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発達障害を考えるときのキホン2 〜ADHD(注意欠如・多動症)〜 

 この記事では、発達障害かもしれないと考えて受診される方やそのご家族、さらに発達障害を持つ方を支援する方、あるいはご本人が、発達障害を理解するための基本になる考え方をわかりやすく説明します。先に以下のリンクの記事をお読みください。

・発達障害を考えるときのキホン1 〜知的障害(知的発達症)〜


 キホン1では知的発達症について書きましたが、キホン2ではADHD(注意欠如・多動症)について説明したいと思います。まずは下のパンフレットのイラストを見てください。

ADHDの症状(ヤンセンファーマ株式会社 患者向けパンフレットより)

 これはADHDのお薬であるコンサータのパンフレットから引用したイラストですがADHDのこどもの様子がとても分かりやすく表現されています。こういった特性を持つこどもの親御さんに見ていただくと「まさにうちの子です」とお話しされることが多いです。

 自閉スペクトラム症よりもADHDを先に説明するのは、まずADHDの特性がないかを見極めることが、医学的にも合理的配慮(特性に合わせた支援のこと)を行う上でも重要であるからです。

 ADHDの方には不注意と、多動・衝動性と言った特性があり、それによって学校や家庭生活に支障をきたします。何かに取り組むときには、まずそのことに注意を向けて、じっくり見たり聞いたり感じたりすることが必要ですね。しかしADHDの人は注意力を維持したり、少し待ってよく考えたりすることが難しいので、そもそも考えるべき情報を自分に入力したり、自分の中でじっくりと処理したりすることが難しいのです。

 キホン1で話した知的能力が高い人でも、集中してまず課題を理解しなければ、それに取り組んだり結果を出したりすることができません。そういうタイプのこどもの場合、自分の好きなことや1対1の集中できる環境だととても良い成績が出せるのに、集団の授業だと気が散ってしまって全然実力を発揮できなかったりします。

 ADHDだけでなく、自閉スペクトラム症の特性を持ったこどもの場合、ADHDによる落ち着きのなさや衝動性があると、その行動が目立ってしまうため、果たして問題のある行動の理由がADHDのせいなのか、実は自閉スペクトラム症の特性である人の気持ちがよく理解できなかったり、こだわりが強かったりするせいなのか、わかりにくいことがあります。

 医学的に重要と言えるのは、ADHDについては不注意・多動・衝動性自体を改善するお薬が存在するからです。改善すると言っても、風邪薬のようにしばらくの飲みければそういった特性がなくなって治ってしまうというものではありません。内服している期間は、そういった特性を抑えることができるということです。

 ではずっと飲み続けなければいけないかというと、そういうことでもありません。ADHDの特性があっても、こどもは成長していくので、確かに他の定型発達のこどもに比べると、やっぱり不注意だったり衝動的だったりはしますが、一般的な社会生活でトラブルになってしまうほどの強い特性ではなくなり、お薬を飲む必要までではなくなることが多いです。ただ、学校生活ではある程度、先生や大人たちがサポートしてくれるので問題はなくても、お給料をもらって仕事をする段階になると、やっぱり少し問題が出てくるということもあります。結局、特性のせいで「職業的、社会的に支障をきたすかどうか」というところが問題になります。この点についてはYoutubeで詳しく解説していますので、ぜひご覧になってください。

 このように、ADHDに対してお薬を飲むかどうかというのはとても微妙で難しい判断になるのですが、ひとつ私が大切にしているのは、ADHDの症状のせいで、こどもの自尊心が傷ついてしまっていないかということを重要なポイントにしています。不注意や多動・衝動性があると、勉強や課題の管理などに支障をきたしてしまうことが注目されてしまうのですが、勉強は後からでも実は学ぶことができますし、管理についてもITツールをうまく使えるようになると、対処できることはたくさんあります。ただ、小中学校の大切な時期に、うまくその子の自尊心を育むことができないと、後からそれを取り返すのはとても難しいことです。ADHDのこどもは、何かと怒られたり叱られたりすることが多くなってしまいます。そうすると「自分はダメな子なんだ」という思いがどうしても強くなり、この時期に一番大切にすべきである自尊心、つまり「自分は自分でOKなんだ」「ありのままの自分で愛してもらえるんだ」という感覚を養うことができないことがあります。それは一番避けなければならないことです。

 クリニックでは、親御さんや学校の先生からのお話を基にして、その子が薬を飲むべきなのかどうか、慎重に判断しています。

 次は自閉スペクトラム症について説明します。


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