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記憶

記憶の中の母は、
いつもイライラしていて
いつも悲しそうで
いつも私を否定して睨みつけ
いつもわたしの手を、
折れそうなぐらい握りしめる

愛なんてもんはそこには微塵もない。

痛くて痛くて、離して と言いたいのに
わたしには言えなかった

それはなぜか。

少しでも母に優しい目で見て欲しかったから
少しでも私の存在を認めて欲しかったから
ただ、わたしを愛して欲しかったから

だけど、握りしめられたその手は
どんどんどんどん私を追い詰めていく。
痛みに耐えて笑いかけても
母はわたしを見ようとさえしない
誰かの言葉に振り向き、
そちらに向かおうとすると
母は、私の手をまた強く握り
怒った顔でわたしを見下ろす。


母は、きっとわたしを許さない
母は、絶対わたしを愛してはくれない

自由にかけ回ろうとするわたしを。
母が祖母からそうされてきたように
わたしは母の見えない首輪を外すことは
きっと出来ない

あの頃はそう思ってた。
生きるも死ぬも地獄だと。

だけど
ある日、ある人に聞かれたんだ

もし、
もしもお母さんが
優しく笑いかけてくれて
あなたを愛してる、と
言ってくれるとしたら
その手を握り続ける??

その時に、ハッとした。
母の手は今も私の手を握りしめて
離してくれてないんだろうか?と。

わたしは記憶の中に留まり続け
そこから出るのを拒んでいた。

他の誰でもない、私がそう選んだ

ホントは母が私に
無理やり首輪を付けたわけじゃない。

わたしが自ら首輪をはめたんだ。
母が好きだったから
母に気づいて欲しかったから
母の愛を独り占めしたかったから。

わたしが選んで、そうしてたんだと初めて知った。

わたしは聞くのが怖かっただけだったんだ
ただ、怖かった。
小さい頃の記憶に縛られ続けた私は
母に、母の心に、わたしはいないと。
母からは否定的な言葉以外は返ってこないと信じ続けていた。

だから、
わたしは生まれてはいけなかったんだと
自分を否定し、いつまでも母に聞けずにいた。


私の事、すき?


聞けない、聞けるわけない

答えなんてわかってる。

わかってるんだもん·····

だけど·····


だけど·····もし。。


もしかして。。


え、そんなことあるの?



き、聞いてみようかな·····


ねえ、おかあさん
わたしのこと、、好き?


お母さんはあまりに驚いたらしく
一瞬言葉に詰まった

ああ、やっぱ聞かなきゃよかった…


そう思った瞬間、お母さんは
わたしの記憶の中にはなかった
優しい顔で、優しく私の頭を撫でながら



好きに決まってるでしょ。
今までもこれからも 
それは絶対に変わらない。
あなたを大切に思ってるし
心からあなたを愛してるわ。
でも、どうしてそう思ったの?


そう言ってくれた時

まるであんなに私を苦しめていた首輪が
リボンのような温かく優しい物に変わっていった。

私は母に、
自分は愛されてないと感じてたこと
寂しいと言えなかったこと。
生まれて来てはいけなかったと思ってたこと。

全てを話した。

まるで子供のように、泣いた

母は私を抱きしめながら


そっか、わかってあげられてなくて
お母さんもごめんね。
でも、あなたの勘違いよ。
あなたが生まれてこなきゃなんて
思ったことは1度もないわ。 
でもわたしもあの頃は
心に余裕を持てずにいて
あなたを傷つけてしまったね。
ごめんね。


わたしの記憶にいる母は
あんなに厳しかったハズなのに
あんなに怖く、冷たい目をしてたのに。

記憶の中にある幼い頃のわたしは本当に
母を怖がっていたはずなのに
ふと、こんな記憶が蘇った。

わたしの大好物を作って
嬉しそうにわたしに笑いかける母の姿。

笑いかけてもらったことはないと
愛されたことは無いと信じ続けたのに…。
いつの間にかわたしは記憶の中から
「愛されていた」という事実だけを抜き取っていた

それは幼いながら、何かに傷つき
それを素直にいう事が出来ず、我慢し
察してくれない寂しさがいつしか怒りに変わり、母はわたしを愛してない!
ってことにしたんだ。

言わなきゃ伝わらないということを
理解出来ぬまま、わたしは寂しさと共に
母の愛を、葬った。

ただ寂しい、と、悲しい、と
言いたかっただけなのになあ。


わたしは他にどんな記憶を書き換え
どれだけの愛や優しさを葬ってきたんだろう。

そしてどんな思いで、何を
誰に、伝えたかったんだろう。


人の記憶は、私たちの記憶は

ほんもの

なんだろうか?

ところで一体わたしたちが言う

本 物


とは、何を指してるんだろう?

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