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ミュージカル「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」 観劇レビュー 2023/07/22


写真引用元:ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル 公式Twitter


写真引用元:ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル 公式Twitter


公演タイトル:「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」
劇場:帝国劇場
劇団・企画:東宝
脚本:ジョン・ローガン
演出:アレックス・ティンバース
出演:平原綾香、甲斐翔真、松村雄基、上野哲也、K、中井智彦、藤森蓮華、菅谷真理恵、磯部杏莉、大音智海他(観劇回のキャストのみ記載)
期間:6/24〜8/31(東京)
上演時間:約2時間50分(途中休憩25分を含む)
作品キーワード:ミュージカル、ラブストーリー、ダンスパフォーマンス、舞台美術
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


2001年にバズ・ラーマン監督によって映画化され、2019年にブロードウェイ・ミュージカルとしてミュージカル化された『ムーラン・ルージュ』が、日本初演ということで観劇。
私自身、映画版は観たことがなく、ストーリーも知らない状態で観劇した(本当は映画を観て予習したかったが、時間的に叶わなかった)。

今作はジュークボックス・ミュージカルと呼ばれ、劇中で使用される楽曲が作品のために書き下ろされたものではなく、全て既存の楽曲によって構成されたミュージカル作品となっている。
ジュークボックス・ミュージカルは、今作の他にも『マンマ・ミーア!』や『ジャージー・ボーイズ』が有名であるが、『ムーラン・ルージュ』は、マドンナやビートルズ、エルトン・ジョンといった多くのアーティストの楽曲によって構成されていることが、他のジュークボックス・ミュージカルと大きく違う点である。

物語は、1899年のパリが舞台となっている。
パリのナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」、ハロルド・ジドラー(松村雄基)が経営するこのキャバレーでは、高級娼婦であるサティーン(平原綾香)が花形スターであった。
そこには、ハロルドと組んでサティーンを我が物にしようとしていた侯爵のデューク・モンロス侯爵(K)と、貧乏な作家のクリスチャン(甲斐翔真)がやってきていた。
ハロルドは本当はサティーンのパフォーマンスの後で、彼女をデューク・モンロス侯爵に会わせるはずだったが、手違いでクリスチャンと会い、クリスチャンが書いた素敵な詩によってサティーンは彼に恋をしてしまう。
そんな二人の仲を、デューク・モンロス侯爵は引き裂き、彼女を我が物にしようとする。
クリスチャンは、画家のトゥルーズ・ロートレック(上野哲也)とアルゼンチン人のタンゴダンサーであるサンティアゴ(中井智彦)と共に、経営の傾いた「ムーラン・ルージュ」を復活させるべく、ミュージカルショーの製作を進めてサティーンを振り向かせようとするが...というもの。

私自身、そこまでミュージカルの観劇が多い訳ではないが、『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』といった定番のミュージカルと比較して、非常に歌とダンス、そしてショーに比重が置かれたミュージカルに感じられた。
ストーリーもそこまで複雑なものではないので、映画で予習しておかなくても十分内容を把握出来て楽しむことができた、というのが率直な感想。

ステージの下手側にそびえ立つ巨大な赤い風車、上手側にそびえ立つ象のオブジェクト、それからハート形の枠が象徴的なステージ、天井から吊り下げられたブランコに乗って歌を披露するサティーン、マドンナに似せたアンサンブルのパフォーマーたち、パリの路上でのミュージカルショーの稽古シーン、モンロス伯爵の豪邸など、非常に目の引く演出が沢山あって、とても豪華な舞台空間だった。

そして歌も抜群に上手かったし、好きな楽曲が多かった。
私は普段あまり洋楽を聞かないので、知っている曲はオープニングの『Welcome to the Moulin Rouge!』くらいで、他は初めて聞く楽曲が多かったが、洋楽好きな方にとっては知っている楽曲がミュージカルで披露されることになるので、きっと感動も大きいだろうと思う。
特に、今回の観劇で、エルトン・ジョンの『Your Song』はとても印象的で好きになれた楽曲だった。

私のように事前情報全くなしでも、ストーリーもわかりやすくて、舞台セットの豪華さや楽曲で十分楽しめるし、映画を観たことがあるであればさらに作品を比較することが出来て楽しめると思う。
そして、洋楽好きな方にとっても馴染みやすいと思う。多くの方にお勧めしたいミュージカルだった。

筆者が劇場で撮影(※客入れ、幕間、客だし時の写真撮影可)


↓映画『ムーラン・ルージュ』




【鑑賞動機】

映画は観たことがなかったが、『ムーラン・ルージュ』自体は有名な作品だったので、そんな作品が日本で初めてミュージカルを上演するということだったので観劇することにした。SNSでの感想も、物凄くハイレベルな仕上がりだと絶賛の嵐だったので、チケット代は高めだが期待値高めで観に行った。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

1899年のパリのナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」。二人の女性が口の中に刀を入れて抜き出してという手品を披露する。
『Welcome to the Moulin Rouge!』と共に開幕する。女性ダンサーたちが踊る。
「ムーラン・ルージュ」の経営者であるハロルド・ジドラー(松村雄基)は、お客としてやってきた男性たちを招いて「ムーラン・ルージュ」へ連れてくる。そこには、デューク・モンロス侯爵(K)と、クリスチャン(甲斐翔真)、画家のトゥルーズ・ロートレック(上野哲也)、サンティアゴ(中井智彦)がいた。ジドラーは彼らに、「ムーラン・ルージュ」の花形であるサティーンの話をしていた。
ステージが切り替わって、パリの郊外。作家であるアメリカ人のクリスチャンは、貧乏な暮らしをしていた。そこで、画家のトゥルーズ・ロートレックとアルゼンチン人のタンゴダンサーであるサンティアゴに出会う。ロートレックとサンティアゴは、クリスチャンの披露する詩に魅了される。その詩の魅力があるなら、新しい舞台の脚本が書けるに違いないと思ったロートレックは、クリスチャンを一緒にナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」に潜入させる。

ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」にステージが戻って、いよいよサティーン(平原綾香)が登場して歌とパフォーマンスを披露する。ダイヤモンドと言われるだけある豪華絢爛で光り輝くパフォーマンスを披露する(この時、マドンナに似せたアンサンブルたちによるダンスパフォーマンスもあった)。
ジドラーはこのあと、本当はデューク・モンロス侯爵をサティーンと引き合わせたかったが、手違いでサティーンはクリスチャンをその、ジドラーが引き合わせたい侯爵だと誤解する。サティーンのために何かおごろうとするクリスチャンだったが一文無しだった。しかし、サティーンにはおかしいと気が付かれなかった。
クリスチャンは、サティーンの居室に案内される。そこは、「L’amour」と書かれた装飾が飾られ、赤い風車が見える豪華な部屋だった。クリスチャンは、そこで自分が書いた詩をサティーンの前で披露する。サティーンは、その詩があまりにも素敵だったので、彼のことが好きになってしまい、そのままキスをする。
しかし、クリスチャンが自分を作家と誤って名乗ってしまっことで、おかしいと気がついたサティーンは彼を疑う。その時、部屋にはデューク・モンロス侯爵とジドラーが入ってきた。そして同じタイミングで、ロートレックとサンティアゴも窓から飛び込んできた。ジドラーは、クリスチャンたちがなぜここにいるのか追及すると、彼らは新しい舞台の脚本を書くためにサティーンと話していたと嘘をつく。
結果、クリスチャンたちはサティーンの部屋から追い出される。そしてサティーンは、デューク・モンロス侯爵と一緒に暮らすことになる。サティーンは、デューク・モンロス侯爵と一緒になることを決意するものの、クリスチャンのことをずっと想っていた。

楽屋裏、サティーンの元へジドラーがやってくる。ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の経営も傾きつつあって退廃していた。クリスチャンやロートレックたちに、新しい舞台の脚本を書いてもらって、ミュージカルショーのヒットによって復活させたいとジドラーは願っていた。そこにサティーンも出演して協力して欲しいと。
一方で、クリスチャン、ロートレック、サンティアゴたちは夜のパリの郊外で3人とも外にいた。サティーンは、生まれた時は家庭に全くお金がなくて、娼婦になってお金を稼ぐ他はなかった辛い人生を送っていた。しかし、サティーンには賢い頭と勇気があったので、そこから這い上がって高級娼婦の立場まで上り詰めた。そんな感じで、サティーンのことを語り合う3人だった。
エッフェル塔がそびえ立ち、花の都パリがステージ上に再現されると、そこでクリスチャンとサティーンは『Your Song』を歌いながら踊る。

ここで幕間に入る。

クリスチャンが、ステージ上にやってきてモノローグをする。サティーンに恋焦がれた気持ちを赤裸々にモノローグに乗せる。
路上では、クリスチャンたちがナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」復活のためのミュージカルショーの製作に明け暮れていた。ピッチリとしたタイツのようなものを履いてダンスパフォーマーたちが楽曲を披露した。ニニ(藤森蓮華)も存在感を発揮していた。そこには、サティーンの姿もあって黒い衣装に身をまとって存在感を出していた。
だが、サティーンは今はデューク・モンロス侯爵と暮らしていた。高貴な衣装を着て、黄色い屋敷はサティーンへとプレゼントされた。サティーンは、金持ちのデューク・モンロス侯爵への振る舞いに嬉しくはなさそうだった。
サティーンはデューク・モンロス侯爵と食事をしている時、急に咳き込み出した。どうやらサティーンは、結核のようで余命いくばくもなかった。しかし、これはクリスチャンには秘密にしておいていた。

いよいよ、クリスチャンが手がけたミュージカルショーの本番となった。サティーンは、その舞台に出演してクリスチャンも演者として二人でパフォーマンスする。
しかし、芝居の途中でサティーンは突然倒れてしまう。ちょうど、クリスチャンがサティーンと抱き合っている最中で。クリスチャンはサティーンが結核であったことを知らなかったので驚く。サティーンは、自分が結核で余命いくばくでもないことを告げ、そのままクリスチャンの胸の中で息を引き取る。
ここで上演が終了して、最後は『Welcome to the Moulin Rouge!』やオッフェンバックの『天国と地獄』などがアンコールされて終了する。

今回の上演は、ストーリーを全く事前情報で知らなくても理解出来る内容で、もちろん原作の物語がシンプルでわかりやすいというのもあるが、そこを分からせる演出的な工夫もあったような気がする。
笑えるシーンもたまにあるが、笑いよりも歌とダンスパフォーマンスがメインのミュージカルだったので、その演出に圧倒される作品だった。そして、ラストは泣かされる。私は泣きはしなかったが、客席からは涙をすする方も結構いらっしゃった。歌とパフォーマンスと見事な舞台セットを楽しみ、そして時々笑って、最後は切なくしんみりする物語であった。事前情報を知らない私にとっては、結末があんな感じだったとは意外で、ハッピーエンドものだと思っていた。
あとは、ジドラーとデューク・モンロス侯爵は物語的には悪役のようなポジションだが、たしかにビジュアル的には悪味帯びているのだが、どこか憎めない部分があってチャーミングだった。そんな感じでマイルドに作られているあたりも観やすくて良かった。

写真引用元:ステージナタリー 「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より。(写真提供:東宝演劇部)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

『ムーラン・ルージュ』は、ブロードウェイ・ミュージカルの中でも特に舞台セットやダンスパフォーマンスシーンが見どころなミュージカル作品に感じられたので、超絶豪華な世界観と演出を堪能できた。これはチケット代が高騰化する理由もよく分かった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番についてみていく。

まずは、舞台装置から。
下手側に巨大な赤い風車(ムーラン・ルージュ)、上手側に巨大なブルーの象のオブジェクトがある。この2つは終始動くことはなく固定で存在感を醸し出している。普段の帝国劇場のステージでは、この上手・下手の客席側に伸びているスペースもステージとして使われていた印象があったので、ここを舞台セットをガッツリ仕込んで潰してしまうのは少々もったいなく感じられたが、今後『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』を思い出す時に、一番最初に想起されるのがこのオブジェクトの存在感だと思うので、記憶に間違いなく残るという点では迫力あった気がする。小さな子供も喜びそうだなと思った。
客入れ段階では、ステージ上はハート型の赤い枠が何層もあるユニークなステージになっていて、まさにゴージャスだった。全体的に赤と黄色の照明で埋め尽くされていて、こちらもたしかに金をかけていそうな舞台セットだな、豪華だなと驚くばかりだった。
それ以外で個人的に印象に残った舞台装置は、まずサティーンが登場するシーンのあの巨大なダイヤモンドが背景に装飾されている舞台セット。全体的にブルーと銀色の舞台セットで、サティーンの銀色の存在感を際立たせるようなインパクトがあった。あとは、アンサンブルの方々がマドンナのような格好をしていたので、ちょっとマドンナを想起させられた。時代的には1899年なんてマドンナは登場していないのに、マドンナらしきアンサンブルが登場して、そして『Material girl』が歌われたりすると、よくよく考えてみればおかしな話なのだが、それを違和感なく演出出来ていた点が見事だった。これは、時代設定というものがそこまでミュージカル全体を支配しないからなんじゃないかと思った。
そして、サティーンがクリスチャンを自分の居室、つまり「象の部屋」に連れて行ったシーンも印象に残る舞台セットだった。一番強く印象に残るのは、ステージ後方の窓。そこからは「L’amour」と書かれた赤色の飾りや、赤い風車が見えたり、夜空も美しかった。その窓枠もハート型になっていて、とてもメルヘンな舞台美術だった。
一番好きだったのは、幕間前最後のシーンのエッフェル塔が登場するシーン。エッフェル塔に二人でぶら下がってダンスパフォーマンスするシーンはミュージカルらしさ全開で良かった。
2幕シーンでは、一番印象に残った舞台セットは、サティーンがデューク・モンロス侯爵と共にパリを散歩したときに、あの黄色い屋敷は君のものだと伝えるシーン。背景は舞台セットというよりは幕になっていて、そこに油絵で洋館が描かれているのだが、その雰囲気が1900年のフランスという感じがあって好きだった。
それ以外でも、ステージ上にモネの絵画が一面に描かれた幕で仕切られるシーンも印象に残っているし、パリ郊外の巨大な建物の下でクリスチャンやロートレックたちが話すときの、あの寂れた感じの舞台セットもギャップを感じさせてくれて良かった。

次に、衣装について。
衣装もとにかくゴージャスだった。
サティーンの衣装は、登場シーンは銀色のドレスに身を包んでいて、そこから赤や青、黒など様々なドレスに着替えて登場する。当然ながら一番目立つ存在感を発揮していて良かった。
ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の経営者であるハロルド・ジドラーの衣装も派手で好きだった。映画『グレイテスト・ショーマン』のP・T・バーナムのようなジェントルマンのような豪華な衣装が印象的だった。
一方で、クリスチャンはブルーのシンプルなスーツがむしろ際立っていて良かった。好青年な感じを一気に掻き立ててくれる感じがあった。
あとはアンサンブルだと、ニニも含まれるが、2幕の最初のシーンでカラフルなスキンスーツ的な衣装を着て踊っていたのも印象に残っていて、しっかり観たことがないけれどどこかミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』を想起させられた。

次に舞台照明について。
客入れ時、幕間時、終演時の赤色と黄色の奇抜な舞台照明のイメージが強い。煌々と輝いていて、それはまるでちょっとゲームセンターとかドンキホーテっぽいイメージがあった(あまり例えが適切でない気がするが、私はそのあたりが想起された)。
劇中は、ロマンスミュージカルといった感じで、ピンク色や赤色、紫色といったカラフルな照明がステージ上から放たれていた印象。ラブロマンスや愛といったものを強く感じさせる舞台照明だった。
白いスポットが当てられる演出も多かったイメージで、ラストのサティーンが結核によってクリスチャンの胸のうちで倒れ込むシーンの白い光は印象に残った。

次に舞台音響について。
とにかくジュークボックス・ミュージカルということで、知っている曲から知らない曲まで幅広く流れていた。個人的には、オッフェンバックの『天国と地獄』と『Welcome to the Moulin Rouge!』以外はあまり聞き馴染みのない曲ばかりだったが、『Your Song』は初めて知って、劇中で何度も流れるシーンがあって好きになった。
洋楽歌詞の和訳を手がけているのは、日本を代表するシンガーソングライターである松任谷由実さんであるが、おそらくそうと知っているからだと思うが、どこかそこには優しさと日本人の感覚に合うような言葉があてがわれていて馴染みやすかった。ただ、音楽は洋楽なので、どこの部分かは忘れたが若干違和感を覚える楽曲もあった気がした。そう感じると、やはり今作はブロードウェイ・ミュージカルとして本場でも楽しみたいななんて思ったりもした。
客入れ、幕間中に流れているBGMが、どことなくユーミンの楽曲の韻に近いメロディに感じたが、この曲はユーミンとは無関係だろうか。凄く聞きやすくて好きだった。
あとは、舞台音響欄に書くことなのか分からないが、終演後にステージ上を巻き戻しした後に再び『Welcome to the Moulin Rouge!』が流れるときの、巻き戻しの効果音が印象に残った。そして、終演後ももう一度有名曲だけダンスパフォーマンスを披露してくれるサービスが良かった。

↓『Welcome to the Moulin Rouge!』


↓『Your Song』



最後にその他演出について。
とにかく舞台セットが派手で豪華で、歌とダンスパフォーマンスのオンパレードで、ストーリーにはあまり比重を置いていない(だからこそわかりやすい)というミュージカルだったかなと思う。
その他の派手な演出として、ステージから客席に向かってクラッカーのようなものが放たれて、銀色の長い紙テープのようなものと紙片が沢山客席上に舞っていた演出。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』だからこその演出といった印象だった。
客入れ中にナイトクラブのスタッフと思われる方々が、ステージ上を徘徊する演出が引き込まれた。そのスタッフたちの歩き方が、また雰囲気があって良かった。マジシャンのようだった。
あとは、2幕のはじめでクリスチャンが客席に向かって問いかけたりと、ミュージカルにしては客席に問いかけてくるシーンがいくつかあって、観客参加型のミュージカルのように若干感じられた。サティーンの登場シーンなどは、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」のショーがそのままミュージカルのワンシーンになっているので、ある意味劇中劇だった。やっぱり、物語上でステージを製作するみたいな作品はステージでやりやすいよなと思った。

写真引用元:ステージナタリー 「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より。(写真提供:東宝演劇部)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

私が観劇した回は、クリスチャン役の甲斐翔真さんと、サティーン役の平原綾香さん以外は存じ上げないキャストだったが、皆歌も上手いし演技も上手いし、ダンスパフォーマンスも素晴らしかった。
特に印象に残った役者についてみていく。

まずは、クリスチャン役を演じていた甲斐翔真さん。甲斐翔真さんの演技を拝見するのは、2021年5月に拝見した『ロミオ&ジュリエット』、2023年3月に拝見した『RENT』以来3度目である。
今回の出演者はどちらかというと、男らしい男性役といったらいいのか、ロートレックのように髭を生やしたり、ジドラーやデューク・モンロス侯爵といったちょっと悪賢い男性の登場人物が多いので、クリスチャンのような好青年は際立っていた。
とにかくイケメンで歌が上手くて格好良かった。『ロミオ&ジュリエット』で拝見したロミオ役や、『RENT』で拝見したロジャー役よりは、体育会系っぽさみたいなマッチョなイメージは払拭されて、ただただ好青年といった役でそれでも違和感なく観ることができた。
クリスチャンが放つ台詞には好きな言葉が沢山あって、お金は全く持っていないけれどサティーンに対して一途で純粋な感じが伝わってくるあたりが良かった。

次に、サティーン役を演じていた平原綾香さん。平原さんは、『Jupyter』の印象が強すぎるが舞台で演技を拝見するのは初めて。
とにかく圧倒的な歌の上手さと存在感に圧倒された。サティーンは、お姫様的な女性というよりは、自分の実力でどん底から這い上がってきた強き女性といったキャラクター設定があって、そういった女性としてのたくましさみたいなものをヒシヒシと感じさせる存在感だった。
クリスチャンとサティーンが二人でいると、どこかクリスチャンの方が幼く見えてくる感じが良かった。サティーンは経験値豊富な感じがあるので、ちょっとしたことでは動じない女性だが、クリスチャンのようなピュアで真面目でちょっと幼い感じのクリスチャンに惹かれていくのが良かった。

個人的に好きだったのは、キャバレーの経営者であるハロルド・ジドラー役の松村雄基さん。
かなり序盤に登場して、キャバレーの経営者として客席を盛り上げようとしてくる感じが良かった。あのちょっと胡散臭い感じが良かった。当時のキャバレーの経営者ってあんな感じのおっさんが多かったのだろうか。『ミス・サイゴン』で登場するキャバレーも市村正親さんや駒田一さんといったちょっと胡散臭いおじさんが運営していたりするので、そのイメージが強い。
逆に、Wキャストの橋本さとしさんバージョンも観てみたかった。絶対似合うだろうなと思いながら観ていた。

あとは、キャラクターとして好きだったのは、トゥルーズ・ロートレック役を演じていた上野哲也さん。
ロートレックは実在した画家であるが、実際にあんな感じで髭を生やしていて杖をついていたらしい。いかにも芸術家といった感じで、影でクリスチャンを助ける姿勢が好きだった。逆にもうちょっとロートレックの出番がみたかった。凄く好みなキャラクターだった。

その他は、デューク・モンロス侯爵を演じたKさんのあのずる賢さも好きだったし、少ししか登場しなかったがニニ役の藤森蓮華さんのイケイケなダンサーとしての存在感も好きだった。

写真引用元:ステージナタリー 「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より。(写真提供:東宝演劇部)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

あまり事前情報を知らずに私は『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』を観劇したが、事前情報なしでも全然楽しめたし、ストーリーもすんなりと入ってきたので物語も楽しみつつ、歌とダンスパフォーマンスと舞台美術を楽しめるという贅沢な舞台観劇を楽しめたかなと思う。
ただ、映画を観ておいた方が色々とミュージカル版と映画版の比較が出来たと思われるし、さらにエルトン・ジョンとかマドンナなど洋楽への造形が深ければ、楽曲の意味も分かってより楽しめたんじゃないかと思う。
ここでは、私が今作を観劇して思ったことをつらつらと書いていく。

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』で使用される楽曲は、今回日本で上演されるバージョン用に全て日本のアーティストによって日本語訳されている。そして、各楽曲につき一人のシンガーソングライターが訳詞を担当している。有名な楽曲としては、『Your Song』を松任谷由実さんが訳詞を担当し、『Welcome to the Moulin Rouge!』をMAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyさんが担当するなど大物シンガーソングライターたちばかりだった。
ブロードウェイの『ムーラン・ルージュ』ではアメリカの大物アーティストの楽曲が沢山使われるジュークボックス・ミュージカルに仕上がっていて、アメリカの現代音楽を象徴するようなミュージカルに仕上がっているように、この作品を日本で上演するなら日本人のシンガーソングライターたちが結集して訳詞を行った感じがあって、アーティスト総当たり戦的なミュージカル作品に感じられた。

私も観劇しながら若干観客参加型ミュージカルに感じられたが、公演パンフレットを拝読するにやはりそこを狙っているミュージカル作品だったようである。まるで観客もナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」にやってきた客であるかのように、客席の方までムーラン・ルージュ色に染まっていたし、役者が途中途中観客に問いかける演出が加わっているのも、そういった意図があったんだなと理解した。
客入れ段階から、「ムーラン・ルージュ」のスタッフらしき人が舞台上を徘徊していたりするのも、もう客入れの段階で「ムーラン・ルージュ」は始まっているということを観客に伝えようとしている感じがあった。
しかし、一観客としてその参加型ミュージカルらしさを十分に堪能できたかというと正直疑問が残った。やはり観客全体が、参加型という認識自体を持ちにくいような気がする。劇中歌では、まばらに手拍子をしている観客もいたが、まばらだったので観客によってそこに対してハードルを感じている人たちも沢山いたような気がした。

個人的には、もっと役者がアドリブを入れて客席を盛り上げる演出を加えても良かったのではないかと思った。ストーリーよりも歌とダンスパフォーマンス中心のミュージカルなので、多少のアドリブはもっと許容していって良いもののように思えた。あとは、私が観劇した回は意外と笑いは起きていなくて、多少笑いが起きるシーンもあったが、もっと笑いを誘う台詞や演出もあっても面白かったのかななんて思った。

また、日本のオリジナルミュージカル作品としてジュークボックス・ミュージカルを製作するのも一つのクリエーションとしてアリかなと思った。
『ムーラン・ルージュ』のように多数のアーティストの楽曲によるジュークボックス・ミュージカルまでは難しいかもしれないが、単独のアーティストによるジュークボックス・ミュージカルとかは出来るのではないかと思った。
例えば、日本で今売れているアーティストはYOASOBIとかAdoとかになると思うが、彼らの既存の楽曲で一つのミュージカル作品を創るなんて企画があったら観てみたいなと思った。YOAOBIなどのボカロ系J-POP音楽は世界でもヒットしているので、きっとミュージカル化したら世界でもウケるんじゃないだろうかと、一観劇者として勝手に考えていた。

写真引用元:ステージナタリー 「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」より。(写真提供:東宝演劇部)


↓映画『ムーラン・ルージュ』



↓甲斐翔真さん過去出演作品


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