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2019/12/07 舞台「ミー・アット・ザ・ズー」観劇

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公演タイトル:「ミー・アット・ザ・ズー」
劇場:シアタートラム
劇団:悪い芝居
作・演出:山崎彬(悪い芝居)
音楽:岡田太郎
公演期間:12/4〜12/8
個人評価:★★★★★★★★☆☆

【総評】
悪い芝居の山崎彬さん作・演出で、そこにドラマ3Aに出演していた女優が出演していたり、生演奏が劇中に入ることを聞いていたので非常に楽しみにしていた舞台だったが、それ以上に期待を超えてくる今作は本当に素晴らしい作品だった。
なんといっても、舞台装置、照明、生演奏、映像のコラボレーションはこの作品の醍醐味でそれだけでも十分なくらいの出来栄え。そこに、動物園を題材とした人間ドラマを上手く描き出していて、現代社会が抱える問題も上手く表現されている脚本は本当に素晴らしく、さすが鬼才山崎彬さんといった感じだった、そんな彼もがっつり出演しているし。また山崎さん作・演出の舞台は観ていこうと思えた作品だった。

【鑑賞動機】
個人的に悪い芝居の演出もキャストも好みなので観劇することになった。動物園を題材とした舞台ということで、キャストがみんな飼育員の格好で動物園の毎日を描くのかと思っていたが、あらすじと本ビラを見た感じそんなイメージとは打って変わって結構シリアスな内容。
また、映像を駆使する点や音響が生演奏である点も直前に知った。また、ヒロインの日比美思さんが日テレ系ドラマ「3年A組 ~今日から皆さんは、人質です~」にも出演していたことも直前に知った。そんな注目集まるキャストを迎えての悪い芝居の舞台ということで期待値高め。

【ストーリー・内容】
劇中ではストーリーが時系列ごちゃ混ぜで進行するが、書き方の都合上時系列で追ってストーリーを記す。

孤村新年(藤原祐規)と直(日比美思)は兄妹で小さい頃から動物園によく来ていた。直は特に大好きで将来は動物園の飼育員として働くことが憧れ。そんな直は晴れて動物園の飼育係として面接に合格し働くことに。しかし、自分から勝手に仕事を行なって先輩に叱られる中、動物園の檻で暮らす午後松本人(植田順平)の世話役として直が抜擢される。
一方兄の新年は、相方の今福輝一(山崎彬)とお笑いコンビ「孤村ニューイヤー」を結成してyoutubeにお笑い動画をアップしており、youtuberの恋住闇(田中怜子)も彼らに憧れて一緒に動画に参加するも、なかなか再生回数やチャンネル登録数、いいね数を稼げない日々。
そんな中、直からの連絡が取れなくなったことを知った新年は、彼女の行方を追おうと動物園へ足を運び、午後松本人が直を動物園の地下に閉じ込めていることを知る。妹に手を出した本人に対して怒りを感じた新年は本人と暴力沙汰となり、刑務所に送られる。

動物園の檻で隔てられた動物と人、刑務所の檻で隔てられた囚人と一般人、youtube動画で隔てられたyoutuberと視聴者という構造を通して、現代社会の世知辛さを描いた話。途中からどんどんシリアスな内容になっていくので観ていてグッと引き込まれるし、こういった題材を上手く社会問題に繋げられるってすごいなと思った。「快物」を観たときにも思ったが、さすが山崎彬さんの脚本だと感心した。

【世界観・演出】
この舞台の一番の見どころと言って良いのが、舞台装置、照明、生演奏による音響、そして映像のコラボレーション。

まずは舞台装置だが、「アイス溶けるとヤバイ」を観に行った時にも感じたが、悪い芝居の舞台は結構舞台装置をしっかり作り込む劇団で、キャストが装置で遊べるような仕組みを組み込んでいる点が面白い。
例えば今回の舞台では、下手側に縦に長い装置があるのだが、途中途中に段差があるので遊具のように上まで登れる作りになっている。実際に、直と本人が上手側から下手側の装置の頂上まで競争したときに、本人がその段差を一段一段ではなく一気によじ登って頂上に早くたどり着いたシーンなどは装置を上手く使ったシーンとしてとても面白かった。
また舞台中央には巨大な檻が設けられていて、舞台全体を動物園として印象付ける良い意味で強烈な装置だった。物語終盤の新年が刑務所に送られるシーンでは、その立派な檻は刑務所の牢獄として使われる。

次に音響だが、まずは舞台中央奥で待機している奏者たちの生演奏が圧巻だった。奏者は全部で5人いて、ドラム、ベース、ギター、トロンボーン、ピアノといった楽器が使われていた。バンドにトロンボーンが加わることによって、象をイメージしたブオーンという音色が舞台中に響き渡っていてとても印象的だった。ピアノだけの静かな楽曲も後半のシリアスなシーンと非常にマッチしていて良かったし、何と言ってもバンドの生演奏によるOP、EDの迫力は音圧が舞台中に響き渡って音楽劇ならではの雰囲気を与えてくれた。
また、夜の動物園のシーンでキャストのセリフにエコーがかかるエフェクトは、ちょっとどうやっているか分からなかったが非常に細部まで凝った演出で好きだった。

そして映像、スクリーンは舞台中央の檻のすぐ後方に必要時だけ下がってくる。檻が邪魔して映像が結構見えずらかったのが少し悔やまれるように思えた。youtuberの動画シーンなどは、割と映像がストーリーを進行するのでその課題はもう少し工夫して改善して欲しかったというのが本音。
しかし、OPの動物の漢字がパラパラ映されたり、動物の被り物をする人が左右に行き来するスクリーン効果はとても現代的な雰囲気を創り出して非常に良い演出だと思った。

最後に照明は、非常にカラフルで舞台装置の木の葉を照らすあたりがとてもお洒落で綺麗だった。生演奏もあってそれだけで楽しめるくらいだった。個人的には、朝の日差しをイメージした照明と、前方を一列に白く照らす照明が好きだった。

【キャスト・キャラクター】
悪い芝居お馴染みのキャストに加え、豪華な俳優陣の客演が目立つ芝居だった。

主人公の孤村新年を演じる藤原祐規さんは、一番の見せ所である本人との取っ組み合いのシーンでの迫力がもの凄かった、お笑いコンビ「孤村ニューイヤー」としてコントをウダウダやっている時とのギャップがあって非常に良い役者さんだった。
その妹孤村直を演じる日比美思(ひびみこと)さんは、ドラマ「3年 A組」にも出演していた勢いのある女優。キャラクターとしては動物園で働くことに憧れる夢見る若い女性を演じていたが、とても健気で真っ直ぐな性格を上手く表現していて良かった。メガネをかけて地味なキャラクターであり、そこから社会では上手く馴染めていないのかな、人間関係では上手くやれてないのかなという憶測が生まれるような演じ方を上手くしていたのも良かったと思う。

悪い芝居のキャストに着目すると、やはり輝一演じる山崎彬さんと午後松本人演じる植田順平さんの演技が輝いていた。
山崎さんは「アイス溶けるとヤバイ」で物凄くひょうきんな役を演じていて強烈だったが、今回はもう少し落ち着いていて新年の相方として、売れない芸人を演じていた。敢えて存在感を強く出さない芝居ができるのも役者として重要だし、それを見事にやれる山崎さんは凄いと思えた。
逆に植田さんは長髪で声が高いので、癖のある役者だがそうであるからこそ本人を演じれるし、あの動物みたいな人間離れした感じも出せるのだなと思った。

他は、久保貫太郎さんが演じる握光は、どこにでもいそうな陽気なおっさんがとても雰囲気にあって良かったし、youtuberの恋住闇演じる田中怜子さんは、力強くてお転婆な女性がとても舞台の雰囲気を良い意味で創っていて衣装も含めて個人的に好きだった。彼女の映像を使った前説も斬新で面白かった。

全体的に、それぞれのキャラクターにそれぞれの事情があって、それを少し垣間見せてくれるストーリー構成が感情移入しやすくて良かった。

【舞台の深み】
主にストーリーの軸として描かれているキャラクターが孤村兄妹なので、彼らに焦点を絞って作品について語ってみる。

兄の新年は、お笑いコンビのyoutuberとしてコントをやり、それを動画にアップして再生回数、チャンネル登録数、いいね数を稼いで有名になりたいと思っている。そんな彼を影で応援している人たちは、妹の直や同じくyoutuberの闇、動物園の園長などいる。
しかし、知名度を上げることはそう容易なことではなく、いつまでも名が売れないことに四苦八苦して、逮捕されて刑務所送りになったり、謝罪動画をあげるといったやり過ぎたことをして逆に笑えないものを作って血迷ってしまう、彼女の鬼島点子にも愛想つかされてしまう。
このあたりが、何か映画「JOKER」とも通じる所があって面白かった。笑いっていうのは信頼関係があってこそ得られるもの、一旦それを崩してしまうことそれ自体は容易だが、そこから元に戻ることはとても難しい。そんな呪縛に囚われた動物園の動物のように描かれている点がとても面白い。

一方で、妹の直自身は、詳しくは劇中に出てきてはいないが、社会での人間関係はあまり上手くやってこられず、そんな落ちこぼれた彼女の唯一の救いは動物園だった。彼女は社会で生きていくこと自体が苦しく、動物園の檻の中の動物同様だった。しかし、動物園の地下で引きこもることでそこから解放された。
だから兄に対しても、刑務所に長くいればもっと変われたんだと思うと発言した。自分にとっての動物園は、兄にとっての刑務所なのかもしれない、それは自分の周りに立ち込める呪縛を解き放ってくれるもの。結果的に「孤村ニューイヤー」は人目を浴びる立派なお笑いコンビとして成功して終わるので良かったが。
またyoutuberの闇も、不登校だった自分は「孤村ニューイヤー」の動画を見て元気づけられ、それを見に学校へ登校するようになった。「孤村ニューイヤー」が呪縛を解いてくれた。

そうやって人々はお互いを影響しあって生きてくのかななんて思えた。それを動物園の動物と比喩して語れる山崎さんはさすが。

【印象に残ったシーン】
まずはOP映像のかっこよさ、あんな映像が作れたら良いななんて思えるくらい感動したし迫力があった。
劇中では、雷雨の中新年が本人を襲うシーンの迫力、生演奏と雷雨のSEと照明が相まって見応えのあるシーンだった。
面白いシーンでいったら象村さんが自分の鼻をもぎ取って渡すコント、客席はあんま笑っていなかったが個人的には結構ツボなコントだった(これは自分は「孤村ニューイヤー」のファンになれるやつか)。
それと、直が勝手に園内の掃除を始めて先輩の小島聡里に叱られるシーンはなぜかジーンときた。新人社会人のあるあるだからか。

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