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舞台 「ロマンティックコメディ」 観劇レビュー 2022/04/23

【写真引用元】
ロロTwitterアカウント
https://twitter.com/llo88oll/status/1512987047950454786/photo/3


公演タイトル:「ロマンティックコメディ」
劇場:東京芸術劇場シアターイースト
劇団・企画:ロロ
作・演出:三浦直之
出演:森本華、望月綾乃、大場みなみ、大石将弘、亀島一徳、篠崎大悟、新名基浩、堀春菜
公演期間:4/15〜4/24(東京)
上演時間:約110分
作品キーワード:本、出会い、コメディ、ファンタジー、ロマンス
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆


映画「サマーフィルムにのって」の脚本などを務める三浦直之さんが主宰する劇団「ロロ」の新作公演を観劇。
「ロロ」の観劇は、昨年(2021年)10月に上演された「Every Body feat. フランケンシュタイン」以来3度目の観劇で、三浦さん演出作品は今年(2022年)2月に観劇したKERA CROSSの「SLAPSTICKS」以来4度目の観劇となる。

今回の新作公演「ロマンティックコメディ」は、ロマンスが重要な意味を持つ喜劇でも、素敵な雰囲気の恋愛劇でもない。
三浦さん曰く「暮らしの中でふと感じる"ロマンティック"を見つめてみたい」とのことで戯曲を執筆されたそう。

物語は、「Breakfast Book Club(ブレックファストブッククラブ)」というとある町の丘の上にある本屋を舞台として、かつてここの店員をしており作家でもある"シイカ"という亡くなった女性を巡って、彼女と関わりのあった人々や彼女の小説を読んでいた人々が、この本屋に集まって読書会などをすることで、"シイカ"との思い出話をはじめ他愛もない会話で盛り上がるという、とても繊細で静かでファンタジックな内容となっている。

舞台上には所狭しと本たちが並べられていて、バードハウスのようなおもちゃのような木製の小さな家などもあり、非常に西洋おとぎ話のような可愛らしい舞台装置には目を引かれるのだが、ストーリーにはあまり心動かされなかった。登場人物たちが"シイカ"との思い出や、"シイカ"が創作した異世界ものの小説に関する数々のエピソードに関しても、面白いと感じられる要素が自分には少なかった印象。
この作品は起承転結がある訳ではなく、「Breakfast Book Club」の日常を描いているのだが、各エピソードにあまり惹き付けられなかったせいか、単調にさえ感じられた。
ラストの方のエピソードは個人的には好きだったが、そこまで1時間以上個人的に乗らない会話が続いたので少々退屈気味だった。

ただ、「ロロ」所属の女優は今回の舞台作品でも非常に表情豊かでずっと観ていられて個人的には好きだった。
あの女性2人が醸し出すロロの世界って非常に贅沢な空間で癒やされる。

舞台美術だけでも一見の価値がある。
また紙の本、小説が好きな人にはオススメ出来るかも知れない。
ただ総合的に今までのロロの舞台作品の方が個人的には好みだった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/474083/1803573


【鑑賞動機】

劇団「ロロ」の新作公演だから。「四角い2つのさみしい窓」「Ever Body feat. フランケンシュタイン」と「ロロ」の本公演は、年間ベストに入るくらいの素晴らしい舞台作品ばかりなので、今年の「ロロ」の新作公演も迷わずに観劇することにした。期待値は高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

とある町の丘の上にある「Breakfast Book Club(ブレックファストブッククラブ)」という名の本屋、岬あさって(望月綾乃)は本を読みながら号泣している。そこへ本屋の定員の早川ヒカリ(森本華)があさってになぜ泣いているか話しかける。あさっては、太宰治の小説だと思って読み始めた本が、実はカバーだけが太宰治の小説で中身は"メシザワイブリガッコ"という無名な小説家の小説だったと言うのだった。どうりで内容がSFものでタイムスリップなんかしておかしいと思ったとあさっては言う。携帯電話が登場した所で気づいたのだと。しかしあさっては、思わずこの"メシザワイブリガッコ"のファンにまんまとなってしまった。
あさっては、他の村上春樹などの有名な作家の本も確認したところ、全て中身は"メシザワイブリガッコ"の小説に置き換えられていることに気がついた。しかし、有名でない小説家の本は中身はすり替えられていなかった。非常に悪質な行為だが、ヒカリは自分らが経営している「Breakfast Book Club」も同じ手口を使ってみようと言う。看板を「コストコ」にするなどして。

椎名となり(大場みなみ)がバイクで「Breakfast Book Club」にやってくる。となりは出先でサスペンダーをした男と緑の髪をした男の2人組に追いかけられ現金50万円を渡してこようとするので怖くなってやってきたのだと言う。2人組の男が後をつけてきてないか心配だと言う。
あさってとヒカリととなりはお茶を汲みに奥へ向かう。誰もいなくなった「Breakfast Book Club」の店内にとなりを追いかけてきたサスペンダーの浦和寧(大石将弘)と緑の髪の佐伯麦之介(亀島一徳)がやってくる。彼らはかつて「Breakfast Book Club」の店員だったシイカという女性の小説を探す。女性たちが戻ってきたので慌てて彼らは隠れる。

女性たちはお茶とお菓子を用意して本を読もうとする。あさってはハッピーターンを食べながら本を読むのは汚れしうるさいから良くないと言うが、ヒカリは上手く手を汚さずに音も立てずにハッピーターンを食べながら読書をしていた。
3人の女性たちは思い出のエッグプラネットの話をする。エッグプラネットは卵の殻の部分がチョコで出来ていて、中におもちゃが入っているお菓子である。しかしエッグプラネットも製造中止になってしまうらしく、彼女たちは悲しみにくれる。
そこへ麦之介が顔を怪我してしまって表に現れ、となりは追いかけられている男だと悟って大騒ぎになる。

場転が入り、音楽が流れる。看板は「Breakfast Book Club」から「コストコ」に変わる。

浦和はあさってがいるそばでずっとソワソワしている。浦和はあさっての姉である亡くなった「Breakfast Book Club」の店員であり小説家でもあるシイカの小説を読みたいらしい。浦和はずっとソワソワしていてあさってに告白するのかと思いきや、シイカの本を読ませて欲しいと頼む。シイカの書いた小説は言葉が美しく繊細で好きなのだと。
あさっては浦和にシイカの小説の本を渡す。浦和はテーブルの上にあがって仰向けで読み始める。あさっては腕が疲れないかと尋ねるが仰向けで読みたいのだと言う。
浦和は麦之介と一緒に本を持って帰っていく。

あさっては亡くなった姉のシイカについて話始める。シイカはヒカリと一緒に「Breakfast Book Club」の店員をやっており、ある日の朝にシイカは店内で倒れて死んでいたのだと言う。原因は分からない。ヒカリも彼女の死因を知らない。
となりは、シイカのオンラインゲーム繋がりの知り合いだった。となりはシイカが死んでいたことも彼女の死から随分時間が経ってから知ったようである。

場転


【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/474083/1803579



「Breakfast Book Club」にはとなり、そして古池遠足(篠崎大悟)と藤井瞼(新名基浩)がいた。古池と藤井はシイカの異世界ものの小説に登場する役になりきっていた。そして2人はハイテンションでその役を演じていた。その場にやってきたヒカリは、彼らのテンションにはどうやらついていけていないようだった。
古池は、シイカが書いた異世界ものの小説の地図を描いて皆に共有した。小説の中に登場するエリアはまるで、実際の世界の施設に対応しそうだった。ビッグボーイが地図の中ではここ、竜泉寺の湯はここなど。しかし地図中の湖に対応する箇所が現実世界にはどこにも存在しなかった。
となり、ヒカリ、麦之介、古池、藤井でシイカの異世界ものの小説の読書会が始まる。皆それぞれが、小説のこの部分が自分とシイカのこの思い出を想起しながら書いたのじゃないかと、シイカのことを思い出しながら読み始める。ヒカリは泣き出してしまう。

場転

ヒカリはあさってを迎えに行くために、彼女と電話をしていた。あさっては電話越しで、ブリザードの服を用意して欲しいとヒカリにお願いする。ブリザードの服を探すよう麦之介に頼むヒカリ。しかしどんな衣装だか分からないので、あさってにどんな衣装か詳細に確認する。青と水色のドレスを麦之介が探し出したので、ヒカリはエルサみたいな衣装かとあさってに尋ねるが、あさってにはエルサが伝わらなかった。「アナと雪の女王」と言った所でようやく伝わり、その衣装がブリザードの衣装だと確定する。
ヒカリは流れでシイカと出会った時のことを電話越しにあさってに話し始める。ヒカリは社会人として働いていた時、会社の忘年会の幹事をやっていたがレシートの管理だけが生きがいになってしまっている自分に嫌気を差していた。そこでふとヒカリはストレス発散でボールプールで遊びたくなった。しかし探しても探してもボールプールの年齢制限に引っかかってしまい入れなかったヒカリ。しかし、やっとの思いで入場出来るボールプールを見つけた。そこで働いていた店員がシイカだったのだと。ヒカリがボールプールの入場で待っている時、シイカが黄色いボールを彼女に渡した。黄色い理由は元気玉だからだと言っていた。その元気玉がシイカの小説にも登場していて、これを書いた時シイカは自分のことを思い出してくれたんじゃないかと言う。

場転

ある日、浜辺白色(堀春菜)という女性が「Breakfast Book Club」にやってくる。しかし彼女は看板に「コストコ」とあるのでコストコと間違えてやってきていて巨大なピーナッツバターを探していた。店内にいたあさってはここはコストコではないと言うと、白色は看板に騙されたと言うものの直ぐに目の前にある本たちに興味を惹かれる。
白色は一冊の本を取り出す。それは、白色がかつて学生時代に「カクキク」という小説サイトで出会ったシイカが書いた異世界ものの小説だった。
白色は懐かしさのあまり興奮して本を読み始める。そして「カクキク」にアクセスしてそこに録音されていた小説の一部を再生する。「カクキク」は自分で小説の一部を朗読した音声をアップロードして公開出来る機能があった。あさってはあまりの食いつき具合に驚いている。
白色は昔声優を目指していた時期があり、もう一度小説の一部を声に出して朗読したいと言い出す。白色は役になりきって発声する。白色自身は納得いってない様子だったが、あさっては上出来なんじゃないかと言う。
そこへヒカリととなりもやってきて、その光景にびっくりする。そしてヒカリも「カクキク」に朗読した音声を投稿したいと言う。結局ヒカリの朗読の後にとなりの雑音が入ってしまったが、これで良いといって「カクキク」に投稿する。バズるかなんて知ったことではないと。
白色はシイカの小説を買っていった。そしてイオンで巨大なピーナッツバターを探すと言って去っていった。

ヒカリ、あさって、となりは3人で「Breakfast Book Club」にある本を整理し始めるところで上演は終了。

特に起承転結がある訳ではなく、シイカという亡くなった小説家と彼女の書いた小説を中心として登場人物たちが繋がっていく物語で、その中心となる「eakfast Book Club」という書店の日常を描いた作品だった。それぞれエピソードが登場するが特に前半のエピソードに関しては、個人的にはあまり心動かされるものはなくて、会話もあまり面白いと感じられず少々退屈だった。ボールプールのエピソードと「カクキク」のエピソードは面白かったけれど、個人的にはもっと面白い会話劇に加え、演出に関してももっと解釈性のあるものを期待していたので、、、という感じだった。
三浦さん自身は日常の暮らしの中にある感動、つまり偶然の出会いとかを日常にさりげなく潜ませる作品を創りたかったのだろうなと思うのだが、それと今回のシイカという亡くなった小説家の小説を巡って展開される内容があまり噛み合っていないように感じた。本を通じての出会いの描き方ってもっと面白く書くことが出来ると思うし、日常の偶然による感動的な出会いを描きたいのであればもっと違うテーマで上手い描き方があるんじゃないかと思ってしまった。
今回は意図的に三浦さんが今までの作風とは大きく変えて挑戦している点も大きいと思うので、失敗を含めて様々な挑戦をしてより素晴らしい劇作家・演出家になっていって欲しい。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/474083/1803581


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

沢山の本が並べられた可愛らしい舞台装置に、ファンタジックな照明演出、音響演出と、世界観は若干「Every Body feat. フランケンシュタイン」や「SLAPSTICKS」を想起させる。非常に女性ウケのする世界観で好評なのではないかと思っている。
舞台装置、照明、音響、その他演出の順番でみていく。

まずは舞台装置から。
舞台上の大部分が「Breakfast Book Club」の店内となっていて、舞台中央を丸く囲うかのように本棚とそこにはびっしりと本が収納されていた。舞台手前側には本棚は置けないので、本が舞台上に積み木のように積み上げられている状態で置かれていた。こんな舞台装置も素敵なものだと心躍らせた。さらに本棚と共にバードハウスのような木製の小さなお家も所々立っていて、非常に可愛らしくておしゃれな舞台装置となっていた。
舞台下手にはおそらく「Breakfast Book Club」の台所に通じる通路が用意されており、この通路も本が積まれることによって道が作られていた。その通路を使って例えばヒカリが両手に急須を持って登場したりする。
舞台上手には、「Breakfast Book Club」の入り口の扉が設置されていた。その扉には看板が据え付けられていて、序盤では「Breakfast Book Club」と書かれていたのが「コストコ」に変わる。
舞台中央にはテーブルと椅子があって自由に動かせる。そこで読書会が行われる。
舞台上手奥には巨大な街頭の頭部分が存在し、おそらく夜のシーンではその街頭が点灯していた。また、一番上手にはバイクが置かれていて、一番最初のシーンでは置かれていないのだが、となりが2人組の男に追いかけられるシーンでそのバイクに乗ってやってくる。
全体的に黄色と緑がかった装飾といった印象でおとぎ話のようなファンタジーのような世界観、非常に可愛らしくておしゃれな舞台装置だった。

次に照明演出。
まず目に留まったのは、天井から吊り下げられている巨大な豆電球の数々。この豆電球が舞台美術をより可愛らしくおしゃれにしていた。
そして舞台装置の項目でも触れた、舞台上手奥にあった巨大な街灯。あの光量とインパクトも存在感あって好きだった。そして、背後の黒い壁に照らされる月光みたいなスポットも好きだった。
あとはラストの方のシーンで、あさって、ヒカリ、となりの3人が「Breakfast Book Club」にいる時に朝日のような明るい陽射しが店内に差し込んだ照明演出も、何か未来に希望を残す感じがあって好きだった。

次に音響演出。音響に関しては大きくは2つ。
まず1つ目は選曲について。ゆったりとした落ち着きのあるメルヘンみたいなBGMが客入れと客出し、そして場転で流れる。客入れ中は特にずっと心地よかった。またビートルズが流れるのも非常に雰囲気がマッチしていて好きだった。
もう1つは、「カクキク」の音声について。私は前方下手側の客席で観劇していたが、しっかりと音声がスマホから流れているように聞こえた。音源は元々録音されていて同じものを流しているのだろうから、ヒカリの声の抑揚とか話し方とかはそこに合わせて発しないといけないと思うので大変だと思った。

最後にその他演出について。
この舞台作品には、世界観がファンタジックで非現実的なように感じられるかもしれないが、様々な実在するものも登場して面白い。例えば、ビッグボーイ、ブックオフ、竜泉寺の湯、コストコといったお店や、ハッピーターン、エッグプラネット(おそらくチョコエッグのようなもの)など。また序盤には太宰治や村上春樹も。そのためファンタジーの世界かと思いきや現実の世界であるというちょっと変わった空間設定というのが妙に興味を唆られた。
あとは読書会のシーンでずっと扇風機が回っていたのも印象的。至る所に扇風機が設置されていたので、前方の方の客席なら風が届くのではないかと思う。たしか「Every Body feat. フランケンシュタイン」でも風を使った演出があった気がする。三浦さんは風を使う演出が好きなのかもしれない。
あとはとなりがタバコを吸うシーンがあって、タバコの煙が舞台上に映えていた。タバコの煙が苦手な方は注意かもだが。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/474083/1803574


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

ロロの劇団員はもちろんのこと、劇団員以外の役者の方も素晴らしい役者が多く印象に残った。
特筆したいキャストに絞って記載していく。

まずは早川ヒカリ役を演じた劇団「ロロ」所属の森本華さん、そして岬あさって役を演じた劇団「ロロ」所属の望月綾乃さん。このお二人に加え、島田桃子さんがいらっしゃれば「ロロ」の三大女優という感じで、彼女たちがいるからこそ「ロロ」の舞台作品だと感じられるくらい欠かせない存在。そして今回の役も素晴らしかった。
森本さんは相変わらず気さくな演技をされる女優さんで、あの言葉1つ1つに温かみがあって聞いていて非常に癒やされる。あんなにうっとりさせられる女優さんはそうそういない。素晴らしかった。
望月さんも安定で、特に白色と会話している時のあの驚いて、ちょっと困っている感じの演技が印象的。また序盤の"メシザワイブリガッコ"の小説を読んで泣いてしまう時のあのすすり泣く演技が凄く好きだった。

次に椎名となり役を演じた大場みなみさん。一瞬大場さんを島田さんかと思って目を凝らしたが、髪が長いし声色も違うし背も高かったので別人だとすぐ分かった。
となりはちょっとヤンキーっぽいというか、タバコ吸ってバイク乗ってという感じの女性なのだけれど、2人組の男に追いかけられて怖いとか、シイカのことをずっと引きずっていたりと弱い部分もあって凄くキャラクターとして惹かれた。
あとは衣装の関係で二の腕まで見えたファッションがなかなか色っぽかった。

今作の個人的MVPは、浜辺白色役を演じていた堀春菜さん。
彼女が個人的MVPだと思った理由は、シイカの異世界ものの小説に偶然再び出会って、その時興奮した感じが本当にリアルかってくらい演技に感じられなくて、こんな感じのオタクいるなってくらいの興奮の仕方が非常に上手かったこと。あの演技は今回でいったら堀さんじゃないと絶対に出来ないと思う。
あとは役になりきって台詞を大声で叫ぶ感じが本当に良かった。またクオリティ高いのにかつて自分が声優を目指していたというプライドがあるからか、評価が厳しいのも印象に残った。

男性キャストでいくと、浦和役を演じたナイロン100℃の大石将弘さんが良かった。あのソワソワしている感じが好き。あさってと会話をする感じが初々しい恋愛ドラマを観ているようだった。
それと藤井瞼役の新名基浩さんのキャラクターの強さも好きだった。あのワチャワチャする感じはかつての「ロロ」の舞台作品では観たことないようなコメディ要素だった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/474083/1803577


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

シイカという亡くなった作家が遺した異世界ものの小説。その小説を巡って、今作に登場する全ての人物が関連してきて繋がっていく。本という存在は人と人との出会いを繋げてくれる、そんなことを題材とした作品だった。
これについて個人的な見解を示しながら考察していく。

私はこの舞台作品を観劇する前は、今はkindleといった電子書籍という便利なものも登場した世の中だけれど、紙の本の魅力について描かれた作品、紙の本だけではなくインターネットといったテクノロジーに頼らない昔ながらの出会い方にフォーカスした話だと思っていた。
しかし私が観劇した見解としては決してそうは感じなかった。もちろん紙の本に対するリスペクトは至る所に感じられた。しかしテクノロジーによる出会いも肯定した内容になっているかなと感じた。
「ロロ」の過去作品である「四角い2つのさみしい窓」では、テクノロジーの発達によってアナログなものが淘汰されてしまう世の中を嘆く描写があったと記憶している。だから尚更、テクノロジーによる出会いの肯定というのはちょっと驚くメッセージ性だった。

アニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」にも似たようなメッセージ性が登場する。このアニメは"ヴァイオレット・エヴァーガーデン"という自動手記人形が登場して、手書きの手紙だからこそ伝わる良さみたいなものが描かれているアニメなのだが、「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」では、もちろん手紙の素晴らしさも訴えられているのだが、とあるシーンで電話を使って直接気持ちを伝えたい相手に言葉を送るシーンがある。
この描写はもちろん電話という手紙に代わった伝達媒体が普及したことを否定するものではなく、電話によっても気持ちを伝えることの方が時と場合によっては有効であることを肯定している。時代の変化に合わせて古き手法も大切にしながら新しい手法も受容していく姿勢を感じられるアニメ作品で、私は非常に印象に残って心動かされた記憶がある。



それと似たような描写をこの「ロマンティックコメディ」では感じられる。
例えば浜辺白色がシイカの異世界ものの小説に出会った時、彼女は最初「カクキク」という小説サイトを介している。これはインターネットというテクノロジーが発達しないと叶わなかった出会いである。さらに面白いのが、再びこの小説の紙の本に出会うきっかけが、コストコで巨大なバターピーナッツを買おうとしていた時だった、つまりオフラインの世界で偶然出会うことになるのである。このオンラインでの出会いとオフラインでの出会いが上手く融合して、今の白色とシイカの小説との繋がりが作られているというのが面白い。
これはオンラインによる出会い、つまり文明の発達によって可能になった出会いと、オフラインの出会い、つまりアナログ的な直接出会うことによっての出会いが両方存在しないと不可能な繋がり方である。
白色がなぜシイカの紙の本の小説に出会ったかというと、看板を「コストコ」にして本当は本屋なのに「コストコ」を振る舞ったからこそ出会えたのである。これは絶対にオンラインでは実現し得ない面白い出会い方である。
あさってが"メシザワイブリガッコ"の小説に出会えたのも、本のカバーが違ったからで、決してkindleで書籍を読むという行為だったら出会い得ない事象である。

おそらく三浦さんの主張は2つあって、1つは実際にリアルの世界においてでしか出会えないロマンティックな出会いがあるということ。それは偶然であることが多く、ヒカリがシイカに出会ったのも、あさってが"メシザワイブリガッコ"の小説に出会えたのも、白色がシイカの小説の紙の本に出会えたのもそうである。今はウィズコロナ時代で、なかなか対面で会うという機会が少なくなってしまったご時世であるが、そういったご時世を嘆き悲しみ、だからこそオフラインでの一期一会をもっと大切にしようというメッセージにも捉えられる。
そしてもう一つが、テクノロジーが発達した今の時代だからこそオンラインで出会うことが可能であるということ。たしかにとなりはシイカとオンラインゲームで出会って、彼女の死は暫く経ってからでないと知ることができなかったかもしれない。しかしオンラインでの出会いがあるからとなりはシイカを通してあさってやヒカリと知り合えた。オンラインでの出会いがあったから白色はシイカの小説を知っていた。そこで興奮させられた。だからオンラインの出会いというのも、今を生きる私たちにとって非常に大事なのである。

オンラインでの出会い、そしてオフラインでの出会い、その2つが共存している世の中だけれど、日常に溶け込んだロマンティックな出会いはいつやってくるか分からない。だからこそ一期一会を大切に、自分に与えられた出会いを1つずつ噛み締めてこれからも生きていこうと思う。


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↓三浦直之さん演出作品


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