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放送室から解析する"松本人志論"

2001年〜2009年までTOKYO FMで放送されていた松本人志の放送室というラジオ番組。

放送終了から、もう10年ほど経つが、未だにこのラジオ番組の根強いファンは多いのではないだろうか。

パーソナリティーはダウンタウンの松本人志氏とダウンタウンと幼馴染みであり放送作家の高須光聖氏の2人。
演者と作家としてではなく、完全に2人共が演者として全編フリートークのみで展開され、基本的にコーナーなどはない。

何も私はこの場を借りて、オススメのラジオ番組を紹介したいわけではない。

私ごとではあるのだが、今まで松本氏とご挨拶程度のことをさせていただいたことは何度かあったが、松本人志氏とお仕事をさせていただく機会に恵まれたので、それを記念して松本人志とは?という手垢にまみれた話を、あえて今してみたくなったのだ。

残してきた数々の功績と世間に与えた影響力の高さゆえ、これまでにも"松本人志論"というのは散々誰かから語られてきたのは間違いない。
なので、今さら何を…と言われそうなものだが、私はラジオ番組の放送室こそが松本人志氏の真骨頂を1番垣間見せているという新説をぶら下げて文章を構築しようと思っている。
自分ごときが、そんな生意気なことをしていいのか…?という気持ちにも駆られるが、ここは一発チャレンジしてみよう。

ダウンタウンを好きな人や松本人志ファンからすればごっつええ感じ、ガキの使い、すべらない話、IPPONグランプリ、ドキュメンタル、ビジュアルバムなど、これまで生み出した代表作は数知れず、大概はそれらのどれかを1番手としてチョイスするだろう。

おそらく松本人志芸能ヒストリーの中で放送室を一番手に挙げる人は、滅多にいないと思われる。
なぜなら、放送室は松本氏にとってスパーリングのような場所であり、決して本気のパンチを出すリングではないのだ。
基本は友達の放送作家としゃべっているだけであり、その2人の関係性も込みで、ある種のオフモードにも近い。

しかし、松本人志の凄さを証明する作品は放送室だと、私はあえて1番に挙げる。

それはなぜか?

なぜなら、これまで松本人志氏の生み出したものは、番組であろうがコントであろうが映画であろうが企画であろうが、その全てが賛否両論になりがちだからだ。

時にアートっぽい作品もあり、時に難解さを極めたような世界観もある。
それは、ある一定の世代からすれば呪縛のような一面とも言える。
理解できるできないで苦しみ、笑える笑えないで悩む時期がある。
おそらく、この感覚は30代〜40代の人なら分かってもらえるだろう。

極論を言えば、"笑いに対するレベル"という文化を持ち込んだ第一人者なのかもしれない。
それゆえ、肩に力が入り身構える。
まるで、こだわりの強い店主が作るラーメン屋のようだ。
客側も勝負する気持ちで挑みがちである。

その結果、今見えているものが全てではなく、さらに向こう側にある意味を見い出そうとする傾向が受け手側にもできた。
そのスパルタとも言えるやりかたは確実に笑いの常識を変え、革新的とも言えるお笑い文化を形成し、新時代を築きあげた。

ベタ(定番)からはほど遠い笑いを追求し、ポーカーフェイスでゆったりと間をもち、抜群のタイミングを見計らって一撃で仕留めるボケを繰り出す。
そして、若手の頃から誰の子分にもならず、自らボスの立ち位置を取りながら時代を切り開いた。

その衝撃は、のちにダウンタウン病と言われる、影響を受けすぎておかしくなってしまった若手芸人をたくさん輩出することとなる。
元気よく漫才を張り切ってやる人はサブいという流れもでき、センスや感性の笑いを先頭で引っ張り続けた。

そして、新語とも言える言葉を数多く生み出し、笑いのメソッドにも多大な影響を与える。

●スベる
●サブイ
●ブルーになる
●ドヤ顔
●逆ギレ
●ドン引き
●さじかげん
●ミニコント

厳密に言えば松本氏が生み出した言葉だけでなく、松本氏が使うことで広く浸透していった言葉もあるが、誰もが1度は日常会話で使ったことがありそうなものばかりだ。

特にドヤ顔、逆ギレ、ドン引きなど、もはや流行語でも芸人用語でもなく、広辞苑に載ってもおかしくないレベルで浸透している言葉である。
意外とありそうでなかった微妙な隙間をつく表現なのだ。例えば逆ギレにしても、逆恨みとも逆上ともニュアンスは少し違う。
この絶妙な言葉の使い方と言葉の響きが新しいお笑いシーンの一角を作った。

そして、何より避けて通れないのは「噛んだ、噛んでない」文化である。
「大事なとこで噛むなや!」「えっ、今なんて言ったん?」「ちゃんと言えてへんやん」
もしくは「なんで2回言うたん!?」
こういったやりとり、友達周りなどで1度は見たことないだろうか。
これはダウンタウン出現以降に生まれたメソッドであり、「なんか絡みにくいわ〜」など笑いにおけるマウント文化ができた。

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