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『金太郎』の語り手と登場人物が全員大阪弁で喋ったら

 むかし、相模国の足柄山(あしがらやま)の山奥に金太郎っちゅう子どもがオカンと一緒に暮らしとった。
 金太郎はとにかく力が強うて、石臼やもみぬかの俵なんか平気で持ち上げられた。大人を相手に相撲を取っても負けへんかった。

 せやから、相手がおらんくなってつまらんくなった金太郎は、一日森の中を駆け回った。そんで、オカンに貰(もろ)うた大きなまさかりを担ぎ歩いて、やたらでっかい杉の木や松の木を切り倒しては、木こりの真似をして面白がっとった。

 ある日、森のめっちゃ奥に入って、いつものように木を切っとったら、でっかい熊が飛びかかってきた。

「誰や! 俺の森を荒らすんは!」

 こいつ喋りよった、人間か。いや、でも見た目思いきり熊やしな。どっちや。

「何や、熊(結論)のくせに。この金太郎を知らんのか」
「お前、自己評価高すぎやろ」
「やかましいわ!」

 金太郎はまさかりを放り出すと、熊に組み付いて地べたに投げつけた。
 やられた熊は謝って金太郎の家来になりたいと言うてきた。そのあと、うさぎ、鹿、猿やらがぞろぞろついてきて、

「金太郎はん、どうぞうちらも家来にしてくれまへんか」

 こいつら器用に喋りよんな。誰か憑依しとんのか……まあええわ。

「よーし! ええで。お前ら全員家来にしたるわ」

 それから金太郎はオカンからぎょうさんおむすびを拵(こしら)えて、森の中へ出かけては家来たちと遊ぶのが日課になった。

「さあ、みんな相撲を取れ! 褒美にこのおむすびやるわ」 

 と家来たちの相撲を見ては手を叩いて笑うた。自分も土俵に上がると、かかってきた家来たちをみーんな倒してしもうた。もう敵なしや。

「なんや、みんな弱いのぉ。いっぺんにかかってこい」 

 余裕綽々の金太郎を相手に、家来たちは一斉にかかってきて倒そうとする。それでも金太郎を倒すことはできひんかった。

「しゃーないな。みんな俺に負けて可哀想やからこのおむすび分けたるわ」

 おむすびを食べ終えてしばらくすると、金太郎は「ほな、ぼちぼち帰んで」と家来たちと帰ることにした。

 帰り道、大きな谷川のふちに出ると、生憎、橋がかかってへん。どないしよかと困った家来たちと対照的に金太郎は、

「俺に任しとけ!」

 と言うてあたりを見回すと、川岸にでかい杉の木が立っとった。金太郎はそれを手で押し倒すと、木は川の上に倒れかかって立派な橋になった。

「さすが金太郎はん。えらい力や」

 家来たちが感心しながら金太郎についていった、岩の陰に隠れとった木こりはその様子を見て、

「けったい(不思議)な子どもやなぁ。どこの子や」
 
 そう言うて木こりはそっと金太郎について行った。
 家来たちと別れた金太郎は山奥にある家に帰ると、オカンに家来たちと相撲を取ったことを話した。オカンがおもろそうに話を聞いとると、窓から木こりが首を出してきた。

「そこの子や、うちと相撲を取ってみいひんか」

 なんやこいつ、しかも勝手に入ってきよった、オカンは怪訝な顔をしとったけど、金太郎はあっさりと誘いに乗った。

「ああ、ええで」

 名前も知らん木こりと相撲を取ることになり、二人とも真っ赤な顔で押しあいとった。せやけど、なかなか決着がつかへん。そのうち木こりは、

「もうよそか。勝負がつかん」

 と手を引っ込めた。

「なんや、自分から誘っといて逃げんのか」
「ちゃうわ!」

 木こりはハッとして座りなおすと、深々とオカンにお辞儀した。

「だしぬけにすんません。実は坊っちゃんが谷川のそばで、でかい杉の木を倒してるところを見たんですわ。ほんで驚いてここまでついてきたんです。この子はえらい侍になりまっせ」

 今度は金太郎に向かって、

「どや、一緒に都(みやこ)に行ってお侍にならへんか?」

 実はこの木こり、碓井貞光(うすいのただみつ)ゆうて源頼光の家来やった。御主人から強い侍を探してこい言われて、日本の国中歩き回っとったちゅうわけや。
 オカンは貞光の言葉に喜んだ。

「実は、この子の父親は坂田いう氏(うじ)を持った侍やったんです。いつか都に出したい思うてたからええ機会やわ」

 金太郎は話を聞きつけた家来たちに別れを告げると、貞光のあとについて出ていった。
 何日もかかって都に着くと、頼光の屋敷まで行った。

「足柄山の山奥でこんな子どもを見つけてきました」
「ほう、これは強そうな子どもやな」

 頼光はそう言うて金太郎の頭をなでた。貞光から話を聞いた頼光は言うた。

「金太郎っちゅう名は侍には合わんな。父親が坂田いうんやったら坂田金時(さかたのきんとき)て名乗ったらええわ」

 こうして金太郎は坂田金時として頼光の家来となり、頼光四天王のひとりとして名をとどろかせた。


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