弱い価値のススメ−言語化/定量化できていない価値をデザインで耕す

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第9回 2019.09.04 ゲストスピーカー吉泉 聡さん(TAKT PROJECT代表)の授業をまとめています。

TAKT PROJECT代表・吉泉聡さんとは?

TAKT PROJECTの代表/デザイナー。東北大学工学部機械知能工学科卒業後、子ども時代に大好きだったウォークマンやスウォッチの様な、新しい価値軸をつくりたいと考えたことをきっかけにエンジニアではなくデザイナーの道を選択。2005年より2008年までデザインオフィスnendoに在籍。2008年より2013年までヤマハ株式会社デザイン研究所に在籍。2013年TAKT PROJECT株式会社共同設立。

まだ言語化/定量化できていない「弱い価値」の可能性をデザインで耕す

スウォッチ、サイレントバイオリン、ウォークマン。子供時代に憧れたプロダクトの影響で工学部に進んだものの、設計の最適化を図る工学部の延長には、子ども時代に憧れた新しい価値を生み出す様なプロダクトの発明とはアプローチが異なることに気がついたという。
新しい価値を生み出すようなプロダクトには、ある種の提案性の様なものが必要である。まだその価値が正しいということを定量的に証明できていなかったり、言語化できていなかったりする、そんな「弱い価値」のもとプロダクトを開発する必要があるのだ。
この「弱い価値」を前提とした社会をつくることが、幼少期に憧れたプロダクトを生み出すことに近づくことであり、それは構造の最適化を図るエンジニアではなくデザイナーの領域であると考えたそう。

デザインは言語化できていない概念を視覚化できる

吉泉さんはTAKT PROJECTの創業時からR&Dを設け、受注型ではないデザイン活動に取り組んでいる。デザインは受注産業であり、仕事をもらって初めて発生するケースが多い。そこで、新しい価値を提案するためにR&Dでデザインを続けているのだという。
たとえば、CRAFT(手作り/工芸)とMASS(大量生産)とがあった時に、なんとなく前者が良いもので後者が悪いものである印象を受ける。しかし、後者は後者で価格を押さえられたり、広く行き届かせられたりと良い面もある。では、この中間があったらどうだろうか?中間が良いという定量化されたデータもなければ、言語化された論文もないだろう。そこで吉泉さんは、中間にあたるものを水分吸収性の高いプラスチック(MASS)と染色(手作り)をかけ合わせた「Dye It Yourself+」というプロジェクトをデザインしている。まさに可視化しているのだ。

「まずは手を動かしてみる」の意味

美大で学び始めると「まずは手を動かしてみる」という美大特有のアプローチを耳にすることがある。勝手な解釈では、手を動かすことによる身体的な刺激が、脳にも伝わり、思考を深めるのだと考えていた。しかし、そうではなく、言語化できないアイデアや考えの種を、手を動かしてみる(プロトタイピング)ことで可視化し、それに対して周囲からフィードバックを得たり、自分で言語化することができたりと、アイデアを深めるきっかけになるのだろうと捉え直した。「手を動かしてみる」の重要性を、まさに言語化して理解することができた。

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