なぜ「問いのデザイン」なのか

2015年頃から「問いのデザイン」を一つのキーワードに掲げて、研究会や講座イベント、さまざまなプロジェクトを実施してきました。次第に外部企業様からお声がけをいただくかたちで「問い」を題材にした研修やセミナーなどの機会も増えてきました。

"問いのデザイン"というテーマに対するニーズの強さを感じると同時に、一口に"問いのデザイン"といっても現場によって指し示しているもの(要望のレイヤー)が異なると感じます。改めて「問いのデザイン」とは何か、それがなぜ重要なのかについて、レイヤーを区別して整理しておきます。

プロジェクトの「まなざし」としての問い

まず第一に、どのような問いに基づいてプロジェクトを設計するのか、プロジェクトデザインのレベルにおいて問いのデザインは重要です。

商品開発にせよ、組織開発にせよ、人材育成にせよ、地域活性化にせよ、「大きな課題」をどのような「まなざし」で捉えて、解くべき「問い」を何に設定するかによって、プロジェクトのプロセスとアウトプットは劇的に変わります。

たとえば、三浦半島の活性化のプロジェクトを例に考えてみましょう。「三浦半島に若者が来ない」という大きな課題に対して、どのようなまなざしで解くべき「問い」を設定するのか。ここがポイントです。

たとえば、三浦半島の代表的な観光資源である「マグロ」に焦点を当ててプロジェクトを設計した場合、「まぐろを利用して、どのように観光客を呼び込むか?」を考えるプロジェクトになるでしょう。おそらく、こうした問いに基づいたアウトプットが、以下のような施策だと考えられます。

2017年から実施していた「三浦半島の魅力を再定義する」プロジェクトでは、このような「まぐろきっぷ」のような先行施策を参考にしながらも、課題に対する「まなざし」そのものを刷新する必要性を感じていました。

そこで、まずターゲットを"若者"として漠然と捉えるのではなく「どんな若者に三浦半島に足を運んでほしいか?」という視点を入れ、その上で「まぐろ」のような点としての観光資源に着目するのではなく「その若者にとって、三浦半島で過ごすことは、どのような意味を持つ経験なのか?」という観点から、三浦半島の資源を物語的に編集し直すプロジェクトとして設計しました。プロジェクトの詳細は、以下の記事をご覧ください。

課題をリフレーミングして再定義する

上記のプロセスは、言い換えればプロジェクトの意義を問い直すことによって、解くべき課題をリフレーミングする(別の枠組みで再解釈する)ということです。

地域の事例で説明しましたが、商品開発においても同様です。新しいカーナビのアイデアを考えるプロジェクトにおいて「AIを活用した未来のカーナビとは?」と問うのと、「自動運転社会においてどのような"移動の時間"を支援したいか?」と問うのとでは、プロジェクトのプロセスや出てくるアイデアはまったく別物になります。

組織開発も同様です。「潰すべき組織の問題は何か?」を問うのと「この状況を楽しく乗り越えるために、私たちはどのようなコラボレーションが必要か?」と問うのとでは、目の前の出来事に対する見え方は変わるはずです。

同じ課題であっても、それをどのようなまなざしから捉え直し、プロジェクトで解くべき「問い」として設定するかによって、プロジェクトのプロセス設計はまったく異なるものになります。そうした意味で、プロジェクト設計段階の課題をリフレーミングする意味での「問い」のデザインは、とても重要なのです。以下、補足記事です。

ワークショップデザインにおける問いのデザイン

課題を捉えるプロジェクトの「まなざし」が決まれば、設定した解くべき「問い」に基づいて、具体的にプロジェクトを設計することになります。弊社の場合、商品開発のプロジェクトは平均3〜4ヶ月ほどかけて、途中途中で各種リサーチ手法を組み合わせながらワークショップを3回程度実施するのが一般的です。

このワークショップデザインのレベルにおいても、「問いのデザイン」は重要になります。同じ目標・テーマ設定のワークショップであっても、参加者にどのような問いを投げかけながらファシリテートしていくかによって、場のコミュニケーションプロセスや、生成されるアイデアは変わるからです。メイン活動の問いの制約を変えるだけで、コラボレーションプロセスに大きな変化が生まれることは、安斎の以下の研究論文で実証しました。

同じプロジェクトテーマでも、ワークショップの問いは無数に考えられる

たとえば上記で例示した「自動運転社会においてどのような"移動の時間"を支援したいか?」という問いを基にしたプロジェクトの場合。実際に実施するワークショップにおいて投げかけられる問いは、無数にバリエーションが考えられます。

ex「理想的な移動の時間とはどのようなものか?」
ex「自分にとって"最悪の移動の時間"とは?」
ex「現在の移動時間の満足度は100点中何点?その理由は?」
ex「自動運転社会において、私たちは何を"ナビ"されたいのか?」

ファシリテーターが放つ問いは、参加者の認知と感情に刺激を与え、場における視点・思考・コミュニケーションを引き起こすトリガーになります。この問いをどのような制約で、どのような文言にするのかは、ワークショップの成果にダイレクトに影響するため、プロジェクトを成功に導く上で、ワークショップの問いを戦略的にデザインすることは不可欠なのです。

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以上、大前提として「問いのデザイン」がなぜ重要なのか、プロジェクトデザインのレベルと、ワークショップデザインのレベルにざっくりと分けて、説明をしてきました。

もう少し各論的にブレイクダウンすれば、ワークショップデザインレベルの問いのデザインのなかでも、「参加者を動機づけるための問いのデザイン」とか「アイスブレイクを成功させる問いのデザイン」とか「参加者に内省を迫るための問いのデザイン」など、個別の理論とテクニックは語りつくせないほどあります。またプロジェクトデザインレベルで考えると、ワークショップとワークショップの間に差し込むリサーチの問いの設定(リサーチクエスチョン)も肝になるでしょう。

今後、「問いのデザイン論」については視点を色々と変えながら、いくつかの記事にわたって不定期で解説していきたいと思いますので、ご関心のある方はアカウントとマガジンのフォローをお願いします。





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安斎勇樹

ワークショップデザイン・ファシリテーション論

ワークショップデザインやファシリテーションに関する知見や論考をまとめていきます。
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