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パブロフの犬みたいに

パブロフの犬、と言われる条件反射の実験は、
「ベルを鳴らしてから餌を与える」ということを繰り返すと、
餌を与えずとも、ベルを鳴らしただけで唾液の分泌量が増えるというものだが、
そのうち、ベルを鳴らす以前に、
飼育員の足音だけでよだれが出るようになったという。

***

切迫早産で入院してから20日が経つ。

足音で、誰が来るのかがわかるようになってきた。

夫の足音。
背が高い夫は、足も長いのだろう。
足音から、次の足音までに、キリンが歩いているのかな、と思うような「間」がある。

担当医の足音。
なぜか、祖母の家にあったカエルの貯金箱を思い出す。
お金を入れると、それを食べているかのように、少し遅れて黄色い舌がめくれ上がる貯金箱。
足音から少し遅れて、ペタ、という音がついてくる。
どうやら、次の一歩を踏み出すときに、シリコンのサンダルが床から離れる音らしい。

助産師さんのワゴンの音。
これは、ベッドのすぐ脇に来るまで、私に用事があるとは限らない。

ごはんの運ばれてくる音。
保温するためのワゴンは、ワゴンというよりもひとつの建造物みたいだ。
ギシギシと、気だるげな音を立てながらやってくる。
「とある国では、これを大きくしたものを移動式の家として使っています。
いや、このワゴンは、その家をモデルにしてつくりました、と言ったほうが正しいでしょう。
もともと、移動することよりも丈夫であることを優先させてつくられていて、
その中で改良を重ね、動かしやすくするための部品を入れました。
ギシギシというのは、その部品特有の音です。」
なんていう説明がされるのではないかと思っている。
対面の個室が優先らしく、一度通り過ぎてから、戻ってきて配膳される。
音が聞こえ始めてから配膳されるまで、閑散期には10分、ほぼ満床のときには30分ほどかかる。

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