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舞台 「BGM」 観劇レビュー 2023/05/05


写真引用元:ロロ 公式Twitter


公演タイトル:「BGM」
劇場:神奈川芸術劇場 大スタジオ
劇団・企画:ロロ
作・演出:三浦直之
音楽:曽我部恵一
出演:亀島一徳、福原冠、島田桃子、望月綾乃、岩本えり、井上向日葵、北村恵、荒木知佳、桝永啓介、曽我部恵一
公演期間:5/5〜5/10(東京)
上演時間:約2時間15分(途中休憩なし)
作品キーワード:青春、ファンタジー、旅行記、舞台美術、音楽劇
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


映画『サマーフィルムにのって』の脚本を務めるなど多方面で活躍している劇作家の三浦直之さんが主宰する劇団「ロロ」の本公演を観劇。
私自身「ロロ」の公演は、2020年2月に上演された『四角い2つのさみしい窓』、2021年10月に上演された『Every Body feat. フランケンシュタイン』、2022年4月に上演された『ロマンティックコメディ』を観劇していて、今回で4度目の観劇となる。
今回上演された『BGM』は、2017年に下北沢の劇場ザ・スズナリで初演を迎えており、今回はその再演となる。私は『BGM』の観劇は初めてとなる。

物語は、仙台で開かれる友人・午前二時(島田桃子)の結婚式へ向かおうと、常磐自動車道を車で東京から仙台へ北上する泡之介(亀島一徳)とBBQ(福原冠)を中心とした物語になっている。
時間軸は、今作が初演された1年前の2016年と、そのさらに10年前に泡之介とBBQと午前二時の3人で東京と仙台の間のいわきや会津若松を傷心旅行した時の時間軸が交互に描かれながら進んでいく。10年前は、午前二時は元カレの永井(曽我部恵一)にフラれたばかりで占いに頼るなど迷える子羊のような状態だった。
そんな10年前の午前二時との思い出と、結婚式を迎える今の午前二時に思いを馳せながら、懐かしさに浸りながら泡之介とBBQは東京から仙台へ車で向かう旅をするというもの。

大学生時代を仙台で過ごした筆者にとっては、なんとも青春時代を掘り起こされるような描写ばかりで、地名も知っている場所ばかりで凄く学生時代に戻りたくなるような思いにさせられた。
また東北地方へ旅行に行きたくなるようなストーリーに感じた。三浦さん自身も宮城県仙台市出身の方なので、自身の学生時代を振り返りながら書かれた脚本なのかなと思うと、色々と親近感を感じた。

旅の途中で、MC聞こえる(井上向日葵)といった小学生や、繭子(岩本えり)といった占い師などが登場する。
彼らはもちろん旅先で初めて知り合った人なのだが、互いに打ち解けあって旅の仲間に加わっていく感じが、リアリティある作品なのだけれどどこか冒険ものの作品のようで、ファンタジーとかお伽話の世界にも感じられて不思議な感覚だった。
なんとも形容し難い不思議な世界観に魅了された。

そして、今回なんといっても初演時と比べて豪華な音楽劇となって生まれ変わっている点も見どころである。
オープニングの映像を取り入れた演出や、劇中の皆でダンスしながら歌うシーンは、楽曲が非常に好みだったせいもあってか、音楽の力が上手く演劇と融合して素晴らしかった。

舞台装置、音楽、照明、映像と、全ての舞台美術のスタッフワークが結集して仕上がった極上の青春音楽劇で、多くの人におすすめしたい。
特に学生時代に地方で暮らして就職で東京に住んでいる方には凄く刺さる作品なのではないかと思う。
私が観劇した回の客層は若年層が多く、若い人がメインで楽しめる舞台作品ではないだろうか。

写真引用元:ステージナタリー ロロ「BGM」より。(撮影:阿部章仁)


【鑑賞動機】

三浦直之さんが脚本演出を務める「ロロ」の公演は好きで、いつ高シリーズは観ていないが、2020年2月の『四角い2つのさみしい窓』以来基本的に観劇している。今作は、音楽劇として仕上がっているという点に惹かれたこと、さらに自分もかつて住んだことがある仙台と東京を結ぶエリアの話であるということで自分の経験とも身近に感じたので観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

2016年、泡之介(亀島一徳)とBBQ(福原冠)は、自動車に乗って常磐自動車道を東京から仙台へと北上している。仙台で開かれる午前二時(島田桃子)の結婚式に向かっている最中である。泡之介とBBQは、かつて午前二時と3人で、東京から仙台へ自動車で旅をした時の思い出話を話している。そこへ、アイドルグループSMAPの解散がネットニュースで報じられる。きっと午前二時はショックだろうと二人は思う。
彼らは午前二時に電話をする。二人が自動車で走っているのは利根川付近で晴れているが、午前二時の話では仙台は雨が降っている。SMAPの解散報道もあってか、午前二時は雨に濡れたい気分だと言う。
2006年、自動車には泡之介とBBQと午前二時が乗っていた。午前二時は、彼氏の永井にフラれたばかりで、その彼氏との思い出の品をどこかに埋めようと常磐自動車動を走っていた。

ここでオープニング映像が流れる。ステージ上にはいくつかの自動車が走り、スクリーンには夜空と高速道路のイメージが映される。

2016年、泡之介とBBQは守谷サービスエリアに立ち止まる。そこには空き缶などが捨ててあった。そこへ一人の女性が現れる。彼女は、こうやって駐車場に空き缶や衣服や自分の所持品を並べることによって、自分の存在証明をしているようだった。
同じように、泡之介とBBQも自分たちの衣服を駐車場に並べてみる。その女性に二人は付き合っているのかと聞かれる。二人は頷く。
そこへ、橘姉(井上向日葵)と妹橘(荒木知佳)がやってくる。彼女たちは、この駐車場を警備しているようで、衣服を駐車場に並べる泡之介たちを注意する。泡之介とBBQは車に乗り込んで、守谷サービスエリアを出ようとする。しかし、その女性は彼らを引き止めて、車に乗せて欲しいと言う。彼女は、綾月希海(望月綾乃)というらしく女優をやっていて、いわきにある「アリオス」という劇場へ演劇を観に行きたいのだと言う。
泡之介とBBQは、綾月を車に乗せて出発する。

2006年、泡之介とBBQ、そして午前二時はいわきにやってくる。そこには、一人の占い師である繭子(岩本えり)がいた。午前二時は彼氏にフラれて占いに飛びつきたいと思っていて、繭子に占って欲しいと尋ねる。しかし、繭子はまだ夜明けで占いの時間を開始していないと断る。
泡之介は繭子にこの辺でお店はないかと尋ねる。繭子は彼らの道案内をする。そして、そのまま繭子は3人を乗せた車に乗り込んで、ナビの音声を聞くと、このナビの音声は自分が若かったときに収録したものだと教えてくれる。泡之介たちは、このナビが方向音痴だと愚痴っていた。繭子は、自分の声のガイドによるナビが嬉しくなって、そのまま彼らに同行するようになる。

2006年、浜通りに着いた泡之介たち。午前二時は海岸のどのあたりに彼氏との思い出を埋めようか迷っていた。そこへ、MC聞こえる(井上向日葵)とDJウルトラギガファイアーソードZ(北村恵)がやってくる。MC聞こえるはまだ小学生くらいのようだが、泡之介たちに、ここの海岸にモノを埋めようとしてんじゃねえと勝負をしかけてくる。MC聞こえると泡之介たちは、ラップで勝負をすることになる。
泡之介とBBQは、MC聞こえるにラップでメガネのことを似合わねえと貶される。そこへ繭子がMC聞こえるにラップで反撃する。
観念したMC聞こえるは、貝殻に耳を当ててそこから青春18きっぷの音がすると言う。貝殻は沢山あって、そのどれもが違う音がすると。そんな青春18きっぷの貝殻を集めているのだとMC聞こえるは言う。両親に内緒で、MC聞こえるはその青春18きっぷの貝殻を探しに泡之介たちと一緒に旅をすることになる。

2016年、同じ場所に泡之介、BBQ、そして綾月はやってくる。泡之介は、あの時午前二時が埋めた永井との思い出の品を探そうとする。綾月も砂浜で探していると、いつの間にか自分の身体が砂に埋もれてしまう。
綾月は、砂浜の地下世界にきていた。そこで、金魚すくい(荒木知佳)に出会う。金魚すくいは、恐竜の化石にような格好をしている。地下世界には、瓶の中に入った手紙があった。それは、午前二時が永井に向けて書いたラブレターであった。
そこへ、2006年のときの永井(曽我部恵一)とセフテンバー(桝永啓介)がやってくる。永井は、先日午前二時と別れたばかりだと落ち込んでいる。そして永井はギターを弾きながら歌う。そして永井とセプテンバーは去っていく。
泡之介とBBQはなにやら、砂浜から午前二時が捨てたへその緒を見つけたと引っ張り出そうとする。そのへその緒にしがみつく綾月と金魚すくい。泡之介は、へその緒を引っ張り上げると、綾月と金魚すくいが釣り上げられてびっくりする。そして金魚すくいも旅の一向に加わって行動することになる。

泡之介たちは、「ハードオフ」という店に立ち寄る。金魚すくいは、そこでドモホルンリンクル(北村恵)に出会う。ドモホルンリンクルは、震災で失った人の遺品を集めているのだと言う。金魚すくいは、ドモホルンリンクルの手伝いをしたいと言って一緒に行動することになる。
綾月は、いわきの劇場「アリオス」に辿り着くも、開演時間を間違えていて結局演劇を観ることができなかった。

2006年、午前二時は繭子に占ってもらっていた。その後、酒を飲んで午前二時とBBQは眠ってしまう。そして二人は寝言で「カマドウマ?」と会話している。
その様子を滑稽に泡之介と繭子は見ていた。泡之介は、二人はいつもこうなんだと繭子に教える。
2016年、泡之介とBBQは同じ場所にきてみたが、もう繭子の姿はどこにもなかった。
また2006年に遡り、今度はMC聞こえるが繭子に占ってもらっていた。そしてそのまま、占い師が使っていた水晶がカラオケのミラーボールとなっていて、天井に取り付けられる。そして、楽曲「愛と言え」が流れて、役者一同は踊りながら歌う。ミラーボールは煌々と輝く。

2016年、いわきを抜けて泡之介とBBQは常磐自動車動をさらに北上して仙台へ向かう。しかし今、後部座席には綾月がいないことに気が付く。その代わりに後部座席には金魚すくいが眠っていた。
泡之介たちは綾月に電話をかける。綾月は自転車で仙台へ向かうと言う。
その後、泡之介たちはMC聞こえるに久々に再会する。MC聞こえるはまだ小学生のようである。泡之介は、MC聞こえるに午前二時が結婚することを伝える。午前二時に電話をかける泡之介、MC聞こえるにも電話を代わって結婚おめでとうと午前二時に伝える。

泡之介とBBQは、午前二時の結婚式の余興のリハーサルをする。午前二時の夫は「竜巻マイケル」というらしい。余興は、東京から仙台まで旅行した2006年の旅の思い出をネタにしてやる。
しかし、泡之介とBBQが仙台に着いた時には、すでに午前二時の結婚式は終わっていた。時刻を間違えていた。自転車で綾月も追いつく。仕方なく3人はそのまま石巻へ向かう。
石巻の海岸で、泡之介とBBQは金魚すくいの骨を埋めている。泡之介たちは電話で午前二時に謝罪する。そこへサプライズ的に午前二時がやってきて、二人を驚かせる。ここで上演は終了する。

だいぶ後半の方は記憶が曖昧な部分が多いので、間違っている箇所や抜けた箇所が多いかもしれない。
2006年の旅の思い出と、2016年の結婚式へ向かう道中の物語が、劇中で交互に描かれるので、混乱するかもしれないと最初思ったが、2006年にしか登場しない人物、2016年にしか登場しない人物がいるのでわかりやすく混乱しなかった。
どこが面白かったかと聞かれると難しいのだが、リアルな世界の中でファンタジーや冒険譚のような描かれ方がされているので、なんとも不思議な感覚にさせられて良かった。そしてこういった描写は、演劇でしか出来ないようなことが多いような気もする。
友達で自動車で旅をするなんて青春っぽいし、結局辿り着いてみたら時間が違ったみたいなことも青春らしい。けれど、旅の途中でいろんな人に出会って、そこから旅の仲間として行動を共にしたり、地下世界に潜ってしまったとか、過去の人物に出会ったり(2006年の永井など)とかがファンタジーな感じがあって、凄くエモーショナルなんだけれどファンタジー色も強くて面白かった。

写真引用元:ステージナタリー ロロ「BGM」より。(撮影:阿部章仁)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

全ての舞台美術がとても可愛らしく、かといってミュージカルのように圧倒的な迫力という訳ではなく小洒落た感じがまた小劇場らしさがあって良かった。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響の順番でみていく。

まずは舞台装置から。
ステージ上にはステージ奥側に下手側から上手側までいっぱいに広がったジャングルジムのような舞台装置がある。客入れからオープニングまではそこには白い大きな布が被せられていて、オープニングではその白い布が巨大なスクリーンとして使われていた。そしてオープニングが終わると、その布は剥がされてそこからジャングルジムが出現する。そのジャングルジムには、守谷サービスエリアの標識や、「ハードオフ」の看板が取り付けられている。またジャングルジムの一区画は、繭子が占いをするエリアとして使われたり、ジャングルジムのてっぺんはMC聞こえるが青春18きっぷの貝殻を見つける場所としても使われた。そのほかには、午前二時に向けて永井が作った銀紙で包んだ星が飾られていたりなど、劇中で登場するモノが取り付けられていて、ある種ファンタジーと現実世界が混在したかのような世界観が広がっていてとてもユニークだった。
小道具もユニークなものが沢山あって面白かった。例えば常磐自動車動を走る車たち。箱ウマに車輪をつけたようなものを車に見立てて、箱ウマに人が一人乗って走っていたり、泡之介とBBQが乗る自動車は、車に見立てて4人ほど人が乗れるように作って車輪を取り付けた装置がとてもユニークだった。初演を観ていないのだが、スズナリではどのように車のシーンを表現していたかは気になった。
あと面白かったのが、序盤で舞台装置にかけられていた白い布が砂浜としても使用されていたこと。午前二時が永井との思い出の品を埋めにくるシーンや、綾月が砂に埋もれてしまうシーンに使われていた。たしかにそのシーンでは白い砂は砂浜に見えてくるので面白い演出だと感じた。

次に映像について。
映像が使われるシーンはおもにオープニング。ロロの世界観と『BGM』のフライヤーデザインに見事にマッチした映像になっていて、その可愛らしさがロロっぽさを醸し出していた。
オープニングでは、自動車が常磐自動車道を走るときの高速道路から見える夜景をイメージして作られていた。音楽と共に観客の興奮を一気に掻き立ててくれるオープニングで好きだった。

舞台照明は、今回個人的には本当に好きな演出ばかりだった。
一番驚いたのは、占い師の繭子が使っていたクリスタルボールが、なんと実はカラオケのミラーボールにもなっていて、午前二時が天井から降りてきたミラーボールを取り付けるケーブルのようなものにミラーボールを取り付けて、そこからそのケーブルが天井へ吸い寄せられてミラーボールになるというくだり。そこから楽曲「愛と言え」が流れて劇中歌のシーンになる。ミラーボールが誤って落ちてこないか不安になりながら、私はずっとミラーボールに釘付けだったが、とても面白い演出だった。ミラーボールを使っての劇中歌のシーンでは、役者たちが全員ダンスしながら歌うのだが、広さは違えどカラオケボックスでみんなで歌って踊っているかのようなエモさ、懐かしさがあって、ミュージカルを観ているのとではまた違った感覚だった。曲自体もポップでライトなので、軽快なメロディが演出にも合っていたし凄く良かった。2023年3月に観劇したミュージカル『おとこたち』でもミラーボールとカラオケが出てきたが、それとはまた違って小劇場らしくポップな空気感が心地よかった。
あとは、午前二時とBBQが寝言で会話しているときのシーンで、彼らはジャングルジムの一部にかけられた布の向こう側に座って寝ているシルエットが映し出される照明演出。凄くロロらしく可愛らしい演出で好きだった。
また、あえて役者の顔に照明を当てないシーンがあって、夜の暗がり、もしくは夕方の陽が落ちたタイミングを表現した照明も、どことなく侘しさを感じさせる演出になっていて好きだった。

次に舞台音響について。
まずはなんといっても音楽。曽我部恵一さんが担当したポップのようなロックのような音楽は、小劇場とこの作品にはぴったしの音楽で好きだった。気になる方は、「愛と言え」がYouTubeで公開されているので聞いてみて欲しい。私が一番好きな音楽は、やはり「愛と言え」だった。オープニングの音楽も好きだったが、やっぱり前者かなと思う。
あとは、細かい部分だが場転の効果音で車が走り過ぎ去る効果音が流れるのも良かった。一見ファンタジーのような世界観なのに自動車の音とかラジオの音とかが上手くマッチして聞こえるのはとても不思議で、今までのどんな作品にも類似が見つからないオリジナリティが素敵だった。

写真引用元:ステージナタリー ロロ「BGM」より。(撮影:阿部章仁)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は、劇団「ロロ」に所属するメンバーに加えて、客演もかなり多かった印象である。とても素晴らしかった。特に印象に残ったキャストについてみていく。

まずは、泡之介役を演じた劇団「ロロ」所属の亀島一徳さんと、BBQ役を演じた劇団「範宙遊泳」の福原冠さん。
2006年のシーンでも2016年のシーンでもこの二人が中心となって物語が進むが、彼らのコンビがとても良かった。綾月に付き合っているの?と聞かれて頷いていたので、彼らは同性愛者だと思われる。一番好きだったのは、なんといっても午前二時に捧げる結婚式の余興。あのグダグダだけれど、友達だからこそできるあの自然な感じが、非常にリアリティがあって青春ものっぽさがあって好きだった。
あとは、二人は何度かステージ上で服を着替えたりしていた。正式には着替えるというよりはズボンを脱いだりするシーンがあった。そのあたりも、どことなく青春ものっぽさを感じられて、まだ大人になりきれていない感じが、観客としては学生時代の懐かしさを感じられて良かった。

次に午前二時役を演じていた劇団「ロロ」の島田桃子さん。
島田さんはいつもロロの公演でハマり役を演じられていて、その度に素晴らしい役者さんだなと感じる。占い師の繭子に頼るあたりとか、好きだった。
午前二時はシャキッとした女性ではなく、いつも感情を爆発させるような心ゆくままに生きている感じがあって良かった。そしてそういった役に、島田さんの演技はハマっていた。

綾月希海役を演じた劇団「ロロ」の望月綾乃さんも素晴らしかった。
今回の作品では、劇団「ロロ」の森本華さんは出演されていないが、島田さん、望月さん、森本さんは「ロロ」に欠かせない三大女優なイメージがあって、また3人ともそれぞれ持ち味が違うから良い。望月さんも、今回の役は女優の役ということで、駐車場に自分の衣服を並べて存在証明をしてみせたり、とにかく承認欲求が強い役柄なのかなと思った。
結局「アリオス」で演劇を観ることはできなかったけれど、仙台まで自転車でやってくる根性の持ち主で面白い役だった。仙台で自転車で到着するまでに服がボロボロになっているのが面白かった。

今作で一番印象に残ったのが、MC聞こえる役を演じた井上向日葵さん。井上さんの演技は、実は劇団papercraftの『殻』(2022年2月)や、舞台『蜘蛛巣城』(2023年2月)で演技を拝見しているが、ここまで主要な役で演技をみたのは初めてだったかもしれない。
あの生意気な少年役が本当に好きだった。しゃべり方までドンピシャにはまっていて、本当に冒険ファンタジーに出てきそうな、でもサブカル系の作品にも出てきそうな、そんな役作りで素晴らしかった。三浦さんは、こういった設定をどうやって思いつくのだろうか、素晴らしすぎる。
一番印象に残ったのは登場シーン。ラップで勝負をしかけてくる感じが面白い。あのユルユルでほとんど中身のない歌詞なのだけれど、非常に耳に残るし、MC聞こえるはめちゃくちゃ生意気なのだけれどどことなく可愛らしさがあって好きだった。それを演じる井上さんも素晴らしかった。
青春18きっぷの音を集めるって、なかなか発想も独特で面白かった。スタンプラリーがあるように、旅行ってどこか冒険して何かを探し求める節があるので、そのあたりがシンクロしていて設定として良かった。

あとは、一番ズルかったのが永井役を演じた曽我部恵一さん。
音楽家らしくギターを持ちながらステージに上がるのだが、永井の未来を言うとにき、YouTubeにアップした動画がネットで炎上みたいなくだりがあって、曽我部さんがあげているロロ『BGM』の「愛と言え」のMVを指しているような感じがして笑ってしまった。

写真引用元:ステージナタリー ロロ「BGM」より。(撮影:阿部章仁)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

私も観劇中感じたが、SNSの今作の感想でも非常に「ロロ」らしさの詰まった世界観がそこにはあったかなと思う。それは脚本的にも舞台美術的にもそうであったように思う。
そんなロロらしさを脚本の観点と、舞台美術の観点で考察しながら、今作のテーマについて個人的な見解を記載していこうと思う。

今作で感じられた「ロロ」らしさというのは一体なんだろうかと考えてみた。
まず脚本について。設定は学生時代に仙台に住んでいて就職して東京に暮らすようになったと思われる泡之介とBBQが、久々に学生時代に過ごした懐かしい仙台へ向かって、それも東京と仙台の間はかつて午前二時と傷心旅行で辿ったルートと同じ道を二人で車で向かう。
「ロロ」の世界観にはいつも「地方」という世界が広がっているような気がしている。舞台『四角い2つのさみしい窓』でもやはり東北という地方での描写がみられたし、そこに向かって複数人で旅行するという描写は今までロロの作品にも多いような気がする。
あとはこの学生時代を回顧するような展開も、三浦さん自身が「いつ高」を手がけるくらいなので、青春ものというジャンルもロロらしさを持っている気がする。

次に舞台美術・世界観について。舞台『ロマンティックコメディ』でもそうだったが、舞台装置のファンタジーっぽさ、お伽話っぽさは健在だった。「ロロ」の公演は、いつもステージ上に舞台装置として登場する世界観には、どこかファンタジー色を感じさせる。
そして、単なるファンタジーだけではなくて、そこには現在の日本らしさも混じっている点も大きな特徴だと感じている。例えば、そんなファンタジーな世界観に守谷サービスエリアの標識を入れ込んだり、「ハードオフ」の看板を入れ込んだりと、現在の日本が入り混じっている。そんな独特でユニークな世界観もロロらしさであるように感じる。

こういった脚本の特徴と世界観の特徴が入り混じって、ロロらしさが形成されているように思う。
だからこそ、多くの観客は今作をロロらしい舞台作品ととらえるのかもしれない。

また今作では、ドモホルンリンクルという遺品集めをする登場人物がいる。それはどこか震災で家族を亡くして、その行方不明になった家族を探している人々であるかのような描かれ方がなされている。それは、どこかファンタジーのように思えて、実は現実的な脚本にも感じる。
初演された2017年というと、まだ震災から6年目の年でその痕跡は今以上に深いものだったと思う。そういった東日本大震災の面影を感じさせてくれるどこか侘しさが漂う作風になっている点も、非常に現実とフィットしてくる。
今作ではいわきや浜通りといった、震災の痕跡が深い地域が登場する。そこでこのジャングルジムのような舞台装置が登場すると、それはどこか震災によって壊滅した地域を連想してしまう残酷さも秘めているような気がする。
占い師の繭子は、2006年にはその場所にいたけれど、2016年には姿を消しているということは、もしかしたら彼女も被災したため、いわきにはいないのかもしれない。

そう考えると、この作品に登場する世界観というものは一度大きな震災によって被災した地域なので、どことなく侘しさを感じられるのかもしれない。私は観劇中に、音楽劇ということもあって、非常に明るくポップで楽しい作品なのかなと期待していたのだが、思ったよりポジティブに振り切っている感じはなく、どこか登場人物たちが虚ろで、この作品のベースに横たわっている負の感情が渦巻いている気がした。きっとそれは、三浦さんが意図して演出したのかもしれないとも思った。被災した地域だから、でもそんな経験を乗り越えて元気にやっていこうと前向きに行動する登場人物たちを描きたかったのかもしれない。
そんなことを今作を振り返って改めて思うのであった。

写真引用元:ステージナタリー ロロ「BGM」より。(撮影:阿部章仁)



↓ロロ過去作品


↓亀島一徳さん過去出演作品


↓井上向日葵さん過去出演作品


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