漆5:漆の精製

おはようございます。
今日はしっとり雨ながら雲が薄いおかげで柔らかな陽の光も感じられる、そんな朝。

さて、今日はウルシから採取した漆を塗料として精製していく工程を見ていこう。

精製

ウルシの木から採取されたばかりの「樹液の漆」は「原料生漆(きうるし)」と呼ばれる。しかし、このままでは採取の際に樹の皮や木屑などのゴミ などが混入していたり水分が多く含まれていたり成分も均一でないため、そのまま「塗料」としては使用できない。この「原料生漆」を精製加工することにより、「精製生漆」「精製透漆(すきうるし)」「精製黒漆」と分類されて「塗料の漆」としてはじめて使用できるようになるのだ。

精製生漆

原料生漆からゴミなどを取り除いた状態のことを精製生漆といい、塗り工程における下地や拭き漆仕上げの際に使用する。拭き漆仕上げとは木目などを表現として生かすために、精製生漆を塗っては拭き取る作業を繰り返す仕上げのこと。

精製透漆

原料生漆に対して、ナヤシとクロメと呼ばれる加工を行ったうえでゴミやチリを取り除いたもの。透明な飴色なので透漆と呼ばれる。
ナヤシは漆の液体をかきまぜて漆の成分を均一にする作業のこと。
クロメはナヤシのあとに漆の液体を加熱して40度前後に保ちながら少しずつ余分な水分を蒸発させる作業のこと。

精製黒漆

原料生漆にナヤシとクロメの作業の際に鉄粉(または水酸化鉄)を混ぜて、漆の成分と鉄イオンの 化学反応によって黒色に変化させたもの。クロメのあとにゴミやチリを取り除く。
黒色以外の色(朱、白漆など) の漆は「精製透漆」に顔料を加えて朱や緑といった「 色漆」も作られる(高橋真梨子さんの藍漆はこのタイミングで水に溶けにくい藍を混ぜたことが画期的だった訳ですね)。このように漆の色は原料生漆の段階では1色(茶褐色)だが、精製加工を通じて様々な色が作られていく。

精製透漆と精製黒漆は、さらに油分を加えて艶のある漆になる様に上塗り用としたり、油分を加えないで上塗りの後に磨いて仕上げる研磨用などに分類される。
「樹液の漆」はその用途や仕上げ方にあわせた精製加工により、さまざまな「塗料の漆」 に変化する。

第3の精製方法

昔から漆の精製は、原料生漆をかき混ぜて成分を均一にし、熱を加えて水分を蒸発させる方法(ナヤシとクロメ) で行なわれているが、近年新しい精製方法が開発され、漆の新たな可能性が生まれてきた。
その精製方法は三本ロールミル製法と呼ばれるもので、回転する3本のロールに原料生漆を流し込み熱を加えず擦るようにして精製する方法。これにより、通常の漆より粒子が細かくなる。
漆の硬化(乾燥)には漆に含まれている酵素(ラッカーゼ)の働きが重要になるが、従来の精製と異なり熱を加えないため、酵素がより多く活性化して従来の漆よりも乾燥が速く、乾燥した後は硬く丈夫になった上で熱や変色にも強いという特性をもった漆になる。
この製法で完成した漆は一般的に「MR漆」という名前で呼ばれ、近年産地でも普及が進んでいる。食器洗浄乾燥機での使用や金属塗装への活用など、従来の精製による漆の強度では実現できなかった利用方法への可能性も生まれ、漆器業界では「現代のライフスタイルに対応する漆」として注目され、さまざまなトライアルが行われています。 仕上げ用の漆という用途だけでなく、乾燥しやすいMR漆の特長を踏まえて、従来の漆と混ぜて使うなど独自の工夫を している職人もいるようだ。

これだけ聞いていると全てに優れたスーパー漆という印象を受けるが、課題もある。
乾燥スピードや塗膜の厚さの違いから使用に慣れていない職人は失敗も多く、使いこなせるようになるまで十分な経験やノウハウが必要になること、「従来の漆より丈夫」とはいっても天然の漆であることは変わらないため、使用方法についてお客様に誤解を与えないようきちんと説明していく必要がある。しかし、これらもこれらをベースで製作する職人が増えてくれば自然と技術は追いつくし、利用者が増えれば漆器への理解も深まっていくので時間の問題だろう。
なお、塗料として購入する場合、MR漆の価格は従来の精製方法でつくった中国原産の漆(市場で使われている漆の95%以上)より高く、日本国産漆より安い状況。
「どの漆がよい、悪い」ではなく、それぞれの特性を踏まえて、用途や優先順位に応じて使い分けること、その結果利用者にとって使いやすい漆器にしていくことが作り手に求められるフェーズに来ているようだ。


*上記の情報は以下のリンクからまとめています。


素材を集めるところからして大変な手間がかかる漆が塗料として漆になるためには、さらに丁寧な精製が求められる。そして、新たな精製方法が加わったことで、職人たちの選択肢が加わったことで新しい用途やデザイン、もしかしたら色合いなど新たなクリエーションも可能になり新しい漆器の可能性が今後確実に広がってくる。
今後の漆器がより楽しみになる、面白い学びでした。



僕は幸せになると決めた。
今日もきっといい日になる。
一歩一歩、着実に歩もう。


皆様も、良い一日を。

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