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舞台 「東京輪舞」 観劇レビュー 2024/03/17


写真引用元:PARCO STAGE 公式X(旧Twitter)


写真引用元:PARCO STAGE 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「東京輪舞」
劇場:PARCO劇場
企画・製作:パルコ・プロデュース2024
原作:アルトゥル・シュニッツラー
作:山本卓卓
演出:杉原邦生
出演:高木雄也、清水くるみ、今井公平、市原麻帆、椛島 一、木下葉羅、KENVOSE、小林由依、田村真央、長南洸生
公演期間:3/10〜3/28(東京)、4/5〜4/6(福岡)、4/12〜4/15(大阪)、4/19(広島)
上演時間:約2時間55分(途中休憩15分を含む)
作品キーワード:ラブストーリー、群像劇、LGBTQ+、舞台美術
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


オーストリアの劇作家であるアルトゥル・シュニッツラーが1900年に発表した戯曲『輪舞』を2024年の東京に置き換えて『東京輪舞』という演目で上演された作品を観劇。
『輪舞』は19世紀末の世相を背景に、様々な階級の男女の恋模様を会話リレー形式で上演するというもので、当時のウィーンではモラルに反するとして上演を禁じられたほどの問題作である。
今回は、そんな問題作を配達員、クィア、インフルエンサーなど2024年の東京にいる人物像に置き換えて上演された。
脚本は『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞した演劇団体「範宙遊泳」の主宰である山本卓卓さん、演出はプロデュース公演カンパニー「KUNIO」を主宰する名演出家である杉原邦生さんが担当している。
『輪舞』は、英国の巨匠であるデヴィッド・ヘアーによって20世紀末に英国で翻訳して上演されたり、『ブルールーム』というタイトルでロンドンとブロードウェイで1998年から1999年にかけて上演されたり、2001年に秋山菜津子さんと内野聖陽さんによって上演されたりしているが、私は今作を戯曲も含めて作品には一切触れずに観劇した。

物語は、新宿の冬から始まる。ベンチの上でマカナと名乗るピンク色の髪の十代の女性(清水くるみ)が一人で叫んでいる。
そこへ、配達員の男のカイト(高木雄也)がやってくる。
カイトは、成人している女性だと思って向かったが未成年だったことに気がつき幻滅する。
マカナはカイトに性欲が溜まってないかと聞いて誘おうとする、最初はカイトは乗り気でなくすぐに立ち去ろうとするが誘惑に負けて彼女とキスをし、公衆トイレに向かう。
舞台装置が移動して場面転換し、今度は渋谷の春、カイトがジャスミン(清水くるみ)という東南アジア出身の女性とダンスをし、そのままホテルに向かい...というもの。

まず多くの観客の目を引くのは、舞台美術の奇抜さ。私は杉原さんの演出を何度も拝見していて割と想像通りではあったのだが、「東京」「TOKYO」「トーキョー」「とうきょう」と漢字、ローマ字、カタカナ、ひらがなで書かれた"東京"が舞台セットと床面に一面にびっしり書かれていて、「R」「O」「N」「D」「E」という巨大なアルファベットのオブジェが舞台装置の壁として使用される。
そして、それら含めて全ての舞台セットが可動式で場面転換するごとに移動する。舞台上に固定されたセットは一つとしてなく、だからこそ場面によって全く舞台上の景色が変わってしまうというのがまた面白く杉原さん演出らしくて好きだった。
舞台音響や舞台照明も非常にポップ且つカラフルでお洒落で、PARCO劇場がある渋谷のトレンディな若者っぽさを想起させる舞台美術だった。

私が一番感動したのは、『輪舞』という100年以上前のウィーンの物語を、違和感なく2024年の東京に置き換えられていたということ。
『輪舞』を読んだことなかった私は、今作が書き下ろしなのではないかと思わせるほど、2024年の東京にフィットしているように感じた。
それは、岸田國士戯曲賞を受賞している山本卓卓さんの脚本家としての能力の素晴らしさだったり、原作が2024年の東京でもあり得るような普遍性をついているからだと考えられる。
今作には、社長や設計士をやっている既婚者の男性、成城に両親と暮らす大学院生など裕福な人物が登場する一方、マカナのようなトー横キッズのような存在、クィア、YouTuberといった貧困やマイノリティ、現代的な職業の人物も登場して多様性がある。
だからこそ人生観が登場人物によって全く違ったり、置かれている立場も違うからこそそれぞれの悩みがあってリアリティを感じた。
その人生観の対立が高木さんと清水さんが演じる二人によって描かれていて、どの場面も見応えがあった。
特に私は、クィアとYouTuberがSNS上で出会って実際に会うシーンがあるのだが、性行為までいこうとするとお互いにそれを拒んでしまう。
SNSという自分の本来の姿とはかけ離れている場で出会ったからこそそういったシチュエーションに繋がってしまうという件が現代的でリアルな描写で印象に残った。

また(アンサンブルの方は複数いらっしゃるが)二人芝居ということで、「Hey! Say! JUMP」の高木雄也さんと清水くるみさんの、役によって男女問わず様々なキャラクターを演じきれる演技力も素晴らしかった。
同じ役者が演じているのにそれぞれの人物が全く違う存在に見えてくるし、何も違和感なく観られてしまう点が凄かった。
上演時間が2時間55分もあって途中休憩はあるといえど出突っ張りで、1日2回公演もある日があるのは少し心配になるレベルだが、私が観劇した回は全てを完璧に熟されていて演技力といいそのメンタルといい全てを賞賛したい。

舞台上で繰り広げられる物語は非常にリアリティあるもので間違いなく共感出来るシーンが一つ以上はある一方で、今の東京にはこんな世界もあるのかと考えさせられるシーンもあって非常に興味深い舞台作品だった。
役者のファンの方は勿論、今を生きる多くの観客に届いて欲しい傑作だった。

写真引用元:東京輪舞 PARCO STAGE 公式HP 撮影=岡千里




【鑑賞動機】

観劇の決めては大きく分けて二つある。一つはフライヤーと公演内容。フライヤーがとてもエモーショナルで現代的でキャッチーだったから。公演内容も2024年の東京を生きる男女の物語ということでリアリティに溢れていて面白そうだと思ったから。
もう一つの決めては脚本家と演出家、岸田國士戯曲賞を受賞した山本卓卓さんの『バナナの花は食べられる』を観て好きだったというのと、山本さんは若者の欲求を描くのが上手いと思っていて、それが杉原さんの現代的でポップな演出でどう表現されるのかが楽しみだったから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

電光掲示板のようなもので「新宿、冬」と表示される。ベンチと公衆トイレがあるので、おそらく大久保公園かと思われる。ベンチの上にピンク色の髪の十代の女性(清水くるみ)が高らかに一人で叫んでいる。客席後方からUberEatsの配達員が背負っているようなウーバッグを背負った配達員の男(高木雄也)が現れ、ステージへと向かう。
配達員の男はカイトと名乗っており、呼ばれた相手が未成年だったことを知り幻滅する。ピンク色の髪の女性はマカナと名乗り、姉貴のアカウントで20歳以上になりすましたのだと言う。カイトは立ち去ろうとするが、マカナがしきりに性欲溜まっていないかとカイトを口説こうとする。マカナは自分が獣だと言ってカイトに甘える。そのまま二人はキスをする。そしてこれでカイトも獣だと言う。二人はそのまま公衆トイレに向かう。電光掲示板には、「交尾する」と表示されている。

場面転換して、電光掲示板に「渋谷、春」と書かれている。
ディスコのような楽しそうな音楽が流れていて、先ほどの配達員の男のカイトと緑色のカーディガンを着た女性(清水くるみ)が登場する。二人は一緒にダンスをしていたらしく、そのままいい感じになったようである。その女性はジャスミンといって東南アジア出身らしい。お互いに素性が分かった上で二人はホテルに向かう。
二人はベッドの中で目を覚ます。ジャスミンはまた戻ってきてとカイトに言ってカイトは去る。

場面転換して、電光掲示板に「成城、夏」と表示される。ステージには、成城にありそうな高級住宅のリビングが広がっている。そこに家事代行として働いているジャスミンがエプロン姿でスマホを見ながら爆笑していた。
そこへ、そのリビングの住人と思われる男性(高木雄也)が入ってくる。彼はジャスミンが見ているスマホを覗き見して驚かせる。その男性はマサというらしく大学院生で異常気象の研究をしているそうである。最近の夏は異常に暑くて、地球温暖化の話をする。そして、それらに関する論文を電子書籍で読んでいる。
マサの両親は、南国へ旅行に行ってしまって家におらず、ジャスミンとマサの二人だけで家にいる。マサは、先ほどのジャスミンが見ていたスマホのことに言及する。
マサは、ジャスミンが以前AV女優をしていたことを話題にして彼女を恥ずかしくする。
マサは横になり、マッサージをしてくれとジャスミンにお願いする。ジャスミンはマサのマッサージをする。そしてそのまま良い感じになり、マサはジャスミンに性行為を望む。ジャスミンは最初は拒んでいたが誘惑に負けてセックスをする。
しかし、マサはこの後友人が家に訪問するようで、急いで帰って欲しいとジャスミンに言う。ジャスミンは言われるがままに、すぐに着替えてマサの家を後にする。

場面転換して、マサの寝室。玄関のチャイムが鳴り、スポーツウェア姿の一人の女性(清水くるみ)が入ってくる。彼女の名前はショウジサヤと言い、既婚者で小説家として今では売れっ子のようである。
サヤはテレビ出演したことを少しばかり後悔しているようである。サヤは、このミニマリストの部屋で自分を一体どうやって楽しませてくれるのかしらとマサを試しているようである。そして部屋に一冊もサヤの書籍がないこともかなり不服のようである。
マサは必死で電子書籍で全て持っていると言ったり、色々と甘い言葉を使って口説こうとしている。サヤよりもマサの方が先に興奮してしまっている。しかし徐々に二人は良い感じになっていってベッドでそのままセックスをする。
夜の20時、こんな時間まで二人で寝てしまったことにサヤは後悔する。LINEもめちゃくちゃ来ている。サヤは急いでマサの家を去る。

場面転換して、電光掲示板に「三鷹、秋」と表示される。上手側に豪華なダブルベッドがあり、そこでショウジサヤが寝巻きでいる。
眼鏡をかけた男性(高木雄也)が寝巻きで一人入ってくる。どうやらショウジサヤの配偶者であり設計士の仕事をしているタツヒコという男性のようである。タツヒコは在宅勤務を終えて冷蔵庫にあるシャンパンを取り出し、サヤと一緒に飲もうと提案する。二人はベッドの上でシャンパンを乾杯する。
酒を飲みながら二人は、結婚して5年を迎えてお互い仕事を頑張りたいからと子供を作ってこなくて、倦怠期もあったと振り返る。そこから、タツヒコの元カノの話になる。サヤが気を悪くしないようにタツヒコは元カノの話題は避けてきていたようであった。タツヒコの元カノは高級娼婦で非常にメンタルが不安定だったようである。タツヒコは、その元カノが一緒だと自分がダメになってしまうようだったと、元カノには宇宙のような吸引力があってそこに吸い込まれるようだったと。結局、その元カノは死んでしまったと言う。その話の途中で、サヤはタツヒコに風俗行っているのと不安になる会話のやり取りもあった。タツヒコは今は風俗に行っていないと答える。
タツヒコは、娼婦はその人がなりたくてなった訳ではなくて、生活をしていく上でならざるを得ない人たちだっているのだと主張する。しかしサヤは、そのタツヒコの発言は失言だと言う。娼婦という仕事を下に見ていると。娼婦になりたくて娼婦になっている人もいるのではないかと。
そのまま二人は性行為をする。

場面転換して、電光掲示板に「品川、冬」と表示される。どこかのホテルのスイートルームでタツヒコと髪がピンク色のクィア(清水くるみ)と酒を飲みながら談笑している。二人とも酔っ払って気でも狂ったように爆笑しながら支離滅裂な会話をしている。クィアは体は男性だが中身は女性のクィアのようで、マキというようである。タツヒコはマキを見ていると、宇宙のような存在に感じて引き込まれてしまうという。そしてそのまま二人は扉の向こうに向かい性行為する。

ここで幕間に入る。

タツヒコとマキは性行為して満足して戻ってくる。タツヒコの何気ない会話で、マキはタツヒコが有名な作家のショウジサヤの旦那だと知って驚く。マキはショウジサヤの書く文章が好きで日頃からよく読んでいるが、彼女は絶対に不倫をしているとも感じているとタツヒコに言う。不倫をしていないとあんな文章は書けないと。むしろタツヒコに、自分の妻の文章をちゃんと読んでないの?と叱咤される。タツヒコの顔色が変わる。

場面転換して、電光掲示板には「八王子、クリスマス」と表示される。ステージにはiMacが卓上机に置かれ、その横にはエレキギターが複数並べられている。
そこに、先ほどのクィアのマキと、YouTuberで且つインフルエンサーの金髪のチャム(高木雄也)がやってくる。チャムは、チャンネル登録者数100万人のインフルエンサーYouTuberで、マキは動画で見ていたチャムの歌声に惹かれてコラボしたいと思い実際に会ってみたのだが、マキはあまりにも実際に会った時のチャムのギャップにドン引きする。歌も他の人気曲をカバーしてオリジナルでは売れていないし。それで100万人もフォロワーがいて幻滅する。
マキは、SNS上の誰かのプロフィールをコピペしただけのような薄っぺらいアカウントをディスる。中身がないと。それに比べてマキ自身は、ちゃんと自分のありのままの姿で勝負していると言う。マキはコンテンポラリーダンスをするダンサーでチャムの前でダンスを披露する。
そのままお互いは意気投合してセックスしようと服を脱ぎ始めるが、お互いに違う違うといってネット上で知り合ったお互いの姿ではないと言ってセックスはしないで終わる。

場面転換して、電光掲示板に「東京の近く、冬」と表示される。
ここは俳優をやっているジン(高木雄也)の寝室。ジンはお祈りをしている。そこへチャム(清水くるみ)がやってくる。チャムは、ジンが舞台で演じていた『マクベス』を先ほど観劇して凄く感動したと言う。チャムはインフルエンサーとしてチャンネル登録者が100万人いることが自分のステータスになっているが、それはあくまでネット上の自分であって、実際の自分で舞台で勝負をしているジンをリスペクトする。ジンはSNSを全くやっておらず、舞台一筋で自分の価値を作り上げていると言う。
チャムは、チャンネル登録者数なんて虫のようだと言う。売れたタイミングは虫のように沢山集まるが、時間が経つとすぐに飽きられて自分の元から去って行ってしまう。それに比べて俳優はずっと自分の価値を持ち続けられるから良いと。
そのままチャムとジンはお互い惹かれあって性行為をする。

同じ場所で、朝を迎える。ジンはベッドの中で眠っている。そこへ酔っ払ったジンの妻で社長のショウコ(清水くるみ)が朝帰りする。酔っ払っているのでマダム気取りで変な喋り方をしている。ジンは昨日千秋楽を迎えたようで、テーブルには沢山の花が置かれていた。
ショウコはカーテンを開けて窓から朝日が差し込む。そのままショウコは眠るらしくベッドに入ってしまう。ジンはベッドから起き上がる。ショウコはスマホを見ながら、作家のショウジサヤが離婚したみたいだと言う。それなのにめちゃくちゃネットでは叩かれていて意味分からないと。こういうネタはみんな本当に好きだよねと言う。
ジンは、そのショウコの発言から、自分も好きな人が出来たと告げる。ショウコはいきなり「はぁ?」とキレ始める。ジンは自分を好きになった人と一緒にいたいと。ショウコはユウトの面倒は誰が見るの?と聞く。そこからショウコはブチギレる。

場面転換して、薄汚くてぬいぐるみなどが置かれた狭い6畳ほどの部屋が登場する。電光掲示板には「新宿、冬」と表示される。
畳の上に布団が敷かれていて、二人眠っている姿がある。一人はショウコで布団から起き上がってその部屋を去ろうとする。その時、万札を2枚ほどテーブルに置いていく。しかし帰ろうとしたショウコをもう一人の眠っている人物が引き止めようとし、もう2万円置いていって欲しいと言う。もう一人布団で眠っていたのはピンク色の髪のマカナ(高木雄也)だった。マカナは4万円あれば先輩が住む六本木に引っ越せるのだと言う。六本木でルームシェアをするのだと。
ショウコはもう2万円テーブルに置いていく。マカナは「ありがとう」とショウコに感謝する。
ショウコはマカナの家を出る。外は工事現場の音で非常にうるさかった。ショウコは工事現場で働く男性(高木雄也)とすれ違う。ここで上演は終了する。

大久保公園で浮浪しているマカナから始まり、カイト→ジャスミン→マサ→ショウジサヤ→タツヒコ→マキ→チャム→ジン→ショウコ→マカナと最終的にマカナに戻ってくるというストーリーの流れが印象深かった。東京という大都市は出会いも多い場所なので、こうやって辿り辿っていくと元の人間に戻ってくるのかもしれない。SNSでも友達の友達は...とやっていくとかなりの人物と繋がってくると聞くので、それと似たような感じに思えた。
序盤は、セックスに繋がるシーンが多くて、こってりラーメンを食べ続けて胃もたれしそうになるんじゃないかという気分にさせられたが、成城のシーンあたりから物語に面白さが見えてきてその心配は杞憂だった。
あとは、SNSなどのネット上での出会いが沢山登場するので、そこから見えてくる人物像や人間関係が面白い。有名人やインフルエンサーはネットを通じて様々な人に影響を及ぼす。そしてネット上だからこそ、その人らしさを全て表現しきれていない中で勝手な憶測で人物像を作り上げられてしまうあたりも興味深かった。
また、必ず同じ役を同じ役者が演じるのではなく、例えばチャムやマカナは清水さんが演じたり高木さんが演じたりと二人の役者が演じることで性の多様性など中性的な感じを表現しているようなのも面白かった。
まさに2024年の現代の東京を思わせる素敵な脚本で、山本卓卓さんはSNSなどの現代的なツールを導入しながら若者を描くのが上手いなと改めて感じた。

写真引用元:東京輪舞 PARCO STAGE 公式HP 撮影=岡千里


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

杉原邦生さんの独創性に富んだポップな舞台美術が存分に生かされた世界観で大満足だった。まさにこういうのが見たかったという私の個人的な願望を満たしてくれた力作だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
杉原さん演出らしく、ステージに常設されて固定されている舞台セットは一つもない。ステージ奥の壁と床面には一面に「東京」「TOKYO」「トーキョー」「とうきょう」の文字で埋め尽くされている。また、「R」「O」「N」「D」「E」の巨大なオブジェは常にステージ上にあり可動式となっていて場面転換するごとに移動して壁になったりする。
1景の「新宿、夜」では、上手側に可動式の公衆トイレが設置されていて、下手側にマカナのいるベンチが置かれている。2景の「渋谷、春」ではステージ上には何もセットされておらず、カイトとジャスミンが二人で一晩を明かした時に中央にダブルベッドが置かれていた。3景の「成城、夏」では下手から上手にかけて一枚の横長の壁が設置されており、高級住宅のリビングが出現した。4景では、高級な寝室が登場しマサのベッドが置かれており、周囲には本棚がセットされていた。5景の「三鷹、秋」では、上手側にダブルベッド、そしてその横に冷蔵庫が置かれていてタツヒコとサヤの割とリッチな寝室が再現されていた。6景の「品川、冬」では、上手奥にトイレの扉、そして下手側には奥から手前に伸びるホテルのスイートルームの長椅子と長テーブルが広がっていた。その背後には「R」「O」「N」「D」「E」で壁が作られていた。
7景の「八王子、クリスマス」では、上手側にiMacが置かれた机、中央には扉、下手側に複数のエレキギターが立てかけられていて、YouTuberチャムの部屋を再現していた。8景の「東京の近く、冬」では、ジンの寝室がステージに用意され、上手側にカーテンのかかった窓とジンのベッド、中央奥には部屋の出入り口となる扉がセットされていた。下手側にテーブルやジンの小物が置かれていた。9景になると下手側には沢山の花が置かれていた。10景では、マカナの部屋がそのまま可動式のセットとして登場した。巨大なクマのぬいぐるみが二つ置かれ、その手前にはこたつが置かれ、その上手側には布団が2つ敷かれていた。非常に散らかった安くて汚らしい6畳間でそこでマカナが暮らしているというだけで、何か気味の悪さを感じてしまった。
全体的に杉原さんの演出らしいポップさを感じるのだが、一つ一つの舞台セットを見ていくとリアリティがあってなんだか摩訶不思議な世界観だった。私が杉原さんの演出に慣れているからなのか違和感は全く感じずに、この奇抜な演出に圧倒されていた。

次に舞台照明について。
とてもポップでカラフルな照明演出がハマっていた。「新宿、冬」のあの寒そうな感じを白い照明で演出し、「渋谷、春」のディスコの後を少しカラフルな照明で演出し、「三鷹、夏」や「品川、冬」のような高級感ある夜のシーンでは、それっぽく青白く照明を当てて良いムードにしていた。
また、ラストの工事現場のシーンで、ちょっと明るい朝日の照明を当てる感じも好きだった。新宿の朝という感じがした。それと、ジンの寝室の朝のシーンで、ショウコがカーテンを開けて朝日が差し込む感じも好きだった。

次に舞台音響について。
全体的に場面転換でポップな音楽が流れ、音楽と共に舞台セットが移動していく様は杉原さん演出ならではだった。
また、7景の「八王子、クリスマス」のシーンで、マキがコンテンポラリーダンスを披露するシーンがある。その時のシーンの音楽も好きだったし、マキのダンスもキレキレで振付のBaobabの北尾さんの演出も光っていた。
ラストシーンの工事現場の音が上手く言語化出来ないけれど好きだった。新宿の朝で、再開発で工事が捗っているのはなんとなく想像つくしリアリティがあるからかもしれない。

最後にその他の演出で気になった点について。
電光掲示板のようなものが天井から吊り下げられており、「新宿、冬」「渋谷、春」といったような東京の場所と季節をシーンごとに表示していた。また、二人が性行為をして暗転するシーンで「交尾する」「セックスする」「セックスはしない」などと文字で表示するのもなんだかユニークで、その演出はどこか「範宙遊泳」らしさを感じさせるようで、杉原さんの演出っぽさがない点がまた融合を感じさせられてよかった。
新宿、渋谷のような場所も凄くリアリティがあってしっかり考えられているなと思った。新宿はトー横キッズなどがいるエリアという所から決められていると思うが、成城は金持ちの家族が住むエリアでそれが反映されているし、三鷹はそれなりに収入のある夫婦が戸建てを買って暮らせるくらいのエリア、品川はホテルのスイートルームは多そうだし、八王子はオフィスに出社する必要のないYouTuberがどっしりと構えられそうなエリア、東京の近くはお金のない俳優が暮らしてそうなエリアと割と意味付けもあって興味深かった。
性行為にも様々なバリエーションがあるのが面白かった。1景のマカナとカイトのシーンでは交尾するという獣的な扱いになっていて、二人が衝動的にしてしまったということを端的表していて面白かった。また、クィアのマキとYouTuberのチャムが結局セックスはしなかったというのも興味深かった。ネット上で良いなと思って出会った二人でも、いざ実際に会ってみるとタイプ違うなと思うのは現代あるあるなのかもしれない。やはりネット上で表現する自分と実際の自分というのは別ものだという認識を改めてした。
ショウジサヤとタツヒコが離婚しそうなのは、5景のシーンからも匂わせていたけれど、それを9景でショウコがネットニュースで離婚したと口ずさんで伏線を回収していく脚本の妙も面白かった。そして芸能人の離婚が引き金で他の夫婦も離婚してしまうという連鎖もなるほどと思って見ていた。実際にそういうこともあるかもしれないなと。

写真引用元:東京輪舞 PARCO STAGE 公式HP 撮影=岡千里


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

とにかく出突っ張りの「Hey! Say! JUMP」の高木雄也さんと清水くるみさんの熱演と、何役も演じ分けられる役者としての技量に拍手喝采。2時間55分という上演時間で、且つ1日2回公演の日もあるというタイトな公演スケジュールを見ると少々心配になってしまうレベルだが、素晴らしいパフォーマンスを発揮していた。座組がどうなっているかわからないが、スイング制を導入していたとしても、彼らの芝居を観に観劇にきている観客も沢山いらっしゃる中で、なかなか替えの難しい作品だと思うが、本当によく上演し続けられていると思う。
お二人の演技についてここでは記載する。

まず、「Hey! Say! JUMP」の高木雄也さん。高木さんの演技を拝見するのは初めて。
あまり無理をしすぎずに器用に6人を演じ分けられているのが凄い。どの役も凄くナチュラルで全然違和感なく演じられているのが凄くよかった。
一番印象に残ったのは、タツヒコとジンを演じる高木さん。タツヒコとジンは既に既婚者で他の役よりもある程度大人のキャラクター像だと思うが、その落ち着いた感じと威厳が凄く見ていて引き込まれた。メガネをかけると設計士らしさがちゃんと窺えて、理系のインテリにしっかりと感じられるのが好感もてた。また、ジンも落ち着いて貫禄がある所が好きで、齢を重ねたからこその魅力をしっかりと兼ね備えている点がよかった。
また、ラストのマカナを演じるという攻めの姿勢もよかった。ちょっとオネエな感じになる声色とか色々感情を掻き乱された。

次に、清水くるみさん。清水くるみさんは映画『桐島、部活やめるってよ』で私は初めて演技を映像で拝見して非常に魅力的なキャストだと思っていた。舞台で演技を拝見するのは初めて。
清水さんが演じる役もどれも好きだったが、特に好きだったのはショウジサヤとショウコ。あの大人の色気のあって自分をしっかり持った感じの女性には魅力的に感じるものである。サヤのマサを見下して子供扱いしてくるあたりとか好きだった。でもそうやってこの女性は遊びたいんだなという下心はしっかり感じられてエモかった。また、タツヒコと会話する時のトーンの低い感じがまた良かった。こんなに冷めているものかなとも思うが、これはこれで落ち着いていて、これが愛の形なのかなとも思ったが、やっぱりサヤはそこには収まらなくて、刺激が足りなくて不倫しているというのがらしくて好きだった。
ショウコの役も好きだった。こんな感じの金持った社長いそうだなと思う。でもこショウコも結婚はしているものの、自由人な感じがするので不倫はしてそうだなと思う。しかし、マカナのことは心配して気にかけてくれる優しさもあってそのギャップが良かった。
また、ジャスミンの役も良かった。カタコトの日本語を話す感じがとても愛おしかった。

最後に思ったのが、高木さんと清水さんでずっと二人でこんなラブストーリーなシーンの稽古ばかりしていて、どういう感情で臨んでいるのかは気になった。こんなに二人だけで稽古をしているとお互いの色々な面が見えてきて好きになってしまいそうだが。そういった部分も含めて、なかなか体を張った舞台出演だよなと思う。

写真引用元:東京輪舞 PARCO STAGE 公式HP 撮影=岡千里


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、この物語の全体の考察と、登場人物それぞれについて考察していこうと思う。

まずは物語の考察について。
今作では、十代(マカナ)→配達員(カイト)→家事代行(ジャスミン)→息子(マサ)→作家(サヤ)→夫(タツヒコ)→クィア(マキ)→インフルエンサー(チャム)→俳優(ジン)→社長(ショウコ)→十代(マカナ)の順でキャラクター設定されているが、『ブルールーム』では、少女→タクシー運転手→若いお手伝い→学生→人妻→政治家→モデル→詩人→女優→高貴な男→少女という順で描かれる。タクシー運転手は配達員に置き換えられていて、政治家は設計士の夫に置き換えられ、モデルはクィアに、詩人はインフルエンサーに、社長は高貴な男に置き換えられている。若干肩書きは変わってきてるが、身分や貧富の度合いは『ブルールーム』も今作も共通しているように思える。
今作の特徴として大きい部分は、やはりLGBTQ+を扱うということでクィアや、高木さんも清水さんも演じられる性としても中性的な役が増えている点かなと思う。そこは、2024年のジェンダー観にアップデートされている。また、ネット上での出会いというのも多い気がする。それも2024年だからこそ現代的な出会いを描いて人間模様を描くことでアップデートされているのかなと感じた。
ネット上で出会ったからこそ、出会ってもセックスしないという結末にたどり着いたり、チャムとジンの会話のやり取りにあるようにSNSで発信し続ける存在と自分をしっかり見せることで価値を持たせている存在とで比較するような哲学的な描写もあるのだと思う。このあたりは、実際原作や『ブルールーム』でどういった描写になっているのか興味深い所である。

ここからは、各登場人物について考察していく。

まずは、十代のマカナと名乗るピンク色の髪の女性について。マカナは新宿エリアのボロくて狭い部屋に住み、大久保公園(だと思われる)で夜はずっと金を恵んでくれる人、遊んでくれる人を待っているトー横キッズだと思われる。
おそらくマカナは、家庭環境も劣悪で居場所がなくて新宿に来ているものと考えられる。ピンク色の髪をしていてモラルどうなっているのだろうかというような言動ばかりの彼女だが、おそらく境遇は物凄くかわいそうなのだろうなと考えられる。
ラストシーンで、あと2万円あれば六本木に引っ越して先輩と一緒に住めるのだと言う。きっとこういう存在の人が港区女子になってしまうのだろうなと思う。六本木に引っ越しても働かずに高級取りの男性を引っ掛けて金目当てで結婚するのだろうなと。

次に、配達員のカイトについて。彼は大学生だろうか、それともフリーターだろうか。少なくとも定職についている感じはしない若者男性である。UberEatsなどのアルバイトをしながら、夜は渋谷のクラブでワイワイやっている。
でも性格はきっと悪くはないはず。ジャスミンと恋に落ちて、そこから二人の関係は始まって付き合っているのだから。

次に、東南アジア出身で、成城の裕福な家庭の家事代行をしているジャスミン。
ジャスミンは本当に純粋で真面目な女性だなとつくづく思って個人的お気に入りキャラクターの一人。
マサに言われるがままで、何も抵抗できないのが不憫である。マサは主人のように思っているので、マサに言われたことを聞かないといけないと思っていて凄く見ていてかわいそうだった。もっと抵抗しても大丈夫だよと言ってあげたくなる。

次に、成城に住む大学院生のマサ。マサの家は金持ちで、だからこそ大学院にまで進学させてもらえているのだと思う。異常気象や地球温暖化の研究をしていそうなそぶりだったので、きっと理系だし優秀だと思われる。
しかし、両親が旅行中なのに漬け込んでジャスミンとセックスしたりやりたい放題で非常に最低の男である。さらに、作家として有名なサヤと知り合って家にまで呼んでしまうという自由奔放ぶり。サヤに振り回されているのは見ものだったが。

既婚者で作家をやっていて、テレビ出演で一躍有名になったショウジサヤ。結婚して5年もして、その結婚生活に縛られていることに対して刺激がなくて不満を募らせていそうだった。
だからこそ夫のタツヒコに黙って、マサなど色々な男性と不倫していたのだと思う。そんなに不倫しているにも関わらず夫のタツヒコにも気づかれないというのがヤバいなと思う。
あと非常に興味深かったのは、あとでクィアのマキがサヤのファンなのだが、その文章からして絶対不倫していないと書けない文章を書いていたということ。サヤはそもそもタツヒコとの夫婦関係に興味はなかったのかもしれない。しかし離婚を告げる勇気がなかったからずるずる続けいていたのかなと思った。

サヤの結婚相手であるタツヒコは、おそらく結婚もして落ち着いていて仕事一心なのかなと最初思っていたが、実は品川のスイートルームで遊んで不倫していた。
結婚生活を続けていると、やはり配偶者への愛というのは冷めてしまうものなのだろうか。タツヒコとサヤの会話を聞きながら、夫婦生活が長く続いたらこんな感じのそこまでお互いに好きが強くない関係になるんじゃないかと思うが、これが果たしてお互いが愛を深めあった結果落ち着いているのかマンネリ化しているのか分からないなと思った。
タツヒコの元カノにしてもクィアのマキにしても、その宇宙のような魅力に吸い込まれてしまうのようなことを言っていた気がした。タツヒコは、きっと恋に落ちた人に振り回されてしまうタイプなのかなと思った。

クィアのマキは個人的に良い人だなと思っていた。外見は男性だが中身は女性のクィア。性転換はしていないからペニスがある。
コンテンポラリーダンスのダンサーとして等身大の自分でネット上でも自己発信をしている。だからこそかなりデジタルネイティブな側面もあると思う。例えば、サヤのファンだけれど彼女と会ったことがなくても文章から不倫していると悟ったり、YouTuberのチャムに対してはネット上のプロフィールが薄っぺらすぎて嘘だとバレてしまったり、ネット上での発信の仕方によってその人となりもなんとなく勘づいてしまう人物なのかなと思った。Z世代って結構そうだというのは聞いたことがあって、そんな現代的なデジタルネイティブな側面を持っている若い方なのだなと思いながら観ていた。
また、チャムとセックスしようとしてセックスしないというくだりがあるが、マキがチャムに対してやっぱり違うという感情を抱いたと思うが、同様にチャムもマキに対して違うという感情を抱いていたのが面白かった。マキは自分では等身大の自分をネットで発信出来ていると自負していたようだが、実際のところチャムはそのように感じなかったということじゃないかと思った。
やはりネット上でアカウントを作って発信しようとしても、自ずとどこか本来の自分でない側面は出てきてしまうよなと思う。

YouTubeで100万人のチャンネル登録者がいるインフルエンサーのチャム。インフルエンサーではあるものの、ネット上の自分は薄っぺらくて取り繕った自分だし、チャンネル登録者が多いからといってすぐに飽きられてしまうという満たされてなさを感じた。
だからこそ俳優をやっているジンに惹かれたのだと思う。ジンには、長年積み上げてきた俳優としてのスキルと自分自身を価値にして売り出している。だからこそ俳優に惹かれたに違いない。
チャンネル登録者のようなフォロワーを虫扱いしているのは興味深かった。虫のようにバズったり人気になるとすぐに集ってくるが、一瞬で飽きられて去ってしまう。インフルエンサーってみんなフォロワーのことを虫だと思っているのだろうか。

俳優を長年やっているジン。ジンは既婚者で妻のショウコは社長をやっているのでヒモのような生活をしているのかなと思う。生活費はショウコが稼いでそうである。
マクベスを演じているというのが良かった。マクベスもたしかマクベス夫人に操られているという設定だった気がするので、共通するなと思った。
俳優としてキャリアを積んで、SNSなどやらずフォロワーなどの人気に媚びないあたりが凄く好きだった。

社長をやっているショウコ。ジンとショウコの間にはユウトという子供がいるみたいだが、子供とは一緒に住んでいないのだろうか、おそらく両親とも仕事が忙しいのでベビーシッターに預けてるとかだろうか。
ジンとのやり取りを見ていると、非常に女性優位な感じがしてジンは尻目に敷かれている感じがしたのだが、マカナのような貧しい若者に対してはお金を与えてしまうくらいの優しい女性なのかなとも思った。どうしてマカナの家に転がり込んで一緒に寝ていたのかは分からない。けれどショウコは、記憶を無くしてしまうほど酒癖は悪いのだなと思った。

このように、それぞれの登場人物にちゃんとリアリティあるキャラクター設定があってとても楽しませて頂いた。そしてそこから社会問題も垣間見えるし、まだまだ自分が知らない世界もあるものだなと思わせてくれる。
もしかしたら、今回の観劇が今後私が出会う人々の心情理解の手助けにもなるかもしれない。そんなことを念頭に置いて、今回の観劇の記憶を大切にしておこうと思った。

写真引用元:東京輪舞 PARCO STAGE 公式HP 撮影=岡千里


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