見出し画像

ハードボイルドの想い出

それは、年が明けてぼんやりと今年は何を読もうかななんて考えていた時に、突然思い出したことでした。

新卒で就職して数年間、それまでのわたしの読書傾向には全くなかったジャンルの小説をやたらと読んだ時期があったのです。

正確には、強くお薦めされて読まされたと云うべきかもしれません。

たまたま自宅が近所でよく車で送ってくれた同期の友人がそのシリーズのファンだったのです。残業で終電に乗れないことが多くて、車通勤の人は方向が同じ電車通勤の人を乗せる、というのが慣例になっているような職場でした。(ちょいブラック 汗)

その帰り道に彼は本の話をしてくれたのです。一見、本なんか読まないタイプに見えたので意外な気がしましたが、その熱心な話ぶりにかなり読み込んでいることがわかりました。

そのうち口頭での説明に限界を感じた彼は、わたしに本を貸してくれるようになりました。

それはロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズ。
いわゆるハードボイルドというジャンルになるのですが、わたしには全く未知の分野でした。

シリーズ一作目ではなく、まずはこれを読んで欲しいと云って渡されたのは「初秋」です。

画像1

https://www.amazon.co.jp/初秋-ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ-ロバート・B-パーカー/dp/4150756562

彼から本を受け取ったときはとても緊張しました。その本を彼がとても大切にしていることを知っていたから。きっと本棚の一番いい処に美しく順番に並んでいたに違いなくて、そこに隙間を作らせてしまったという罪悪感に襲われたのです。

だから、丁寧に読まなくては、と思いました。いい加減に読み飛ばしたり、勿論物理的に本を傷付けることがあってはならない、何だか凄く気を遣った記憶があります。

さて、ハードボイルド初心者のわたしにも「初秋」はとても面白かったです。主人公の私立探偵スペンサーはとても魅力的。想像していたハードボイルドとは違い、内容はむしろヒューマンドラマ的なのですが、彼の台詞のひとつひとつが格好良くて、ハードボイルドとはこういうものだと教えてくれるのです。
スペンサーの視点から見た「敵」と「味方」の世界をそのまま受け入れて読み進められるので、勧善懲悪をすんなりと楽しむことができます。相棒のホークがこれまた格好いい。

感想を伝えると、彼はシリーズを次から次へと貸してくれるようになりました。「約束の地」「ユダの山羊」「失投」、、順番は覚えていないのですが、彼のお薦め順に、恐らくその時点で出版されていたシリーズの全てを。

そうして、帰り道の車内はスペンサー談義の場となっていったのでした。懐かしいなあ。

調子が良くて時々悪ふざけが過ぎるところや、時に冷酷な部分があることを差し引いても、わたしがその彼を同期として信頼していたのは、彼が主人公のスペンサーに心酔していて、彼の様にありたい、彼の様に生きたいと願っていることを知っていたからかもしれません。


で、ふと気がついたのです。


わたしはまだ自分の理想とするような人を物語の登場人物に見つけられていないなあと。

素敵な一面を持つ登場人物もいるし、魅力的な人もいるのだけど、その人の生き様を丸ごと真似したくなるような、そんな人には出会えていないのでした。

それは、ハードボイルド的な格好いい登場人物が出てこないものを好んで読んでいるせいかもしれないのだけど。
ただ何か選択を迫られた時にひとりくらい「あの人ならどうする?」と思える人を自分の心の中に持つことは悪くないな、と。

わたしの本の登場人物はいつもどこか滑稽で、不器用で、迷ってばかりだけど、その中にも揺るぎない何かを持っている人はいたはず。

その辺りも意識して、今年も色んな本を読んでみたいです。たまにはハードボイルドもいいかもしれない。


と、いうわけで、


🎍本年も宜しくお願いいたします🎍


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?