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書評 │ 傷を愛せるか

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傷を愛せるか
宮地尚子


*あらすじ

トラウマ研究の第一人者による、エッセイ。著者は日本人なのだが、学ぶことやシンポジウムへの参加のために海外を飛び回り、その合間に感じたことを書き連ねている。著者の独特な視点に心惹かれる。

*興味深かったところ

・それぞれのエッセイは繋がりがあったりなかったりしてとりとめがないが、自分の過去と重なりはっとする瞬間が化学反応のようで面白い。
・生活する上で当たり前だったり考えないで過ごしてしまうようなことについて丁寧に描かれている。それが著者の少し冷めたような、真面目でさっぱりとした思考をよく感じさせてくれて別の人の視点を味わえて新鮮な気持ちになれる。自分の視点と似ていた。

*所感

実は私はこの本に何が書かれているのか分からずに、ただ東京の高円寺駅にある蟹ブックスさんでお勧めだというだけで購入した。そのため最初読み始めた時に小説なのか短編集なのか分からずに困惑していた(エッセイであることは裏表紙にも帯にも書いてあった)。

読んでいくと段々と著者の見る静かで平たく平等な思想の世界に溶けていくような感覚になり、著者と一緒に世界を眺めることができた。この本の中にはトラウマ、差別、DV、ジェンダー、PTSDを含む内容が出てきて、それに対する著者の優しくも冷静な考えに共感した。

大切な人が死を選びたいと言ったときに何を選ぶのか、苦しい今から先に歩みだす時に必要な言葉、人から見たらそんなに大きな悩みに見えなくても本人にとっては消えたくなるほどの悩みに手を差し伸べること……変わりたくても変われない、変わりたくないとか、人間は複雑だ。切り捨てる人間からしたら「どっちかを早く選べよ」と唾を吐きたくなるのだろうが、そんなに簡単に決められるほど心は割り切れない。どっちつかずで悩む人たちにそのままでもいいんじゃないかな、と近くで見守ってくれているような安心感のある言葉を投げかけてくれる(本の言葉自体は淡々としているが)。

また人は見た目や性別や役割で勝手に相手は強いんだろう、弱いんだろうというのを決めつけてしまい、親だから子どもより怖くないんだろうとか、男性だから体も心も耐えられるとか、そういう目で見がちな部分があると思う。そういった視点に対しみんな平等に恐れや不安があるのだと気づかせてくれる文章を通して、自分の不安をそういった役割の人に押し付けてきた過去があることに向きあわされた。また、自分も押し付けられている事実がある。

私はこの本を読む前までは傷は癒すもので、いつか綺麗に消えて跡もない状態に持っていくことが「回復」だと思っていたが、全章を読み終え、裏表紙にもあるこの言葉を見たときに涙が出た。

傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷のまわりをそっとなぞること。身体全体をいたわること。ひきつれや瘢痕(はんこん)を抱え、包むこと。さらなる傷を負わないよう、手当てをし、好奇の目からは隠し、それでも恥じないこと。傷とともにその後を生きつづけること。

傷を愛せるか p.226より

傷はあってもいい。
傷は塞がらないかもしれない、まだ血が滲んでいるかもしれない。でもそんな傷がある自分に負い目や怪我を負った自分を恥ずかしく思わなくていい。その傷が綺麗さっぱりなくなるまで無理やり頑張る必要もない。その傷を含めて自分だから、そんな自分をいたわって、それでいい、と認めてあげることが「回復」なんだなと思った。

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読んでくださり、ありがとうございました!

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