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読書ノート

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最近、同じ本を二度買ってしまいました。全ての本を手元におくことはできないので、感想だけでも書き留めておこうと思います。
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記事一覧

[読書]大人になれない

好き嫌いはありますが、
普段ミステリー小説は読みません。
たいてい、人が無惨に亡くなるし、
でなければ人の心の闇が描かれ、
救いのない気持になるので恐いです。

でも、本書は娘に勧められ一気読み。
“ミステリー”と宣伝されていますが、
恐くはなく、勇気をもらいました。

主人公は小学校高学年の純矢くん。
彼の年齢は子供ですが、
父を知らず母に置いていかれても、
「僕、かわいそうな子どもになる気ない

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[読書]100万分の1回のねこ

佐野洋子さんの有名な絵本、
「100万回生きたねこ」に愛を込めて。
というコンセプトの作品集です。

昔から絵本が大好きだった私ですが、
「100万回生きたねこ」は、
響きませんでした。
そのことを書くのはまたにして、
それでも、この本を手に取ったのは、
書き手がとても豪華だったから。
しかも、人の心を描く名手ばかり。

素晴らしい著者たちが、
その持ち味のまま、
「100万回生きたねこ」に呼応し

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[読書]キッチン風見鶏

だいぶん前、色々あって、祈るような気持ちで娘の教科書を買いに神田の三省堂まで出掛けました。その際、出会った本です。
ちょっとばかり辛い毎日だった私には、とても優しいお話でした。

舞台は神戸とおぼしき街のレストランです。主人公はウェイターをしながら漫画家を目指す翔平くん。レストランには、オーナーシェフの絵里さん、その母の祐子さんという、心正しく、働き者でおそらく二人とも女優さんのようにきれいな母娘

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[読書]行きたくない

不穏な題名です。
ひきこもりとか、不登校とか、
社会問題となっているこのご時世、
どきっとさせられるアンソロジー。

でも暗い話ではありません。
面白くて一気読みしました。
若い書き手さんたちが、気負わず、
自分のカラーを出しています。
さらっと1つのテーマの複数解が
並んでいました。

トップバッター、加藤シゲアキさん。
独特の世界観は、
「傘を持たない蟻たちは」で証明済。
普通の高校生活を舞台

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[読書]眩(くらら)

葛飾北斎の娘、葛飾應為を主人公として、その若い日から晩年までが描かれた小説です。

父葛飾北斎と二人三脚、しかし芸術家の孤独をもって修練を続ける画業、極めて常識的な母や素行の悪い甥っ子と葛藤しながらの生活、そして商売仲間との絆。
一期一会を大切にする姿が印象的です。

しかし、切なすぎる。
シングルマザーで家計を支える私には、芸術家といえども、離縁して独り身のお栄(應為)が他人事に思えません。

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[読書]花のれん

吉本興業の祖、吉本せいさんをモデルにした小説です。作者は山崎豊子さん。私の親世代にファンが多い骨太の作品群が有名。私の父も大好きだった作家ですが、女性を主人公に描かれていたとは、知りませんでした。

押し寄せる情報量の多さにたじろぎます。
さらっと描くのではなく、一文字一文字に意味がある小説。初読では“元”本の虫の私では読みきれませんでした。
物語自体が激しく転回する上、全てのディテールが克明に綴

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[読書]女子的生活

ドラマで話題になった小説です。残念ながら私は観なかったのですが、志尊淳さんがいたく可愛らしかったらしい。

主人公みきは、地方都市に生まれ育ち、東京のアパレル業界で働いています。季節やバランスを考えて、きめ細やかに服や小物を選択し、朝食もおしゃれなシリアルをとるシーンから始まる。そう、ステキ女子。

ずっと東京に育っているものの、お洒落な生活には縁もなく、服は洗濯してあれば良く、小物合わせってなに

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[読書]その白さえ嘘だとしても

切ない青春小説「階段島」シリーズの第2弾。高校生の男子が主人公です。
今度映画化もされるとのこと、若者に人気があるよう。だとしたら、今どきの若者も、昔の若者も悩みは一緒だな、と思いました。

階段島という、外の世界から隔絶された島でのクリスマスイブの1日が舞台です。謎解き要素があるのですが、人が亡くならないので大変心穏やかに読めるのも好きな点です。

シリーズ第1作も、娘に勧められて読んでいますが

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[読書]女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり

今年は、平成が終わり令和になりました。
平成を振り返ると、女性がずいぶん自由になった時代と思います。「普通の」女性が発言権を持つように。

昭和の頃、女性のエッセイといえば、森茉莉さんや白洲正子さん、時代を下って向田邦子さんや森瑤子さんあたりでしょうか。
とびきりの出自や才能に恵まれた特別な世界に住む人が記す、という印象が強いものでした。当時私が子供だったこともありますが、到底手の届かない世界が描

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[読書]ヒキコモリ漂流記 完全版

『髭男爵』というお笑い芸人をご存知でしょうか。私もあまり知りません。おじさん二人が貴族風の衣装を着て、ワイングラスで乾杯し、意味なく明るくはしゃいでいる印象です。そんな芸人さんが、実はヒキコモリだったという自分の青春を描いた作品です。

中学から成人まで引きこもるという、大変胃の痛い話なのですが。。面白い。あまりに強烈かつオチのあるエピソードの連続に、実はフィクションなのではないかと疑ってしまいま

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[読書]芸術起業論

芸術の世界で、グローバルに日本人が成功することが稀な中、米国で評価され、ルイヴィトンともコラボした村上隆さんの著書です。

独特の世界観を構築し、欧米でプレゼンしているだけあり、主張がてんこ盛りです。
アートに不可欠なお金との関係、歴史の時間軸での芸術の捉え方、価値を創り出して行く方法、人間の能力の引き出し方、と、段階的に重要なポイントが綴られています。

ご自身の経験や考え方を惜しみなく並べてい

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[読書]書店主フィクリーのものがたり

翻訳小説は、推理ものなど刺激が強すぎてあまりよく知らない分野なのですが、この本は偶然、手に取りました。好著です。

アメリカの小さな島に住む書店主AJが主人公。AJは大学で出会った妻の生まれ故郷に移り住み、二人で島でただ一つの書店を営んでいました。ですが、妻を交通事故で亡くし失意の日々。

そんなAJの書店に、ある日2歳児が置き去られます。その娘マヤを引き取ったことで彼の人生は大きく変わります。彼

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[読書]京大芸人

お笑いコンビのロザンの一人が書いた作品です。大学受験をする娘にお勧めしたら、即却下でした。

それもそのはず、ロザンの宇治原さんが正しい方法で淡々と受験勉強をこなし、京大に現役合格するのがお話の中心でした。高校時代のエピソードはさすが芸人さん、愉快な話が披露されますし、菅さんが披露してくれる宇治原さんの勉強法もわかりやすいです。

なので、大人の娯楽としては楽しいけれど、受験に向かう子供には正論過

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[読書]コンビニ人間

世の中には、普通のことを普通に出来る人と、普通にできない人がいる、って思ったことはないでしょうか。
この本が出版され、芥川賞も受けて、文庫本化される、ということは、書店には「普通って?」と思う層が一定数いるのでしょう。

主人公は、コンビニにアルバイトとして勤める三十代半ばの女性。将来に限界はあるけれど希望はある世代です。毎日、ベテランとして規則正しく勤務、家族も(本人はどう思っているか別として)

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