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夏の怪談 嘘つき

▲音声版です。

私は怪談師というものをやっております。

怪談とは不思議なもので、怖さだけを追い求めてもだめなんですね。
それでは人の興味を引くことは出来ない。
興味を引かせるためにはやはり話術が必要になってくる、怖さだけを追い求めてしまうと痛い目にあう。

ましてやそれに欲が絡んでくるとまぁー大変だ。
今日お話するのは、そういった類いの話です。



去年の夏頃のことです。
私はとある怪談LIVEに招待され、参加するはこびとなりました。
その怪談LIVEというのは、10名ほどの怪談師が怪談を披露し、最後にお客さんたちが1番怖かった怪談を決めるという形式のものだった。

私には代表的な怪談がありまして。
それをその日も話すつもりでおりました。

代表的な怪談といいますのは、
「足音」
というタイトルのものでして、話としてはこういったものになります。


私はある夜、1人で駅から自宅までの道のりを歩いておりました。

カツカツカツ。

その日はめずらしくスーツを着ていたもので、革靴の底がアスファルトを鳴らした。

カツカツカツ。

しばらく自宅に向かって歩いていると、私はあることに気づく。
私の靴底が鳴らす音とは違う音が混ざっているなと。

カツカツカツ、カッカッカッ。
カツカツカツ、カッカッカッ。

その音はまるで、急いで私の後をついてきているかのような音だった。

私は妙に嫌な予感がしたもんだから、歩く速度を徐々にあげていった。

カツカツカツ、カッカッカッ。
カッカッカッ、カッカッカッ。

もはや小走りといった表現が正しいほどの速度で、自宅へ向かった。

そこで私は少し冷静さを取り戻し、この先に踏み切りがあることを思い出す。

ーあっ、ちょうど踏み切りが閉まるタイミングで踏切を渡ることができたら、踏み切りをはさんで後ろを確認することができるぞ。

そう思った私は踏み切りが閉まるタイミングを祈りながら、踏み切りがある道の手前の角を曲がった。

曲がった直後、100mほど先にある踏み切りを確認する。

まだ、踏切は鳴っていない。

カッカッカッ、カッカッカッ。
カッカッカッ、カッカッカッ。

踏み切りまで50m。

カーンッカーンッカーンッ。

ここで踏み切りが鳴ってしまったもんだから、私は慌てて踏み切りを渡ろうとした。

カッカッカッ。カッカッカッ。

しかし、一歩間に合わず、踏み切りは私の目の前で完全に閉じてしまった。

そして、踏み切りの音が大きく鳴るもんだから、後ろから近づいてくる足音すら聞こえなくなってしまう。

カーンッカーンッカーンッ。
ガタンガタン。

右方向から電車が徐々に近づいてくる。

私は電車が通り過ぎていくのをただじっと待っていた。

すると、トントンっと誰かに右肩を叩かれたような感触がした。

ゾクっとして、一度肩をこわばらせた私は恐るおそる後ろを振り返ってみることにした。

そーと、後ろを振り返る。

しかし、そこには誰の姿もない。

ーはぁ、なんだよ。気のせいか。

少しほっとして気が緩んだのか、さっきまで誰かの足音に怯えていたことを私はすっかり忘れてしまっていた。

そして、緊張がとけたことによる笑みを少し浮かべながら踏み切りへと再度振り返った。

丁度そのタイミングで電車の最後の車両が踏み切りを走り抜けていった。

そして、次の瞬間。
振り返った私の目の前に、丁度私と同じ背丈の女性が立っていた。

肌はボロボロに崩れ落ちており、全身真っ青。

ボロボロの唇がずーどブルブル震えていて、カチカチカチカチと歯が鳴る音がしている。

踏み切りのバーだけをはさんで、2人はかなりの至近距離で見つめ合う形で向き合っている。

「ァーヴ、ァアァ、アーヴ、アゥ」

「ァーヴ、ァアァ、アーヴ、アゥ」

ボロボロの女性はずっと私に向かって何かを訴えかけるようにして、言葉を発している。

何一つ聞き取ることができず、10秒ほどただじっとその女性を見つめていた。
体が動かない。

すると、

カーンッカーンッカーンッ。

踏み切りの音とともに下がっていたバーが上がりはじめた。

私は体をこわばらせて、体が動くことを確認すると、バーが自分の身長より上に上がったと同時にその女性を避けて全力で走り出した。

自宅に到着するまで一度も後ろを振り返ることはなく、ただひたすらに全力で走った。

自宅に到着すると、急いで鍵をあけ部屋に入るなり部屋中の電気をつける。

ふーっと一息ついて、大きく深呼吸をする。

少し落ち着いた私は、さっきまでの出来事を頭の中で整理してみた。

あの女性は何と言っていたのか。

気になった私は頭の中で唇の動きをリピートして、考える。

「ァーヴ、ァアァ、アーヴ、アゥ」
「あなた・・は、あ・・・ぶない」

あなたは危ない?

私はあの女性が言っていた言葉がわかったものの、意味がわからなかった。

私は考えるのをやめてテレビをつける。
その頃にはもう随分と緊張はとけていた。

しかし、ついたテレビを見て私はゾッとした。

緊急ニュース
◯月◯日 ◯◯駅から北へ数百メートル進んだ路地で、通り魔と見られる男性が暴れていたところを警察に取り押さえられました。

それはさっきまで私があの足音から逃げるようにして小走りしていた道だった。


と、まーこういった話であります。

私はこの話を参加した怪談LIVEで披露しようと、自分の出番がくるのを待っていた。

その日、ありがたいことに私はおおとりをまかされ、最後に話をすることになっておりました。

すると、私の前に話していた若手の怪談師がまぁーいい話をしたもんだから、私は少し焦ったんですね。

そして、私が何をしたかと言いますとー。

話を盛ったんです。

これがよくなかった。。

ーしかし、ついたテレビを見て私はゾッとした。

緊急ニュース
◯月◯日 ◯◯駅から北へ数百メートル進んだ路地で、通り魔と見られる男性が暴れていたところを警察に取り押さえられました。

私はこのオチの後に、その日思いついたデタラメな話を付け加えた。

私は後日、あるイベントで霊媒師の方とご一緒する機会がありまして、その時にこの話を聞かせてみた。
するとその霊媒師の方が私を見てこう言ったもんだから、私は言葉を失ってしまった。

ーあなたの後をつけていたあの女性は、以前あの道で通り魔に襲われて、その後、海に投げ捨てられた女性の霊です。

ーでは、私はその女性の霊に助けられたわけですね。

ーいえいえ、あなたは危ないと言ったんじゃないんです。
その女性の霊は、あなたの番だって言っています。
ほら、今でもあなたのうしろでずっとあなたを睨みつけています。

私の話が終わると会場がシーンと静まり返った。

長年怪談をしていると、その時の会場の雰囲気で手応えがわかるんですね。

あぁ、これは手応えあったぞ。

私は自信満々にお辞儀をして、意気揚々とステージを後にしようとした。

すると、その時。

私は急に誰かに肩を叩かれ、そちらを振り向いた。

目の前には、あの日の女性が立っていて、今度ははっきりと聞こえる声でこう言った。

「嘘つき。呪ってやる」


まぁ、怪談師というのは人を怖がらせてなんぼなんですが、欲にかられて嘘をついてまで人を怖がらせようとすると、こういったバチが当たるという話でした。


おしまい


p.s
今回は僕が怪談師というていで創作した怪談になります。あくまでも創作です。
前回は怪談用のBGMと一緒に読んでもらうことを工夫してみましたが、今回はせっかく怪談師というていで書いたので、怪談師になりきって話すことにも挑戦してみました。
少しでも楽しんで頂けたら、嬉しいです。

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