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恋衣

己が世世恋衣打つ霙かな

 
以下、参考作品

愛という、透明なもの

その人と過ごした時間の中で堆積した
怒りとか悲しみとか好きとか嫌いとか、
ぐちゃぐちゃに混ざり合った色々な感情を
濾過して残った透明なもの、
これはたしかに愛だと思う。

秋の夜の空気

人々の細かい涙の粒でできた
秋の夜の空気のなかを、深海魚のように泳ぐ

あなたになら裏切られてもいい、そう思って私を選んでくれていた人を、裏切りたくなかった

私とおなじ色をした人を、傷つけたくなかった

後悔でもない、恨みでもない、未練でもない、憎しみでもない、諦めでもない、嘆きでもない、純度100%の透明なかなしみで、秋の夜の空気はつくられている。

短歌『桜』

桜より寿命の長い恋だったと思えばまた生きてゆけると

静電気

離れたほうが大きく鮮明に見えるそれに、
気づいていないわけではなかったけれど、
ずっと違うと否定していたかったのに、
静電気の小さな痛みと衝撃で、
気づかされてしまった、
はっきりと。

異なる極同士がぶつかり合い、
かたちなきものが確かな輪郭を持ち、
その疼きの輪郭を、
抜毛症のひとが毛を抜くみたいに、
繰り返し繰り返しなぞる。
呻きながら、震えながら。

短詩3篇

地面に散った桜の花びらを踏みたくないので、
お花見には行かないことにしているのです。

切れかけの蛍光灯みたいに
瞬きを繰り返す
この瞳もそろそろ
交換すべき時が来たのでしょう

未知に満ちた道を彷徨した帰り途、
遠くでサイレンが鳴り響く。
あの人は結局
自分の約束事を果たせたのだろうか

続・別れの詩

ぼくは一緒に孤独を抜け出してくれる人じゃなくて、一緒に孤独でいてくれる人が欲しいのだと思う。

きみと別れて一層美しく響くようになったスピッツの『冷たい頬』と、きみが残した手帳の独白が教えてくれた。

ぼくはひとりになりたいから、あなたも一緒にひとりになって。

そう思いながら、海で生まれたいきものと山で生まれたいきものたちが一堂に会する墓場を食べた。

別れたことで、我々の関係は完全なものになっ

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キャンドルの炎

キャンドルの炎

キャンドルの炎は

自らを取り巻く かすかな空気の振動を

繊細に敏感に感じとり 

それに合わせて踊るように揺れる

同時に我が身を燃やしながら

周囲をそっと照らし ほのかにあたためる

遠くのひとにはそのぬくもりは伝わらない

彼女が明るさとぬくもりを分けてやれるのは 

自分の周囲だけだから

それでもよい、と彼女は思う

彼女の火は 

すべてを照らし 包み込むには

小さすぎることを知

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柳の微睡み

朝の柳は 気怠げに

夢とうつつの はざまを揺れる

湖に浮かぶ小舟のように

穏やかな光に包まれて

ゆうらり ゆらりと 揺れている

風のささめきに耳傾けて

こっくり こくりと 船を漕ぐ

小さな石

あるとき、誰かが池の中に 

小さな石を放り投げた

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言葉拾い

言葉拾い

言葉は意識の流れを堰き止める
石のようなもので
私はそれを拾い上げるように書く

石を拾い上げると再び意識は流れ出し
また別の石に堰き止められる

石はさまざまな色やかたちを持っていて
水面に顔を出している石もあれば
水面下に眠っている石もある

詩を書くことはまるで
流れる意識の底に潜り
水面下に沈んでいる石を拾うような営みだ

手探りで言葉を探し
見つかることもあれば 見つからないこともある

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こころ

こころ

こころは
いろいろな色を映す泉

晴れた昼空のあおいろを映すときもあれば
夕焼けのももいろを映すときもある

そうして いろいろな色が映り込む透明な水で
いつも胸の中は満たされている

ところが 

夜の闇に塗りつぶされると
泉は真っ黒になってしまう

泉にたくさんの泥が投げ込まれると
水はたちまち濁ってしまう

泉が土砂で埋め立てられると
水は湧かなくなってしまう

でも 

再び光が差し込めば

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波紋

波紋

ほんの一滴 雫が落ちて

水面にちいさな波紋をつくり

だんだん 大きく広がって

遥か遠くのあなたへ届いた

ほんのかすかな その揺れに

あなたは気づいて 微笑んだ

絶対領域

エレベーターが開く直前

人と出会す可能性に怯える

恐る恐る 中を確かめて

誰もいないと確信したとき

独りだけの空間に安らぎを覚える

束の間の安らぎ

誰もいないエレベーターが好きだ

個室が好きだ

トイレの個室、 

締め切った自室、

誰にも侵されない、自分だけの絶対領域。

日々殺されつつある自分をすこしだけ回復する