月経っても、今郷は清香の父のことについて語ってはくれなかった。清香は自分の苗字を「檻多」ということを告げると、「檻多」という苗字は聞き覚えあると商店街の住民たちは一同に察知した。「檻多」という苗字は、7年前にこの商店街で殺害されたジャーナリストの苗字と同じだと。

「ちぎり通り商店街」には、四川料理「凰喜」という中華料理店があり緩瀬流音(沖育美)が営んでいた。しかし、父親が指を怪我して3本になってしまってからは、「レタスチャーハン」を出食出来なくなってしまった。流音はレタスチャーハンを作れないと言う。
そこへ、八百屋「ゆたか」を営む苅田稲(とよだ恭兵)がやってきて、自分が営む八百屋の野菜を使ってチャーハンを作る。そんな苅田に惚れた流音は、苅田と結婚することで無事「レタスチャーハン」をこの中華料理店で出食させられるように復活した。さらに、「ちぎり通り商店街」の個人事業主と結婚したことで、二人ともこの商店街の住人になった。
そんな光景を見ていた清香は、「ちぎり通り商店街」の個人事業主と結婚すれば、この商店街の住人になれるのではないかと、古書店を営む巾次郎に近づく。しかし、巾次郎を好きな女性は他にもいて、それは英会話教室「re:ON」を営む架夜(原田理央)だった。
巾次郎は最初は清香のことが好きそうだったのでショックを受けていた架夜だったが、次第に巾次郎が自分に打ち解けてきて、結婚するまでに至った。巾次郎と結婚するのなら英会話教室をやめてもいいと。しかし、これは巾次郎と清香が図った策略だった。巾次郎は清香のことが好きだからこそ、あえて清香とは結婚せず、清香に空いた英会話教室の店舗を与えて、出店させるというものだった。架夜は、騙されたと思ったし、結局自分のことを好きでないのかと落胆したが、巾次郎と一緒にいられるならそれで良いと言う。

【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1606832104653946884/photo/1


清香は今郷と二人で商店街の外にいて、夜になったので商店街へ帰ろうとした。しかしタクシーは今夜は「ちぎり通り商店街」へは向かってくれない。今夜の「ちぎり通り商店街」は何かあるようだった。終電で商店街へ二人で向かうと、雀荘「北」を営む雷同恩美(北村まりこ)が出てくる。
彼女は、「ちぎり通り商店街」の奥にある「ちぎり神社」のハリボテを指す。以前そこを雀荘としてこの商店街の住人たちと麻雀をして憩いの場としていたのだと。しかし、相葉雅紀がロケでここにやってきてから観光地と化してしまった。そのため、住民たちは個人事業主となって儲けに走ってしまったのだと。
雷同は、その雀荘「北」だった神社のハリボテを清香に差し出す。ここで「和カフェ」を営んで良いと。清香は雷同からの差し出しを受け取り、「和カフェ」を開業する。

一方、江戸前寿司「しま景」を営む釜罠以蔵(永島敬三)は、店に知人を沢山呼んで浮かれ気分だった。ブディック「ca va?」を営む加門那雨(淺場万矢)も呼んで上気分だった。しかし、お客はなにか不穏な予感がすると警戒心を強めていた。
清香が破刃のマッサージを受けている最中、彼女からの攻撃に合う。そして背中には、「チギリサマ」というカタカナ五文字が刻まされている。この「チギリサマ」について古書店の巾次郎から解説してもらう。
昔この「ちぎり通り商店街」の一番奥にある「ちぎり神社」には、恐ろしい怪物が祀られていた。そして周期的に夜にその怪物が人々を襲ったのだと。その怪物はとても強く安倍晴明でも退治することが出来なかったそう。そしてこれ以降は有料コンテンツなのでこれ以上は語れないと言う。
清香は、その「チギリサマ」を退治すると誓う。

一方、「ちぎり通り商店街」は混迷を極めていた。フラワーショップを営む死薔薇が倒れており、清香は行方不明であった。個人事業主たちはそれぞれ安否を確認し合っている。
清香は「和カフェ」で店員をやっていた。そこへ再び破刃がやってきて攻撃してくる。清香の父親は、「チギリサマ」に殺されたように見せかけて、実は破刃の仕業だったのだと言う。破刃は、あの日清香の父親を殺すことで、それが「チギリサマ」の祟りだと思わせて住民たちを恐れさせたかったのだと言う。
清香は恐怖に耐えかねて、今郷の名前を叫ぶ。今郷が清香を助けに来る。古書店の巾次郎の有料コンテンツの続きは、「チギリサマ」は元々祟りを起こす神ではなく縁結びの神様だったということ。

清香の父親の死の真相も分かり、「和カフェ」も開き、そして今郷とも上手く行ったということで、釜罠の号令で「ちぎり通り商店街」の住人たちは乾杯して宴をする。ここで上演は終了する。

正直一度の観劇だけだと台詞スピードも早すぎて、特に後半はストーリーを全く負えなくなっていたが、配信を視聴したことである程度整理出来た。
個人的には『空鉄砲』の方が脚本としては好きだったが、今作はストーリーからしてよりキャストを中心に考えられた内容かなと感じた。柿喰う客の劇団員は皆個性豊かなので、その個性を上手く活かした脚本だと感じた。
個人的には、登場人物が多すぎる上に、各々のキャラクターをもっと観たかったなと感じたが、私の好きな俳優さんは割と出番多めだったので個人的にはだいたい満足だった。
あとは、サスペンスとラブストーリーの要素が今回は強かったが、清香の父親が殺された経緯をもっとミステリー風に描いてくれると自分としてはより満足したかも。サスペンスものにしては、柿喰う客の作風である台詞のスピード感、疾走感があるからだと思うが、次はどんなシチュエーションが起きるかというワクワク感と興奮をもっと与えて欲しかった。

【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1608286306483716101/photo/1


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

いつもの柿喰う客の演出と同様で、舞台装置は何もなく、舞台照明と舞台音響で見せる作品だった。特に今作は舞台照明の工夫の多さに圧倒された印象だった。
衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番でみていく。

まずは衣装について。
劇団員がそれぞれの個人事業主を演じるので、皆衣装が個性的で且つカラフルで観ていて楽しかった。
まず主人公の清香の衣装だけ2着あるのが素敵だった。前半の黄色い私服姿も良かったし、特に後半の「和カフェ」店員の和装も素晴らしかった。どちらも薄い黄色で統一していて永田さんが上手く着こなしていて映えていた。
個人的には、コンカフェ「bright village」の野瓜美登役の齋藤明里さんのメイド姿も好きだった。あの黒と白の尖った印象を与えてくれるのが好きだった。齋藤さんはああいった衣装は凄く良く似合っていて素晴らしいなと思った。
四川料理店を運用する緩瀬が着ていたチャイナドレスも非常に似合っていて好きだった。頭に乗せている団子も可愛らしかった。
男性陣でいくと、銅底のウェイターのようなフォーマルな感じの服装が牧田哲也さんに非常に似合っていた。落ち着きがあって好きだった。

次に舞台照明について。さすが松本デザイン室さんと思わせるくらい、要所要所で凝った照明演出が素晴らしかった。
特に印象に残ったのは、「ちぎり通り商店街」の奥にある「ちぎり神社」で祀られている「チギリサマ」を表現したと思われる役者一同の演技を照らす、緑色と黄色と赤色で不気味に照らし出す照明。あまりそんな照明演出観たことがなかったので、この演出手法にまず驚き圧倒した。本当にそこには一つの怪物がいるかのようだった。
あとは、天井に沢山のスポットライトが吊るされているので、それらが舞台上を水玉のように照らして柿喰う客らしさを感じさせた。今回は、奇抜なカラフルなスポットライトで舞台上を照らすシーンは少なく、基本的には白色、濃い青色、たまに赤色、緑色だったのでそういった派手さはなかったが楽しめた。
またステージの床にも横一列になって照明が吊り込まれていて、下から照らす照明も格好良かった。

次に舞台音響について。
開演のタイミングで「ジリジリ」と電気ショックのような効果音が流れるところが好きだった。これは、全ての黒幕であった破刃がマッサージをしながら相手に与える攻撃なのだが、これによって清香の父も殺されたので、考えてみるとしっかりと伏線になっていて良かった。
あとは、カットインで効果音が入るシーンが柿喰う客の公演らしく今回も多く、それによって照明も切り替わったり、キャストが演技を切り替えたりと、シーンがしっかり切り替わる演出が功を奏していた。
破刃が体をひねる度に、「グキッ」と音が響くのが痛々しくて好きだった。
そして一番好きだったのが、一番最後のシーン。柿喰う客の公演というと基本的にはキャストが捲し立てるかのようにとんでもない台詞の量をひたすら喋り続ける印象があるが、今作のラストに関しては音楽に合わせたダンスパフォーマンスに近いシーンだった。「ダンス」まではいかないのだけれど、音楽に合わせて一同が一斉に酒をグビグビ飲んだり、お辞儀をしたり、キャストが無言で音楽に合わせて動く演出が柿喰う客の公演では新鮮だった(たった3度しか本公演を観劇していないので、そんなことなかったらすみません)。

最後にその他演出について。
一番格好良いと感じた演出は、フライヤーの商店街の両サイドにキャストがずらっと並ぶレイアウトに習って、ステージ上にV字型にキャストが並ぶことで、ステージ奥中央に神社がある体としたレイアウトが好きだった。遠近法を活かした感じの配置が凄く好みでセンスを感じた。
あとは柿喰う客の醍醐味である、台詞の中で印象に残ったものをいくつかあげていく。美登の「目ん玉くり抜いてトッピング」はなかなか刺激があって脳裏に焼き付いた。齋藤さんが言っているから尚更毒々しかったのもあるのかもしれない(褒めてます)。今郷の「清香ちゃ〜ん」も結構癖になった、あの呼び方が凄く嫌らしくて素敵だった。叶が清香に雀荘の建物を譲り渡した時につぶやいていたおまじないのような言葉も覚えていないが呪文のようで好きだった。時計店の詣閏の「チクタクチクタク」も凄く柔らかく弱い感じが好きだった、あれは年齢いくつくらいなのだろうか、結構高年齢に見えたが。

【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1606177407207194624/photo/1


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

とにかく柿喰う客の劇団員全員が熱量みなぎっていて、エネルギーを浴びた感覚だった。特に、2021年に新しく入った劇団員たちがそれ以前からいたベテランの劇団員たちと変わらないくらい成長して違いを感じられなかったことが素晴らしかった。
特に注目していた役者について書いていく。

まずは、主人公檻多清香役を演じていた永田紗茅さん。永田さんの芝居は、2021年6月に観劇したUzumeの『マトリョーシカ』以来の観劇となる。
今回改めて感じたのだが、永田さんは可憐な女性の役も出来るし、力強い声の張った女性の役も出来るから本当に素晴らしいと思う。今回の演技で特に感じたのは、その使い分けとギャップ。今郷に対してぶりっ子な甘え声を出したかと思えば、その次は力強い汚い言葉(「うっせーよ」みたいな)まで言えて、それがどちらも地に足が付いているから本当に舞台女優として素晴らしいと思う。
今回の清香という役は、可愛い素振りをして実は殺された父親の真相を探りに「ちぎり通り商店街」にやってくるという設定。つまり、清香は内面は物凄くしっかりしているし芯の強さを感じさせる女性である。そんな強さもありつつ、「和カフェ」を開いて可憐に店員さんも出来るギャップが、永田さんが演じる演技のギャップとも上手くハマっていた。
また永田さんは体の使い方も凄く上手い。柿喰う客の芝居は先述した通りカットインで入るきっかけが多いが、そのきっかけに合わせてキビキビと体を動かせるから、その点でも柿喰う客の芝居に合っているのだなと思う。両手の手首だけを曲げて外へ出すポーズが良かった。あとは、今回最前列で観劇したので表情までしっかり観られたのだが、表情を上手く切り替えて演技するのも得意なようで、あそこまで自分の殻を破って芝居が出来るって素晴らしいなと心から尊敬した。

次に、コンカフェ「bright village」の野瓜美登役を演じた齋藤明里さん。齋藤さんの演技は今年(2022年)だけで、3月に悪い芝居の『愛しのボカン』、8月にTAACの『人生が、はじまらない』と2回観劇していて、今作が3度目となる(たしか累計では6回?)。
美登は、まず黒と白の衣装のメイド服で、ちょっと毒づいた台詞が多い感じがたまらない。齋藤さんに間違いなくはまり役で中屋敷さんはよく分かっているなと感心するレベルのキャラクター設定。
体の動きも好きで、ちょっとメイド喫茶っぽいキビキビとした動きが良かった。こういうアニメっぽいキャラクターづくりが非常に上手く行っていてよかった。

古式マッサージ「fuku」の破刃禍乱役を演じた福井夏さんも素晴らしかった。福井さんは、しあわせ学級崩壊の『終息点』で演技を拝見して以来、約1年半ぶりの観劇である。
福井さんは、ちょっとエロティックで悪い女性を演じるのが本当に上手い。マッサージ師としてのあの体のくねらせた演技がちょっとエロティックで、そこがハマっていて素晴らしかった。あとは、最終的に清香の父親を殺した犯人だった訳だが、目つきの悪さが良くて、最前列で観劇出来たからその目つきの上手さを観ることが出来た。
福井さんをそろそろエンタメ系の芝居でなく、現代口語的な芝居で観てみたい。日常の演技を観てみたい。

古書店「をばながうれ」の其討巾次郎役を演じた田中穂先さんが本当に素晴らしかった。田中穂先さんの芝居は、1月に観劇した『空鉄砲』以来3度目である。
田中さんは最初演技を拝見した時よりも非常にガタイがよくなっていて、凄く男らしい感じになって迫力が出ていた。今回の其討役も、凄く声が通っていて迫力があって観客を惹き付ける力があると感じた。なぜか田中さんの声を聞いていると心地よい。
また明治時代の文豪のようなちょっと昔のインテリな格好をした感じがまた良かった。ミステリアスさを感じさせて、今作の物語進行の中でも書物に書かれていた伝説的な部分をモノローグで表現されていて、田中さんだからこそ良かったような気がする。
本当にモノローグが凄く上手いキャストさんだと再認識した。

美容院「HIRO」を営む今郷放哉役を演じた加藤ひろたかさんも良かった。
清香を口説く感じがチャラくて好きだった。凄くポジティブな意味でチャラさが際立っていて、加藤さんだからこそ出せるイケメンモテ男な感じだった。

そして、2021年に劇団員に入団した俳優でいくと、四川料理「凰喜」の緩瀬流音役を演じた沖育美さんと、熊本ラーメン「味王」の坊田風利役を演じた中嶋海央さんが非常に素晴らしかった。どちらの方も初めての観劇で、全員2021年に入団した劇団員上手かったのだが、この二人は特に素晴らしかった。
まず沖さんは、チャイナドレスを身にまとっていて、なかなか他の女優では出せないような中国人らしく細くてスラッとした女性を演じられていてよかった。声も非常に通るので迫力もあった。これは、時期に永田さんや齋藤さん、福井さんみたいにマルチに活躍される女優さんになれるなと可能性を感じた。
中嶋さんに関しては、まず黒いTシャツというのが厳つくてよかったのだが、やっぱり声が力強くて迫力がある点に魅力があった。あの強面感って、今までの柿喰う客の劇団にはあまりいないような気がする。皆美男子なので、別に中嶋さんが美男子ではないと言うつもりはないのだが、柿喰う客の劇団員に新しい風を吹かせている感じがした。

【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1607919389361291265/photo/1


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

私が今作を観劇したのは12月28日の昼回だったのだが、丁度それまで田中穂先さんが体調不良で休んでいて復帰して初めての公演だった。田中さんが休まれる前は、たしか他の方が休まれていたので、ようやっと本キャストが全員揃っての公演だった。それまでは、作演出の中屋敷さんが代役をされていて、こんなご時世もあって三谷幸喜さんの『ショウ・マスト・ゴー・オン』ではないが、急遽代役に変わることが珍しくない状態で、本キャストで観られたことに感謝している。
ここでは、初めて男性女性混合の柿喰う客公演を観た感想をつらつらと述べる。

出演者数は21人で、今回出演されていない柿喰う客のキャストが玉置玲央さんと七味まゆ味さんと、葉丸あすかさんの3人のみなので、総勢で柿喰う客の劇団員は25人(中屋敷さんを入れて)ということになる。劇団としてここまで大きな団体は他にあまり観られないし、こうやって一度にほとんどの劇団員が出演して公演するというのも、劇団の結束力を感じさせてくれる。
柿喰う客の個性として、舞台装置なし、カットインの照明・音響演出、捲し立てるような台詞のスピード感の3つがあると思う。そんな尖った特色を持っているから客演というのはなかなか難しいのだろう。以前、とある劇団の主宰が、劇団はその団体での特有のナレッジやテクニックを持った俳優の集団と言っていたが、まさにそうなのかもしれない。劇団であることによって、その特有の技術が継承されているのかもしれない。

今作の感想について触れると、ストーリーはもっとスリルとワクワクが欲しい所ではあったが、柿喰う客でしか出来ないことを詰め込んだ作品に見えたと思う。
例えば、役者一人ひとりが個人事業主という設定は、キャスト全員が個性豊かでないと難しいし、そんな商店街でサスペンスが起きるというのは、どことなく柿喰う客のファンが多い若年層女性がウケるコンテンツかなと思う。柿喰う客は、今の若い世代のニーズにコミットしながら、古き劇団という組織を上手く存続させているように思えた。
また、その土地に言い伝えられている伝説を用いるあたりにも、非常に今のはやりの作品とも親和性が高いように作られている気がする。

非常にキャスト陣のレベルが高いので、今後新劇団員ももっと成長して外部の公演に積極的に参加していって欲しいし、そうしていくことで劇団としての良さをもっと出していって欲しいと思う。

【写真引用元】
柿喰う客 Twitterアカウント
https://twitter.com/kaki_kuu_kyaku/status/1607594749229244418/photo/1



↓柿喰う客過去作品


↓中屋敷法仁さん演出作品


↓永田紗茅さん過去出演作品


↓齋藤明里さん過去出演作品


↓福井夏さん過去出演作品


↓牧田哲也さん過去出演作品


↓田中穂先さん過去出演作品


↓淺場万矢さん過去出演作品


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