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桃太郎に現代要素を詰め込んでみた

 昔、あるところに一組の夫婦が居た。男は太郎、女は桃子という。
 太郎は山へ芝刈りに、桃子は川へ洗濯に行った。
 桃子が川で洗濯していると、全長二メートルはあろう桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきた。すごいわ。TikTokに動画をアップしようかしら。

 持って帰りたいけど、さすがに女一人の力では抱えきれない。困った桃子はLINEで太郎に連絡を取った。
 二人で桃を家に持ち帰り、桃を割ると、中から赤ちゃんが現れた。男の子だった。

 太郎と桃子は自分達の名前から子どもを「桃太郎」と名づけた。桃太郎は大切に育てられ、すくすくと成長した。
 桃太郎が中学校に進学して間もなく、鬼による事件が多発。街は混乱に陥った。

「お父様、お母様。わたくし桃太郎、鬼退治に向かおうと思います」

 当然、二人は反対した。

「ダメだ。せめて義務教育が終わってからにしろ」
「そういう問題じゃないでしょ!! あんた馬鹿なの!?」
「悪い。……桃太郎、これは警察の仕事だ。子どもが首を突っ込むんじゃない」

 太郎と桃子の勢いに桃太郎は押されそうになった。しかし、桃太郎は粘る。

「私は生半可な気持ちで言ってはおりません。私は鬼を倒すために、空手とCQCを教わりました」

 誰に教わったのか。というか、CQCは軍人とかが習う武術ではなかっただろうか。この子は将来何になるつもりなのか。疑問は尽きないが、桃太郎の覚悟は伝わった。
 二人は彼の説得を諦め、桃子は通販サイトで購入したきび団子を渡した。十個入りで税込み九八〇〇円の高級品である。

「ありがとうございます。では、行ってまいります」

 桃太郎は二人に礼を言って、一人で鬼ヶ島へ向かった。その途中、桃太郎は一匹の犬に遭遇した。

「これはこれは桃太郎さん。お腰につけたきび団子、一つ私にくださいな」

 人間の言葉を話す犬は衝撃的であったが、それ以上に、この犬が初対面である自分の名前を知っていることの方が衝撃的だった。
 犬に問いただすと、どうやら、Instagramで桃太郎の寝顔がよく投稿されていたらしい。間違いなく、あの二人の仕業だろう。
 桃太郎は犬にきび団子を渡して仲間にした。次に出会ったのは猿だった。

「桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきび団子、一つ私にくださいな」

 こいつも喋るのか。しかも名前と顔を知られている。どうせインスタだろ? と半ば自棄気味に訊いた桃太郎に、猿はかぶりを振る。

「Facebookであなたの寝顔がたびたび投稿されていたので、それで知ったんです」

 今度はFacebookか。桃太郎は猿にきび団子を渡して仲間にした。最後に出会ったのはキジだった。

「桃太郎様、そのお腰につけたきび団子、一つ私にいただけませんか」

 もう驚きもしない。このキジは何で自分の存在を知ったのか。Instagramか? Facebookか? それともTwitterか? LINE? note?

「mixiで桃太郎様の寝顔がたびたび投稿されていたので、それで知ったんです」

 ……mixi? 

「へぇ、まだmixi使う人いるんですねぇ。もうオワコンなのかと思っていましたが」と犬。
「それはmixiユーザーに失礼だと思います」

 猿の言葉に、犬は「これは失敬」と謝罪した。
 桃太郎はキジにきび団子を渡して仲間にした。そして、一同はついに鬼ヶ島に着いた。桃太郎があの空手少女並みのキック力で門を蹴り飛ばすと、一体の鬼が目の前に現れた。顔にけがを負っている。
 鬼は憤慨したが、桃太郎をジッと見て「あっ!」と大きな声を上げた。そして、桃太郎を指差して言った。

「お前、桃太郎だろ。Twitterで見たことあるわ。いや、今はXか」

 どっちでもいい。それより、あの二人は一体どこまで手を出しているのか。帰ったらすべてのアカウントを消してやる。

「おい! 桃太郎が来たぞ! 本物だ!」
「マジで!? すげぇ!」
「料理持ってこい! そうだよ! あの桃太郎だ!」

 どうやら鬼の世界では自分は有名人らしい。ちっとも嬉しくない。

「それで桃太郎、あんたは何の用で来たんだ? インスタライブか?」
「あなたたちを退治しに来ました」

 桃太郎の言葉で鬼たちの態度は急変した。墓穴を掘ったな、と犬、猿、キジは同時に思った。

「そうかい……なら殺すわ」

 一斉に襲ってくる鬼たちを、桃太郎は会得した空手とCQCで対抗した。犬、猿、キジも加勢して、急所を外し、次々と鬼を倒していく。
 カップヌードルが出来上がる時間よりも早く鬼たちは全滅。街は平和に戻った。
 
 

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