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舞台 「かむやらい」 観劇レビュー 2024/02/10


写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)


写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「かむやらい」
劇場:座・高円寺1
劇団・企画:カムカムミニキーナ
作・演出:松村武
出演:八嶋智人、松村武、坂本慶介、麻生かほ里、鈴木裕樹、花澤桃花、串田十二夜、谷川清夏、近藤隼、宇留野花、悦永舞、藤田記子、田原靖子、長谷部洋子、未来、亀岡孝洋、栄治郎、柳瀬芽美、渡邊礼、梶野春菜、福久聡吾、スガ・オロペサ・チヅル、天宮良
公演期間:2/1〜2/11(東京)、2/17〜2/18(大阪)
上演時間:約2時間40分(途中休憩10分を含む)
作品キーワード:神話、ファンタジー、舞台美術、難解
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


松村武さんが主宰し作演出を務める劇団「カムカムミニキーナ」の新作公演を観劇。
「カムカムミニキーナ」の公演は、『両面睨み節〜相四つで水入り〜』(2019年11月)、『猿女のリレー』(2020年7月)、『燦燦七銃士〜幕末エクスプレス1867〜』(2020年11月)と3回観劇しており、今回は約3年3ヶ月ぶり4度目の観劇となる。
「カムカムミニキーナ」の公演は、いつも日本史(特に神話時代)のエピソードをベースにファンタジーを描きつつ、脚本自体は物凄く考えさせる難解なものが多いので私はとても好みである。

今作は、初代天皇である神武天皇が大和(現在の奈良県)を3人の兄たちと平定するという、『日本書紀』に記された物語をベースとしている。
イクマイ(天宮良)という大王がヒエダ(悦永舞)から執務室でインタビューを受ける。
そこでイクマイは、自分の父親であるミッキー(坂本慶介)と3人の兄弟たちと旅に出て遠征をする過去について語り始める。
ミッキーたちには、玉婆(八嶋智人)という母がいたが船の建設中に丸太で頭を打って死んでしまう。
母を亡くした4兄弟は船を完成させると船旅に出る。
しかし、旅の道中にはナグサ(藤田記子)やニシキ(田原靖子)、ニキ(宇留野花)といったトベと呼ばれる女王たちが土地を支配しており、彼女たちと戦うことになるのだが...というもの。

私自身『日本書紀』にも詳しくなくて、神武天皇が兄弟たちと大和を平定して初代天皇になったというエピソードを全く知らなかったので、ある意味初めて触れる神話物語を追っているかのような感覚で観劇していた。
登場人物も多く情報量も多くて、一人のキャストが複数の役を演じていて今はどの配役を演じているのか混乱しながら、なかなか話の内容を掴めきれずに観劇していたのだが、それでも物語の大筋は掴むことが出来たので楽しむことができた。

しかし、今作の素晴らしさは物語性というよりは、太古の日本の世界観を演劇として上手く演出されている点にあると思う。
例えば、木製の楽器を鳴らす音や木刀のようなものを互いに打ち付ける音など、生音に凄くこだわっていて、その生音の響きが太古の日本の民族っぽさを上手く演出していて世界観が素晴らしかった。
あとは、演劇ならではという意味でサメの着ぐるみやワニの着ぐるみ、長い棒の先に鳥をくくりつけて鳥が飛んでいるように見せる演出が、映像では出来ないアナログの良さを最大限に活かしていて好きだった。
そういった演出面での創意工夫に上演中何度も驚かされて満足度が上がった。

役者陣も皆素晴らしくて、個性溢れる演技で客席から常に笑いを取る八嶋智人さんを始め、「カムカムミニキーナ」には欠かせない松村武さん、藤田記子さんの演技力の安定感は流石だった。
そして今作では特に、若手の女性俳優の見どころも多かった点も引き込まれた一要素だった。
ミッキーの子供役を演じた谷川清夏さんの、少年ぽくて逞しいけれど愛嬌もあるキャラクターは凄く魅力的に感じられたし、ニキ役の幻灯劇場所属の宇留野花さんの可憐な姿の演技も非常に魅力的で素晴らしかった。
またサナブ役の花澤桃花さんも、非常に世界観に似合った衣装を着こなし、話し方動き方を観ているだけでも引き込まれる演技力は素晴らしかった。

この戯曲から、時事的な要素は見出せなかったので、そういった意味で上演の必然性は弱かったように感じ、公演パンフレットや戯曲などを読んでようやく物語の詳細を把握できて、この作品の素晴らしさを後になって感じ入ったので、もっとストーリーを分かりやすく上演しても良かったのかなと思う。
ただ、神話をモチーフにしたファンタジー要素の強い演劇ということで非常に楽しめたし、演劇でしか味わえないような演出や世界観に沢山出会えたので、多くの人におすすめしたい作品だった。

写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)




【鑑賞動機】

「カムカムミニキーナ」は、ここ数年は観劇から遠のいていたが、今作は「カムカムミニキーナ」によく出演されるキャストに加え、他の舞台演劇で観たことがあったり、気になっていた俳優が沢山客演されるので久しぶりに観てみようと思ったから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、普段は観劇時の私自身の記憶から文字起こししているが、今作はあまり物語の詳細を観劇中に追えなかったので、公演パンフレットや戯曲を読み直してから記載している。それでも抜けや間違い等沢山あると思うが、その点はご容赦頂きたい。

イクマイ(天宮良)が執務室にいると、ヒエダ(悦永舞)とスタッフが二人入ってくる。ヒエダは、大王であるイクマイにこの国の祭典もあるということで、この国の成り立ちに関するインタビューを行いたいと言う。スタッフたちはコマを回して、イクマイに自身の過去を語らせる。
その時、風呂に入っているワニン(八嶋智人)がバスタブごと運ばれて登場する。ワニンは、この後開かれる祭典が無事開かれるのか心配している。
イクマイは、自分がこの国の大王になった背景について、自分の父のミッキーを登場させて語り始める。

イクマイの父であるミッキー(坂本慶介)は、4人兄弟の末っ子であり、兄にはイッセー(天宮良)、イナ(栄治郎)、ミケ(渡邊礼)がいた。彼らには母親の玉婆(八嶋智人)がいた。4人兄弟はずっと日向(ひなた)にいると干上がってしまうからと船を作って船旅をしようと決意し、船を作り始める。玉婆には出来の悪い子供たちだと4兄弟は心配されていた。
船を作っている最中、玉婆は丸太で頭を打って死んでしまう。4兄弟たちは船が完成すると、その船に乗って未だ行ったことのない海の向こうの島に向けて出発しようとする。その時、オオタ(亀岡孝洋)とタネコ(松村武)がやってきて4兄弟についていって一緒に船旅をしたいと申し出る。玉婆の死体も船にくくりつけて出港するが、玉婆の死体は船に近寄ってきたサメに食べられて、そのサメはオバン鮫(八嶋智人)となって4兄弟の後をつけてくる。

4兄弟は、ある島に辿り着く。そこでは島民たちが複数人やってきて、この立派な船を見て感心する。そして、ぜひ自分たちにも船の作り方を教えて欲しいと懇願される。どうやら島民たちは、この島を出たいそうだが船の作り方が分からなくて困っていたようであった。
4兄弟は船の作り方を教えるということで、島民たちに大歓迎され大盤振る舞いな食事がもてなされる。しかしその翌る日、4兄弟はこの島から出て行こうとすると、話が違うと思われたらしく島民たちに罵られ追い出される。4兄弟は再び船旅に出る。
次に4兄弟がたどり着いた島では、いきなり巨大なイノシシに襲われることになる。慌ててヤシの木の上によじ登る4兄弟だが、4人ともヤシの木から落ちてしまう。しかし、その4兄弟が落ちてきた重しによってイノシシは潰され圧迫死することで事なきを得る。その一部始終を見ていた島民たちは、その4兄弟たちをイノシシを退治した勇者だと思って称え迎え入れられる。
しかし4兄弟は、退治したイノシシを解体して食そうとしたことが、逆に島民たちにドン引きされて、再び島から追い出されてしまう。
その時、トミー(鈴木裕樹)という男性が放った弓矢がイッセーに当たり、イッセーは血を流して倒れる。

イクマイは、ここまでヒエダに話した時に、どこからか「かむやらい」と唱える声が聞こえる。
そして、舞台は女王ナグサ(藤田記子)が住む楽園へと移り変わる。ナグサは、朝食に飛んできた鳥を捕まえて解体し炭火焼きで焼いて食べる。一方で、ナグサに仕えるサナブ(花澤桃花)は、ナグサからガムを与えられて女王ナグサに付き従う。
イッセーを失って悲しみに暮れていた3兄弟たちは、ナグサと遭遇する。そして3対1で3兄弟たちはナグサたちと戦闘を開始する。戦った挙句、ナグサを打ち取ることに成功する。ナグサの死体は四つに切り裂かれる。
3兄弟は再び船に乗って旅に出たが、途中でイナが溺れて死んでしまう。
その時、イクマイの前にヒナガ(麻生かほ里)がジープに乗ってやってくる。そしてイクマイを拉致する。空は雷がバチバチと鳴っていて荒れた天気であった。

ここで幕間に入る。

オバン鮫は、自ら形を変えてワニ婆に進化する。
ミッキーとミケは、目の前に巨大な壁があると思っていたが、それは繭の郷で雇われているバイトたちによって作り出されたものだと知る。ミッキーとミケは布を切り裂いて解体させる。今度は、熊の形をした巨大な布に遭遇する。しかし、ミケはその熊の形をした怪物に踏み潰されてしまう。ミッキーは布を切り裂いて解体させる。
繭の郷を支配するニシキ(田原靖子)は、部下であるアゼ(長谷部洋子)からミッキーという人物によって布が崩壊させられたと聞きて窮地に立たされていることを知る。
一方で、ヒナガに拉致されたイクマイは、このジープでどこに向かっているのかと尋ねる。ヒナガは、「流域」に向かっていると告げられる。ヒナガ自身が「流域」に住む住人であり、「流域」はだれも神様が支配することのない領域で、全ての者がここに辿り着くと説いている。終わらない旅などなく、全ての者は皆終わりを求めて旅をしており、「流域」に辿り着くのだと言う。そして神様が必要な世界が「神域」で、みな土地をおさめる者はそこに住んでいるのだと言う。
ニシキは子供を産む。赤子の泣き声が聞こえる。そこへミッキーがやってくる。ミッキーの前にミケの死体が置かれて泣き叫ぶ。ミッキーはニシキを退治しようと戦おうとするが、ニシキは姿を消してどこかへ行ってしまう。

イクマイはヒナガに「流域」に連れてこられる。
一方で、執務室ではヒエダが、タネコ、タカジ(串田十二夜)、オオタと共に祭典を強行しようとしたことで、箕輪山で何か異変が起きていると不安を募らせている。その時、秘書(宇留野花)が色々と意味深な発言をボソボソとしている。それによって、秘書の正体が全員に疑われて、彼女はニキとなる。
ニキは、部下であるトビ(未来)と話している。ミッキーという男が攻め入ろうとしているということで大騒ぎしている。ニキは、ウシジマ(近藤隼)にミッキー討伐の命を下す。ニキには兄のトミーがいた。トビはニキと二人になった時に、ニキが男に恋心を寄せていることを見破られる。
ウシジマは、ニキがミッキーに恋心を寄せていることを知り、ミッキーに近づく。そして、自分がニキの支配する王国を討伐するのでニキを自分と結婚させてくれるように懇願する。
ウシジマが寝返ったことを知ったニキは、ウシジマ、ミッキーと対戦する。トミーはミッキーと対峙するも敗れ死んでしまう。結果的に、ミッキーは亡くなった兄貴たちの意志を継いで大王になりたいと、ニキを妃としてこの地を平定することになる。
これによって、ミッキーは「かむやらい」をして「神域」を平定することでやおよろずの神を従える大王となった。

ミッキーとニキの間に授かったのは、イクマイという息子(谷川清夏)だった。イクマイは言葉を話すことができなかった。ヒナガに連れられて、ヒナガが営むスナックに行く。そこでは、多くの人が酒を呑んで泥酔していた。イクマイはニキとも再会する。そこでイクマイはヒナガから歌を授かる。歌えるようになったことで言葉も話せるようになったイクマイ。
ミッキーは亡くなり、箕輪山の4兄弟の顔は全て崩落する。成長したイクマイは、物語序盤と同じように椅子に座ってタバコをふかしていた。ここで上演は終了する。

事前情報なしで観劇だけで物語を把握するのは至難の業だった。がしかし、演出力が抜群に高かったので2時間40分という上演時間でもずっと没入することが出来た。まず、同じキャストが複数の役を演じていて、さらに時系列が前後しながら進んでいくので、今どの役を演じているのかがわからないシーンが多々あり、ずっと混乱していた。特に天宮良さん演じるイクマイとイッセーはずっと混同していた。てっきり4兄弟で旅をした後にイッセーが大王になると思って見ていたので、途中でトミーに弓矢で射抜かれてから混乱した。どこかでイッセーは復活したのかとか、別の世界の話なのかと思いながら観劇していて混乱した。だからこそミッキーが最後まで残って大王になるというのが全く想像ついていなかったので、そういった意味では良い意味で脚本は裏切られたのかもしれない。
あとはヒナガの立ち位置が観劇中ずっとよく分からなかった。過去のエピソードの途中でちょっとずつ登場して、果たしてヒナガが登場するシーンの時間軸が今なのか昔なのか分からないでいた。それだけでなく、物語全体の立ち位置も分からないままだったので、公演パンフレットや戯曲を読んで初めて理解した。
ただ、この物語のエッセンスはやはりヒナガが語る、旅と「神域」「流域」についてのモノローグだと観劇中も分かったので、そのシーンは物凄く印象的に残ったし、それがあったからこそこの観劇全体を通じて発信されるメッセージとは何だろうかと考えさせられた。日本には八百万の神様という言葉があるように、各土地に土着の神様がいてそれぞれが多様性を持って支配している。だからこそ、ミッキーのような強大な力を持つ一強の存在に対して、何かマイナスな印象が描かれるのだなと感じた。ヒナガが、旅は必ず終わって「流域」に辿り着くというのはそんな意味合いだったのかなと感じた。
脚本のメッセージ性に関する考察は、考察パートで深く実施することにする。

写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

久しぶりの「カムカムミニキーナ」の公演観劇だったが、改めて世界観の作り方と演出力に秀でた劇団だなと感じた。神話をベースにした演劇というのは他にあまり見かけないので、「カムカムミニキーナ」らしさが存分に詰まっていて、そしてそれが演劇特有のものであるからこそ、演劇を見られて良かったと思えた。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは、舞台装置から。
「カムカムミニキーナ」の作品はいつもそうなのだが、ステージ上に何か大掛かりな大道具が仕込まれている訳ではなく、小規模且つ抽象的な装置を移動させることによってシチュエーションを表現していて、その巧妙さが今作でも非常に光っていて演出として素晴らしかった。
正方形に近いステージに対して、三方位が客席になっている構造で、ステージは常に客席に囲まれている形で上演された。四角いステージに対して、後方から前方へ縦に移動出来る人を載せることの出来る2階立ての巨大な台車が二つ設置されていた。上演中は、この二つの台車を前後に移動させることでシーン作りがなされていた。例えば、ナグサが登場するシーンでは、この台車の2階に立って朝食のために鳥を捕まえて食べていた。またこの台車は、4兄弟が建設していた船にも見立てられていた。さらに、ヒナガが運営するスナックにもなった。台車がステージの後方に位置する時は、その2階部分にミッキーが居座ることによって王座へと変貌した。そんな台車を移動させるのも役者の仕事だったが、出演者は自分のシーンで台詞を言うだけでなく、こういったキューを把握して動線に沿って動かないといけないという仕事もあって大変そうだった。
また、布の使い方が素晴らしかった。白い布をステージ上に広げることによって海を表現したり、布を使って巨大な怪物を出現させる創意工夫は演劇ならではで面白かった。
ステージの天井付近に位置する4兄弟の顔が彫られた装置もインパクトがあって好きだった。あの顔の形から劇中で誰の顔をイメージしているのかがかろうじて掴めた。また、顔がシーンを追うごとに崩壊するのが、4兄弟の死とリンクしていて好きだった。リンクしていると気づいたからこそ展開も想像できた。
ヒナガが乗っていたジープを表現する大道具も演劇ならではの演出で好きだった。基本的に何人かの人物がジープに乗るので、それぞれがジープのヘッドライトやサイド扉部分を持ってジープを再現していたのがユニークだった。
あとは、ステージの黒い床の一部が第一幕の途中でベロンと剥がれて、真っ赤に血が垂れた跡のようになったのがインパクトあった。ただ、どのシーンによってそうなったかを覚えていない。途中休憩中にスタッフの方が必死でそれを元に戻されていて大変そうだった。
全体的に舞台装置や小道具が手作り感あって非常に好きだった。かなり精巧に作り込まれているというよりは、手作りっぽさがあって保育園や幼稚園にあるようなぬいぐるみのようだった。猪や鳥、鮫、ワニがそうだった。それらを含めて「カムカムミニキーナ」らしさなのかもしれない。

次に衣装について。
個人的に一番印象に残っているのは、八嶋智人さんが演じたワニン、オバン鮫、ワニ婆の姿の衣装。物語序盤でバスタブに入ったワニンが登場した時は衝撃的だった。テレビ出演中に必死で八嶋さんは公演の宣伝をされていたそうだが、その理由がすぐに分かった。半魚人のような格好をしているのに眼鏡をかけていて八嶋さんだとすぐ分かるので最高だった。あとは、オバン鮫からワニ婆に進化する時に、着ぐるみを必死で鮫からワニにする姿がとても滑稽で良かった。そこにも演劇というナマモノの良さを感じた。
あとは、個人的に好きだったのはサナブの衣装。ちょっと緑の妖精のようですごく可愛らしかった。基本的には神話をベースにしているが、サナブの衣装を見ているとファンタジー要素が強いなと感じる。それでいうと、ナグサの衣装も素晴らしかったが、ずっと視線はサナブに行ってしまっていた。
さらに、宇留野花さんの秘書からのニキの変貌による衣装チェンジも素晴らしかった。ニキの衣装は特に好きで、ちょっとインドっぽい感じのサリーに近いような衣装が格好良くて、しかも色彩が黒とオレンジというのもちょっと女王らしさがあって好きだった。また長身で長髪、細身の宇留野さんがそれを着こなすのですごく似合っていた。
鈴木裕樹さんが演じていたトミーの衣装が異質なのが逆に良かった。すごくファンタジーの世界から飛び出してきたような存在で、弓使いなので『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスを思い起こした。ゲームに登場しそうなキャラクターだった。

次に舞台照明について。
基本的には舞台照明は、特段印象的な演出は覚えていないが、全体的にちょっとダークな感じで暗めの照明が多かったように思えた。それは、三人のトベ、つまり巫女がちょっと女王のようにダークサイドな印象があるせいかもしれない。
個人的に好きだったのが、ヒナガのスナックのシーンの照明が夜の街という感じがあって好きだった。
あとは、落雷の照明も良かった。

次に舞台音響について。
BGM、生音、歌、全て素晴らしかった。
まずはBGMだが、どこか昭和の歌謡曲のようなゆったりとした楽曲が目立っていて、物語序盤ではこれは一体どういうことなのかなと思ったが、これはヒナガのスナックに影響されている所があるのだなと思った。
そして何と言っても素晴らしかったのが生音。特に印象的なのは、ナグサが登場するシーン。役者たちがそれぞれ木製の楽器でカランコロンと生音を鳴らしていて、そこにはどこか素朴な民族っぽさを漂わせていて好きだった。舞台の世界観ともマッチしていた。あとは、木刀同士を当てることで響きの良い音がステージ上から聞こえてくる演出も良かった。太鼓なども登場して、和の楽器が多い印象だった。普段あまり楽器の音色を聞くことがないのでとても新鮮だった。
歌に関しては、やはりイクマイの歌声がグッときた。天宮良さんってこんなに歌上手かったのかと感心させられるほどで、観劇後にこの歌の意味が分かったので、よりイクマイの歌の良さを理解出来た気がした。

最後にその他演出について。
今作では、客演の女性キャストが多数登場する。彼女たちは島の住人として登場もしていたが、ちゃんと名前のある役として重要なキャラクターもになっていて良かった。
かむやらいの、やおよろずの神を従えて平定するという下りの影絵的な演出も好きだった。

写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

どの役者も素晴らしかったが、今作では「カムカムミニキーナ」によく出演されるベテラン俳優たちだけでなく、客演の若手女性俳優の活躍も目を引いた。
特に素晴らしかった役者について記載する。

まずは、ワニン・玉婆・オバン鮫・ワニ婆役を演じた「カムカムミニキーナ」所属の八嶋智人さん。八嶋さんの演技は、「カムカムミニキーナ」の『両面睨み節〜相四つで水入り〜』(2019年11月)、『燦燦七銃士〜幕末エクスプレス1867〜』(2020年11月)で観劇して以来なので、約3年3ヶ月ぶりである。
八嶋さんがテレビ出演すると必ず舞台出演の宣伝をしていると聞いていたので、その熱量が伝わってくるくらいの非常に尖って且つ勢いのある役を演じられていた。
客席から笑いが起きるのは、常に八嶋さんが出演するシーンだった印象で、良い意味でコメディっぽさをになっていたのが八嶋さんで、凄く緩急のある芝居に仕上がっていたのではないかと思った。
八嶋さんの登場シーンは、ずっとステージ上をひっきりなしに動き回っていたし、ずっと喋っていたので、おそらく終演後にはへとへとになっていたであろう(だからこそ終演後にサイン会までやっている八嶋さんの体力に驚く)。劇中で喉が渇いたから海の水を飲んでくると捌けるシーンがあったが、本当にその時の八嶋さんの喉が限界っぽかったので、良い意味で自由にやらせてもらっていて演劇の醍醐味を味わった。
キャラクターとしては、4兄弟の母親的存在で、死んでも尚姿形を変えて4兄弟を見守る役。まさしく母親なのだが、そういった存在が存在するということは、頼れる存在がいるということで「神域」を表しているのではないかと思った。4兄弟は、たしかにトベと戦うに当たって困難は沢山あったかもしれないが、いつも母に見守られていた。だからこそ、そういった信仰の対象がいるうちは「神域」から外れることはないのかなと感じた。実際、イクマイが大王になったシーンでさえワニンとして存在していたので。
とにかく八嶋さんの熱量が半端なかったので、他の作品でも八嶋さんの演技を見てみたい。

次に、ナグサ役を演じた藤田記子さん。藤田さんの演技は、『両面睨み節〜相四つで水入り〜』(2019年11月)、『猿女のリレー』(2020年7月)、それと「good morning N°5」の『ただやるだけ』(2020年12月)で観劇している。
久しぶりに藤田さんの演技を拝見したが、あの狂気っぷりは今でも炸裂していた。今作ではナグサという征伐されるべき巫女の一人だったが、鳥を生け取りにして食べてしまうあたりは狂気的だったし、それがグロテスクではなくコミカルに演じることが出来るから藤田さんは凄いよなと思う。
脚本の設定上、ナグサは第一幕で成敗されてしまうので、普段の公演よりも出番が少なくて勿体なく感じたが、出演していたシーンは迫力が凄まじくて良かったと感じている。

イクマイとイッセー役を演じていた天宮良さんも素晴らしかった。
天宮さんは、特に歌うシーンが最高だった。天宮さんってこんなにも歌が上手かったのかと思ったが、その歌によって他のシーンで感じられないグッとくる感じがあった。
あとは、天宮さん自身が物凄く貫禄があるので、大王となった時のオーラが凄く似合っていた。

あとは、若手女性キャストの躍進が目覚ましい作品でもあった。
まずは、サナブ役を演じていた花澤桃花さん。花澤さんの演技を拝見するのは初めて。
なんといっても、サナブの可憐な演技が目に焼きついている。衣装が素晴らしかったというのもあるのだが、それまでずっと島の住人をやっていたりとアンサンブル的な役回りだったのが、いきなり派手になって物語の中心に躍り出る感じがあって、その演じ方や動き、言葉に惹かれた。

次に、ニキ・秘書役を演じた宇留野花さん。宇留野さんは、関西の劇団である「幻灯劇場」所属の俳優である。演技を拝見するのは初めて。
非常に細身で長髪な容姿で、秘書という立場も似合うし、サリーのような衣装を着たニキという女王の役も似合う。たしかに悪者っぽさは感じられたのだが、男性に恋をしてしまうという設定が凄く良い。そういった女性の感情的な側面も持っていて、だからこそ国が滅ぼされてしまうというのも設定として好きだった。
あとは、鈴木裕樹さん演じるトミーとの兄と妹の関係も良かった。ニキは凄くお兄さん思いで、その会話のやり取りにもグッときた。こうやって巫女は三人登場するけれども、三人とも個性がそれぞれあるのも、物語として面白くしている一つの要素な気がする。

イクマイの子供時代を演じた谷川清夏さんも素晴らしかった。谷川さんの演技は、アガリスクエンターテイメントの『ナイゲン(2022年版)』で一度演技を拝見している。
『ナイゲン(2022年版)』で谷川さんの演技を拝見した時は、作品そのものが学園ものだったというのもあって、非常に幼い印象を抱いていたのだが、1年半ぶりに演技を拝見したら、まるで別人かというくらいに大人っぽくなっていてびっくりした。
イクマイの幼少期は、どちらかというと可愛らしさよりも逞しさを感じさせる少年である。それを凄く感じられて、演技にも迫力があった。
真面目な女子高校生役を演じていた頃とは全然印象が違っていたし、良い意味で大人になっていたので嬉しかった。この調子で、様々な出演作品で活躍して欲しい。

写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作の物語のベースとなっている『日本書紀』に書かれた神武天皇の「神武東征」と、メッセージ性について考察することにする。

正直なところ、今作はなんの事前情報もなしに観劇だけしたのでは物語に対する理解度はさっぱり深まらず、謎めいた箇所が沢山あった。
カーテンコールで八嶋さんは、作品への解像度が爆上がりする公演パンフレットと戯曲ということで、グッズの購入を促していたが、公演パンフレットや戯曲以上に、出演者の谷川清夏さんが書いた今作に関するnoteが一番分かりやすかった。私も、谷川さんのnoteを拝読したことによって、だいぶ物語への解像度が上がった。その上で公演パンフレットや戯曲を読み返すと、改めて劇中の台詞の意味や演出の意図も分かってきた気がした。




谷川さんのnoteによると、「かむやらい」というのは「神」を「やらう」(=追い払う、追い出すという意味の古語)という意味らしく、今作では4兄弟が三人の巫女を成敗することによって、その土地から神を追い払って大和を平定したので、そのことを指し示しているようである。私自身、劇中で何度か「かむやらい」という言葉が登場していたのは聞き取れたのだが、それがどういう意味なのかよくわからず終いだったので、こうやって解説してくれて感謝である。
今作は、日向(現在の宮崎県)から4兄弟が旅立って大和地方(現在の奈良県)にやってきて、3つの国を成敗して建国し、初代天皇である神武天皇が即位する「神武東征」をベースとした物語である。この3つの国の成敗こそが「かむやらい」だったのである。

そして、イクマイが物語序盤で執務室でインタビューを受けているのは分かったのだが、なぜインタビューを受けているのかというと、王朝開闢半世紀に合わせて大規模な祭典が開かれるからとのことだそう。祭典の目玉は、王国建国の歴史を再現する舞楽を催すことで、その取材のためにイクマイはインタビューされていたのである。
しかし、この建国の歴史を再現する舞楽と祭典というのは、あくまでイクマイが統治する国の視点に立った時の物語。彼らがやってきたことが正しく、正当化されるように語られた物語であって、建国者であるミッキーと敵対関係にあった三人の巫女たちは悪者として描かれる。
これは谷川さんのnoteを拝見していて凄く興味深いなと感じた。なぜなら、『日本書紀』も含めて現存する書物というのは、当時の時代の権力者が都合の良いように創作した文献しか残っていない。だからこそ、当時の権力者に成敗されてしまった国や文化に関する情報というのは残っていないからである。これは、日本に限らず世界でもそうだと思う。
昔、ユヴァル・ノア・ハラリ著の『サピエンス全史』を読んだ時も感じたのだが、一度滅んでしまった文明の文化というのは、多くはその地を後から支配した民族の文化によって塗り替えられてしまうので、その地にどんなに優れた人物がいたり文化があったとしても後世には語り継がれていないという歴史的事実があるのである。これを初めて読んで知った時に、人間の歴史の残酷さを感じたので今でも記憶に残っている。
そして、この『かむやらい』でも言及されていて、このイクマイが大王を務める王国の建国秘話には、滅ぼされた3つの国の巫女に関する悲劇は勝者の都合の良いように解釈されて伝聞されてしまう。だからこそ巫女たちは、ヒナガという存在に率いられて怨霊としてイクマイに襲いかかったという筋道は凄く納得のいくものだなと感じたし、面白い設定だなと思った。

それから、谷川さんのnoteを読んでいてもう一つ興味深いと感じたのは、言葉と歌の対比である。私は観劇中、たしかに歌が象徴的に登場するのはなんとなく分かったのだが、それが何を意味するかは掴むことができなかった。
谷川さんのnoteによれば、歌というのは言葉だけでは表現しきれない存在を指すと書いている。イクマイが統治する王国というのは言葉を使って、自分たちの勝利の歴史を言語化しているが、それによってハブられた滅ぼされた3国に関してはその言語化では表現されない領域、つまり歌と死後の世界を対応づけているのだと言う。
幼きイクマイがヒナガに連れられてやってきたのは、「流域」という死後の世界。そこでイクマイは歌を覚えることになる。しかし、イクマイは成長して大人になるといつしか歌を忘れて言葉しか話せなくなる。これって凄く面白いなと個人的には感じた。
幼い時には出来た、感じられたことでも、大人になってしまうと忘れてしまうものってある。大人になると、お金のことだったり、肩書きだったりと定式化されたものにどうしても縛られてしまうと思う。だからこそ、子供の頃の、そういった型にはまった尺度を気にすることなく無邪気に生きることを忘れてしまうのだとおもう。それが、今作でいうと歌なのかもしれないなと思った。

谷川さんのnoteで、1箇所だけ私と解釈が違うと感じた点があった。それは、「流域」と「神域」に関してである。
「流域」は、神様の存在しない世界や死後の世界を表し、信じるべきものを持っていない状態を指すと書いている。一方で、「神域」は神様の存在する世界、信じるべき存在がある世界である。イクマイが統治する王国や、三人の巫女が統治していた土地は「神域」で、ヒナガがいる世界が「流域」である。
谷川さんは、そもそも4兄弟が神武東征で戦っていたのは、特に目的もなく行き着いた存在に対して成敗していたので「流域」であるという解釈をされていた。だから、4兄弟に集まってくる流れ者たちもいたんだと。
しかし私は、そうは思ってなくて4兄弟たち自身も「神域」にいたのではないかと思って戯曲を読んでいた。なぜなら、4兄弟には彼らを見守る母親の存在がいたからである。母の玉婆は死んでからオバン鮫やワニ婆となって兄弟の守神となった。だからこそ、神に守られた存在だったから4兄弟自身も「神域」にいたんじゃないかと思った。
また、4兄弟たちは次々に旅の途中で命を落としていたが、ミッキーはそんな亡くなった兄弟たちのためにも生きて建国して大王になるという意志を強めていく。当初は、目的がぼんやりとした旅だったが、より明確化されることでそれはくっきりと「神域」なのではないかと思っていた。
さらに、旅の最終目的地が「流域」であるという台詞がどこかに書かれていた気がした。だとすれば、旅をしている時点で彼らは「神域」から「流域」に向かっているとも捉えられるのではないかと思う。
どんな人間でも、何も目的なしには生きられないと思う。信じたい宗教は欲しいし、目指したい目標は立てたいし、家族や恋人のために頑張ろうと思いたい生き物だと思う。その願望があるうちは「神域」にいて、死んで初めて「流域」に辿り着くのではないかと思う。
というのは個人的な勝手な解釈で間違っていたり、理解が足りていない部分もあるかもしれないがご容赦頂きたい。

凄く難しい脚本だったが、凄くロマンの感じられる作品だなと思ったし、改めて観劇は良いものだなと思わせる作品だった。観られて良かった。

写真引用元:カムカムミニキーナ 公式X(旧Twitter)


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