ルンバ

仕様のデザインと意味のデザイン:技術主導の商品開発を意味に開く

意味のイノベーションで知られるロベルト・ベルガンディ教授は、前著『デザイン・ドリブン・イノベーション』において、イノベーションのアプローチを技術の変化意味の変化の二軸で整理しました。

技術革新によって商品開発する「1.技術主導」のアプローチは、「ウォークマン」のように生活者の文化や行動を書き換えてしまう可能性もあれば、スペックは向上しているが、生活は大きく変えない場合もあります。

ユーザーニーズに基づいて商品開発する「2.市場主導」のアプローチは、現在のユーザーニーズに応えるため手堅いですが、ユーザーが予想もしない新たな意味の革新は起こりにくいという意味で、左下に位置づいています。(これについては、賛否両論があるかと思います)

他方で、企業側、デザイナー側が作る手のビジョンに基づいて新たな意味を生活者に提案するアプローチを「3.デザイン主導」としています。任天堂の「Wii」など、技術主導でも市場主導でもない、企業側が作りたい世界観に基づいて進められるイノベーションのアプローチがありえることを踏まえ、このような整理がされています。

技術の変化とは、言い換えれば商品(やサービス)の「仕様の変化」とも言えます。そう考えれば、どのような商品であっても、あらゆるアイデアは「意味」と「仕様」の結びつきによって構成されていると捉えることができます。仕様があるからこそ意味が実現し、意味を実現する手段として仕様は切り離せないため、この2つは相互に関連しますが、商品開発のプロセスにおいては意味と仕様を区別することがとても重要です。

たとえばお掃除ロボット「ルンバ」で考えてみると、ルンバの仕様は「円盤形」であり「フロアトラッキングセンサー」が付いていることなどが挙げられます。しかしユーザーは「フロアトラッキングセンサー」を購入しているのではなく、「自分がいない間に部屋を綺麗にしてくれる」という意味を購入しているわけです。

昨今は「技術主導はダメで、市場主導で商品開発をすべきだ」とか、「いやいやユーザーを眺めていても革新的なアイデアが生まれないので、企業ビジョンに基づいてアイデアを提案すべきだ」といったように、「旧来のアプローチはダメだ」という論調が増えています。

ここから先は安斎の持論になりますが、技術主導のイノベーションそのものが「もうダメ」なのではなく、もし従来の技術主導のやり方が「もうダメ」なのだとしたら、それは技術を「単なる仕様」として捉えるだけで、その「意味のポテンシャル」を新たに解釈しようとしない態度が「もうダメ」なのではないかと考えています。もちろん意味を変えずに圧倒的に技術をブレイクスルーさせることで起きるイノベーションも存在しますが、そうでない場合であっても、「技術に潜む新たな意味の可能性」に目を向ければ、"技術主導の意味のイノベーション"も十分に可能になるはずです。

たしかに、技術を専門とするメーカーで商品開発の議論をすると、多くの場合「仕様」の話が9割を占め、放っておくと「意味」の話はほとんど登場しません。そして技術者本人は、そのことを自覚してすらいない場合が多いです。これは、いわば「仕様に閉じた技術主導」の発想です。

しかしきちんと「技術から、新たな意味の可能性を読み解く」ためのプロジェクト設計とワークショップデザインを推し進めることで、「意味に開いた技術主導」のアプローチが可能となり、技術があるからこそ実現可能な「仕様と意味の新たな結び付け方」を生み出すことが可能になります。

技術起点で始めながらも、新たな意味の可能性を読み解くための方法論については、問いのデザインを切り口に現在研究を進めています。これについては、また別の機会に論をまとめたいと思います。

[参考事例] 新たな技術が活きる「意味」を探る、技術起点の意味とアイデア創発研修プロジェクト(NECソリューションイノベータ)

意味のデザインをテーマに博士号を取得したミミクリの小田が進めている研究会シリーズのレポートも是非ご覧ください。


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