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舞台 「いとしの儚」 観劇レビュー 2023/07/16


写真引用元:悪童会議 公式Twitter


公演タイトル:「いとしの儚」
劇場:品川プリンスホテル ステラボール
劇団・企画:悪童会議
作:横内謙介
演出:茅野イサム
出演:佐藤流司、七木奏音、福本伸一、郷本直也、野口かおる、田中しげ美、佐藤信長、淺場万矢、野田翔太、塩屋愛実、紺崎真紀、桜庭啓、大平祐輝、嶌田リョウ、日野陽仁、茅野イサム
期間:7/6〜7/17(東京)
上演時間:約2時間10分(途中休憩なし)
作品キーワード:時代劇、ラブストーリー、御伽噺、鬼、泣ける
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズなど、2.5次元舞台を中心に演出を手がけている演出家の茅野イサムさんと、2.5次元の舞台制作会社である「マーベラス」の創業者であるプロデューサーの中山晴喜さんが立ち上げた演劇ユニット「悪童会議」の旗揚げ公演を劇場・品川ステラボールで観劇。
2.5次元舞台を普段あまり観ない私は、茅野イサムさん演出作品を観たことがなかったが、今回上演する作品が扉座の横内謙介さんの代表作『いとしの儚』ということもあって大好きな作品である上、時代劇ものなので2.5次元俳優にもピタリとハマりそうな題材だったので楽しみにしながら観劇に臨んだ。
私は、『いとしの儚』を劇場・下北沢ザ・スズナリで2021年3月に劇団東京夜光版を拝見している。
そのため、小劇場での上演と大劇場での上演を比較しながら観劇を堪能した。

物語は、天涯孤独の博打打ちである件鈴次郎(佐藤流司)と、鬼たちが墓場から死体をかき集めて作った絶世の美女である儚(七木奏音)のラブストーリー。
鈴次郎は博打で右に出る者はいないというほどの強者、そんな彼はゾロ政(茅野イサム)が連れてきた鬼である鬼シゲ(郷本直也)に博打で勝って、一人の女性を手にいれる。
それは、儚という絶世の美女。
しかし、その儚は人間ではないため、鈴次郎には打ち明けられない秘密があったというもの。

殺陣のシーンはあまりないものの、時代劇や日本の御伽話に近い物語構成になっているので、小劇場でなくてもエンターテイメントとして非常に楽しめる作品だと思ってワクワクしていた。
そして、結論を言うと小劇場の東京夜光版の方が個人的には好きだったが、十分満足のいく観劇体験で観に行けて良かった。

まず、今回の上演は役者の演技力が素晴らしい。
普段2.5次元舞台を中心に活躍されている方々のため、当たり前かもしれないが、佐藤流司さんが演じる鈴次郎の力強さと狂気っぷりに物凄く迫力があって心打たれるものがあった。
佐藤流司さんだけでなく、青鬼役をやった福本伸一さんの力強く説得力のあるモノローグや、鬼シゲ役の郷本直也も迫力があって、終始圧倒された。
そして、私は演技を初めて拝見した七木奏音さんの透き通るような存在感にも魅了された。
儚は、序盤のお転婆な演技と後半のお淑やかな演技のギャップが物凄く上手く描かれていて、脚本の構成的にも儚役を美しく際立たせる構造に素晴らしさを感じる。
東京夜光版で演じられた藤間爽子さんとは全く違うエンターテイメントとしての『いとしの儚』にはふさわしい存在感で良かった。

また、三木松役を演じた佐藤信長さんのあの可愛い少年ぶりや、殿様を演じた日野陽仁さんの麻呂っぷりには笑わされたし、野口かおるさんが演じたお鐘役も個性溢れていて、脇役も含めてどの役にも個性と魅力があって好きだった。

客層も若い女性が中心で、普段は2.5次元を観劇する客層なのだと思うが、小劇場演劇好きとしてはそういった客層に、小劇場演劇の名作がしっかりと伝わっていて嬉しかった。
2.5次元俳優をキャスティングしながら、普段は2.5次元舞台を創作される方々が、小劇場の名作を上演したり、スタッフに小劇場系の方々を起用して一から演劇を創作していくプロセスを垣間見られて感動した。
とてもとっつきやすい物語だし、感動して泣ける話なので、まだ舞台を観たことがない方も含めて多くの人に観て欲しい作品だと思った(7月22日まで配信もやっているそう)。

写真引用元:ステージナタリー 悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」より。




【鑑賞動機】

一番の理由は、『いとしの儚』を過去に観たことがあって大好きだったので、大きな劇場で上演されるとどんな感じなのか観てみたいと思ったから。そして「悪童会議」という演劇ユニット旗揚げの企画も、色々情報を調べてみると、小劇場に希望が灯されるような企画だったので、絶対に観たいと思ってチケットを確保した。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

青鬼(福本伸一)のモノローグから始まる。青鬼は、かつて件鈴次郎(佐藤流司)という博打では負けなしの男がいたことを語る。彼は博打の神様である賽子姫(塩屋愛実)に愛されていた。
ある日、同じく博打に強いゾロ政(茅野イサム)という男が博打にやってくる。ゾロ政は、鬼シゲ(郷本直也)という鬼を連れて、その鬼に鈴次郎と勝負をさせる。もし、鈴次郎が勝ったら女を授けようと言う。結果、鈴次郎は博打に勝ってゾロ政から一人の女性を連れてこられる。
その女性は、儚(七木奏音)という絶世の美女だった。鈴次郎は儚と一緒に暮らし始める。

しかし、儚はなかなかお転婆な娘で屋敷中をバタバタと走り回ったり、花屋の花を勝手に盗んだりしていた。
ある日屋敷で、儚は三木松(佐藤信長)という青年と出会い彼と仲良くなってイチャイチャしていた。そのタイミングを偶然鈴次郎は目撃してしまい鈴次郎は三木松に襲いかかろうとする。
三木松は和尚である妙海(日野陽仁)に仕える者だった。妙海は儚に会うと、この娘をお寺に預けてお淑やかな女性に育てた方が良いと鈴次郎に申し出る。10両で儚を育てると言う。
鈴次郎はそれを拒んでいるが、博打に勝ったら儚を妙海に預けようと言う。そして、妙海と博打をする鈴次郎だったが、いつもは賽子が丁半どちらの目が出るか読めるのだが、この時はまったく読めずに外してしまい、妙海との博打に負けてしまう。儚は妙海の寺に預けられて育てられることになり、鈴次郎はその後一人で暮らすことになる。
しかし、妙海に博打で負けてからの鈴次郎はまるで別人であるかのように博打に勝てなくなってしまっていた。街でいつも博打をする輩にも一回も勝てなくなり、次第に持ち金を失っていった。
鈴次郎は、博打の神様に見放されたと思って、次第にむしゃくしゃし始めて落ちぶれていった。

儚が生まれて49日が経った日、鈴次郎は妙海のいる寺へ行って儚の様子を見に行った。
しかし、鈴次郎が再会した儚はまるで別人のようにお淑やかな女性になっていた。音楽に合わせて歌を歌いながら踊り、そのあとは源氏物語を読み上げるのだった。妙海と三木松は、こんなに上品になった儚を鈴次郎に紹介するが、鈴次郎は逆に怒ってしまう。こんなお淑やかに儚を育てるために10両を払ったのではないと。そして、鈴次郎は儚を強制的に引き連れて妙海の寺を出る。
儚は、そんな鈴次郎の強引な様子に驚くも、今でも鈴次郎のことを愛し続けていると言うが、鈴次郎は儚がキスをしようとしているのに、それを退けて綺麗な着物を脱がせてしまう。そんな鈴次郎の仕打ちに儚も悲しくなって鈴次郎の元を去ってしまう。

鈴次郎は、なんとか博打に勝ちたいと躍起になって色々な人と博打をし続けていた。しかし、賽子に細工がなされていたり、卑怯をしたことが周囲にバレてしまい、なおさら鈴次郎は世間から笑い者にされ、ずるい人間だというレッテルが貼られるようになっていった。
鈴次郎が一人でむしゃくしゃしながら歩いていると、妙海と三木松に遭遇する。鈴次郎は妙海を斬りつけて殺してしまう。三木松に対しても怪我をさせてしまうが彼は逃げる。

一方、儚は旅館でお鐘(野口かおる)や三木松などと一緒に働いていた。そこへ殿様(日野陽仁)がやってくる。殿様はまるで麻呂のような感じで平和ボケしている様子である。
殿様は儚を見て一目で気に入ってしまう。それから、殿様は儚のある秘密を知ってしまう。それは、丁度明日で儚は生まれてから100日を迎えるのだが、それまでに男性を抱いてしまうと泡になって人間になれないというものだった。実は儚は、100日たって人間になって鈴次郎を抱くというのが夢で、それをずっと我慢し続けていた。
殿様は、そんな儚の状況を聞いてますます彼女に興味を唆られた。そして、殿様はこの儚が人間になる前に縛り上げて、自分に強制的に抱かせるように仕向ける計画を実行しようとするのだった。

このままでは儚は泡になってしまうということを知った鈴次郎は、殿様からなんとか儚を助け出そうと思う。そこで、鈴次郎は青鬼と鬼シゲにお願いする。博打はもう負けすぎてしまってできないが、儚だけは助け出して欲しいと。そこで鬼たちは交換条件で鈴次郎の要求を受け入れる。それは、鬼たちが儚を助け出す代わりに、鈴次郎が鬼になるという約束である。
儚は殿様によって、十字架のようなものに縛り上げられていた。そして、殿様はヘラヘラと笑いながら儚を抱こうと近寄ってくる。そこへ鬼シゲたちがやってきて、殿様を斬りつけて追払い、儚を助ける。

儚と鈴次郎は再会する。鈴次郎は鬼との約束通り自分は鬼になってしまうから儚は人間となって幸せな家族を作って暮らすように言う。しかし儚は100日経つ前の鬼である自分を抱いてほしいと鈴次郎にお願いする。鈴次郎は水になってしまうからダメだというが、儚は鈴次郎に抱かれても自分は水にはならないと言う。
鈴次郎は儚を抱く。儚は水になることはなく、その代わり花びらが舞って消え去っていく。ここで上演は終了する。

改めてなんともピュアで瑞々しい素敵なラブストーリーだと思って、この戯曲の素晴らしさに触れることができた。
東京夜光版との違いは、途中途中に歌とダンスパートが挿入されていたことと、儚の誕生が鬼が墓場の死体を集めて作ったというグロテスクな描写ではなく、もっと煌びやかな登場だったということ。
個人的には、東京夜光版の小劇場の方が好きだったかなと思った。というのは、そちらの方が音楽や歌といったエンターテイメントに頼っている部分が少なかったので、台詞が劇の素晴らしさを占めるウエイトが大きかったのだが、もっと鈴次郎と儚の掛け合いとその台詞に心打たれたイメージがあった。例えば、鈴次郎が心無いことをするのは優しくされたことがないからだということをはっきり儚が言っていたり、胸にグッと刺さる台詞によって心動かされるシーンが東京夜光版の方が多かったから、私個人としてはそちらの方が好きだった。
逆に、今作は音楽や舞台セットのエンタメとしての豪華さ、そして役者の演技の迫力に心奪われた作品だったので、後述のパートでそちらについてしっかりと触れようと思う。

写真引用元:ステージナタリー 悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今回の『いとしの儚』の上演は、かなりエンターテイメント寄りに振り切っていて、そうすることによって脚本の魅力が霞んでしまう作品も沢山あるが、今回はそうならずにしっかり演出を堪能することができた気がする。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
大きな舞台装置がガッツリ仕込まれているという感じではなく、広大なステージを目一杯使えるように、移動式のセットが複数存在していた印象。
特に印象に残るのは、屋敷をイメージした下手から上手まで伸びている横に長い木造の扉と、それを裏返すと襖になるという舞台装置。鈴次郎が博打をやるシーンなどは、この舞台装置は木造の扉として使用されていた。しかし、妙海の寺だったり、殿様がやってくる旅館だと襖として裏返しにして使用されている点が面白かった。同じ舞台装置なのに、どちらの面を表にして置くかによって舞台全体の印象が変わるのが面白い。
博打のシーンだと、床面には畳が敷かれて昔の屋敷のようなセットになるのも印象に残った。また、屋外のシーンでススキのセットをステージ上に至る所に置くセットも印象に残った。

次に衣装について。
個人的には衣装はかなり好きだった。鈴次郎のあの落ちぶれた感じの汚れた衣装も良かった。また、青鬼や鬼シゲといった鬼たちの衣装も迫力があって良かった。
儚の衣装も美しかった。真っ赤な着物が七木さんにとてもよく似合っていて素敵だった。また、源氏物語を読むシーンの薄い緑色の着物も素晴らしく似合っていた。たしかにあの色彩には落ち着きがあって、お淑やかになった儚には似合っているなと感じた。

次に舞台照明について。
舞台照明は、どちらかというとずっと暗い感じの照明が多くて格好良かった。だからこそ、儚が歌とダンス披露するシーンで一気に明るい感じになるのは凄く明暗のギャップがあって良かった印象。

次に舞台音響について。
エンターテイメント仕立ての舞台作品なので、BGMがかかるシーン多めだったが、特にノイズになることはなかったし、こういった戯曲だからこそその演出も成り立つ気がした。
個人的に印象に残るのは、儚が歌って踊る舞のシーン。舞台後半から、いきなり七木さんが音楽にのせて歌い始めたのでびっくりしたが、こういった演出もこの作品ならありだなと思った。そしていかんせん、七木さんの歌が上手いし踊りも上手なので、うっとり聞き入っていた。役者の魅力をさらに際立たせる演出だった。
また、賽子姫の鈴の音色も好きだった。「チリンチリン」というあの高い音色を聞くと、『いとしの儚』を観ているなという感覚にさせられる。そして、東京夜光版にはなくて悪童会議版にあったのは、鈴次郎が全く博打で勝てなくなってしまってから、賽子姫にまるで遊ばれているかのように翻弄されているのだが、その時鈴の音色ではなく、他の楽器の音が鳴り響く感じも良かった。鈴次郎は、博打の神様に見捨てられたんだなということがよく分かる。

最後にその他の演出について。
先ほどの賽子姫の演出に続いて、賽子姫の動きも面白かった。というか、賽子姫は東京夜光版よりも強調して演出されていたような気がする。茅野イサムさんが、賽子姫の存在を好きだったりするからかな。少なくとも、賽子姫がステージ上で単独で演技を披露するシーンは東京夜光版ではなかった記憶なので、その描き方は良いなと思った。賽子姫を務めている塩屋愛実さんも楽しそうだった。このあたりは、どこかアニメ的な演出に感じられるし、2.5次元を手がけてきたスタッフの色を感じた。
最後の、儚が鈴次郎に抱きしめられて花びらになってしまうシーンの演出は、なんとも儚かった。これぞ儚かった。この演出は好きだった。その花びらも色とりどりで凄く今回の七木さんが演じた儚の色に近い気がした。東京夜光版の儚を演じた藤間さんは青白い感じのイメージカラーだったが、今回の七木さんの儚はどこかカラフルなイメージがあるので、とてもこの花びらの演出は色彩も含めて良かった。
東京夜光版よりも、青鬼のモノローグ感が強かった気がする。戯曲自体もたしか、青鬼がモノローグを語る感じのシナリオではなかったように思うが、今回の上演ではそうすることによって、どこか昔話的に作品全体が感じて良かった。
あとは、これは2.5次元ファンサービスだと思うが、鈴次郎が上半身裸になるシーンが複数あった。これは東京夜光版ではなかった。ちょっと性的な刺激と興奮を与えるようなそんな演出だった。ロミオとジュリエットでそういうシーンが多いのと同じで、ちょっと今作をそっち路線にしていた。若い層へのファンサービスだなと感じた。

写真引用元:ステージナタリー 悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」より。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

役者たちの演技は全員本当に素晴らしかった。普段2.5次元界隈の作品をあまり観ないので、演技力って小劇場と比べてどうかと思っていたが、私が最前列で観劇したというのもあって、その迫力に圧倒された。もっと映像系など2.5次元にとどまらず活躍のフィールドを広げて欲しいと思った。
特に印象に残った役者について記載していく。

まずは、件鈴次郎を演じた佐藤流司さん。佐藤流司さんは、2.5次元舞台で大活躍中で有名な俳優さんだが、実は演技を生で拝見するのは初めて。
とにかく佐藤流司さんの迫力ある演技に圧倒されっぱなしだった。初めて佐藤流司さんの演技を観て感じたことは、まず目つきが鋭くてかっこいい。あのちょっと腰を曲げて上を見上げる形で周囲の睨み潰す感じが良かった。あとは、どこか正義感の強い感じが主人公っぽさがあって良かった。
佐藤流司さんが演じる鈴次郎は、どこかずっと悪態をついている悪い鈴次郎が全面に押し出された印象を感じた。今回の演出なら、たしかにその方が鈴次郎の格好良さも伝わるし、迫力も感じられて面白かった。だが、逆にそうすることで、あまり心情変化というものが感じにくかったかなと思った。もっと少年ぽいピュアな感じがあった方が、儚とのラブストーリーにバランスが取れたし、感情移入できたかななんて思った。
ただ、それは凄く細かいことでとにかく演技力に圧倒されて素晴らしかったので、どんどん舞台俳優としてこれからも活躍して欲しい。

次に、儚を演じた七木奏音さん。七木さんは、元私立恵比寿中学のメンバー。演技を拝見することも初めてだし、なんなら恥ずかしながら七木さん自身も今回の観劇で初めて知った。
七木さん演じる儚は、物凄く可愛らしさというよりは存在感のある凛々しい感じのある儚だなと感じた。だからこそ、どちらかというとお転婆な感じの儚はしっくりこなくて、妙海の元でお淑やかになってから、一気に魅力が増した感じがあって、良かった。
あとは、歌も上手いし舞のようなダンスのシーンも素敵だったので、そういった七木さんのバックグラウンドを活かした演出とシナリオは本当に良かった。

次に、妙海と殿様役を演じた日野陽仁さんも素晴らしかった。
特に殿様役の日野さんが面白くて笑った。ザ・麻呂といった感じのキャラクターで、喋り方といい仕草といい体の動かし方といい、良い意味でムカついてくる演技が素晴らしかった。東京夜光版ではここまで麻呂ではなかった記憶だが、ここまで麻呂として役作りされて演出するのもアリだなと思った。

三木松役を演じた佐藤信長さんも素晴らしかった。
2.5次元系の舞台を観ないので、佐藤信長さん自体は知っているものの、演技自体は初めて拝見した。屈強な男たちの多い俳優の中で、佐藤さんのような中性的な男性は凄く良い意味で目立って見える。
同じ男性がいうのも難だが、優しい雰囲気とにこやかなスマイルがとにかく癒し系で、舞台全体に良い効果を与えていた。あと、佐藤信長さんが何か面白いことをすると、客席から結構若い女性の笑い声が多かったので、佐藤流司さんのファンだけでなく、佐藤信長さんのファンも多いのだろうなと感じた。
あとは佐藤信長さんは三浦春馬さんに若干似ているなと感じた。チャーミングでにこやかな好青年なので、今後のご活躍に期待したい。

青鬼を演じた福本伸一さんと、鬼シゲ役を演じた郷本直也さんも迫力あって素晴らしかった。
青鬼の、あの重厚な感じでモノローグを話す演技が、重みがあって私は好きだった。鬼シゲは、殿様と戦うシーンなど殺陣に近いシーンの迫力が多かったイメージ。私の場合は、最前列席だったので、その迫力を間近で感じられて良かった。

あとは女性陣の脇役でいうと、お鐘役を演じた野口かおるさんが素晴らしかった。あの甲高い笑い声とか、個性が溢れていて目立っていた。
あとは、お銀役を演じていた柿喰う客所属の淺場万矢さんも素晴らしかった。博打の開始の合図を取る役だったが、淺場さんの威勢のある響き声が舞台上に良い意味で空気を変えていて迫力あって良かった。

写真引用元:ステージナタリー 悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

この作品の脚本としての素晴らしさは、東京夜光版の観劇レビューで考察しているので、ここでは今回「悪童会議」が旗揚げ公演として『いとしの儚』を上演したことについて、小劇場好きが感想を述べておこうと思う。

今回、私が「悪童会議」の『いとしの儚』を観劇しに劇場に入った時、当然ながら客席は若い女性観客で埋まっていた。普段私が観るような小劇場とは全く異なる客層である。それは大体事前に予想はついていて、今回の舞台に出演するのは佐藤流司さんや佐藤信長さんといった2.5次元、特に刀剣乱舞ミュージカル(刀ミュ)のファンたちが多いだろうと思っていて、実際そうだった。いわゆる、2.5次元舞台を観劇する層である。
それはそうだろうと思うが、僕はそれを目の当たりにして嬉しく思えた。それは、『いとしの儚』という扉座の小劇場で生まれた名作が、こうやって2.5次元舞台のファンの皆さんにこうやって親しまれるのは演劇の新たなファンを形成していく上で非常に希望のように感じられたからである。

実際パンフレットには、今回の「悪童会議」の旗揚げメンバーとして刀剣乱舞ミュージカルの演出をされている茅野イサムさんと、株式会社「マーベラス」の創業者である中山晴喜さんがコメントしているが、2.5次元舞台を創る彼らも私と同じように小劇場に魅力を感じられていること。そして、創作意欲が湧いてこういったオリジナルのストレートプレイを創りたいという思いから立ち上がったと聞いて、凄く喜ばしかった。私は勝手に、2.5次元界隈は2.5次元界隈、小劇場界隈は小劇場界隈と分かれてしまっているイメージを抱いたので、そこは全く別ジャンル同士なのかなと感じることも多かったが、こうやって「悪童会議」という形で上演に踏み切ってくれたことが嬉しかった。
「悪童会議」という名前も、劇団扉座の前身である「善人会議」からとっていて、そこには小劇場へのリスペクトも感じられる。

そしてそんな私が一番興奮したのは、その旗揚げ公演に『いとしの儚』という名作をチョイスしてくれたことである。
『いとしの儚』というのは、小劇場の演目だが、たしかに2.5次元俳優がやったらまた違った魅力が演出出来るに違いないと思った。そして、内容としてもわかりやすくとっつきやすいし、時代劇ものなので劇団☆新感線とか刀ミュが好きな観客には間違いなくハマりそうな演目だと感じたからである。
そんなグッドなチェイスをしてくれた「悪童会議」のスタッフたちに感謝したい。

また、公演パンフレットのスタッフクレジットをみると、かなりの人数の小劇場界隈のスタッフの名前がある。柿喰う客や淺場さんが立ち上げたOffice8次元、それから広報映像に劇団4ドル50セントの久道成光さんの名前があったのも嬉しかった。彼も映像を作れるので、どんどん公演映像とかやって欲しいと思っていたが、こうやってスタッフとして関わっていて嬉しかった。
フライヤーデザインやロゴデザインも、藤尾勘太郎さんという小劇場界隈の宣伝美術の猛者が手がけていて、小劇場界隈と2.5次元界隈が協力して一つの舞台を作っている感じがして、個人的に嬉しかった。そこに大きな一つの架け橋がかかったような気がした。

そして終演後の観客の反応は、やはり感動したり泣いている観客も多くいて、凄く大盛況だったのかなと感じた。
逆に私は、刀ミュファンが、『いとしの儚』を観劇してどう思ったか、何を感じたのか聞きたいなと思った。もしそこに好感触な感想が多ければ、本当に小劇場にも2.5次元界隈にも大きな希望はあるなと思った。

「悪童会議」の次回公演は、2024年春に大井町に出来る新劇場のこけら落とし公演だそう。絶対観に行こうと思う。

写真引用元:ステージナタリー 悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」より。


↓東京夜光版『いとしの儚』


↓野口かおるさん過去出演作品


↓淺場万矢さん過去出演作品


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