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探究の戦略(Strategy)と戦術(Tactics)

ここ最近はもっぱら"探究"というキーワードについて思索を巡らせています。

教育の領域では「探究型学習」「探究的な学び」などが普及して一般的なワードになりましたが、これからはビジネスパーソンのキャリア戦略においても、企業のイノベーション論においても、探究の考え方が鍵になるのではないかと考えています。

探究を"日常化"する重要性

"探究"と"研究"は何が違うのか?という定義の議論はまた別の機会に譲りたいと思いますが、これまでビジネスにおける"研究活動"というと、ビジネスパーソンが働きながら大学院に進学して修士論文を書いたり、企業の中に研究開発部門を設置して新規事業の投資を行うなど、これまで「日常業務とは別のモード」として、言葉を選ばずにいえば"大袈裟に取り組む"ものでした。

しかしVUCAの時代人生100年時代において、個人と組織が連続的にイノベーションを起こし続けなければならなくなったとき、日常の仕事や生活のサイクルのなかに探究のプロセスを搭載することが、これからは求められると思うのです。

数々の経営学や組織学習の研究が指摘している通り、これからは直線的に何かを積み上げる"勉強スタイル"ではなく、中長期的に「得意技を磨くこと(熟達)」「自分の得意技から脱皮すること(アンラーニング)」を螺旋的に繰り返す必要があるからです。(以下、参考記事)

知的創造の質を高める要件

そんなことを考えているなか、大学院時代にお世話になっていた吉見俊哉先生(東京大学大学院情報学環教授)の新著『知的創造の条件:AI的思考を超えるヒント』が大変参考になったので、簡単にご紹介します。

いくつか参考になったフレーズを引用してご紹介します。太字箇所は筆者(安斎)による強調です。

知的創造と言うのは、自分の頭の中にあるアイデアを外へ出していく行為ではありません。そうではなく、それは根本的に対話的な行為だと思っています。(p.16)
現在の自分の枠組みを壊してもっと新しい地平から物事を捉え直すためには、本人があまりにもなじみすぎてしまった前提が、いちど叩き潰されなくてはいけません。(p.17)
本や論文の要点を上手にまとめらることは、創造的な協働の必要条件ではあるでしょうが、十分条件ではおそらくないのです(筆者一部要約)。自分が何者であり得るのか、つまりは自分の立場や出そうとしていることを自覚的に語れなければならないのです。ここにおいては、やはり自分自身の側にも、言いたいこと、言わなければならないことが、ある種の執念のようなものとしてなければならないことになります。(p.19)
決定的に重要なことの1つは、問いのこだわりから出発すること、もう一つはその問いへのありきたりな回答を超えようとする、理論的な枠組みを構築することです。つまり、問いへのこだわりと理論的な枠組みの構築が知的創造の大きな柱となります。(中略)ここで言う問いと、若い研究者がしばしば口にするリサーチクエスチョンは別物だということです。(p.62)

などなど、いくつもの知的創造の本質を捉える言葉が紡がれています。特に中盤では「問い」の重要性を指摘し、知的創造の基盤としての問いの立て方を、①問題起点の問い(実社会の経験や報道から発見する)、②理論起点の問い(古典をレビューするなかで発見する)、③対象起点の問い(対象への深いこだわりから発見する)と3アプローチで分類していて、大変参考になりました。拙著『問いのデザイン』を改訂することがあれば、引用加筆したい!

ちなみに個人的には以下にツイートした通り、冒頭での昨今のアカデミック批判がなかなか痺れました苦笑。

私たちを取り巻く学問知には、あまり「創造的」とは言えそうにないものが溢れています。この傾向は、昨今の画一的業績主義、つまり査読付きの論文を何本書くか、それが国際的にどれだけ引用されるか、論文はその形式的要件を満たしているかといったことばかりに研究者の関心が向かい、学会誌に掲載してもらうために既存の価値基準に合わせることに若手が汲々とする中でますます強くなっています。(p.12)

探究の戦略(Strategy)と戦術(Tactics)

私の持論では、探究は戦略(Strategy)戦術(Tactics)がとても重要だと考えています。探究や研究は、そもそも投資する時間を捻出する最初の一歩に大きなハードルがある(だから思い切って大学院に進学したりする)わけですが、経営と同様に、貴重な時間資源を使うからには、投資ポートフォリオ戦略や、投資対効果を最大化させるために「質」にこだわることが肝要です。

また吉見先生が指摘する通り、探究を方向づける「問い」は、技巧的に設計されたリサーチクエスチョンではなく、自分が「何者」であり得るのか、いわばアイデンティティ戦略も関わってきます。5年以上かけて博士論文を書き終えたあとに、「あれ、自分は何を研究したいんだっけ?」と大きな指針を見失うことは少なくありません。これは100年時代において、専門性を連続的に獲得していく上で、常に「次のキャリア」を考え続けなければいけない問題にも直結しています。

また、探究そのもの質を高めるためには、問いを前進させてくれる理論と実践知をバランスよくインプットすること、インプットした素材を構造的に理解して知識の地図を作ること、仮説を立ててスピーディに実験すること、様々なレイヤーでリフレクションすることなど、さまざまな戦術にも支えられています。

この約10年間、研究と実践を往復することをスローガンに掲げて、仕事や人生を探究的にするための術について模索し続けてきました。近いうちにこれらの知見も体系化して、発信できればと思っています!

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安斎が編集長を務めるCULTIBASEは、まさにビジネスパーソンの探究の質を高めるためのメディアとコミュニティにしていきたいと思っているので、是非関心ある方はこの機会にアクセスしてみてください!組織ファシリテーションの技を探究するコミュニティ「CULTIBASE Lab」も会員募集中です!


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