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舞台 「プルーフ / 証明」 観劇レビュー 2022/03/11

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【写真引用元】
DULL-COLORED POPアカウント
https://twitter.com/dc_pop/status/1465863339394084865/photo/1

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【写真引用元】
DULL-COLORED POPアカウント
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公演タイトル:「プルーフ / 証明」
劇場:王子小劇場
劇団・企画:DULL-COLORED POP
作:デヴィッド・オーバーン
翻訳・演出:谷賢一
出演:大内彩加、宮地洸成、大塚由祈子、大原研二
公演期間:3/2〜3/13(東京)
上演時間:約135分(途中休憩10分)
作品キーワード:天才数学者、親子、家族、ラブストーリー
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


谷賢一さんが主宰する劇団 DULL-COLORED POPの公演を観劇。
DULL-COLORED POPの舞台作品の観劇は、2019年12月の「マクベス」、2021年8月の「丘の上、ねむのき産婦人科」に続き3度目の観劇となる。

今回上演された「プルーフ/証明」はアメリカで誕生した戯曲であり、2000年にトニー賞とピューリッツァー賞をダブル受賞した世間的にも評価された戯曲である。
DULL-COLORED POPとして2度目となる当脚本の上演だが、今回はAチーム、Bチーム、Cチームの3つのチームに分かれてそれぞれ全く異なる演出を加えて、まるで別作品であるかのように仕上がった内容となっているのだそう。
私は、「A version:"Hip" team」を観劇した。

物語はシカゴ大学で教授を務めている天才数学者ロバート(大原研二)と、彼の世話ずっとし続けてきた娘のキャサリン(大内彩加)の話である。
娘のキャサリンは父のロバートのように賢くはなく、研究に没頭し続ける破天荒な父を世話し続けたせいか、彼女も重い精神病を患っていた。
そんな中ロバートは亡くなってしまい、それを知った姉のクレア(大塚由祈子)がニューヨークから戻ってきたり、ロバートの教え子の学生ハル(宮地洸成)がやってきてキャサリンを口説いたりする。
その時彼らは、死んだロバートの書斎にあった数式の書かれた一冊のノートを見つける。

私はこの戯曲に触れるのが初めてだったので、もっと数学や物理学の話がてんこ盛りな作品なのかと思っていたが、決してそんな話ではなく、登場人物の人間性や「言葉」にフォーカスされた作品で誰もが楽しめる舞台作品として作り込まれていた点が興味深かった。

演出も役者の演技も非常にアメリカンで、流れる音楽もオーバーなリアクションも、椅子の周囲に散りばめられた落ち葉もアメリカ文化を想起させる点が、非常に小劇場で観劇する作品としては珍しくて好きだった。
なんとなく「ビューティフル・マインド」だったり、「博士と彼女のセオリー」といった映画作品にも共通点がみられるあたりが好き。
これらの映画作品も天才科学者の話でもあって家族との愛の物語でもあるから。

キャサリンを演じる大内彩加さんの演技は非常に迫力があって、そして狂っていて素晴らしかった。
小劇場だからこそ伝わってくる迫力が生かされていた。逆にこの作品を大きな劇場でも観てみたいと思った。
きっとまた違った印象を感じるだろうし、違った良さを引き出せそうな作品でもあるような気がする。

数学の話だからといって敬遠するのではなく、多くの人に観てほしい作品。Bチーム、Cチームも観劇したかった。


【鑑賞動機】

谷賢一さんの演出というのも惹かれたポイントではあったのだが、「プルーフ/証明」という天才数学者を扱った物語であるという要素が観劇の決めてとして大きかった。
また今回は500人の応募者の中からオーディションで選ばれた俳優が起用されているという点で、非常にレベルの高い演劇作品だと思ったから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

キャサリン(大内彩加)はラジオを聞きながら机で突っ伏していた。そこへ父でもありシカゴ大学の教授をしている数学者のロバート(大原研二)が、手にシャンパンを抱えてやってくる。ロバートはキャサリンの誕生日を祝福し、彼女は喜ぶ。
ロバートはキャサリンが普段どのくらいの時間を無駄に使ってしまっているかを数学的に証明する。この時間を研究に当てられればどれだけ有意義な時間を送ることが出来たのかを伝える。
キャサリンは精神的な病を抱えていて、本来あるはずもないものをまるで存在するかのように言うのだが、今日はロバートとまともに会話出来ているので、病状は落ち着いているよう。いや、ロバートは先日亡くなってしまった。だからロバートと会話をしているということは、彼女はロバートの幻想を見て話をしている。つまり病状は良くない。

深夜のロバートとキャサリンの家に若い男がやってくる。彼はハル(宮地洸成)という。ハルはロバートの元で数学を学んでいるシカゴ大学の学生である。彼は真夜中にロバートが亡くなったと知るや、彼の書斎を訪れてノートの整理を行おうとした。
ハルは大学でバンド活動もしているらしく、「i」というタイトルの曲の演奏を披露したことがあるそうだった。しかし、「i」は数学では「虚数」を表しその演奏自体も何の演奏もされずにただ無音で突っ立っているだけの披露、周囲からはとても不人気だった。
キャサリンは、真夜中に男が自分の家に入ってきたことに対して慌てふためき、警察に通報してしまう。

翌日、キャサリンがシャワーを浴び終わって白いバスローブを身にまとって部屋に入ると、そこにはニューヨークからやってきた姉のクレア(大塚由祈子)がいた。クレアは何やら計算機のようなものを叩きながら仕事をしていた。仕事をしながらキャサリンと会話をして、キャサリンが今欲しいものはなんでも持っているとばかりに、バッグからあらゆる品物を取り出した。
クレアは昨日の深夜、キャサリンが警察を呼び出して騒然としたことを追求した。クレアはキャサリンが精神的な病にかかって幻覚を見ることを知っていたので、きっと警察を呼んだのも何か幻覚を見たからなんじゃないかと。
しかし、キャサリンは深夜にハルというロバートの教え子がやってきたことは事実だと主張するのだった。

ロバートの葬儀が終わり、キャサリンとハルは彼の葬儀に参加した後酒を飲んで酔っ払った状態で家に戻ってきた。キャサリンはハルの演奏は思ったより悪くはなかったと褒めていた。
二人は酔っ払っていたため、そのまま良いムードになって激しいキスをし始める。まるで亡霊のように登場するロバートは2人のキスを見て驚いている。
眠りにつくキャサリンの元へ、上半身裸のハルが現れたりとエロティックなシーンが続く。

朝、部屋にいたキャサリンの元へ二日酔いでだるそうにするクレアが起きてくる。クレアはどうやら昨日のロバートの葬儀の後のパーティーで、知り合いは途中で皆帰ってしまったのに、たまたま一緒にいた連中のせいで夜遅くまで付き合うことになってしまったらしく辛そうだった。
キャサリンはクレアから、これから一緒にニューヨークに戻って暮らさないかと提案される。ロバートが住んでいたこの家も売り払う予定だと言う。
そこへハルが再びやってくる。ハルは、ロバートの書斎にあった机の鍵のかかった引き出しから取り出した一冊のノートを持っていた。そしてキャサリンはそのノートを見てこう言った。ここに書かれている証明は私が書いたものだと。

ここで幕間に入る。

まだロバートが生きていた頃の、とある9月の昼過ぎ。キャサリンはロバートが最近は病状も落ち着いていて、自分もそろそろ姉のように自分のやりたいことに精を出したいと思って、ノースウエスタン大学へ通いたいとロバートに打ち明ける。
しかしロバートには自分が教授を務めているシカゴ大学へ通うことを勧められる。ノースウエスタン大学は車で30分程度と少し遠いし、シカゴ大学でもキャサリンが学びたい数学は学べると。しかしキャサリンは自分の父親がいる大学へ学生として通うことについて少々気が引けるようだった。
そこへハルがノートを抱えてロバートの元へやってくる。ハルは、ノートに沢山の数式を書いてきてロバートにそれを見せた。ロバートはその数式を見た後、本屋に屯する学生の話を始める。学生たちはただ本屋に来てたまに本をペラペラとめくるだけで、メインは友達同士でくっちゃべっているだけだと。時間の無駄遣いだと。学生は呑気なものだと、そう言う。

現在に時間は戻って、キャサリンがロバートの書斎にあった一冊のノートに書かれた数式は、自分自身が書いたものだと主張する。姉のクレアは、また精神的な病に冒されて勘違いでも起こしているのだろうと、彼女の言うことは信じずにロバートが書いたものだと思っていた。筆跡はロバートのものとそっくり、そしてキャサリンにこんな数式が書けるはずがないと。しかしキャサリンは、自分の筆跡は父のロバートに似ているのでそれだけではロバートの筆跡だと断定出来ないと言う。
ハルがそのノートをじっくりと読むが、これはキャサリンではなくロバートの筆跡だろうと言う。キャサリンは喚く。クレアが自分の言うことを信じてくれないことは容易に想像できたが、まさかハルまで自分の言うことを信じてくれないなんてと絶望する。

ある冬の夜、ロバートが家で数式を書きながら研究を続けいてるところに、キャサリンはやってくる。ロバートの家はどうやら暖房が壊れているようで非常に寒かった。こんな寒いところで研究していたら風邪を引くとキャサリンに心配されるロバート。
他愛もない会話を2人は続けた後に、ロバートは一冊のノートを取り出してキャサリンに渡す。そこに書かれていたことを声に出して読むキャサリン。「エックスイコール"寒い"、エックスは12月から2月の時だけ成り立つ。エックスイコール"暑い"、エックスは6月から8月までで成り立つ。それ以外の月のエックスは定まらない。」「エックスを本屋に積まれた本の数とする。エックスは常に増大し続ける。9月においてだけエックスは減少する。これは学生が本屋に足を運ぶことと関係する。」

クレアとハルは、その問題のノートに書かれていた数式を調査した結果、そこには最新の研究論文に登場するような極めて最新の手法についても言及された数式であることが判明した。クレアはこう言う。「つまりこの証明はかなり・・・・・・ナウい」
クレアはロバートの家を後にする。

ハルは、このノートに書かれていた数式がロバートが病気にかかってからの最新の数式についても言及されていたことから、キャサリンが書いたものだと分かって認めるが、キャサリンはもうこのロバートの家を後にして、クレアのいるニューヨークにいって彼女に面倒を見てもらうのだと言い、ハルを置いて去っていってしまう。ここで物語は終了する。

正直トニー賞とピューリッツァー賞をダブル受賞した戯曲ということで、個人的には脚本に対する期待値は高かったのだが、自分にはそこまでハマらなかったというか、結局この脚本から何を伝えたいかがよく分からなくて自分には少々合わない感じもした。
しかし劇中で要所要所に登場する、会話から連想される情景が非常に好きだった。特にロバートが語る本屋に入り浸る学生の光景が凄く良かった。なんとなく自分が大学生だった時のことなんかも思い出されて懐かしかったし、全体的にのどかなアメリカの街を連想されて非常に心地よい感覚にさせられた。
考察パートでも触れようと思うが、きっとこの脚本で訴えたかったのは精神病を患った親子の愛の物語なのだろうと思うが、ラストがもっと感動的なものを期待してしまったから個人的には満足度が少し低くなってしまったのかなと思う。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

全体的に演出はアメリカンといったら伝わるだろうか。陽気な洋楽と、役者たちのオーバーなリアクションなどが組み合わさって1950年、60年代のアメリカのコメディを思わせるかのような作風で非常に好みだった。
舞台装置、照明演出、音響演出、その他演出の順番でみていく。

まずは舞台装置から。
舞台装置といっても、王子小劇場という小さい小屋なので立派な大道具が立てられている訳ではなく、舞台背後にブルーの幕と、中央に椅子と机、そして上手側にリクライニングチェアと落ち葉が沢山散りばめられているくらい。
基本的には、中央に置かれた机と椅子が劇中では使われていた印象。上手側のリクライニングチェアは、ロバートが学生と本屋の情景を話す時に座っていたことを記憶している。
ロバート役を演じた大原研二さんの舞台装置の活かし方がとても好きで、舞台後方の青い幕から顔だけ現れて、キャサリンとハルとの様子を覗いていたり、リクライニングチェアで落ち葉が沢山落ちている環境の中で、秋の風景の話をする辺りが非常に和やかで好きだった。シカゴがいかに長閑な街なのかが思い浮かぶというか情景として浮かんできて良い観劇体験だった。

次に照明演出。
照明も役者へのスポットの当て方がアメリカっぽさを感じられた。
例えば、一番最初のロバートの登場シーン。ロバートが手にシャンパンを持ちながら陽気に踊っているシーンなのだが、照明がブルーとイエローに包まれて非常に陽気でおしゃれな印象が目に焼き付いた。また、ロバートに向けて光量の強い黄色い照明が当てられ、後ろのブルーのカーテンに丸く照明の明かりが映る観せ方も素敵だった。
あとは、物語後半の9月のシーンで温かみのある照明を当てていたのも印象的。あの照明があったからこそ、本屋と学生のくだりも情景がくっきり浮かんで入りやすかったのかもしれない。
また、寒い家の中でロバートが研究をやっている最中、キャサリンがやってきて彼を心配する時の、冷たく暗い照明も好きだった。本当に今作の照明は、とても的確にシーンを形作っていて好きだった。

次に舞台音響。
音響は全体的に陽気でラジオから流れてきそうなちょっと懐かしさを感じる洋楽が多かった。私は洋楽は詳しくないのでどのアーティストによる楽曲なのかは分からなかった。
客入れから序盤に流れていたラジオの音声も良かった。生活感がある。舞台の世界へ没入させてくれる良い効果だった。

最後にその他演出について。
この作品の演出で一番心動かされたのは、なんといってもハルとキャサリンのキスシーン。あんなに舞台上で濃厚なキスシーンを、しかも小劇場という小さな空間で観られるとはなかなかインパクトがあった。実際にキスしているのかしていないのか分からないくらいのギリギリの距離まで口を持っていっていた。役者はどんな気持ちであのシーンを演じているのだろう。演じている側もドキドキするだろうなと思いながら観ていた。
また、キャサリン演じる大内彩加さんが、白いバスローブ姿でシャワーを浴び終わったという体で登場するシーンがあるのだが、あそこで実際に髪を濡らして登場する辺りもエモーショナル、つまりエモかった。キャスト・キャラクターの項目でも記載するが、大内さんのあのアメリカっぽいアバウトでオーバーなリアクションと、彼女の演技によって発せられる迫力が非常に女性として魅力的に感じさせられた。まさにはまり役である。
また、クレア演じる大塚由祈子さんが結構な量の水をがぶ飲みしながら体を張って演技されていたのも印象的。ハルを演じた宮地洸成さんが上半身裸で登場する演出もそうだが、この作品は役者が体を張って演技をする箇所が何箇所かあって、その生々しさが非常に心動かされて見事だった。
あとは、基本この舞台作品は「プルーフ/証明」というタイトルでありながら、数学に詳しくない方でも楽しめる内容になっているものの、「虚数」とか「素粒子物理学」とか「幾何学」とか「宇宙物理学」とか登場するので、理系の方にとって興奮する内容として仕上がっている点も興味深かった。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作はA、B、Cチームの3チームあって、私はAチームしか観劇していないが、4人全員がはまり役且つ非常にインパクトがあって惹きつけられた。そして体を張った演技がなんとも生々しくて演劇を観ているという感覚にさせられて非常に良かった。
4人全員を順番に触れていきたいと思う。

まずはキャサリンを演じたDULL-COLORED POP所属の大内彩加さん。彼女は当劇団の代表作「福島三部作」などに出演されたことがあるそうだが、私は演技を拝見するのが今回が初めて。
終始彼女の演技に惹きつけられていた。まずアメリカの作品ということもあって、非常に感情表現もストレートでシチュエーションも濃厚な部分が非常に彼女の演技からも上手く出されていた。キャサリンはずっと父の世話をし続けて、父のことが大好きだけれど、自分もそんな生活に参ってしまって精神的な病にかかってしまう可愛そうな女性。彼女が心の中でずっと悩み続け葛藤を抱えてきたことが、彼女の力強い演技から十分汲み取れて魅力的だった。
そして自分が男性だからであろうが非常に色気を感じさせられたので、こちらまでドキドキさせられた。例えば白いバスローブに身を包んでシャワーからあがって登場した姿や、父の葬儀後のパーティーのあとにハルと濃厚なキスをするシーンは、こっちまでドキドキさせられた。これはやっぱり生だからここまで心を動かされるのだろうなと思いながら、改めて演劇の面白さを再認識した。
彼女はもっと他の作品でも単純に芝居を観たいと感じた。

次にハル役を演じた同じくDULL-COLORED POP所属の宮地洸成さん。調べたところ、宮地さんと大内さんはDULL-COLORED POPの同期にあたるよう。彼の演技は2019年12月に上演されたDULL-COLORED POPの「マクベス」以来2度目の観劇となる。
やっぱり印象に残るのは、葬儀後にキャサリンを口説こうとするシーンでのハルの演技。本当に目つきが嫌らしい。それがコミカルにも感じられるのだが、あんな芝居を堂々と出来てしまうという点で素晴らしいなと感じる。ああやって面白い演技が出来るって素晴らしい。
私がハルというキャラクターを観ていて感じた感想は、きっとキャサリンのことが好きだからロバートの元で必死に学業も頑張っていたんじゃないかなと思ったこと。なんとか接点を作ってキャサリンの近くにいたかったのかなと。またバンドをやっているというのも大学生らしくて似合っていた。「i」というタイトルの楽曲は失笑だったけれど。

クレア役を演じたのは劇団アマヤドリ所属の大塚由祈子さん。彼女の演技は2021年3月に上演されたアマヤドリの「生きてる風」以来2度目となるのだが、その時大塚さんが演じられていた役がほとんど台詞のない役だったので、実際のところしっかり役者として拝見するのは今作が初めてと言ってよい。
クレアはキャサリンと姉妹ではあるものの、キャサリンとは正反対で自分の夢に従って仕事をバリバリこなす姉という設定であった。父の介護をずっとし続ける家族思いのキャサリンとは違って、社会へ出てバリバリ仕事をするキャリアウーマン。そんなキビキビとした印象を演技からもしっかりと感じ取ることが出来た。そして非常に現実的で合理的な思考の持ち主なのだとも感じられる。
そういった性格が仇をしているのか、精神的な病にかかったキャサリンの言うことを全く聞き入れてくれないあたりにちょっと残酷さを感じてしまう。これから2人はニューヨークで生活をすることになるが、きっとこの姉妹同士の対立は起こるのだろうなと想像がついてしまう。
非常にハマり役で迫力のある演技だった。

そして最後は天才数学者ロバートを演じたDULL-COLORED POP所属の大原研二さん。大原さんの演技は「マクベス」に加え、2021年12月にAmmoの「太陽は飛び去って」でも演技を拝見している。
大原さんの演じるロバートは、雰囲気がアメリカの自由な文化で育ったおじさんといった感じで、シャンパンを片手に歌いだしたり踊りだす光景が非常に印象に残っている。大原さんがちょくちょく演技される身振り一つ一つがアメリカっぽさを感じられて、物凄く細部にまでどう演じたら良いか考えていらっしゃるのだろうなと思った。
本屋と学生のモノローグも、非常に情景が浮かんできて落ち着きのある台詞が耳に残る。また、キャサリンとのやり取りも、捉え方によっては厳しい発言に聞こえるのだけれど、声の穏やかさからするとキャサリンへ注がれる愛情とも捉えられて非常に素晴らしい親子愛を観ることが出来たなという印象。
非常に愛情深い天才数学者だったと感じた。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

本当にBチーム、Cチームの作品も観たいなと思うくらい、演出や役作りの違いを比較したりしながら今作を楽しみたかったと思った。他チームを観劇する時間がなかったので今回はAチームだけに留まったが、全体的に作り込まれている印象を感じた。照明や音響演出もそうなのだが、役者の役作りの作り込みも非常に感じられた。
ここでは、「プルーフ/証明」という戯曲に関する考察をしていこうと思う。

この作品のテーマは、やはりロバートとキャサリンという父と娘の親子愛を描いた作品だと感じた。
キャサリンは非常に父のロバートが大好きで数学も大好きだった。しかしロバートのように一つのことに没入出来る性格ではなく、天才でもなかった。そこに対してキャサリンはずっと悩んでいたことだろう。天才的で偉大な親がいてしまうと子供はなんとも不幸なものである。
きっと姉のクレアは父ロバートのことに関して興味はなく、自分はビジネスという別の分野に身を置いて親元を去っていったのだろう。しかし父のことが大好きだったキャサリンはロバートの元を離れることなく彼を支え続けた。
しかし、ロバートの病状が重くなればなるほどキャサリンにも負担がかかっていく。彼女としても本当はノースウエスタン大学で数学を学びたかったが、父のこともあって自由に出来なかった。そんなストレスが溜まっていって精神的にも病んでしまったのだろう。

キャサリンが、ロバートの書斎の机にあった一冊のノートの証明を、自分が書いたものだとあそこまで主張した理由はなんだろうか。
姉のクレアやハルにまでも精神病患者だからといって、言うことを信用してもらえなかったキャサリンは、彼女が一人の数学者であるという自分自身の能力を証明したかったというのも勿論あるだろう。
しかし、私がこのAチームを観劇して思ったのが、きっとキャサリンはロバートの娘として愛情持って育てられたことも証明したかったのではないかと思っている。
精神的な病にかかって何が現実で何が幻想なのか判別がつかなくなってしまったキャサリン。しかし、愛すべきロバートという父親と共に過ごした時間だけは確実に現実に存在した。天才数学者というロバートの遺伝子に加え、彼の教えによって数学の知識も身につけて一人前になった、その愛情を受けてきた証、つまりその証明にもなった一冊のノートなのだという主張もあったのではないかと思う。

この解釈は、戯曲を全く読んでおらず、今回の1回の観劇から読み解いたものでしかないから間違っているかもしれない。
しかし、そうであってくれれば、この物語はきっと親子愛に満ちた心温まるものなんじゃないかと思っている。


↓「プルーフ / 証明」の映画作品


↓DULL-COLORED POP過去作品


↓大塚由祈子さん過去出演作品


↓大原研二さん過去出演作品


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