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モモの記憶

”モモ”なんて書くと、犬か猫といったペット、いやいや最近はモモちゃんなんてかわいい名前の子供もいるかもしれない。

今日のモモは人やペットではない、蒸し餃子のモモ。

広尾に進化系ネパール餃子モモとワインのペアリングが楽しめる店がオープンし、友人がクラファンの権利があるとのことでお邪魔させていただいた。

モモとは、ネパールやチベットで食べられる小籠包のような肉まんのこと。台湾の小籠包の違いは肉汁が少ないことと、つけダレがトマトベースのとろとろソースといったところか。

メジャーな小籠包ではなくあえてモモにするのが東京らしい。しかも、進化系とはなんぞや?さらにワインのペアリングとは、なんともおしゃれ。

ネパールやチベットでは庶民の食べ物なのに、進化させてワインとペアリングしちゃうなんて期待しかない。


肉餡は豚、チキン、ラム、ベジタブルなどがあり、それぞれにあわせてパクチーやミントなどの爽やかソースをかけたり、ヴィネガーを使ったさっぱりソースをかけたりと、これが進化系、いや未来系のモモかと一口食べるごとにうっとり。


ひとつひとつのモモにワインをペアリングするなんてとっても贅沢。

とそんなこんなで、次々と運ばれてくるモモを調子よく食べていたところ、ネパール人シェフ登場!

「実は、わたしネパールでモモ食べたんですよ。あのトマトベースのちょいと辛味のあるソースがおいしかったです」

と、さも数年前に食べたかのようにいったが、かれこれ25年以上前。よく覚えていたもんだと思う。すると

「お、そうなんですね。ネパールはどこにいきましたか?」

答えに窮した。

どこにもいっていないのだ。ただただカトマンズに行っただけ。

バックパッカーが好むバンコクやら香港やらを経由してインドに入ったわたしは深夜特急の沢木耕太郎氏のように街をぶらぶらし、1日寝てたりと特に何するでもなくただただダラダラしていた。冷房の部屋なんて高級な宿には泊まれず、かろうじて回っている扇風機の下で暑さに耐えていた。

暑くてなにもできず、何も食べられず、もうこのまま動けなくなってしまうんじゃないかというときに、同じ部屋のドイツ人の女の子に

「あんたも暑くて死にそうなんじゃないの?あたしももう限界。だからあたしは明日カトマンズにいく。みんな涼しいっていうからね。あんたもいく?」

といわれた。

カトマンズ?!なんじゃそれ?という顔をしていたらドイツ人が持っていた地図を広げてここと指さす。

ヒマラヤ山脈が連なるおひざ元、そこがカトマンズだった。

ヒマラヤといえばエベレスト!
世界最高峰、一度は見てみたい!しかも、間違いなく涼しいじゃないか!

「いくーーーー!」

と元気よく答えた。

といった具合でただ涼みに、運が良ければエベレストを拝みにいっただけで、どこにも行ってない。そもそも何もしていない。

金もないから外食することもあまりせず、いつもパンをかじっていた。

一度だけ、同じ部屋に泊まった日本人の女の子に

「ご飯一緒に食べに行きませんか?わたし、ネパール料理食べたいんです」

と地球の歩き方を頼りに連れていかれたお店で食べたのがモモだったのだ。

そんな食生活を送っているもんだから、初めて食べたモモは、それはもう一度食べたら忘れられない味わい。肉汁じゅわ~、もっちもっちの皮は腹持ちがするし、なによりスパイシーなトマトベースのソースがもう最高!

なので、モモといえばネパールなのだ。ネパールの記憶はモモしかないともいえる。

ということで

「カトマンズに行ったけど、ただ涼みにいったからどこもいってなくて」

といったらネパール人シェフは微笑んで奥に下がった。

ただ涼みにネパールに行ったなんて、本当に贅沢な旅をしていたと思う。
最近じゃ、
●●に行きたいな~

じゃ、こことここに行こうかな~

なんか行きにくいな~

交通機関が微妙だな~

そもそもそこにいって何するの?

面倒だからやめよ

となって、すっかり出不精になっている。あんなに旅好きだったのに何がそこまで私を変えたのだろうか。

そもそも、「何するの?」
なんて考えちゃいけない。行きたいからいく、それが旅なのだ。

このままじゃいかん!来年は行きたいから行く。
コロナ禍ですっかり海外旅行から離れ、このままだと海外旅行の仕方を忘れてしまう。

来年は行きたいからいく。と、モモとワインをほおばりながら未来の旅に思いをはせた。

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