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舞台 「鏡二映ラナイ女 記憶二残ラナイ男」 観劇レビュー 2021/04/10

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【写真引用元】
企画演劇集団ボクラ団義公式Twitter
https://twitter.com/bokura_dangi

公演タイトル:「鏡二映ラナイ女 記憶二残ラナイ男」
劇団:企画演劇集団ボクラ団義
劇場:あうるすぽっと
作・演出:久保田唱
出演:沖野晃司、大神拓哉、平山空、春原優子、添田翔太、福田智行、内田智太、高橋雄一、花崎那奈、緑谷紅遥、片山陽加、宮崎理奈、飯山裕太、杉江優篤、神坐慶、池澤汐音、田畑賢人、青地洋、斎藤伸明、民本しょうこ、水野愛日、渡辺克己、根本正勝
公演期間:4/7〜4/11(東京)
上演時間:約145分
作品キーワード:ミステリー、サスペンス、どんでん返し、学園、アイドル
個人評価:★★★★★★★☆☆☆


舞台「炎炎ノ消防隊」や舞台「ぼくらの七日間戦争」など数々の2.5次元ミュージカルの脚本・演出を手掛ける久保田唱さんの劇団である「企画演劇集団ボクラ団義」の公演を初観劇。久保田唱さんの脚本・演出作品は、2020年12月に拝見したENGが企画プロデュースした「ほんとうにかくの?」以来2度目の観劇となる。この「ほんとうにかくの?」という作品が、観客側を飽きさせないような巧みなストーリー構成とエンターテインメント性に圧倒されて面白かったので、今度は久保田さんの劇団の公演を観劇したいと思い楽しみにしていた。
今作は、2012年2月に「鏡に映らない女 記憶に残らない男」として初演を迎え、今作は-Play again-公演ということで再演されたものである。ストーリーは、もう死んでしまっており自分の名前も分からない記憶を失くした女性が、自分を殺した犯人を捜索しようと事件を追っていくミステリー・サスペンスである。劇中で3人の人物がそれぞれ別々の事件で殺害されるため、3つの短編殺人事件を連続して観劇しているような感覚にもなった。
2時間25分途中休憩なしという長さではあったものの、次々とストーリーがトントン拍子に展開されていくスピード感と、次の展開は?と観客に先を推理させたくなるような惹き込み方が巧みな作品で、あっという間の2時間25分だった。学校で起こるサスペンス、テレビ局で起こるサスペンス、お笑いコンビの不仲、青春・恋愛など人々を惹き込む要素が盛りだくさんで釘付けになって楽しむことが出来た。
また、最後にまさか!と思わせるようなどんでん返しもあって、ラスト終わった後の満足度は非常に高かった。ちょっとこんな展開は想像出来なかった。だからこそ、もう一度観劇してラストを知った上での再観劇をしたくなるくらいの興味の惹きつけられ方をした。
これは万人におすすめしたいミステリー・サスペンス作品。エンターテインメント性に富んだ、そして非常にサスペンスと親和性の良い作風、ぜひ多くの人に知ってもらいたい劇団だった。

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【写真引用元】
企画演劇集団ボクラ団義公式Twitter
https://twitter.com/bokura_dangi


【鑑賞動機】

2020年12月に観劇した「ほんとうにかくの?」が非常に面白くて、作・演出を努めている久保田唱さんの劇団公演を観劇したいと思ったから。「ほんとうにかくの?」が面白かったので期待値はやや高めだった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

女(片山陽加)がベッドから目を覚ました。しかし、彼女は自分の名前も覚えていないほどの記憶喪失になっていた。そこへ男(沖野晃司)がやってくる。男は女に対して、女は誰かによって殺害されてもう死んでいるのだと教え、その殺人犯を捜査して欲しいと協力依頼をする。その殺人犯は女を含めて3人の人を殺しているので捕まえたいのだと。男は女を鏡の前に立たせて、彼女の姿が鏡に映らないことで彼女が死んでしまっていることを自覚させ、そして鏡は真実を裏返しに映すものだから、そこから真実を暴き出してくれと男は女に犯人探しを依頼する。

オープニング映像が流れる。

男は、とある芸能コースの高校に通っている水月紗矢(花崎那奈)という芸能活動をしている女子高校生のメイク道具が盗まれた事件についての話を始める。女は殺人事件ではないではないかと反論するが、男はこのメイク道具が盗まれた事件がやがて大きな事件に繋がるから聞いてくれと話を始める。
紗矢は、テレビ局でマネージャーの佐藤靖彦(添田翔太)から紹介された雨宮浩一(神坐慶)という男性に出会う。雨宮はカメラマンでいつもカメラをぶら下げていた。雨宮には三笠礼子(平山空)というマネージャーがついており、彼女も同行していた。紗矢が明るい感じで雨宮に挨拶をするが、雨宮は非常に無愛想な感じの対応しかしなかった。
雨宮と三笠が去った後、紗矢は雨宮の無愛想ぶりに文句を言う。その後、紗矢がバッグの中身を確認した際に使いかけのメイク道具が失くなっていることに気がつく。

紗矢は高校に行って同じクラスメイトたちと合流する。クラスメイトには、イケメンで俳優志望だがマネージャーもおらず仕事もない鷹宮愁(飯山裕太)、いじられキャラの田中拓巳(大神拓哉)、女子生徒の並川千波(池澤汐音)がいた。マネージャーが付いて芸能活動をしている紗矢をみんな羨ましそうに見ていた。
そこへ声優として芸能活動をしている同じクラスメイトの如月彩音(緑谷紅遥)がやってくる。彼女は売れっ子の声優で紗矢以上にクラスメイトの友達と一緒に居られる時間が少ないように思えた。
そこで紗矢はテレビ局でメイク道具を失くした話をクラスメイトの子たちにも話していた。
担任の先生である一茂樹(青地洋)がやってきて、芸能活動をやっている紗矢にちょっかいを出している。そこへ学校に紗矢のマネージャーが現れて次の芸能仕事に間に合わないから早く行くぞと連れて行かれる。

紗矢がテレビ局に到着すると、大御所の女優で態度の大きい大松島菜々子(春原優子)が何時間遅刻しているんだとばかりに紗矢に冷たく当たってきた。紗矢が遅刻していたため、紗矢の出番部分は後回しとなっていた。急いで紗矢は収録の支度をしに向かった。
紗矢のクラスメイトたちは、如月彩音がテレビ局への入館証を持っていたため、紗矢の収録現場のテレビ局へ侵入していた。紗矢はメイク道具を失くしたと言っていたので、おそらく紗矢のストーカーが出入りしているんじゃないかと疑ったからである。
すると、オタクの格好をした担任の一茂樹に遭遇する。メイク道具を盗んだ犯人は一茂樹なんじゃないかと追求するが、どうやら違ったようであった。

その時、雨宮のマネージャーである三笠が、使いかけの毒の入ったメイク道具を間違えて使いそうだったと大声を上げる事件が発生する。誰かが三笠のことを恨んでいて、彼女の持ち物の中に毒を入れたメイク道具を仕込んだのだろうと。そしてその使いかけのメイク道具は、紗矢のメイク道具であることが発覚する。
紗矢と面識があって且つ三笠の側にいる人物となると、犯人は雨宮しかいないと皆が判断した。
雨宮は取り押さえられた。動機を聴くと、雨宮はずっと三笠のことが好きだった。しかし、紗矢という女子高生を見つけてカメラマンをしていたら彼女の方が好きになってしまった。次第に三笠を見ていると非常に辛く感じるようになったため、彼女を消し去りたいという衝動から犯行に及んだようだった。
しかし、三笠は彼を殺人容疑で逮捕しないで欲しいと懇願する。三笠は雨宮のことが好きであり、いつまでも一緒にいたいのだと。こうして、雨宮と三笠は今後も二人でカメラマンとマネージャーとして活動を続けいていくことになった。

そんな事件の裏で、クラスメイト同士でこんな出来事も起こっていた。
鷹宮がずっと片思いを寄せていた如月に告白をした。そしてその返事を録音で受け取ったが、「ずっと友達でいたいから、ごめんなさい」というものだった。その音声を鷹宮が聞いた際、そばに紗矢がいた。鷹宮は、「どうせ振られるなら、直接顔を見て話して欲しかった」と言った。
その後、クラスメイトみんながいる前で如月は、鷹宮の告白がもうちょっとロマンチックだったら付き合っていたかもなとさらっと言葉にしていた。

ここまでの話を聞いた女は、殺人事件起きなかったじゃないかと男に対して怒りをぶつけるが、男はこの後何者かによって如月が惨殺されたことを告げる。女には全く理解出来なかった。如月が惨殺される理由はこのメイク道具事件から全然想像出来なかった。如月は、鏡の破片で切りつけられた痕跡と、胸部に鏡の破片が突き刺さっており、おそらくそれが死因だと推測されていた。そしてこの事件をきっかけとして、仲良しだったクラスメイトたちはバラバラとなった。

男は次の事件について説明を始める。今度は、紗矢たちのクラスメイトが大人になってからの話である。
大人になった紗矢(宮崎理奈)は、父親の水月増生(斎藤伸明)と母親の水月暁美(水野愛日)と暮らしていた。紗矢はたまに芸能関連の仕事がくるくらいの平凡な生活をしていた。暁美はお笑いが大好きで、高校時代クラスメイトだった田中拓巳と畑中敦(内田智太)のお笑いコンビをテレビで観るのが大好きだった。
しかし、この紗矢の両親の不仲と、お笑いコンビの不仲が原因となって次の殺人事件が起きるのだと男は話す。

紗矢は久しぶりに鷹宮愁(根本正勝)から連絡をもらい、会うことになる。鷹宮は俳優になることを諦めて刑事になっていた。理由は、如月が殺されて犯人が挙がらないため、その犯人に関する情報を集めるべくして刑事になったと紗矢に伝えた。鷹宮が如月の遺体を発見した第一人者というのもあった。紗矢は鷹宮が無事如月を殺した犯人を挙げられるよう応援し、自分も協力すると言う。
紗矢は偶然芸能活動の仕事で、お笑いコンビの二人に出会う。しかし、この二人のコンビが仲が悪いことを察していた。そこへお笑いコンビのマネージャーである竜造寺久弥(福田智行)がやってくる。彼はとても仕事が出来そうなイケメンで、二人のお笑いコンビの間に入って諌めていた。
しかし、この竜造寺と暁美(紗矢の母親)との間で繋がりがあり、暁美が竜造寺に対してお笑いのネタを提供しているという事実を紗矢は掴む。そこで紗矢は暁美が竜造寺と不倫をしているのではないかという憶測を立てる。
そこで紗矢は、田所真一(田畑賢人)という探偵を雇って暁美の周辺を調べて欲しいと依頼する。
また、なぜか紗矢は近況を逐一鷹宮に報告するのだった。

しかし、田所による暁美の周辺調査の結果、暁美は特に竜造寺と不倫はしていなかったという結論だった。確かに暁美は竜造寺と会ってはいたものの、仕事の話しかしていなかったといった結果だった。
だがその直後、この探偵の田所は何者かによって殺されてしまった。如月と同じように、鏡の破片で切りつけられて、胸部に刺さった鏡の破片による刺傷が死因であろうと。これは如月を殺した犯人と同一人物であろうと考えられる。

これを聞いた女は、おそらく如月や田所を殺したのは鷹宮なのではないかと推測する。鷹宮は告白して振られたショックから如月を殺害し、田所の暁美の周辺調査によって鷹宮に関する情報も何か知ってしまった口封じとして殺されたんじゃないかと。そして、今ここにいる男こそ、鷹宮愁本人でお前が犯人なのだと女は推理をした。
男は、自分が鷹宮であることは認めるが、果たして殺人犯は鷹宮なのかはどうかなといった口ぶりをする。そして、最後の事件で今度は女であるあなたが殺されるので、そちらを見てジャッジしてもらおうと言う。

まだ女に該当する女性が出てきていなかったので男が女の正体を言ってしまうと、彼女は実は芸能コースのクラスメイトの並川千波(春原優子)であり、この後何者かによって殺されると言う。
千波はここ最近急激にブレイクした女優で、マネージャーも付くほどの立派な女優になった。また、千波は鷹宮と付き合っていて婚約していた。千波と紗矢は同じ現場でドラマ(だったかな?)の撮影をすることになった。その時、自分自身で鏡の破片で胸を突き刺すというシーンを収録予定で、その鏡の破片には身体にあたると偽物の血がドバっと出る仕掛けが用意されていた。
しかし、本番の撮影が始まり千波が偽物だと思って思い切り胸部に鏡の破片を刺したその時、まさか本物の鏡の破片にすり替えられており、そのまま千波は死んでしまった。現場は大騒ぎだった。誰が鏡の破片を本物にすり替えたのだろうか。本物にすり替えたのは、催眠術を扱える紗矢と交際中の大木凡(杉江優篤)だったとわかり、彼が逮捕された。

鷹宮はその時学校におり、如月を殺したのは鷹宮なんじゃないかと推理した、如月の父親で且つ刑事の如月更津(渡辺克己)がやってきて、鷹宮と取っ組み合おうとしていたが、そこへ紗矢から鷹宮宛てに電話が入ってテレビ局の現場が大変なことになったと聞いたので、すぐにそちらへ駆けつけることになった。

ここまでの話を聞いて、女は殺人犯はなんて凶悪なのだと思った上で、やはり鷹宮が殺人犯ではないかと推理した。鷹宮はおそらく紗矢のことが好きだった。頻繁に連絡を取り合っていたことからもそれが窺える。鷹宮にとってその関係に水を差す邪魔な存在は、婚約相手の並川千波と紗矢の交際相手の大木凡。この二人を消しかけるために、大木凡の催眠術によって千波に本物の鏡の破片を渡すようそむけ、千波は殺されることによって消され、大木凡は逮捕されることによって消されたのじゃないかと女は推理した。これによって、鷹宮はめでたく紗矢と一緒になることが出来ると。
これに対して、男はその推理は間違いだと言う。その説にはいくつかの矛盾が孕んでいると。男は真実をそのまま全て語った訳ではなく、一部を鏡のごとく逆さまに反転させて説明していると述べる。ここから、男の口による真実が語られる。

まず、殺人犯の犯人は鷹宮ではなく紗矢であると言う。
まず如月を殺したのが鷹宮だったら、振られたショックで人を殺すだろうかと疑問する。紗矢は芸能関係の仕事で、周囲のクラスメイトのように友達と談笑出来る時間が取れず、みんな仲良しでいる周囲の友達に嫉妬していた。なのに如月ときたら、自分と同じ芸能活動で多忙であるにも関わらず、鷹宮に恋心を募らせるくらいの仲の良さを保っていたことに納得がいかなかった。ましてや、鷹宮に告白されたにも関わらず、音声でお断りの連絡を入れ、その後みんなの前で「鷹宮君の告白がもっとロマンチックだったら付き合ってたかも」なんて言っていることを聞いて我慢ならなかった。紗矢は本当は鷹宮が好きだったのに。
だから紗矢は如月を殺した。鏡の破片で刺した。しかしその時に紗矢自身も傷を負っていた。その傷をカメラマンの雨宮は偶然見つけてしまった。そして彼は如月を殺した犯人が紗矢だとカメラ越しで知ってしまった。それ以来、雨宮は発狂してカメラの仕事を続けることをしなくなってしまった。
大人になって、久しぶりに鷹宮から連絡が来て会ったときの紗矢は凄く嬉しかった。だからその後頻繁に鷹宮と連絡を取るようになった。如月を殺した犯人を探す協力をするから連絡をするのではなく、好きだから連絡を取っていた。それなのに、田所という探偵は自分の母の周辺を調査すれば良いものを、紗矢自身のことも色々と調べ、如月を殺した事件の真相を知ってしまった。だから口封じのために紗矢は田所を殺した。
紗矢と鷹宮が結びつくために邪魔な存在、それは紗矢の今の交際相手の大木凡と、鷹宮と婚約中の千波。別に鷹宮は今でも千波のことを大好きで浮気なんて考えていなかった。鷹宮は如月が亡くなった時にずっとショックを受けていた自分を慰めてくれたのは千波だった。千波がずっとそばにいた。だから千波と鷹宮は付き合うことになった。
紗矢は大木凡と付き合っていたが、別に好きで付き合っている訳じゃなかった。大木凡の催眠術を巧みに使って千波を惑わし、千波に自分で鏡の破片で死なせるよう指図したのは紗矢だった。これによって、大木凡は刑務所送りに、千波は殺されていなくなって鷹宮と紗矢は一緒になれると思った。

しかし、紗矢の一連の犯行はバレて逮捕された。そして、自分がやったことを自ら自白した。だが、急に半狂乱になって窓から飛び降りた後遺症で殺人の記憶を失った女性となってしまった。
ここにいる女は千波なんかではない、ここは天国なんかでもなく現実の世界だ。紗矢自身は今ここにいる女、お前だ、お前が3人を殺害したんだと男は怒鳴る。
自分がやったことがいかに酷いことだったか、客観的に見たことで分かるだろうと。自分が記憶を失う前にやってきたことがいかに恐ろしいことだったか分かるだろうと男は言う。
男は女に要望する。ここで自ら行ったことを自覚して死んで欲しいと。第4の殺人を犯して欲しいと言う。本来あんなやり方で人を3人殺したのは凶悪犯で死刑になるべきだが、記憶がないと裁判にかけられないんだと。だからここで自分の手で死んでくれと迫る。
女はチョックを受けるものの、自分を殺すことは出来なかった。そしてふさぎ込んでしまう。そこへ男は、大木凡を呼ぶ。大木凡はまたですか、何回やるんですかと言いながら、女に催眠術をかける。先ほどの記憶を全てなくさせる催眠術。

女は目を覚ます。ここはどこ、私は誰状態で。そして男がいることを発見する。そして男は言う「あなたを殺した犯人の殺人事件の捜査を依頼したい。」と。ここで物語は終了。

目の離すことの出来ない、グイグイと観客を虜にするような面白い作品だった。3つの殺人事件が断続的に短編ものとして存在するかのように語られるのも面白かったのだが、最後にそう繋がるのか!と合点をいかせる伏線回収が素晴らしすぎた。脚本としてのクオリティが本当に高い作品だと感じた。
ラストの展開は衝撃的で、女は何度も何度も催眠術をかけられて、自分が殺人犯であることを自覚させられて死ぬように迫られてを繰り返しているとなると、もうそれだけで罪は償っているよと感じてしまう。これだけで既に拷問だと思う。逆に最後は、男の方が狂気じみているなと感じてしまった。
それでも、最後の展開は読めなかったのでとても楽しむことが出来た。自分も鷹宮が怪しいとずっと思い込んでしまった。まあ女が千波だったというのはたしかにしっくり言っていなかったが。そんな観客を裏切ってくるストーリー素晴らしかった。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今作では、特に舞台装置と照明と音響とオープニング映像が格好良かったので、そちらを重点的に触れながら世界観を見ていく。

まずは舞台装置だが、ステージが上段と下段で分かれていて、上段は後方の客席から丁度良く観られるくらいの高い位置にセットされていた。私は前方で観劇したので、上段のステージは見上げる感じで観劇していた。
下段は主に男と女のやり取りや、テレビ局での出来事で使われることが多かった。序盤と終盤の男と女のやり取りの際には、中央に大きな鏡台が設置されていて、この鏡台が今作のキーとなるオブジェになる。フライヤーに登場するような楕円形の大きな鏡台だった。
上段は、主に学校のシーンと殺人が起きるシーンが行われることが多かった。特に上段の背後には教室の壁を表すパネルが設置されていたので、本当に学校といった感じだった。担任の先生が登場する様に教室扉も備え付けられていた。
あうるすぽっとはステージ自体が広いので、舞台装置を完璧にセット出来る感じではなかったが、上段と下段を上手く使い分けていたと思っている。

次に照明だが、こちらは本当に迫力ある演出が多くて素晴らしかった。少しミュージカルチックなシーンが多くて、その都度照明演出の素晴らしさに圧倒された。
例えば、序盤と終盤である複数の殺人事件が同時に起こるミュージカル風な演出部分の、ブルーの照明が本当に格好良かった。スポットが観客側にもしっかり当たる点が良かった。舞台上に一方向にしか当たらないのではなく、照明自体を回転させながら様々な部分を照らした臨場感は堪らなかった。
また、殺人が起きるシーンでの、真っ赤な照明も鮮やかなカラーとしてとても印象的。特に殺人が起きた一番最初の如月が殺害するシーンは、男のナレーションも入って物凄く痛々しく感じて演出として最高だった。

次に音響だが、音響も物凄く格好良かった。音楽自体はエンターテインメント性に富んだ観客の興奮をそそるような感じの曲なのだが、あうるすぽっとはスピーカーのクオリティが高いことを改めて実感した。ウーファーのような物凄く重低音を強く効かせた音楽が個人的には凄く好みで、それがしっかり効いていて観客をエンターテインメントの世界へ誘ってくれたというような感じ。
この後にも書くが、オープニング映像と音響のコラボが本当に最高だった。
こういう観客のテンションをどんどん高めてくれるような音響ってやっぱり素敵。

最後にオープニング映像だが、オープニングの時だけ舞台ステージ前方に薄いスクリーンが降りてきて、そこに映像が投影される。
背後の役者たちもうっすらとスクリーンを通して確認でき、そこでもしっかりOPテーマに合わせて演技をしていた。
そしてなんといっても、オープニング映像のクオリティ。サスペンスということもあって血が滴っているようなよくあるビジュアルを赤ではなくダークに変えて、無正色で描いた映像クオリティに圧倒された。ここで、しっかり物語の冒頭の内容も文字で振り返ってくれるので、ストーリーを知らない観客もしっかり導入部分を理解して楽しめる工夫になっていた点が素晴らしかった。
こういう映像の演出方法って、以前観劇したキューティーハニーの舞台でもそうだったので、2.5次元ミュージカルではよく取られる手法なのかなとも思った。

演出部分については、日替わりパートといって毎公演キャストがアドリブで披露するシーンが一部あったのだが、私が観劇した回は拓巳を演じる大神拓哉さんがドラえもんを演じ、民本しょうこさんが織田信長になって本能寺に向かうというシチュエーションで、ドラえもんがどこでもドアを出した所で会場どころか、キャスト陣も笑っていたシーンがとても面白かった。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

実に23人ものキャストが登場するが、全員には触れられないので主要人物をピックアップして取り上げる。

まずは、男役を演じた沖野晃司さん。ボクラ団義の副代表であり、殺陣師や振り付け師や声優など多才な才能を持つ役者さん。沖野さんの演技を拝見するのは今作が初めてだったのだが、最後のシーンで女が殺人犯の水月紗矢だと発覚して、怒涛のように女に死ぬことを強要する力強い演技が、なんとも迫力がありつつ非常に良い意味で怖かった。青春時代に恋い焦がれていた如月や、ずっと付き合ってきた千波を殺された恨みというものが一気に放出されたような感じの恐ろしい怨念みたいなものが、非常に怖くて且つ良かった。
ここは演出部分になってしまうが、その際に、過去の鷹宮二人も同じように女に向けて怒りをぶつけている見せ方も面白かった。
あの力強い演技を他の作品でも観てみたいと思った。

次に女役を演じた片山陽加さん。片山さんは元々AKB48のメンバーであり、現在は音楽劇・ミュージカルを中心に女優として活躍されている。今作は歌うシーンはなかったが、細くて華奢な体型ながら力強く男という存在に立ち向かう姿に格好良さを感じた。
また、最後のシーンで自分が殺人犯だと分かってから呆然とする演技にもすごく惹かれた。これが仮に自分だったらどんな感情になるだろう。でも自殺するという選択肢は選べないと思ってしまう。そのシーンから女という存在に感情移入できた。それは、こうやって男に拷問されて今まで自分に対する記憶がなかったから、自分がやってきたことを酷いと思えたが、いざ自分がやったと分かった時のショックといったらないだろう。そんな、呆然とさせる状況下に置かれた女に対して哀れみの同情を抱いたので、凄く最後は共感出来た。

大人になった水月紗矢を演じた宮崎理奈さんも好演だった。宮崎さんはSUPER☆GiRLSの元メンバーであり、現在はエイベックス・マネジメントに所属する女優である。彼女も基本的には2.5次元女優として活躍されている方である。
中盤登場するシーンでは、普通によくいる女性といった感じなのだが、殺人犯が紗矢であると分かってからの彼女のキャラクターの変貌ぶりがヤバい。それまで、この人が殺人を犯すなんて想像つかなかったが、たちまち人殺しのシーンで彼女が殺人犯になると、その変貌ぶりによって殺人犯として合点がいってしまう。そのくらい、紗矢を殺人犯としてバレさせないように演技と演出が工夫されているんだなと感じた。
宮崎さんの演技も他作品でもぜひ観てみたいと思った。

次に田中拓巳役を演じていた大神拓哉さん。大神さんはボクラ団義所属の俳優さんで、「ほんとうにかくの?」にも出演されていて演技を拝見するのが2度目。
今回の作品でもお笑い芸人役といったコメディ担当の演技をされていて、沢山笑わせて頂いた。本当に大神さんは笑いを取りにいける俳優さんだと改めて実感した。ただ今作は「ほんとうにかくの?」ほど笑いの出番がある感じではなかったので大人しかったが、場を笑いの方向へ盛り上げてくれるのは彼の演技だと思った。

そして個人的に注目したかったのが、女子高生の水月紗矢を演じたボクラ団義所属の花崎那奈さんと、女子高生の並川千波を演じた池澤汐音さん。彼女らはそれぞれ1998年、1997年生まれとまだ20代前半だが、しっかりと舞台全体にインパクトの残せるような演技をされていて感動した。
花崎さんは、凄くませている女子高生というのが印象的で、例えばマネージャーを扱き使ったり大きい態度を取る感じが、役作りとして素晴らしかった。そして、しっかりと最後如月を殺した犯人だったとなっても、想像がつくくらい狂気的な女子高生にも見えて良かった。一箇所、如月を殺すシーンの演技があまり迫力を感じられなくてこれで良いのか?ってなった。
池澤さんは、そこまで出番の多い役ではなかったのだが、同じクラスメイトの脇役的な女子高校生で、凄く友達想いで明るい印象が好きだった。終盤の、並川千波が大人になった方は春原優子さんが演じられていたが、マネージャー役が池澤さんだったので凄く垢抜けておしゃれになった感じのギャップが堪らなかった。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

久保田唱さんのサスペンスは定評があるようで楽しみにしていたが、ここまで展開予想を裏切られることになるとは思わなかった。なんといっても結末は衝撃的だった。
ここでは、今作の脚本やキャラクター性について触れながらだらだらと考察してみる。

個人的に思ったのが、この水月紗矢という女性自体が物凄く嫉妬深く計算高い女性だと思ったことである。世間一般的に男性から嫌われてしまうタイプの女性かなと思った。物語の設定上、片山さんが演じた女という女性は、頭が良いという設定だった。たしかに女と紗矢が同一人物だとすることで、どちらも計算高く頭の良い女性という性格は一致するかなと思う。千波は頭が良いというよりかは、そこまで才能はなく目立たないが友達想いみたいなキャラクターなので、改めて考えてみると千波と女を同一人物と考えるのは無理があるなと思った。
ただ、紗矢の気持ちもすごくよく分かるなと思ってしまった。芸能活動を学生時代の時から続けている方の話を聞くと、普通の学生生活を送りたかったという声をよく聞くし、みんなが青春をエンジョイしている中で自分だけスケジュールに追われて仕事しているってなんだか大変だよなあと。だから、殺人の動機を全て聞き終えた後は割と紗矢に同情していた。
ただ、大人になってから探偵を雇って母親の不倫を暴こうとしたり、好きな男性を取り巻く人間関係を抹消しようとしたのは凄く恐ろしいと感じた。そこまでやってしまうのは狂気地味ているなあと。

しかし、狂気じみているのは男、つまり鷹宮愁も同じではないかと思った。いくら愛人二人殺されて紗矢が憎いと思っていても、何度も何度も紗矢に催眠術をかけさせて、自分が殺人を犯した人間なんだということを自覚させ自殺に追い込むって、凄い酷い拷問だと感じてしまった。
確かに刑事だから、彼女を殺すことは出来ないし、死刑にかけることも出来ない。しかし、何度も何度も記憶喪失にさせて拷問させて自殺に追いやるって相当狂気じみていて怖かった。愛人を殺されるとそうも狂ってしまうものなのだろうか。

そしてこうやって考察してみると、この作品から2つのメッセージ性が読み取れると感じた。
一つ目は法律制度の問題である。紗矢は犯行を認めていたので、窓に飛び降りて記憶喪失にならなければそのまま死刑になっていただろう。しかし、記憶喪失になったことで自分が犯行したという自覚が今はないので死刑に出来ないということである。ここに法律制度の欠陥を感じられるし、やはり法律で人を裁く問題みたいな部分を凄く感じられた。
作者がそのような意図を持ってラストの部分を描写しているかは不明だが、少なくとも私はそう感じた。
二つ目は自分の人生を客観的に見つめることの重要性を感じた気がした。女は自分ごとであるとは知らず客観的に水月紗矢という女性の行動を追って殺人事件の真相に迫った。その時、自分がまさか水月紗矢であるという自覚がないので、悪く言えば他人事、良く言えば客観的に自分の歩んだ人生を見ていた訳である。
それによって自分がなんという酷いことをしたのか、ということが見えてきた。冷静になればきっとなぜこんなこと犯してしまったのだろうという殺人ばかりだった。だからこそ、客観的に自分の人生を俯瞰することは大事であり、そうすることによって冷静に物事を判断できるのだろうなという、自分にも戒めるような形でメッセージ性を見出した。

それにしても、こんな素晴らしい脚本を書いてしまう久保田唱さんは素晴らしい脚本家である。今後は、ボクラ団義の新作も観てみたいと思いつつ、久保田さんが手掛ける2.5次元ミュージカルにも足を運んでみたいと思った。


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