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心理的安全性だけでは物足りない!?チームにおける真の「よい関係性」の築き方を考える

コロナ禍を通じて働き方が大きく変化したことで、チームビルディングや組織開発のあり方も見直され、「よい関係性をつくること」の重要性について指摘する人が増えてきていると感じます。

とりわけ「心理的安全性」というキーワードがこの潮流に与えた影響は大きく、「言いたいことを言い合える関係性をつくった方が、チームの生産性とパフォーマンスが上がる」ということは、多くのビジネスパーソンに広まっているのではないでしょうか。私自身も『問いかけの作法』を執筆するにあたって、旧友である『心理的安全性のつくりかた』著者の石井さんと議論を重ねながら、自分なりにも思考を深めてきました。

しかし今回の記事であえて考えてみたいのは、心理的安全性が高ければ、すなわち言いたいことがなんでも言い合えれば、それはイコール「よい関係性」と言えるのだろうか?ということです。

私が経営するMIMIGURIのミッションである「組織の創造性」の観点から考えてみると、心理的安全性が高いことは、よい関係性を築く上での必要条件ではあるものの、十分条件とまでは言えないような感覚があります。

そこで今回のnoteでは「よい関係性」とは何なのか、「よい関係性」を築くために必要なものとは何なのかについて、考えてみたいと思います。

「よい関係性」とは、お互いに学び合える関係性である

そもそも、なぜ、いまあらためて「関係性」が注目されているのでしょうか。

私の考えでは、「人的資本経営」をはじめとする無形資産経営(人的資本、知的資本、社会関係資本といった無形資産に投資することで、企業の中長期的な価値向上につなげようという考え方)が広がり始めたこと、そしてコロナ禍によるリモートワークの普及が背景にあると捉えています。

この流れにおいて、多くの企業が、組織のメンバーがどんなスキルを持っているのかを把握したり、お互いに言いたいことが言い合える関係性を構築したりするために、さまざまな投資を行ってきました。Slackなどのコミュニケーションツールや人材管理システムの導入も、その一例ですよね。

社内のネットワークを増やし、お互いに言いたいことを言い合える関係性をつくることは、たしかに必要です。実際、その段階に到達できていない企業が多いからこそ、「心理的安全性」という言葉がここまで流行しているのでしょう。

ただし、僕がどうも物足りないように感じているのは、本当の意味で創造的な組織につながる「よい関係性」とは、さらにそこから一歩進んだ、お互いのまだ見ぬポテンシャルを拡張しあえるような関係性であると思うからです。

どれだけ風通しがよく、誰がどんなスキルを持っているかお互いに把握していて、言いたいことを言い合える関係性をつくったとしても、それだけでは自律的に学習し、変化し続ける組織にはならないと思うのです。

また、ネットワークが豊かで、心理的安全性の高い組織をつくること自体をゴールにしてしまうと、かえって組織の関係性が固定化してしまうリスクがあるのでは、という懸念もあります。

以前多く反響をいただいた以下のnoteでも書いた通り、私は人間の学習の本質を「アイデンティティの変容」であると捉えています。

お互いのことをよく知り合って「◯◯さんはこういう人である」「あの人は△△が得意/苦手」という相互理解が一時的に深まると、親密さが形成される反面、それは中長期的には「バイアス(固定観念)」として固定化してしまうおそれがあります。すると、その人に対して同じような仕事を依頼し続けてしまったり、相手の変化が目に入らなくなってしまったりして、いわゆる「マンネリ」の状態に陥ってしまいます。

短期的に心理的安全性を高めてチームビルディングをしようとした結果、”ビルド”された関係性が凝り固まってしまい、かえってそれが個人や組織の成長の足枷にもなることもあると思うのです。

「人は変化し続ける存在である」ことを認め、相手の深層に注意深く目を向ける

まだ見ぬお互いのポテンシャルを拡張し、凝り固まらずに常に新たなものを生み出す「よい関係性」をつくるためには、意図的に既存の関係性を打破して、更新し続ける必要があります。

より具体的には、その人のアイデンティティがどのように変容し、これから何者になっていくのか。本人ですらうまく言語化できないような深層で起きている変化を、お互いに注意深く観察しあい、触発しあう必要があるのです。

当然、このような関係性を多くの人と築くのは物理的に不可能ですし、その必要はありません。多くの人と広く浅い関係性を築くのではなく、一緒に仕事するチームメイトや、時間を長く共にする家族・知人など、親しい人とのみ、深く「よい関係性」を築くべきだと思います。

それでは、その「よい関係性」を築くにはどうしたらよいのか。

まず、意識の面で重要なのは、人は絶えず変化しようとしている存在であることを認めることです。

人間はどうしても、バイアスを持って相手を眺めてしまうものです。そのため、意識的に目を向けようとしなければ、相手のちょっとした変化には気づけません。

長年タッグを組んできたビジネスパートナーや、数十年連れ添った夫婦でも、知らないことは意外と多いものです。

拙著『問いかけの作法』では、このことを氷山のモデルにたとえて体系的に整理しました。

目に見える発言や行動は、その人の本質ではない。大事なことはどんな「思考」に基づいてそのような発言・行動をしたのか。さらにいえば、その思考はどんな「前提・価値感」によって生み出されたのか。そこにその人の本質がある。

どれだけたくさんコミュニケーションを積んでいたとしても、相手に見せるのは表層に出ている「氷山の一角」でしかありません。

夫婦であれば、子育てや生活サイクルについては十分な価値観のすり合わせを行っていたとしても、お互いの仕事の悩みや趣味についてはあまり踏み込まないかもしれない…というように、日常で相手に見せる一面が固定化している場合も多いでしょう。

普段は見えない深層にあるその人の意外な一面や趣味、こだわり、価値観を発見するためには、意識的に相手の奥底に光を当て、その変化を捉える必要があるのです。

「普段とは違う問いかけ」が、思考と関係性に刺激をもたらす

では、相手の深層に目を向けたうえで、それをどうやって掘り起こしていくのか。

ポイントは、いつもとは違う問いかけをすることです。

最寄り駅のホームで毎日鳴り響くアナウンスがまったく耳に入ってこないように、ルーティン化された言葉は私たちの思考を刺激しません。同様に、いつもと同じような問いかけをしている限り、私たちの関係性は固定化される運命にあります。

たとえば「最近どう?」とか「元気?」などと定型化された質問は、和やかな雑談を開始する常套句としては便利ですが、相手の返答も定型化されたものになりがちです。それを、ちょっといつもと違う角度から、質問を投げかけてみるのです。

先日、MIMIGURIの共同経営者であるミナベがあまり自己開示的でないマネージャーとの1on1のアイスブレイクで、「最近『ささやかな一歩を踏み出した話』はないですか?」と問いかけたそうです。結果的にそのマネージャーの意外なエピソードを知ることができたそうで、喜んでいました。

このように普段とは少し表現や言い回しを変えるだけでも、相手の新たな一面を探るうえで非常に有効です。

とはいえ、ルーティン化した会話に慣れてしまっており、いつもと違う問いかけがなかなか思いつかないという人もいるかもしれません。

その中でも問いかけと関係性に変化を起こしていくためには、やはり「観察」が重要です。

長年一緒にいるからこそ気づかなくなっている相手の口癖やよく使う言葉、ものの言い方を注意深く観察し、「なぜこの人はああいう言い方をするのか?」「あのキーワードにこだわるのか?」と、その背後にある相手の価値観を想像してみることで、いつもとは違う質問の切り口が思い浮かびやすくなるはずです。

また、自分の中で起こっている価値観やアイデンティティの変化について、積極的に他者に話したり、SNSなどで発信することも有効です。

私の場合は、毎年、年末年始にアイデンティティに関する深めのリフレクションを行うようにしており、「結局のところ、”自分の才能”とはいったい何なのか」という問いを自分自身に投げかけ、それに対する仮説をアップデートし続けるようにしています。年明けに、そこで生まれたアップデートについて親しい知人や仲間に話すと、「え、そうなの!?去年と言ってること違うじゃん!」と、だいたい驚かれます。

常に更新される自己認識と他者による認識の間にあるギャップは、定期的に埋めていく必要があるのです。

反対に「よい関係性」を築きたい相手に関しては、SNS等を含めた複数の情報チャネルを通じて相手を「観察」することで、リアルではなかなか出てこない微細な変化や価値観を捉えることが可能になります

組織におけるよい関係性は、「豊かに耕し続ける」ことで生まれる

ここまで、「よい関係性」をつくるために主に二者間で実践できるポイントについてご紹介してきましたが、チーム単位でよい関係性をつくろうとする場合にも、「深層に眠っている価値観やアイデンティティの変化を捉える」という基本は変わりません。

ただし、チーム(=3人以上)の関係性の場合には、より多様なアプローチをとることが可能になります。

たとえば、「メンバーの意外な一面」について、他己紹介的に共有し合うことで、自分では気づけなかったようなメンバーの一面に気づくことが可能になります。人によって、見えているものや持っている視点はそれぞれ異なるからです。

またMIMIGURIには、メンバー間の相互理解を深めるためのツールとして社内放送局があるのですが、ここでは専任のプロデューサーが番組を企画することで、メンバーの意外な一面を効果的に引き出しています。

たとえば、メンバーの業務以外の意外な一面を特集する「Another Story」という番組では、先日男性エンジニアが「スキンケア入門」というテーマでマニアックな知識を熱弁してくれ大いに盛り上がりました。私自身も「スニーカー大好き芸人」という企画に他のメンバーと一緒に登壇して、自慢のスニーカーコレクションをお互いに披露しあうなど、役職や所属に関係なく、出演しています。

これも、本人が自分からテーマを設定したのではなく、何気ないつぶやきをプロデューサーが拾い、企画にしたことで、番組化につながりました。

それ以外にも、月1でメンバーが住んでいるまちを紹介する「たんけんみんなのまち」など、さまざまな角度からお互いを知るための番組があります。

もちろん、これらが何か直接的な成果にすぐにつながるとは思っていません。しかし、こうして組織の関係性を「耕す」ことは、中長期的には、関係性の固定化を防ぎ、新たな価値を創出し続けるための種まきになる、と考えています。

冒頭でも述べた通り、心理的安全性の高い組織をつくることは間違いなく重要です。

しかし、心理的安全性が高く、仲の良いチームであっても「関係性の固定化」は頻繁に起こります。人はある瞬間で経験した「あ、この人こういう人なんだ」「この人とはこういう話題が盛り上がる」「こういう連携だとうまくいく」「こいつ、あんまパス出さねえやつだな」という「点」での経験を類推して、「それがずっと続くもの」だと仮定してしまうからです。一度そういう「仮定」を置いたり、「線」を引いたり、「遠慮」が発生したりすると、その慣性を日常のなかで打ち破るのは結構難しいもの。

だからこそ自分も相手も時間が経てば変わっているはずなので、変化を「線」で捉えようとし続けることが大切なのです。

  • 「あの人は◯◯◯が苦手だ」→実は克服されつつあるかも...

  • 「あの人のキャラは◯◯◯」→実は年を重ねて脱却したがってるかも...

  • 「あの人は◯◯◯に興味がない」→意外に関心を持ち始めているかも...

……そんな前提をもって、密にコミュニケーションしているすぐ近くの仲間に「あなたが最近、密かに変わりつつあることは?」などと聞いてみることから、「組織をいかにして耕し続けるか」というテーマに向き合い始めてみてもいいかもしれません。


新作講義『新時代の組織づくり』オンラインセミナーの動画を期間限定でYoutubeにアップしています。大企業やメガベンチャーの経営層をはじめとする約3,000人以上の方々に受講いただき、満足度98%と大変好評いただいたセミナーです。軍事的世界観から脱却し、冒険的世界観のマネジメント論を模索しています。よければご覧ください。


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