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故郷

退屈だった
ずっと同じ場所にいることが

違う世界を見てみたかった
生まれ育った場所を飛び出して
知らない世界を旅してみたかった

思い描いていた世界は
たしかに素晴らしくて
大変なこともあったけれど
それを凌ぐだけの経験という名の財産になった

さまざまな場所で
それぞれに生活する人たち

多種多様に環境に合わせたり
その土地ならではの彩りがあった

初めて知る世界はどれも刺激的で
疲れる事もあれど楽しみが多く新鮮だった

ただ

時折り
とてつもない寂しさがやってきた

なんとも言えない
夏の夕暮れのような
セピアにも似たオレンジがかったあの景色

あの中に私は居た
そして退屈だった

毎日同じ景色の中で
自分の力では何も変えられない無力さの中で
ただ人生を変えたかった
ずっと同じ場所で
ずっと退屈して生きていくのが嫌だった

でも
あのオレンジ色の懐かしい風景
あの中に私と微笑む家族がいた

紺色のセーラー服で
放課後に恋バナに花を咲かせ
一緒に涙した友達がいた

懐かしい
懐かしい

もう戻れないあの景色

あの時がとても大切な時間で
あの場所がとても大切だったこと

今になってしみじみと
緩やかに胸に突き刺さる

もっと大切にすれば良かった

人も場所も何もかも全て

私は愛されていたね
気づかなかったけれど

嗚呼、故郷に
帰りたい
帰れない

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